HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

現物を見てECで買う。

2019-09-11 06:27:31 | Weblog
 まだまだオープンは先だが、いろんな情報が漏れ伝わって来ている。「新生渋谷パルコ」のことだ。現時点であれこれ評論するのは憚れるが、発表された概要や業界情報をもとに考えてみたい。

 11月22日に開業する新生渋谷パルコは、商業部分の建物が地上9階(10階は一部)、地下1階。延床面積は約4万2000㎡。店舗数は192店で、テナントの年間取扱高目標は約200億円。令和の時代に相応しい次世代の商業施設を標榜し、ファッションからアート&カルチャー、エンターテインメント、フード、テクノロジーまでの5つの要素をミックスして一つの館を作り上げる。

 要素に掲げられるファッションからフードまでは、従来の商業施設でも語られていたので珍しくはないが、新たに「テクノロジー」を加えることで、買い物のスタイルを進化させ、魅力を上げていく狙いのようである。その目玉は以下だ。

 ◯デジタル技術を活用したオムニチャンネルに対応する売場「CUBE」を開設
 ◯売場面積130坪に10坪程度の小型店11店舗を集積
 ◯品揃えは限定商品や戦略アイテムに限り、EC購入に軸足を置く

 EC購入に軸足を置くなら、わざわざ店舗を開設する必要もないと思うが、新生パルコの目的はそうじゃない。狙いはそのブランド力、立地から、まずはお客を館、売場に呼び込むこと。前館のクローズ前は、集積されたテナントがどこにでもあるようなものばかりで、集客力を発揮したのは「ふなっしーカフェ」くらい。歩率家賃で稼ぐはずのSCが客を呼べるテナントの誘致、売れる商品の集積に窮していた。

 だから、新生パルコは、渋谷にしかない、パルコでしかお目にかかれない店舗を集め、そこでしか買えない商品=限定商品や戦略アイテムを、CUBEに一堂に揃える。商品の希少性を高めながら、ブランドのバリエーションを増やすために、各店は小型化した。実店舗を集めたのは渋谷パルコにしかないからわざわざ来てもらうのと、限定商品や戦略アイテムを揃えるがゆえに「現物」を見て、「商品」に触れてほしいということだ。

 レギュラーの商品は、ECで購入してもらうか、別の店舗で確認してもらえばいい。やはり、限定や戦略がつく商品は、店で直に見てもらわなければ「衝動買い」を誘えないし、お客が現物を見てその時は購入しなくてもECで購入できるなら、後日販売に結びつく可能性は格段に高くなる。この辺が買い物の利便性をアップしながら、お客の購買心理もとらえて販売に結びつけるオムニチャンネルの妙と言えるだろう。

 アパレル時代、取引先のショップマネージャーからよく聞いた言葉に「お取り置き」「お見分け」がある。お取り置きとは、現物の商品を見て購入するかしないか決めかねるため考える時間がほしい時、また雑誌などで紹介された商品在庫を店舗に問い合わせ、訪店、購入までの間(店舗により数日から1週間程度)に他のお客に売れないように預かっておいてもらうことを意味する。 これは今でもよく使われている。

 お見分けとは、企業によって解釈が違ったが、まずお取り置きまでの必要はないが、購入するかしないかを迷っている状態を販売スタッフに伝え、その商品の動きを気にかけてもらう程度のニュアンスで使っていたところ、もしくはお取り置きと同じ意味で、その企業が社内的にそう呼んでいたところもある。

 30年以上前にことなので、記憶がハッキリしないが、筆者がマネージャーに意味を訊ねると、取引先では後者の意味で使っていたのではなかったかと思う。ただ、今でもお見分けは、ファミリーセールのように在庫を一掃する時、とにかくお客が殺到するので一応「欲しいな」「買ってもいいかな」という印象の商品をカゴやラック、テーブルなどに一旦キープし後からじっくり検討できることを指して、そう使っている企業もある。

 商品を通じたお客と販売スタッフとのコミュニケーションは、買う、買わない、売れる、売れないの行為、状況だけではない。お客は微妙な心理状態にあり、それはECが浸透した今でもそれほど変わらない。ただ、お取り置きやお見分けのシステムは進化して利便性が増し、「店舗や販売スタッフに申し訳ない」とお客に気を使わせることもなくなっている。

