HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

中身がないコンテンツ?

2017-02-15 07:29:53 | Weblog
 今年も3月18日から26日までの9日間、福岡市の中心部(天神や博多駅とその周辺)で「ファッションウィーク福岡(F.W.F)」が開催される。昨年12月には、週間の目玉イベントを展開すべく「福岡を拠点にファッションにまつわる活動を行うひとびと」を対象に「参加コミュニティ」が公募された。



 応募要件は、

①ファッションアイテムの企画制作・販売を行っている個人・法人・学校

②ファッションショーの企画制作・出演等を行っている法人・団体・学校

③その他、ファッションに伴う活動を行っている個人・法人・団体・学校など
F.W.F期間中に参加施設のスペースを使ってオリジナルコンテンツを発表いただける方
(原文のまま)

となっている。

 要項を額面通りに解釈すると、①は自ら創作したクリエーションを直販しているデザイナー、 アパレルや服飾雑貨のメーカー(卸)で直営店を持っているところ、卒業制作で試作品を作ったり、学園祭でバザーを行っているファッション専門学校などだろうか。

 ②はイベント会社やプロモーター、モデル事務所、ヘアメイクを束ねる美容組合、理美容専門学校が該当すると思われる。

 ③はファッションに伴う活動の範囲にどこまで含めるかということになり、「オリジナルコンテンツ」を発表できるところになると、洋服や小物のデザイナーから服飾製品を手作りする専門学校生、七宝アクセや草木染めの巻物などを作る工芸作家、さらにファッションフォトを撮るカメラマン、ドレスアップしたパフォーマンスアーチストまでと多彩になる。ファッションの解釈によっては、要は何でも公募要件には入ってしまうのだ。



 並行して参加コミュニティに対して「イベントスペース」を提供してくれる企業・団体も募集されていた。

 こちらの参加概要は、

①参加コミュニティの企画にあわせてスペースをお貸しいただく形となります。スペースの貸出費用及び付帯費用に関しては、ご自身の負担にてお願い致します。

②参加費用はFWF協賛費用として15万(税別)となります。

③2016年12月21日(水)に開催される、マッチングミーティングへのご参加をお願いします。また参加コミュニティより実施金額の提示(実費)があった場合、費用検討をお願いします。

④展開コンテンツ例:ファッションショー/ファッションにまつわるトークショー、及びイベント/POP UP SHOP等による商品の展示・販売/展示イベント等による商品・作品の展示/ファッションにまつわる情報を掲載媒体の制作/その他

④参加コミュニティとのマッチングが合意に至らなかった場合は、ご自身にてF.W.Fにまつわるイベントの展開をお願い致します。(原文のまま)

 となっている。


 ファッションショーと言えば、デザイナーズブランドがプロのモデルを起用して行うコレクションでない限りは、百貨店などが行うフロアショーか、専門学校生が卒業制作を披露するものくらいしかない。POP UP SHOPは卸先を見つけたい若手のデザイナーのものか、展示イベントはこれも専門学校生が手作りした作品くらいだ。

 ただ、フロアショーやトークショーレベルになると、百貨店なりファッションビルなりが単独のイベントとして行えばいいわけだ。披露するブランドやキャスティングされるゲストによって、そこそこの話題性や集客力をもつから、わざわざカネを払ってまでファッションウィーク福岡に協賛する意味はない。

 ところが、F.W.Fに参加する企業・団体には、スペースとその関連費用を負担し、さらに参加費用として15万円の協賛金を出し、かつコミュニティから要望があればイベントの必要経費まで面倒みてくれというもの。平たく言えば、ファッションに関わるイベントをやるので、「カネと場所を提供してくれ」とのこと。ずいぶんわがままである。こんな要求を突きつけられて、「喜んで」というところがあるのだろうかと思ってしまう。

 もちろん、応募した個人や法人、団体、学校も、フリーパスでスペースと経費をゲットできるわけではない。12月21日に実施されたマッチングミーティングの結果次第ということ。そこでコミュニティ応募者は参加希望企業や団体の前で簡単なプレゼンテーションを行い、合意に至らなければならない。企業・団体側も、合意に至らずもイベントに参加したいなら、自前で何かを行わなければならないことになっている。

 もっとも、「福岡でしか出会えないオンリーワンコンテンツを街中につくる」というのが参加コミュニティの大義のようだから、そんな簡単に参加が認められるはずがないということである。当然、スペースや資金を拠出する企業や団体側も、自らにとって集客や販促につながらなければあまり意味がないものと考えるだろう。

