HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

値下げを超えるもの。

2022-11-30 07:24:42 | Weblog
 冬場のランニングで着用する「レギンス」がある。かつてはゼビオなどのスポーツ専門店で購入したものを着用していたが、意外にもウエストサイズに対してレングスが短く、ランニング時には捲れ上がっていた。そこで他に良いものはないかと探した結果、見つかったのがディスカウントストアのミスターマックス(MM)のPB「綿あったかインナー」。

 スポーツ用ではなく機能性インナーなのだが、レギンス仕様になっており冬場のランニングに必要な「保温」「静電気防止」「ストレッチ」の条件を備える。素材は綿が95%(ポリウレタン5%の混紡)で吸湿も十分で肌にも優しい。10分丈で走っても裾が捲れ上がることはない。価格も1000円程度と値頃なので3着をまとめ買いした。



 ドラッグ業界で急成長を遂げる「ドラッグコスモス」も、同じようなPB「綿であったか発熱インナー」を販売していた。こちらは「吸湿発熱」「保温」「ストレッチ」の条件で混紡率もMMと同じ。違いはウエストゴムがMMは蛇腹なの対し、コスモスはゴム仕様(ナイロン90%、ポリウレタン10%)。割引で798円となった時に見つけ、MMのものと穿き比べるために2着購入した。

 アンダーアーマーなどスポーツ用になると、素材はポリエステルやナイロン、ポリウレタン(エラスタン)など全て合繊になる。そちらの方がパフォーマンス向上やフィジカルケアには良いのだろう。だが、筆者の肌には痒みなどのアレルギーが心配されるので、綿主体の方が向く。しかも、価格はスポーツブランドの半額以下なら、まとめ買いして耐用年数を伸ばすことできるので、お得感もある。



 もう数年は買い替えも買い足しも必要ないと思っていたら、先日、無印良品から届いたメールニュースに綿インナーが紹介されていた。こちらは「あったか綿、新登場。」のタイトルで、メンズアイテムには「あったか綿 厚手 ロングタイツ」がラインナップする。価格は先の2社より少し高めの1490円だが、素材は綿100%(ウエストはゴム仕様でナイロン81%,ポリエステル19%)になっている。

 商品説明には、「天然素材である綿に特殊な技術をほどこし、身体から発散する蒸気を熱に転換する『吸湿発熱のちから』を高めた、あったかインナーです」「綿100%で化繊による肌の乾燥や静電気の発生をを防ぎます」と記されている。これだけ読んでも、やはり惹かれる部分は十分にある。また、「晩秋から初冬の寒さや野外での活動にも快適に着ていただけます」ということなので、これもランニング時に着てみようという気にさせた。

 サイズ表記がMでウエスト63.0cm、ヒップ85.0cm、股下70.5cm、Lで同68.0cm、同90.0cm、同72.0cm。どうやら現物の実寸サイズがそのまま記されている。先に2社はパッケージでは一般表記のMがウエスト76〜84cmだったので、実寸サイズを気にすることなく購入した。逆に実寸が表記されると迷ってしまう。念のために先に2社の実寸を測ってみると、無印良品のMサイズ表記とほぼ同等だった。ネット通販のみで購入する場合は、この辺の違いが非常に迷うところである。

 あとは1490円という価格をどう判断するか。確かに先に2社の価格に比べると、1.5倍ほどになる。逆に素材が100%で、「厚手」という特徴には惹かれる。まあ、発売間もない商品だし、よほど寒くならない限りは売り切れることはないだろう。店頭でじっくり現物を確認してからでも、購入は遅くないと思う。

 機能性インナーではユニクロが先行し、イオンなどの量販店も追随した。ただ、先行企業が合繊中心であるのに対し、後発のしまむらは綿100%で対抗した。さらにミスターマックスやドラッグコスモスは綿の比率を95%に維持しつつ、抗菌防臭やストレットといった機能も加えた。あとは購入者がいろんな着用条件や体質で判断するかだ。筆者はランニングで着用するので、吸湿と保温で肌触りのいい綿100%に近いものを選ぶことになる。


価格より企画やマーケティングに注力すべき

 こうした新商品を投入する無印良品の動向はどうなのか。良品計画が先月半ばに発表した2022年8月期決算によると、売上収益は前期比9.4%増の4961億円だが、純利益は同28%減の245億円の増収減益となった。利益が前年より3割近くも下回ったことは、明らかに収益構造に異変が起きていることを示す。

 一番の理由は、より多くの集客を果たすために実施した「値下げ」が通用しなくなっていることだ。以前にこのコラムでも指摘したが、単純に値下げだけならお客に受け入れられる。しかし、肝心な商品づくりについては値下げする分、衣料品では原価を下げているように思え、2000年代以前に比べ明らかに質が低下している。これではお客に見透かされても仕方ない。