 ECの浸透で仕組みは以下のように変わった。お見分けは、スマートフォンでは「お気に入りに追加」、PCでは「ブックマークに追加」のような感覚だろうか。Amazonのようなサイトでは「ウォッチリストに入れる」になる。お取り置きは「カートに入れる」で、一定期間内に購入しなければ、店頭に戻される。

 さらに有力ブランドになると、店舗と自社ECを一元一体で運営するオムニコマース体制を確立し始めている。そこでは以下のような流れになる。

 お客(近隣にブランドの店舗がない、または店舗で現物を確認したい場合)
 1.ECで欲しいアイテムを検索し、選ぶ
 2.気に入った商品が見つかれば、購入または店舗で受け取り
 3.現物の商品を見たい場合、店舗でお取り置きしてもらう
 4.訪店して、商品を確かめ、試着、購入(タブレットでサイズ、色違いを確認)
 5.購入しない場合、店頭または物流センターに戻される


 ざっとこんな感じだろうか。今や欲しいブランドやアイテムを探して購入するスタイルは、店舗をECのプラットフォームに乗せることで、店頭でのアイテム選びや試着、決済や受け取りの利便性を最大化するC&C(クリック&コレクト)に移ってしまった。もはやブランドを販売していく以上、C&Cには逆らえなくなっているのだ。

 もっとも、こうしたオムニコマースを整備するには、莫大なシステム投資が必要になる。そこまでのコストをかけられないところは、従来のようにZOZOTOWNやAmazonのようなプラットフォーマーに頼るしかない。しかし、彼らも大手アパレルの離反によりコンバージョンレートの低下や歩率の高止まり、送料アップによる客離れなど、ECサイトを今後も安定して運営できるかには疑問符がつき始めている。



 話をパルコに戻そう。パルコが一時代を築いたのは、ファッションデベロッパーとして無名のブランドを開拓し、それを独自のプロモーション手法で渋谷という街から情報発信して販売に結びつけ、成長させるインキュベーション機能を持っていたからだ。その基本スタンスは新生パルコでも変わらないと思う。

 今度は、オムニチャンネルを加えることで、遠隔地に住んでいるお客にもアイテム選びや決済、受け取りまでができるようにし、販売に結びつけていく。CUBEに誘致されるブランドは、すでに知名度のあるものやこれからブレイクしていくものが取り混ぜになるかもしれない。そこで限定アイテムを置くことで希少性、お客の来店動機を喚起し、戦略アイテムでブランドのインキュベートや収益向上を狙うことできる。

 CUBEの販売スタッフは、店舗のデジタルサイネージと同じアプリが入ったタブレットを持っているというから、お客はそれで在庫を探しスタッフと相談しながら、商品を選ぶこともできる。つまり、パルコはECを通じて店舗、CUBEの売場では商品の検索から取り寄せや受け取り、取り置き、現物確認や試着までを可能にすることで、SCのキーデバイスにしていこうということだろうか。

 個々の店舗は小型で、在庫も絞り込んであるわけだから、お客に寄り添うきめ細かな接客と扱う商品を減らすことによる省力化への試み、ローコストなマテハンの場になるということも考えられる。実店舗の役割、機能が問われるわけだ。

 実力、ブレイクの予感はあっても、自社ECに莫大な投資ができないブランドにとっては、CUBEのような売場が救いの神になるかもしれない。加えて、テナントリーシング前の段階として、専門学校などを卒業しプロとして服づくりを始めたものの、量産まで行かないとか、谷町がつかないとかのデザイナー&クリエイターの商品を集め、顧客開拓を狙うポップアップストアも必要かもしれない。

 デベロッパー側からすれば、オムニチャンネルの導入でC&Cをサポートし、姿を変えた実店舗を展開することで、新たなSCの姿を追求していく。来月の東京出張では、まだ施設は開業はしていないが、周辺の雰囲気を実際に見ながら、アパレル関係者からは裏事情も聞けるから、パルコの今後がどうなるかの判断材料にはなると思う。

 はたしてファッション小売りの新しいカタチをどうリードしていくのか。少なくともその主役がパルコであることを期待して、オープンを待ちたい。

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