HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

完全菜革主義。

2022-11-09 07:24:58 | Weblog
 3年ぶりに東京出張した。ここ2年ほどリモートで打ち合わせや仕事の受発注をしていたが、直に人と接したり、物に触れたりすると、感性への刺激が違う。仕事の合間を縫って出かける紙や生地、革のリサーチでは現物を見ることができるので、「これでこんなものを作ってみよう」という発想が焚き付けられる。

 今回の出張でもスケジュールが許す限り、素材探しに走り回った。六本木の「NUNO」、神宮前の「HAGURUMA STORE」 、目黒の「COAD & MATERIALS」、そしてたまたま会期」が重なった「JFW JAPAN CREATION 2023 / Premium Textile Japan」等など。あらかじめ欲しい質感をイメージしていても、それに叶うのが見つからないのは承知の上。でも、逆に「これはいい」と意外なものに出会えるのも、素材探しの妙。こればかりはネット検索より、足で探した方が確実性は高い。

 今回、偶然にも取引先のメーカーさんから情報提供されたのが、「サボテン」を利用した新素材。「変わった素材を探しているのなら、こんなものがあるよ」と、担当者から話を聞くことができた。サトウキビの搾りかすをすき込んだバガス和紙糸は知っていたが、同じ植物系でもサボテンとは初耳だった。

 担当者は「サボテンが生育するメキシコで、資源活用と環境意識の高まりから生まれたものらしいんだ」と。バガス和紙糸のように搾りかすをすき込んだ糸ではなく、サボテンの葉をそのまま加工して革に似た合成素材=「ヴィーガンレザー」に仕上げたもの。つまり、織り目があるのではなく、密になった素材ということだ。環境を意識する欧米ブランドでは使用するデザイナーもいるそうだが、日本ではまだまだのようである。



 サボテンの表皮はから想像すると、ゴワゴワした素材のように思えるが、実際にはどうなのだろう。担当者は「いきなりアパレルに使うというより、まずソファの表革なんかに使用されているみたいだよ」と、ヴィーガンレザーが使用されるカテゴリーを説明してくれた。なるほど、本革貼りのソファーは有名だが、それがサボテンの革に代わるということか。

 筆者も革製品は大好きで、手作りしたスマホホルダーは手汗を吸い取ってくれるので、1年を通じて欠かせないグッズとなっている。また、レザーウエアは暖冬が続く中、冬場唯一の防寒アイテムとして重宝している。また、年が明けると日に日に春めく福岡ではブライトカラーのレザーがとても着こなしやすい。

 ただ、自分でレザークラフトを行い、また工場にウエアの製造を発注すると、用尺の関係からどうしても余り革が出るのは気になっていた。布帛の生地なら再度糸に戻して繊維にリサイクルできるが、革の切れ端を再利用するは難しい。ずいぶん前にバッグのデザイナーと話した時、「余った素材の再利用も考えています」と語っていたが、限られた材料で商材にするには技術面での工夫が必要だし、新たな材料を追加すればリサイクルの概念からズレてしまう。非常に難しいのだ。

 牛や羊、馬といった動物の革は食用の肉を取った後、捨てずに活用できる。それが動物への供養にもなるという考え方で、古くから生活必需品に使われてきた。ただ、動物革をウォンツ商品でありデザイン性が強いブランドのバッグやウエアに使えば、型紙が複雑になってどうしても端革、いわゆる余り革が出てしまう。それらが再利用できないと、廃棄せざるを得ないから、地球環境に負荷をかけてしまう。



 植物由来のサボテンならどうだろう。少なくとも動物皮革のような殺生、人間の欲望のためという後ろめたさからは遠ざかるとは思う。むしろ資源活用の点で、前向きに捉えらるはずだ。サボテン革の量産、調達が可能になれば、貧困の撲滅、人材の育成、環境への配慮などにも合致するから、無印良品やニトリなどがインテリアの材料に使用するかもしれない。量産化を図らなくても、SDGsへの企業姿勢を示す格好の商材になるのは確かだ。


