1月の末だったか、SPAのアダストリアがグローバルワークから派生させた新業態「グローバルワーク スマイルシードストア(以下、GSS)」を展開すると発表した。
キーワードはベーシック、デイリー、エイジレスで、日々の暮らしに密着したウエアを低価格(シャツ:1790円~2970円、パンツ:1980円~3960円など)で販売する。出店先はGMS(総合スーパー)や近隣型のNSC(ネバーフッド・ショッピングセンター)、ロードサイドの独立店舗。2名程度のスタッフを配置して接客を極力行わないセルフ販売とし、日常の買い物で生鮮や日配品を購入するついでに買ってもらう狙いのようだ。
商品はグローバルワークで展開するソックス(330円)、パック入りの下着(1100円)、キャミソール(1980円)などを拡大。ホームウエア(英語にはルームウエアという表記はない)も充実させ、実用衣料により注力した。同ブランドは製造を商社に丸投げすることなく、自社のネットワークのもとで行なってきた。近年はオリジナル素材の開発も強化しているため、GSSでもこうしたノウハウを生かして質を追求し、低価格を実現したという触れ込みだ。
そんなGSSが3月17日、東京・八王子にあるNSC「イーアス高尾」に出店した。同施設は高尾山登山口の一つ手前、JR高尾駅の脇に位置し、地元スーパーのサンワマーケット、大小のNBストア、個店などをミックスして日常の買い場として近隣住民を集客する。ユニクロやGU、チュチュアンナも出店しており、GSSはそれに割って入るかたちとなった。
奇しくも3月9日、セブン&アイ・ホールディングスは、イトーヨーカ堂が運営するアパレルからの撤退を明らかにした。今後はGMSを首都圏に集中させ、2025年度までに全国で14店舗を閉鎖する。不採算のGMSは全て姿を消すわけだ。かたやアダストリアはGSSを苦戦のGMSに出店するというのだから、何とも皮肉な成り行きとしか言いようが無い。
もちろん、イトーヨーカ堂に限らずGMSの運営会社は、首都圏の駅前など有利な立地では、衣料品をテナントに切り替えて巻き返しを図るはずだ。NSCも下着やホームウエアを揃えるテナントを誘致すれば、お客が買い回らなくて済むという目論見があるだろう。アダストリアはGSSをそうした受け皿にする思惑もあるのではないか。
興味深いデータがある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本は12年後の2035年には15歳以上の人口に占める「独身者(未婚+離別死別者)」の割合が男女合わせてほぼ48%に達する。未婚化・非婚化に加え、離婚率の上昇や配偶者の死別による「高齢単身者」の増加など、「ソロ社会」が急速に進行するのだ。
それは消費構造の激変に直結する。人口の半分が一人で買い物するようになれば、若年の独身人口が多い大都市のSCや駅ビルはまだしも、車でのアクセスが必要な地方の郊外SCはもろに影響を受ける。高齢単身者の増加は免許返納、車離れの流れを加速するからだ。単身者は一度に大量の商品を買い込む必要がないため、買い物は徒歩や自転車、バスや電車で行ける近隣で済ませる。となると、駅前のGMSや近隣のNSCにお客が集中する構図に変わっていく。
デイリーウエアではすでに無印良品が先行し、ユニクロも同じカテゴリーを充実させている。無印良品は都市(路面旗艦店含む)や郊外のSC(NSC含む)を、ユニクロは同様のSCおよびロードサイドを主な出店先とする。だから、メーンの客層は都市部に通勤するヤング世代から郊外に住み車を利用する中高年までだ。高齢単身者が増加し、ソロ社会が進行する中では、この2社に加えてグローバルワークも決して安泰とは言えないだろう。
そのため、GSSはファッション性を追求するものの、展開先をGMSやNSCに拡大することで来店頻度の向上を狙うと思われる。ただ、1500万人もの会員を持つドットエスティのデータを活用してMDの修正を行うにしても、高齢単身者が増えて市場が劇的に変化していく中で、本当に求められるのはそこなのだろうか。
中高年にシフトした業態開発も必要
GMSやNSCの主な客層は30代から80代までの女性だ。GSSをそこに出店し来店頻度を高めると言っても30~60代は車を利用できるから、日常の買い物のついでにデイリーウエアを購入する必要はない。また、施設の中に営業時間を延長したスーパーがあると、夜の8時以降に男性客が多く訪れる傾向がある。なのに男性向けの実用衣料はそこまで揃っていない。