 2月15日時点で、12月21日にどれほどの応募者が集まり、誰とどこがマッチングしたかの公式な発表はなされていない。 F.W.Fの開催日が近づく2月末から3月上旬には概要が発表されると思う。

 イベント週間の最後に組み込まれている「福岡アジアコレクション(FACo)」は、チケット販売の関係からすでに詳細が告知済みだ。こちらは客寄せ興行としてプロデュースにあたるRKB毎日放送の収益事業になっており、福岡県、福岡市などから税金でおそらく2000万円近くの資金が拠出されているから、F.WF.とはずいぶん対照的と言える。

 F.W.Fに参加しようとする企業、団体にはスペースの提供どころか、協賛金、イベント経費まで要求されているわけで、この差はいったい何なのだろうか。企業や団体でなくても主催者に問いかけてみたくなる。税の公平な分配という見地からも、問題があると言わざるを得ない。まあ、裏ではいろんな利害関係者が蠢いているのだから、この件については県や市議会の聴聞に委ねるとしよう。


「若者に舞台を」と言えばいいのに

 ところで、問題はもう一つある。主催者が大義として掲げる「福岡でしか出会えないオンリーワンコンテンツ」とは何かである。公募要件では「オリジナルコンテンツ」となっているから、オンリーワンのオリジナルコンテンツということである。①〜③に含まれるものでは、洋服や雑貨、小物、工芸品、写真やアート、そしてパフォーマンスまでで、オンリーワンかつオリジナルになるわけだ。

 しかも、熟語には「街中につくる」とある。公共性の強いイベントだから、あからさまに物販=ものを販売し収益を上げるのは問題もあるので、ボカした表現にならざるを得ないのは理解できる。それでも期間が1週間程度だから、POP UP SHOPでの参加なら販売することも堂々と認められている。

 ただ、個人や法人の活動内容で、対象物のとらえ方が変わって来るはずだ。現に店舗をもって商品を企画販売しているのなら、わざわざ出店する必要もない。無店舗、新製品の紹介、新しい作品の展示とかならスペースが必要だろうが、オープンイベントの場合では対象客が限定されないので、集客という点ではかなり厳しいと思われる。結果的に対象者の友人や家族が見に来るという学芸会的にならざるをえないのは目に見えている。

 あれこれとそれっぽく要件を上げているが、「参加コミュニティの主な対象」は服や雑貨、小物などを手作りしている、写真を撮影したりアート(パフォーマンスを含め)を制作したりしている「学生」もしくは「駆け出しのデザイナー」「無名のアーチスト」に落ち着くのではないか。現時点ではあくまで限りなく現実に近い予測ではあるが。もちろん、企業や団体が独自でイベントを展開する場合は、この限りではないのだが。

 問題はその彼らが創作するものがオンリーワンのオリジナルコンテンツ足るかである。アートならオリジナルは言うまでもないし、パフォーマンスも創作演出を独自で行うならオリジナリティは出せると思う。しかし、写真は対象物、被写体が独自に創られない限り、オリジナルはともかくオンリーワンとは言いづらい。まして服や雑貨、小物といったファッションアイテムでどこまでオンリーワンかと言えば、手作りというだけで決してそうは言えないだろう。

 第一、福岡くらいの学生や駆け出しのデザイナーの認識において、服や雑貨、小物といったファッションアイテムで、オンリーワンのオリジナリティを出すために素材から創り出そうという発想はまずない。また、これまでに見たことのない素資材を探すためにパリやミラノなどの素材展示会に出向いているなんて話は聞いたことがない。百歩譲って大阪船場の生地問屋でデッドストックでもいいから探そう、尾州の機屋さんに残った布を買いに行こうという学生がどれほどいるのだろうか。学生自らではまずいないと思う。

 素資材すら地元の生地屋や手芸店で調達するのがほとんどではないのか。そんなものでオンリーワンとか、オリジナルとか言うようでは、あまりにファッションをバカにしている。今回の要件には「クリエーション」「クリエイティビティ」をいう言葉はどこにも出てこない。これは過去のF.W.Fではそういう要件を掲げながら、平気でルールを緩めてバザーを開催し堂々と「古着」を売った専門学生がいたからだろうか。その学習効果もあるだろうが、それにしても軽々しくオンリーワンだの、コンテンツだのを使い過ぎる。

 街中の生地屋や手芸店、あるいはネット通販で素資材を調達する時点で、クリエーションはともかく、オンリーワンも放棄しているとしか言いようがない。プロならオンリーワン、オリジナルを創るために尾州などの工場まで足しげく通うのは当たり前のことだし、プロを目指すのなら企画開発力をもつテキスタイルコンバーターの展示会くらいには出かけて、まず自分のセンスから磨いていかないと話にならない。

