HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

掘り出し物がある。

2018-05-09 05:23:11 | Weblog
 今年もGWが過ぎた。福岡は5月3日、4日と博多どんたくが約200万人の人出で賑わったが、ファッション業界では都市部で観光イベントが開催されると、流入客は多くても服はそれほど売れないと言われている。冷静に考えると、帰省や旅行などで都市部から出ていく人も多い。目新しいショップや業態を集めた商業施設なんかが直前にオープンしない限り、買い物行動が起きにくいのは当然だろう。

 全国的に注目される施設では3月末、「東京ミッドタウン日比谷」が開業している。ここの商業エリアは1万8000㎡しかないそうだ。ストアと呼べるのは、カフェと雑貨のセレクト、 車のショールームを合体した「LEXAS MEETS」、昭和レトロを提案する「HIBIYA CENTRAL MARKET」、インポートを集めた「TATRAS&STRADA EST」くらいで、それぞれを1階から3階に分散展開したかたちだ。

 プレスリリースに書かれているのを見ただけだが、実際に行ったという友人の話を聞いても「一等地なのに開発にかけた投資と月々の家賃を考えると、まず採算は合わないのでは」で共通する。東京では再開発の名のもとに次々と器ができているが、どれも収益をあげるためのコンテンツが不足し、商業テナント集めには苦労しているようである。

 というか、ブランドにしても、業態にしても、売れそうなものは出尽くしているわけで、あとは新しくデビューする店舗か、実験的な業態を試すかしかない。デベロッパーもリスクを考えるだろうし、器は作ってもリーシングは頭打ちということだろう。

 地方都市に住む人間が情報発信都市・東京の最新物件に口を挟むのは憚れるが、あえて言うなら東京ミッドタウン日比谷は、福岡天神の再開発事業(公共施設:天神ファイブの跡地)で誕生したイムズ(インターメディアステーションの略)の時代から、開発の方向性はそれほど進化を遂げていないような気がする。

 イムズはバブル期の計画で、情報発信をコンセプトに当初は、企業のショールームを充実させていた。計画時点の仮称は天神MMビルで、オーナーである明治生命(1989年開発当時)と三菱地所のアルファベットをとったものだ。福岡の場合、都心部は航空法の関係で、東京のような高層ビルが建設できなかったが、それも徐々に緩和されてきている。

 ミッドタウン開発の先駆けとなった六本木の物件は、防衛庁跡地の再開発で、三井不動産、大同、富国、安田の生命保険会社などがコンソーシアムを作って落札した。イムズとは不動産事業者、生命保険会社の顔ぶれこそ異なるが、保険会社が保険マネーをビル事業に投資して不動産事業者とともに運用益を上げていくビジネスモデルは共通する。

 GINZA SIXのように運営者に百貨店グループが入ると、商業フロアを拡充してブランドショップを集める狙いで、売上げ重視の意識統一はしやすい。しかし、他の運営主体では物販の他にオフィスや文化施設、飲食、行政サービスまで集めた総合型を選択するケースだ。どちらが収益を上げやすいかは一概には言えないが、このスタイルも30年以上変わっていない。

 都市の再開発事業で建設されるSCは、その開発資金の原資を何で賄うかもテーマになる。古くはテナントからの保証金でイニシャルコストを稼ぐやり方だった。でも、これではテナントが撤退する度に保証金を返還しなければならず、初期投資分の回収が後手になってしまう。

 そこで、投資家から開発資金を集めてSPC(特別目的会社)を設立するやり方が登場したが、こちらはSCの収益から投資家に配当していくため、売上げを取れる有力テナントがリーシングの条件になる。当然、SC間でテナントは取り合いが必至なわけで、そう簡単にはいかないのだ。

 それでも、東京は金融機関に堪った潤沢な資金が運用先を待っている状態だから、地方からすれば非常に羨ましい限りだ。もちろん、ビル開発に投資して運用益を上げられるかは別物である。東京ミッドタウン日比谷がいかにしてイニシャルコストを回収し、ランニングコストを捻出していくか。オープン直後の今は静観するしかない。秋に東京出張した時、その辺もじっくり見て来たいと思う。

 一方、地方の大型商業開発は、やはり郊外が主体となる。九州こそJRが駅ビル開発に積極的だが、シャッター商店街に投資して再開発しようなんて計画は微塵もない。人口が増えている福岡市を除けば、ほとんどの地域がクルマ社会だから、SC開発は駐車場を含めた用地を確保しやすい郊外になる。では、どんな商業施設を開発し、テナントを誘致するかだが、GW直前の4月27日に開業した「ジアウトレット広島」からヒントを探ってみたい。

 開発主体はイオンモールで、アウトレット空白地帯に進出した本格アウトレットという触れ込みだ。ただ、郊外SCもフォーマットは出尽くした感があり、リニューアルや増床で何とか運営しているところがほとんどで、イオンモールとしてはアウトレットくらいしかコマがなかったとも言える。それでも、ジアウトレット広島は飲食の充実、地域の情報発信、体験型エンターテインメントの導入もあり、「地域創生型商業施設」との冠が付く。いったいアウトレット単体の可能性はどうなのかである。

 イオンは「ラグジュアリーブランドのバリー、エルメネジルド・ゼニア、ジョルジオ・アルマーニ、フェラガモ、コーチなどを揃え、山陰や四国からの広域集客も可能」と胸を張るが、果たしてそう簡単にいくのだろうか。確かに地方百貨店が売上げ不振に陥っており、ブランドが気軽に買い物できる環境ではなくなっている。ブランドを購入したい一定の客層(マチュア、シニア)は地方にもいるわけで、そうしたお客の受け皿になるという考えもあるだろう。