GSSの記者発表で披露されたブルーストライプのロングシャツ、アメカジライクなロゴ入り長袖Tシャツ、コットンプリントのTシャツ、スリムイージージョガーパンツだった。そこそこの感度をキープしているが、テイストは30代のファミリー層向けで、エイジレスと言いながらハイエイジには対応していない。男女とも50代以上の独身者が増える中、これらの層にもアプローチしなければ、覇権は取れないような気がする。
GSSを見るとインナーシリーズはキャミソールが主体で、これでは中高年や高齢者の攻略は厳しい。先行する無印良品は「汗取りパッド付きフレンチスリーブTシャツ」「どこにも縫い目がないハーフトップブラジャー」を、ユニクロは介護が必要な高齢者のことまで考え「前あきUネックT(半袖)」を揃えるなど、中高年や高齢者にもきちんと対応している。
また、ハイエイジを引き付けるには、下着は肌に優しいコットンの比率を高めることが肝心だ。その点でも無印良品、ユニクロの企画は遜色ない。無印良品は2022年の冬物で「あったか綿」シリーズをヒットさせて収益を回復させた。ユニクロも前あきUネックTでは「肌への負担もできるだけ軽減(綿91%、ポリウレタン9%)」を謳い、高齢者の捕捉に余念がない。
逆にグローバルワークには気になるところがある。近年、オリジナル素材を強化していることで、昨シーズンくらいから商品の大半が「合繊」主体になってきたことだ。確かに原材料や人件費が高騰しており、サプライチェーンの分断リスクを回避する上でも、已むを得ない面はある。だが、あまりに急激な素材変更には戸惑っているお客も多いのではないか。
ここで、ハイエイジ向けの衣料品をどこが提供しているか、見てみたい。下着やホームウエアでは、海外ブランドの専門店がある。イタリアの「ラペルラ」などはランジェリーのイメージが強いが、ファンデーション(補正機能も持つ下着)やラウンジウエア(ホームウエアと同義)も充実している。カルバンクラインのようにスポーティな下着専門店もある。主な顧客は富裕層だ。
次にワコールやトリンプ、グンゼといった国内ブランドを扱う百貨店。こちらはNBのカジュアルウエアが苦戦し、下着やホームウエアはギフトメーンで、自分用は催事で購入するのが多数派ではないか。ボリュームゾーンでは無印良品やユニクロの他に大手ディスカウントストア(DS)があるが、どうしても価格訴求を軸にするので、細かなMD対応ではない。
大手チェーン店では、しまむらは細かなMDが構築されているわけではなく、そこまでハイエイジを深掘りできているとは思えない。最近では、ドラッグストアが食品のラインロビングを加速しており、PBのアンダーウエアなども強化してワンストップショッピングを可能にするところは、高齢者の支持を得て売上げも好調だ。実用衣料でも侮れない存在だろう。
あとはどの都市にもある小規模なDS。商材はフルアイテムを揃えるので、近隣にあればハイエイジは利用しやすい。高齢者向けのカジュアルウエアも揃えるが、下着やソックスではOUTDOORやDickiesなどのブランドはハイエイジ向きではない。メンズで言えば、G.T.HAWKINSのような綿主体でベーシックなものなら、ハイエイジも受け入れる。だが、問屋との関係からか、店頭からなくなっているところが多いと感じる。
GSSがGMSやNSCで日々の暮らしに密着したデイリーウエアを販売していくなら、思い切って主要ターゲットの年齢を少し上げて商品開発を行うべきではないか。無印良品やユニクロはMDの幅を広げているので捕捉はしているが、巷に溢れる業態はハイエイジを必ずしも捉えきれていない。これがあれば、GMSやNSCもリーシングしたいのではないだろうか。
アダストリアの前身、ポイントを設立し事業を拡大した福田三千男氏は、木村治社長が若かりし頃に、「失敗をしなさい」と教えたという。ハイエイジ向けのデイリーウエアや実用衣料を扱う単独業態はほとんどない。創業家の家訓を受け継ぐことは、アダストリアの躍進の礎になっている。それゆえ、失敗するしないは別にしても、試行錯誤の後に見えてくるものは必ずあると思う。本体で行うのが厳しいなら、子会社を活用すべきだ。
今の中高年や高齢者のマインドは若い。ただ、加齢が進めば、身体にいろんな変調が出てくる。衣料品の選択肢も、デザインより着心地や補正機能、フィット感より肌触り、プルオーバーより前あき等など。デイリーの衣料品にはそうしたテーマに向き合うことが欠かせない。この先の10年で消費構造は劇的に変わる。それを見越した展開を考えるなら、より特化した商品作りや業態開発を先行すべきではないかと思う。