 巷には企業というプロが創ったオリジナリティあるコンテンツが下は100円から上は数十万円まで溢れているし、お客はそのレベルを熟知している。それと比較し、それを超えられるようなものでない限り、オンリーワンだの、オリジナルだのと恐れ多くて言えるはずもないのだ。まして作る側の姿勢として、少なくともクリエイティビティを意識する人間としては、あまりにおこがましいはずである。

 筆者は過去に何度も専門学校生や駆け出しのデザイナーの作品に触れたことがあるが、共通して言えるのは使われている素資材があまりに陳腐で凡庸であることだ。柄に特徴があるからと、古くさいカーテン生地を堂々と服に使用したりするなど、服のデザインと生地の特性がマッチしていないもの多すぎる。要は作品が全く作り込まれていないのである。

 ショーやイベントに出展することが目的になっているため、創作のレベルがてんで上がっておらず、デザインやパフォーマンス重視になり過ぎていることもある。Tシャツにボロ切れを縫い付けて、顔に派手なメイクを施したプリミティブなパフォーマンスなんかを見せつけられると、こちらの方が気恥ずかしくなってくるのだ。

 学生や若手はカネがないから、素資材を手に入れることが出来ないのか。勉強の途中だから技術が未熟なのか。そんなことは言い訳に過ぎない。価格帯は別にして服も買っているし、海外研修という名の旅行にも出来かけている。そんな資金をプールしておけば、LCCを利用して世界中に素材調達の旅に出かけることできるし、その気になれば学校単位で機屋や生地メーカーに、糸屋、革のタンナーに発注できなくはない。

 技術についても自ら学んで磨いていくものは少数派でしかない。むしろ教えなくても上手い技をもつ人間がそれをどう生かしていくかが重要で、練りに練って創りに創ったところから、オンリーワン、オリジナリティあるコンテンツが生まれるのだ。

 学生や駆け出しのデザイナー、フリーランスの個人にとっては、「自分たちの作品やパフォーマンスを披露するにも資金や場所を持たないから、企業や団体さんスポンサーになってください」というのが本音のところではないのか。それならそれとはっきり書けば良い。過去のイベントでも「バザーではありません。洋服・雑貨・アクセサリーなどのファッション発信の場となります」と、大上段に言っておきながら、結果的に堂々と古着を売った専門学校生がいたのである。

 そんな「前科」がありながら、今度はオンリーワンコンテンツだの、オリジナルだのと言い換えられても、地元ファッション業界にとっては「またか」「大仰や」としか受け取れないのが本音のところだ。コンテンツと言うからには中身で勝負のはずなのだが、オンリーワンにもオリジナルにもほど遠いのであれば、まさに失笑もの以外の何ものでもない。

 ところで、ファッションウィーク福岡は過去に4回ほどしか行われていないが、福岡アジアファッション拠点推進会議による一連の事業は2009年から続いている。会議創立時の活動目的=大義には、「人材の育成」という項目が掲げられていた。これを「地元からプロとして活躍する人材を輩出するために何らかの支援をしていく」と解釈するならば、企業や団体にその資金を求めるのは筋違いである。推進会議及び行政の側が事業予算を正当に分配し、コンテストなどを開催して優秀な企画作品には製品化のための資金を援助する方が人材育成につながると思う。

 ところが、それをすべきトータルプロデューサーのRKB毎日放送は、今や福岡アジアコレクション(FACo)のみ活動しかしておらず、これを福岡市の「民間主導」をお墨付きにして自社の収益事業にしている。福岡県、福岡商工会議所(推進会議)からの補助金をあわせると、おそらく毎年2000万円以上が転がり込んでいる。福岡アジアコレクションは推進会議の事業の一つ過ぎないのだから、いかに事業全体の目的が形骸化して事業予算の使われ方がいびつで偏っているかがよくわかる。

 本来なら専門学校生や駆け出しのデザイナーが「福岡アジアコレクションにばかり予算をかけるのではなく、自分たちにも振り分けてほしい」と声を上げるべきなのだ。しかし、そうならないところに彼らの無能さが垣間見えるし、利害関係者がそれを承知で事業全体が利権化されている構図が浮かび上がる。

 今年のファッションウィーク福岡のイベントで、参加企業・団体が資金提供するスペースにどんな出し物が登場するのか。筆者の予感が当たって、専門学校生や駆け出しのデザイナー程度のクリエーションでしかなければ、どうだろうか。所詮、オンリーワンのオリジナルコンテンツなんて、戯言でしかないことがハッキリするし、要件に掲げている人間は人材育成の視点がズレた大戯けと言わざるを得ない。

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