環境負荷にならない素材を活用する意味

 サボテンはメキシコはじめ中南米に自生するから、素材に加工することはそれほど難しくないと思う。乾燥した気候でも育つので多くの水を必要としない。これは他の植物と比べると、最大のメリットと言える。また、食用になる穀物や野菜のように生産効率を追求するものではないので、農薬や肥料も必要としない。何より植物だから、温室効果ガスのCO2を吸収してくれる。環境にやさしい素材なのだ。

 メキシコはサッカーが盛んだし、野球のリーグもある。将来的にはボールやグローブ、スパイクの革にも利用できるかもしれない。子供たちの遊び用のボールを作った場合、サッカーではフリーキックの曲がり具合、野球では球筋やキレがどう変わるのかを考えるだけも楽しい。スポーツメーカーも環境問題には敏感になっている。これからヴィーガンレザーをいろんな用具に利用していくことは確実だろう。

 もちろん、ファッションアイテムに使用する時は染めやシボ、質感、手触りなどで、新たな期待が持てる。それらの特徴を活かしたアイテムを作れば、話題にもなりそうだ。グローバルSPAでもアパレルで合成皮革に変わる素材として採用するところが出てくるかもしれない。

 メーカーの担当者によると、「製法はサボテンの葉を細かくすり潰し、それを乾燥させて素材にしていくらしいよ」「素材にするにはサボテンの葉先をカットするだけで、翌年には新たな葉になるから、サボテン自体にも影響はないよね」と。植物だから廃棄されても、枯れて土に帰るので問題はないだろう。素材に加工するまでの工場設備や素材製造のコストがどれくらいかかるかはわからない。でも、動物のように飼料や飼育が必要なわけではないので、トータルで見れば低価格になるのではないだろうか。

 まあ、日本で収穫される植物ではないから、素材製造はメキシコに任せておいてもいいと思う。むしろ、大事なことは動物皮革に代わる素材としていかに幅広く利用していくか。メーカーの担当者の担当者が言っていたように、まずはソファなど広い用尺を必要とするアイテムに利用するのがいいだろう。そこで質感や耐久性を確かめながら、バッグやベルトに応用していく流れになるのではないか。



 そう言えば、土屋鞄製造所も米国企業のボルト・スレッズ社と資本提携し、同社が製造する素材「マイロ」を使用したウォレットバッグやiPhoneケースを12月に一部の店舗とオンラインストアで発売するとの報道があった。マイロはキノコの菌からなる、根のような糸状の繊維を加工してできた素材で、手触りや風合いは牛革に近く、かばんや財布に加工しても十分な強度を持つそうだ。

 土屋鞄製造所は昨年、ボルト・スレッズ社と共同研究を始め、20回以上の試作品作りを繰り返しながら、ランドセルやかばん、財布など6種類を完成にこぎつけた。ただ、公設試験場などでの強度検証が済んでいないため、まずはウォレットバッグやiPhoneケースの販売が先になったようだ。一般的な牛革は素材にするまでに3年ほどかかるが、マイロの菌糸体は2週間で培養が可能とか。素材調達がスピーディーになるのもメリットだ。

 すでにスポーツメーカーのアディダス、コングロマリットのケリング、デザイナーのステラ・マッカートニーなどとマイロの活用で合意しているというから、これから新商品が次々とデビューしていくだろう。土屋鞄製造所自体が自社製のレザーバッグを修理して再販売するリユース事業にも本格参入している。環境への取り組みを強化すれば、ブランド価値や用途、価格などによって動物由来のものとヴィーガンレザーを使い分けていくことになるだろう。




 マイロは別にして、個人的にはサボテンレザーの調達が可能なら、レザークラフトにぜひ使ってみたい。ちょうど、この夏に作ったスマホホルダーをポシェットとウォレットを合体したものにアレンジしてみようとアイデアが浮かんでいる。上京前にイメージイラストと型紙を制作したので、メーカーの担当者に逆提案してみた。検討してみるとのことだったが、革さえ入手できれば自分で試作品を作った方が早い。

 早速、知り合いの革屋さんに入手できるかを打診した。新たな素材があれば、新たな創作意欲が湧く。それはこれまでも変わらなかったが、今は環境に負荷をかけない素材を使用しようという意識が加わった。今年中には「ヴィーガンレザーポシェレット」を作ってみたい。

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