 しかし、それが「アウトレット品」なのかである。アウトレット本来の意味でいけば、そこに並ぶ商品は「売れ残り」「余剰在庫」「廃番品」「キズもの」である。 20万円を超える値札が付くジョルジオ・アルマーニのスーツは、仮に75%オフであっても5万円以上する。売れ残りや流行遅れに目をつぶっても、今のお客がそれらにどれほどの価値を見出し、買いたいと思うのか。

 もはや日本の消費者は富裕層だろうが、中流層だろうが、ブランド品にも低価格品にも目新しさは感じなくなっている。完全に成熟してしまったのだ。ラグジュアリーブランドが安いから一度は見に行っても良いが、リピーターになって何度も訪れるとは考えにくい。イオンモールもそれを想定し、物販の「なみのわガレージ」「よりみちマルシェ」、 飲食では「にしかぜダイナー」と、地元店のプロパー業態を誘致せざるを得なかったわけだ。しかし、それらに加えて、アミューズメント施設を集客の動機付けにするのなら、アウトレットの役目はいったい何なのかということになる。

 アウトレットと言えば、有名なアパレルやスポーツのブランドが格安で手に入るイメージだが、本家米国のモールでは日用品の在庫処分店もあり、掘り出し物に出会えるわくわく感がお客を呼んでいる。日本でもせっかく地産地消を目的に野菜や果物、精肉、魚介類を揃える道の駅的な業態を組み合わせるのなら、それを使って料理をするための道具や食器、食品のアウトレットをもっと充実させてもいいのではと考える。

 その意味でジアウトレット広島には、食器の「たち吉」「ゾーリンゲン・ヘンケル」くらいしかないのは、やはり片手落ちだろう。また、プロパー業態として瀬戸内・広島のもの作りを発信する「サッカザッカ」が誘致されている。そこでは刃物専門店の商品も扱われるが、それが掘り出し物かと言えば、ショールーム的で完結する公算が高く、関連性は乏しい。

 筆者が90年代初めに米国のアウトレット視察に行った時、オハイオ州に本社を置く「le gourmet chef」やダイニング用品を扱う「Book Warehouse」、食器類を格安で販売する「DANSK」、白磁食器の「Mikasa」など個性豊かな店舗が目を惹いた。これらの中には加工食品やシーズニングを揃えているところもあり、実際にニューヨーク郊外のウッドベリーコモン・アウトレットでは、料理の使うオレガノや木製のペッパーミルを購入したほどだ。

 まあ、日本の食材は消費期限があるから簡単にはいかないし、商社が買い付けている輸入食材は結構、ディスカウンタールートにも流れている。ただ、加工食品の3分の1ルールを見直す動きもあるし、小売店としては在庫を消化しなければ、新たに商品を仕入れる原資も入って来ない。それゆえ場所を変え、業態を変えて売り捌く拠点があってもいいのではないかと思う。

 伊藤忠商事が本場米国から日本に持って来た某有名グロサリーストアがある。ロゴマークがプリントされたエコバッグばかりが露出しているが、店舗で販売されている食品がどこまで消化できているか、不振在庫がかなりあるのではないかと、店を訪れる度に思ってしまう。ブランドを守るためにアウトレットとはいかないだろうが、一般論として食品全体を見れば、やはり消費期限が近づいたものをどうするかは課題である。

 それを小売りがやるのか、 メーカーがやるのか、回収コストなどいろんな問題が絡む。でも、アウトレット本来の目的は、バーチカルなシステムで在庫を消化し、現金化することだ。最初からコストを抑えて安く作った「専用品」を集めて見せかけ、モールとしての体裁を整えることではない。すでに安いファッション衣料は巷に掃いて捨てるほどあり、わざわざアウトレットに買いに行くまでもない。やはり流通システムにまで踏み込んで、開発コンセプトを考え直す時期に来ているのではないかと思う。

 お客は郊外SCはクルマで訪れるわけだから、嵩張る食器や調理器具も難なく購入し持ち帰ることができる。ならば、陶磁器のメーカーも年1回の陶器市だけでなく、常時余剰在庫を消化するような業態をもって、キャッシュフローを改善していくことも必要ではないか。

 そうすれば、消耗品である食器類と食材を一緒に購入でき、料理する楽しさも享受できる。 陶器類ばかりは破損のリスクがあり、ECでの購入に不安に感じるお客は少なくない。テナントになる可能性は十分にあるはずだ。要はバラエティさを欠くアウトレットは、お客の集めきれないということである。

 そうした意味で、郊外SCにアウトレットを誘致するなら、プロパー含めてすべての業態がリンクするようなコンセプトが必要になる。でないと、「今さら、アウトレットでもないだろう」と、冷めた見方をされてしまう。ジアウトレットの次の開発予定地は、福岡・北九州市のスペースワールド跡地が有力視されている。

 やはり成熟したお客と消費環境のことをもっと考えるべきではないか。それにはお客が掘り出し物に出会えて、また買いに行ってみようと思えるテナント集積と今のライフスタイルを見通した開発思想が不可欠。でなければ、ECがこれだけ消費に浸透している中で、実店舗が存在する意義は見出せない。果たして、イオンモールのような量販店系デベロッパーがそこまで踏み込めるかである。

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