HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

NOジャケの仕事着って?

2017-05-24 07:01:19 | Weblog
  先日、繊研PLUSが書いたメンズの記事に目が止まった。(https://senken.co.jp/posts/joseph-homme-springsummer17-ingoodshape)オンワード樫山の「ジョセフ・オム」が春夏企画で実需型MDにしたところ、成果が上がっているという内容だ。

 オンワード樫山は百貨店系アパレルを牽引して来た。ブランドライセンスにも強く、カルバン・クラインやジャンポール・ゴルチェをヒットブランドに育てた実績をもつ。同社のメンズで、その系譜を引き継ぐのがジョゼフ・オムだと思う。

 昨今はライセンスそのものが陳腐化し、本家のインポートにはかなわなくなっているが、百貨店のメンズはそもそも1フロアと層が薄く、ブランド数は限られている。ライセンスと言えど、企画次第で需要はあるのだ。

 メンズの場合、百貨店を一歩出ると、商品はファッションビルのヤング向けか、ロードサイドの量販店か、ショッピングモールの度・カジュアルくらいだ。路面のセレクトショップもあるにはあるが、顧客重視のMDで一見客には敷居が高い。ブランドやデザインにはこだわらないが、質がいいものを身につけたいという30代〜50代は、百貨店御用達になっていく。

 中でもジョゼフ・オムは、デザイナーブランドのテイストで作られており、企画には毎シーズンかなりの力が入っているように感じる。記事にも書かれているが、今シーズンは「季節の変わり目の気温変化に対応できる『ブルゾン』やニットトップなどの中間的なアイテムがヒットした」という。

 メンズのスタイリングは、オン対応のテーラードスーツ、オンオフ兼用のジャケット&パンツ。布帛のシャツやカットソーにパンツ(ジーンズ含む)。カジュアルアイテムで上着が必要な時はアメカジライクなジャンパーやユーロスタイルのブルゾンしかない。冬場はそれにウールや綿のコート、レザーやダウンが加わるくらいだ。企画すると言っても、限られたアイテムの中で、いかにスタイリングの「単品」を作れるかなのだ。

 ジョセフ・オムは、「コートからジャケットへ需要がシフトする時期の中間アイテムとして、今年はブルゾンが前年の1.5倍の売れ行き、ジャケットからシャツの中間として、半袖ニットが1.7倍となった」(記事より)というから、メンズでも端境期にいかに需要を生み出すかが売上げを平準化するカギということである。

 このブルゾンについては、土日のスタイリング提案が好評だったようで、「IT(情報技術)系やクリエイター系など職種によっては、カジュアルアイテムを仕事着として購入する客層も多い」(記事より)とか。この行には筆者もうなづける反面、まだまだと思える部分もある。

 ITという言葉がいつから流行したか。20年くらい前だろうか。IT関係者はオフィス内で終日仕事ができることから、米国では外回りのビジネスマンとは違い、Tシャツやポロシャツにパンツでも構わないと言われていた。ドレスコードについては、それほど厳格化しない業界なのだ。

 日本でもホリエモンこと、堀江貴文氏が登場した十数年前、Tシャツ&パンツ姿でメディア露出したが、同氏は日本的なドレスコードを無視したのではなく、ファッションそのものにあまり関心がないように感じた。もっとも、この頃はインターネットバブルが弾け、生き残った連中でも着るものにまでカネをかける余裕はなかったと思う。

 今はビジネスの軸が完全にIT主導に移っており、収益を上げている企業は少なくない。スーツ姿が様になる経営者も登場しているが、技術系ではまだまだファッションに無頓着な人間がかなりいるのではないか。ただ、Webを含めクリエイティブワークに従事するスタッフになるとスーツでは堅苦しいし、ノーネクタイでは逆に収まりが悪い。だから、通勤のアウターでブルゾンへのニーズはあると思う。