 逆に原材料費や人件費、輸送費などのコストは上昇しているのだから、値下げを続けたことで利益が圧迫されたのは明白だ。堂前宣夫社長は決算発表のオンライン会見で、「価格を下げることで対応してきたが限界を迎えた」と述べている。しかし、お客には値下げで品質も下げているように受け取られている。そのことに経営者として気づいていなかったとすれば、大いに反省すべきではないか。

 日本が人口減少にある中、集客増で値下げ分をカバーし、収益を伸ばすというスタイルは通用しなくなっている。しかも、競争相手は無印良品を超えるレベルものを次々と発売している。堂前社長も会見で「様々な企業が類似品を出している」と、企業名はあげなかったものの、ダイソーの「スタンダードプロダクツ」は明らかに脅威と見ているはずだ。

 さらにベイシアグループのカインズ傘下となった東急ハンズ改め「ハンズ」もPBを強化していくだろうから、日用雑貨では無印良品のコンペチターになるのは間違いない。インテリアではニトリやイケアも競争相手になる。若者向けの3COINSも機能充実の商品群を強化しており、侮れない。




 11月3日、東京出張中に時間を作って「百八貨店くらしの全部」と銘打った「東京有明店」まで足を伸ばした。祝日ということ、ららぽーと豊洲からの流れもあり、訪れるお客は少なくない。無印良品としては初の試み「食品の量り売り」では、コーヒー、ナッツ、ドライフルーツ、パスタ、米などが自分の好みの量で購入できる。また、「ブレンドティー工房」は緑茶、ほうじ茶、ルイボス茶の3種をベースに32種類のブレンド茶を販売する。

 「MUJI Bakery」は銀座店の約2倍の面積で幅広いパンを取り揃え、イートインを併設。レストラン「Café&Meal MUJI」では、メインディッシュとデリ3つ、ドリンクのランチが1300円で楽しめる。そして、スーパーと提携した青果の販売。旬の野菜が市価とほぼ同等の価格で並ぶなど、これまでの無印良品ない先進的な店舗になる。

 東京有明店がこれから主要都市に展開する無印良品の旗艦タイプになるのかはわからない。日持ちするコーヒーやナッツ類はともかく、青果については一般のスーパーの方が充実している。豊洲地区には16000世帯、37000人以上が暮らすとは言っても、有明店だけ買い物が完結する訳ではない。食品の量り売りや青果による集客には限界があるだろう。

 一方、値下げ政策が行き詰まる中、良品計画は500円以下の日用品や消耗品を中心に集めた「無印良品500」をJR三鷹駅アトレヴィ三鷹に出店した。こちらは駅ビル業態で、とりあえず必要なものを購入する店舗に過ぎない。既存MDの枠を出ないし、多店舗化できるかについてはJR東日本のリーシング次第だ。当然、100円ショップといった強力なライバルがいる。

 11月17日には東京板橋に関東最大級の「板橋南22」を開店した。都内産の青果を扱う他、地元のクラフトビールも販売する。また、ネット注文した商品を駐車場で車に乗ったまま受け取れるサービスも初めて導入した。売場面積も有明店に次ぐ広さ(約4000m2)で、すべての商品をラインナップさせ、マルエツなどのスーパーと張り合うようだ。ただ、これまでのSC展開主体で広域集客しかしてこなかった無印良品がスーパーのような足元商圏の攻略でどこまで戦えるのかは不透明である。

 無印良品に必要なのは、新店開発より商品政策へのテコ入れではないか。良品計画側も商品力の強化に着手し、衣料品は今年秋冬物からアパレル経験を持つデザイナー職などで中途社員を増やしてはいるが、彼らが思う存分に力を発揮できる環境を作らなければならない。ただ、堂前社長は「生活の基本となる商品群の価格は変えたくない」と述べるなど、価格を抑えながら商品力を高めることが本当にできるかは甚だ疑問だ。

 また、「商社などを介さず工場と直接取引をする比率を現状の2~3割から2024年8月末までに約8割に高めて原価低減を図る」というが、ユニクロが順調に収益を出していることを考えると、商社側も「良品計画単独でできるはずがない」と、嘲笑っているのではないか。

 単独で商品開発するにしても、従来通り商社を介するにしても、求められるのは消費者にとって本当に価値ある商品を生み出せるか、だ。その第一歩としては、先に挙げた「あったか綿」など多少割高でも、素材・機能に注力した生活必需品の開発だろう。無印良品にとっては、余分な装飾を廃しつつ、商品の質を上げていくことが肝心だと思うのだが。

 アナリストは「商品の差別化などが問われる局面に入っている」と指摘するが、無印良品は価格と品質のバランスが一番良かった1990年代に回帰すべきではないか。無印良品はスーパー西友のPBから進化・発展し、ブランドを構築した。それはプレーンでシンプルでミニマルというデザイン特性を持った。それでありながら、品質は高く、有名ブランドより割安。単純にそれでいいのではないかと思う。

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