キーワードはベーシック、デイリー、エイジレスで、日々の暮らしに密着したウエアを低価格(シャツ:1790円~2970円、パンツ:1980円~3960円など)で販売する。出店先はGMS(総合スーパー)や近隣型のNSC(ネバーフッド・ショッピングセンター)、ロードサイドの独立店舗。2名程度のスタッフを配置して接客を極力行わないセルフ販売とし、日常の買い物で生鮮や日配品を購入するついでに買ってもらう狙いのようだ。
商品はグローバルワークで展開するソックス(330円)、パック入りの下着(1100円)、キャミソール(1980円)などを拡大。ホームウエア(英語にはルームウエアという表記はない)も充実させ、実用衣料により注力した。同ブランドは製造を商社に丸投げすることなく、自社のネットワークのもとで行なってきた。近年はオリジナル素材の開発も強化しているため、GSSでもこうしたノウハウを生かして質を追求し、低価格を実現したという触れ込みだ。
そんなGSSが3月17日、東京・八王子にあるNSC「イーアス高尾」に出店した。同施設は高尾山登山口の一つ手前、JR高尾駅の脇に位置し、地元スーパーのサンワマーケット、大小のNBストア、個店などをミックスして日常の買い場として近隣住民を集客する。ユニクロやGU、チュチュアンナも出店しており、GSSはそれに割って入るかたちとなった。
奇しくも3月9日、セブン&アイ・ホールディングスは、イトーヨーカ堂が運営するアパレルからの撤退を明らかにした。今後はGMSを首都圏に集中させ、2025年度までに全国で14店舗を閉鎖する。不採算のGMSは全て姿を消すわけだ。かたやアダストリアはGSSを苦戦のGMSに出店するというのだから、何とも皮肉な成り行きとしか言いようが無い。
もちろん、イトーヨーカ堂に限らずGMSの運営会社は、首都圏の駅前など有利な立地では、衣料品をテナントに切り替えて巻き返しを図るはずだ。NSCも下着やホームウエアを揃えるテナントを誘致すれば、お客が買い回らなくて済むという目論見があるだろう。アダストリアはGSSをそうした受け皿にする思惑もあるのではないか。
興味深いデータがある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本は12年後の2035年には15歳以上の人口に占める「独身者(未婚+離別死別者)」の割合が男女合わせてほぼ48%に達する。未婚化・非婚化に加え、離婚率の上昇や配偶者の死別による「高齢単身者」の増加など、「ソロ社会」が急速に進行するのだ。
それは消費構造の激変に直結する。人口の半分が一人で買い物するようになれば、若年の独身人口が多い大都市のSCや駅ビルはまだしも、車でのアクセスが必要な地方の郊外SCはもろに影響を受ける。高齢単身者の増加は免許返納、車離れの流れを加速するからだ。単身者は一度に大量の商品を買い込む必要がないため、買い物は徒歩や自転車、バスや電車で行ける近隣で済ませる。となると、駅前のGMSや近隣のNSCにお客が集中する構図に変わっていく。
デイリーウエアではすでに無印良品が先行し、ユニクロも同じカテゴリーを充実させている。無印良品は都市(路面旗艦店含む)や郊外のSC(NSC含む)を、ユニクロは同様のSCおよびロードサイドを主な出店先とする。だから、メーンの客層は都市部に通勤するヤング世代から郊外に住み車を利用する中高年までだ。高齢単身者が増加し、ソロ社会が進行する中では、この2社に加えてグローバルワークも決して安泰とは言えないだろう。
そのため、GSSはファッション性を追求するものの、展開先をGMSやNSCに拡大することで来店頻度の向上を狙うと思われる。ただ、1500万人もの会員を持つドットエスティのデータを活用してMDの修正を行うにしても、高齢単身者が増えて市場が劇的に変化していく中で、本当に求められるのはそこなのだろうか。
中高年にシフトした業態開発も必要
GMSやNSCの主な客層は30代から80代までの女性だ。GSSをそこに出店し来店頻度を高めると言っても30~60代は車を利用できるから、日常の買い物のついでにデイリーウエアを購入する必要はない。また、施設の中に営業時間を延長したスーパーがあると、夜の8時以降に男性客が多く訪れる傾向がある。なのに男性向けの実用衣料はそこまで揃っていない。
