HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

着古しから逆発想。

2022-11-02 04:25:11 | Weblog
 先週のコラムで、福岡パルコの建て替えについて書いた。新装される本・別館の2館体制で現数を超えるテナント誘致は難しいというのが筆者の意見だ。保証金や内装費などのイニシャルコストをかけて店を作り、歩率家賃を家賃を支払ってどれほどのテナントがペイするのか。客単価がそれほど高くないヤング向けのテナントほど厳しいと思うからだ。



 パルコを運営するJフロントリテイリングは先日、eスポーツチームのSCARZを運営する「XENOZ」を11月にも子会社化すると発表した。パルコで大会や交流イベントを開催し、百貨店事業で連携するアパレルブランドとeスポーツチームのグッズを共同開発。パルコをはじめとした商業施設内にショップを展開していく狙いのようだ。

 確かにeスポーツやゲームのような個人的趣味で、コアなジャンルのコンテンツ市場では消費側がSNSを利用してブランドを構築し、販売に至るケースも増えている。パルコとしてはeスポーツのテナントを単なるゲーセンの延長として捉えるのではなく、市場が先細りするアパレルや雑貨とは違ったマーケット形成として、育てていく考えもあるのだろう。

 だが、そうした手法を地方のパルコに導入するには、まずは東京などで十分な成功事例、成長軌道に乗せてからになると思う。福岡パルコは2026年に解体される予定だから、新装開業までにeスポーツ事業の手応えを得ながら、どのように設備や商品を展開するか。中長期的に見たテナントのプロトタイプが熟考されていくのではないか。

 短期的には4階を大型リニューアルした渋谷パルコが明日11月3日にオープンする。デザイン事務所とグラフィックデザイナーが取り組む有休施設活性化のプロジェクトを拡大するもので、新しい商業施設のあり方とサスティナブルをテーマに、ヴィンテージ商品やインテリア、アートなどを集積した売場を作る。前回のコラムでも指摘したが、坪効率や歩率家賃を
意識しないテナントを誘致できるのも、渋谷パルコゆえのことだ。

 一方、地方のパルコでは、次のテナントで埋まるまでの暫定期間に「ポップストア」が誘致されるケースが多い。こうした業態は出店側にとって初期投資を抑えられる。デベロッパー側は恒久的な家賃収入は期待できないものの、スペースを空ける必要がないなどのメリットがある。ただ、ポップアップストアが1階やイベントスペースでの展開なのに対し、上層階では古着店が堂々と導入されるようになった。先日、発表されたリリースによると、古着店の「デザートスノー」が12月、福岡パルコ6階にオープンする。九州では初の出店だ。



 デザートスノーは目下、商業施設への出店攻勢をかけている。そのため、優良の物件である福岡パルコ側から出店のオファーがあったとすれば、渡りに船だったと思う。パルコとしてもファッション系のテナントは出尽くした感がある中、若者の間で手頃な価格で個性的な着こなしが楽しめる古着は集客の肝になる。デザートスノーから出店したいとの申し出があったとすれば、上層階なら他のブランドへの影響は最小限と、許諾したのではないか。

 古着マーケットは拡大の一途を辿っている。1店舗でも新たなショップがオープンすれば、それだけ購入の選択肢が増えるので来店動機につながる。それは福岡パルコ側にとっても願ったりだろう。売場面積は170㎡(50坪強)というから、福岡パルコのテナントとしては広い方だ。品揃えがどこまで充実するかはわからないが、全国に店舗を展開し豊富な在庫を抱えていることで、適度に商品を入れ替えながらお客さんの反応を見ていくと思う。

 もちろん、古着の市場攻略は1店舗のみでは完結しない。デザートスノーの場合、東京・下北沢では小田急線下北沢駅の南口商店街に5号店、さらに徒歩2分圏内に3号店があり、京王井の頭線下北沢駅北口から徒歩2〜3分圏内にガーデン店と4号店など6店舗を展開する。下北沢には他にも古着店がそこかしこにあり、若者にとって掘り出し物を探す回遊コースになっている。他の古着店と相乗効果を発揮しながら、攻めていくのが正攻法なのだ。



 その点、福岡パルコのようなビルインでは単独展開になるが、天神界隈というエリアで俯瞰すると、天神西通りを挟んで大名地区には中古衣料を扱う店舗が点在する。お客がそれらと回遊することを想定すれば、こちらも相乗効果につながるだろう。来春開業する「大名ガーデンシティ」の斜向かいに立つ築55年の公団アパート1階には、2021年に「古着屋JAM」福岡店が出店した。こちらは隣のまんだらけ福岡店とうまくリンクして集客している。

 
古着から発想する新たなもの作り

 ここまで来れば、古着の次のステージが気になるところだ。以前にこのコラムで紹介した衣類を黒に染めるサービスを行う「森」は、古着のリメイクやアップサイクルにも着手した。店舗に併設する「リ・サークルスタジオ」(https://mori-store.net/news/5f5c8f724b083955a430f8ba)で古着を加工し、オリジナル商品に仕立てている。




 これらが今年7月に東京で開催した期間限定店で人気を博し、販売サイトの「ザ・タイニー・ショップ・バイ・モリ」(https://mori-store.net)では、売り切れるアイテムが続出している。商品はジャージ系の素材をうまく使いパッチーワークや「ラッフル」などの加工を施して、新品の服にはない斬新なデザインに仕上げている。これならSOLD OUTになるのも納得だ。リメイクには相当の技術力をもつデザイナーが当たっていると思われる。



 他社はどうか。大手が古着のリメイクに踏み込むのか。そんなことを考えていると、先日、ユニクロが「服の補修・リメイクを東京・世田谷の店舗で始める」とのニュースを目にした。10月22日から来年3月まで、世田谷千歳台店に専用スペースを設け、傷んだ箇所の補修したり、刺しゅうなどを受け付ける。

 対象はユニクロで購入した服で、穴やほつれ、股ずれなどの補修はできる限り当日中に仕上げる。料金はTシャツの穴直しやシャツなどのボタン付けが500円、ジーンズの股ずれは1500円。飽きてしまった服などには、好きなデザインや文字を組み合わせた刺しゅう、ロゴや手書きのイラストをプリントできるサービスにも対応する(価格は500円から)。

 ユニクロは2021年8月にドイツ・ベルリンの店舗で修理・リメイクのスペースを開設し、米国のニューヨーク、英国のロンドンなど約10店舗にサービスを広げている。今後、お客からの要望やスタッフの技術練度を見ながら、国内でのサービス拡大を検討するというから、テストケースのようだ。

 だが、いくらSDGsのご時世、環境への関心が高い投資家を意識したとしても、そこそこの品質をもつユニクロの着用服で補修やリメイクが広がれば、新品の売上げに影響するとは考え過ぎか。逆に補修を前提に原価率を低下させ生産管理で手を抜けば、本末転倒だ。ユニクロはライフウェアを標榜している。これは2〜3年で着つぶしてほしいとも解釈できる。品質の高さは実証されても、本音はそれほど長持ちさせてほしくないのではないか。

 筆者が考えるのは、むしろ新品の「切り替えリメイク」や「別注オーダー」である。ユニクロは一部の商品を除き、大半が単色になる。どちらかというと、色出しのセンスは良くない。定番アイテムはお客の「ユニばれ」を避けたい心理を汲み、カラーバリエーションを増やしてはいる。しかし、レギュラー商品は黒、紺、ベージュが基調で、たまに差し色が加わる程度。デザイナーズコラボでは新色やビビッドな色が投入されるが、色でも突出したものはない。

 グローバルSPAだから生産コストやMD枠を考えると、デザイナーズブランドのように作り込んだ色合いに挑戦するのが難しいのは理解できる。ならば、せめて既存の商品にメリハリをつけるために「コンビカラー」や「クレイジーパターン」も楽しめるサービスがあってもいいのではないか。



 新品リメイクはユニクロの同じアイテムを2着、または3着を購入すれば、袖と身頃、あるいは襟やヨークを切り替えられるようにする。別注オーダーは製造段階(ニットはリンキング)でパーツカラーの切り替えを可能にする。Tシャツやメリノセーター、フリースのようにカラーバリエーションが豊富なものに限り、袖と身頃、あるいは襟やヨークを色違いに変えられるようにすれば、自分だけのオリジナルカラーが楽しめる。ナイキやアディダスがスニーカーで行っている仕組みをウエアに置き換えるものだ。

 MDの段階からそうすれば、売上げのばらつきがあるので難しいだろう。だから、希望するお客のみ受け付ける。Tシャツやフリースではいろんなカラーが楽しめるので、意外に面白いかもしれない。それが世界レベルに広がるようになると、企画サイドにフィードバックして商品化の俎上に上げればいい。企画担当者も売れる手応えが得られれば、「コンビやクレイジーの配色パターンを1〜2型加えてもいいのでは」と、なるかもしれない。

 もちろん、リメイクは技術面で店舗スタッフの練度向上が不可欠。ただ、デザインや素材を変えるまでもなく、基本MDでも十分に斬新なアイテムになるのだから、挑戦してみる価値はありそうだ。着古した服の補修・リメイクから一歩進んで新しいアイデアを生み出す。SDGsが叫ばれるご時世だからこそ、新品を作りすぎず、売り逃さず、確実に売れる企画が不可欠。そのためにはフラットにならないバイヤスの発想も必要だと考える。
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