GSSの記者発表で披露されたブルーストライプのロングシャツ、アメカジライクなロゴ入り長袖Tシャツ、コットンプリントのTシャツ、スリムイージージョガーパンツだった。そこそこの感度をキープしているが、テイストは30代のファミリー層向けで、エイジレスと言いながらハイエイジには対応していない。男女とも50代以上の独身者が増える中、これらの層にもアプローチしなければ、覇権は取れないような気がする。
GSSを見るとインナーシリーズはキャミソールが主体で、これでは中高年や高齢者の攻略は厳しい。先行する無印良品は「汗取りパッド付きフレンチスリーブTシャツ」「どこにも縫い目がないハーフトップブラジャー」を、ユニクロは介護が必要な高齢者のことまで考え「前あきUネックT(半袖)」を揃えるなど、中高年や高齢者にもきちんと対応している。
また、ハイエイジを引き付けるには、下着は肌に優しいコットンの比率を高めることが肝心だ。その点でも無印良品、ユニクロの企画は遜色ない。無印良品は2022年の冬物で「あったか綿」シリーズをヒットさせて収益を回復させた。ユニクロも前あきUネックTでは「肌への負担もできるだけ軽減(綿91%、ポリウレタン9%)」を謳い、高齢者の捕捉に余念がない。
逆にグローバルワークには気になるところがある。近年、オリジナル素材を強化していることで、昨シーズンくらいから商品の大半が「合繊」主体になってきたことだ。確かに原材料や人件費が高騰しており、サプライチェーンの分断リスクを回避する上でも、已むを得ない面はある。だが、あまりに急激な素材変更には戸惑っているお客も多いのではないか。
ここで、ハイエイジ向けの衣料品をどこが提供しているか、見てみたい。下着やホームウエアでは、海外ブランドの専門店がある。イタリアの「ラペルラ」などはランジェリーのイメージが強いが、ファンデーション(補正機能も持つ下着)やラウンジウエア(ホームウエアと同義)も充実している。カルバンクラインのようにスポーティな下着専門店もある。主な顧客は富裕層だ。
次にワコールやトリンプ、グンゼといった国内ブランドを扱う百貨店。こちらはNBのカジュアルウエアが苦戦し、下着やホームウエアはギフトメーンで、自分用は催事で購入するのが多数派ではないか。ボリュームゾーンでは無印良品やユニクロの他に大手ディスカウントストア(DS)があるが、どうしても価格訴求を軸にするので、細かなMD対応ではない。
大手チェーン店では、しまむらは細かなMDが構築されているわけではなく、そこまでハイエイジを深掘りできているとは思えない。最近では、ドラッグストアが食品のラインロビングを加速しており、PBのアンダーウエアなども強化してワンストップショッピングを可能にするところは、高齢者の支持を得て売上げも好調だ。実用衣料でも侮れない存在だろう。
あとはどの都市にもある小規模なDS。商材はフルアイテムを揃えるので、近隣にあればハイエイジは利用しやすい。高齢者向けのカジュアルウエアも揃えるが、下着やソックスではOUTDOORやDickiesなどのブランドはハイエイジ向きではない。メンズで言えば、G.T.HAWKINSのような綿主体でベーシックなものなら、ハイエイジも受け入れる。だが、問屋との関係からか、店頭からなくなっているところが多いと感じる。
GSSがGMSやNSCで日々の暮らしに密着したデイリーウエアを販売していくなら、思い切って主要ターゲットの年齢を少し上げて商品開発を行うべきではないか。無印良品やユニクロはMDの幅を広げているので捕捉はしているが、巷に溢れる業態はハイエイジを必ずしも捉えきれていない。これがあれば、GMSやNSCもリーシングしたいのではないだろうか。
アダストリアの前身、ポイントを設立し事業を拡大した福田三千男氏は、木村治社長が若かりし頃に、「失敗をしなさい」と教えたという。ハイエイジ向けのデイリーウエアや実用衣料を扱う単独業態はほとんどない。創業家の家訓を受け継ぐことは、アダストリアの躍進の礎になっている。それゆえ、失敗するしないは別にしても、試行錯誤の後に見えてくるものは必ずあると思う。本体で行うのが厳しいなら、子会社を活用すべきだ。
今の中高年や高齢者のマインドは若い。ただ、加齢が進めば、身体にいろんな変調が出てくる。衣料品の選択肢も、デザインより着心地や補正機能、フィット感より肌触り、プルオーバーより前あき等など。デイリーの衣料品にはそうしたテーマに向き合うことが欠かせない。この先の10年で消費構造は劇的に変わる。それを見越した展開を考えるなら、より特化した商品作りや業態開発を先行すべきではないかと思う。