 マスマーケットではMA-1がトレンドで、ファストファッションからセレクト系まで、どこもかしこも企画している。もともとパイロットの防寒着のため、ビジネスカジュアルに持って来るには無理がある。だから、どうすればビジネス対応できるのか。その辺の微妙なニュアンスをジョセフ・オムはうまく企画に落とし込んだということだ。

 また、ブルゾンのような丈の短い上着を着ると、どうしてもブルーカラーっぽく見えてしまう。襟がシャツカラー、袖がカフス、比翼でジップフライ、あるいはリブによる裾絞りで脇や胴回りが脹らむと、もろ◯◯メーカーの工員や物流会社の仕分けスタッフだ。だから、いかにシルエットをスマートにして機能性を排除したデザインにするか。

 ジョセフ・オムはブルゾンという名称からユーロテイストを醸し出すため、企画では生地から手配して吟味し採用したはずだ。春夏の実需にそわせるため、インナーに綿のシャツやカットソーを着る前提で表素材や裏地を選んのではないか。その分、質感はグンと上がり、ポリ製のMA-1のように安っぽくは見えない。これがファッション知識はなくても、見た目で判断するクリエーター系にも受け入れられたのだろう。

 メンズではミリタリーなど企画の原型が揃うが、デザイナーズブランドではここからいかに引き算で形を作り上げるかになっていく。デスクワークばかりで体型が崩れてきた人間で、そこそこの可処分所得をもつIT関係者をいかにスマートにかつ洗練させるか。それはある意味、売れるファッションの答えでもある。

 そこで、筆者が懇意にするレディスメーカーの企画を参考に、メンズに応用できるような処理や始末を挙げ、「売れるブルゾン」のディテールを考えてみたい。



 ①襟先は始末に変化を付ける。

 スタジャンやMA-1はリブの丸襟なので、襟先の身頃との合わせをまっすぐカットして変化をつけるのもいいと思う。




 ②ジップで遊んでみる。

 ジップ仕様の場合、いろんな素材やカラー、引き手の形状で遊んでみる。表地が黒なら思いきってジップの色を赤やオレンジにするのも手だ。レザージャケットのフロントはダブルジップも少なくないので、薄手のブルゾンでも採用して、インナーに着るカットソーやシャツとの色合わせを楽しむ着こなしができる。


 ③袖は口に向けてテーパードも。

 ブルーカラーの作業ジャンパーに見えないようにする。袖は口に向けて捕捉すれば野暮ったくは見えない。始末もステッチ無しの裏接着でシンプルな加工もいい。腕がもたもたしないとフィット感が増し、シルエットもシャープに見える。


 ④縫い目ポケットで出っ腹に見せない。

 カンガルーポケットのパーカーのを見れば一目瞭然。前合わせがジップ仕様になると、フロントが弛んで見えてしまう。身頃と細腹の間に縫い目ポケットをつけ、スナップ留めにして弛みを緩和することができる。


 ⑤切り替えで変化を付ける。

 ライダーズジャケットの肩や上腕は転倒した場合に衝撃を吸収する目的で、中綿を入れた「パット」仕様になっている。こうした切り替えをディテール処理として生かす。機能性のディテールを対照的なデザイン処理を施すことで変化を付ける。


 ⑥裏地はカットソー仕様で。

 春や秋の端境期に着ることを想定すれば、裏にはカットソーの総貼りでもいい。多少の肌寒さを緩和できるし、汗も吸ってくれる。かつてレディスのブルゾン企画では、カットソーの色を赤やオレンジにして表地の黒とコントラストを効かせたこともある。メンズにも裏地も色で楽しむ企画が欲しい。

 レディスキャリア畑を歩んで来た筆者からすれば、メンズのビジカジ企画は「まだまだ」だと思う。ジャンパーやブルゾンが変わったと見えるには、表地から変えていかないと、ウエアとしての存在感も出せない。ファストファッションではフェイクレザーなどの登場しているが、やはり安っぽい。メンズはレディスほど素材もデザインもバリエーションがないこともあるが、どうしても売るためには実需対応しかないところに企画の貧困さが現れる。色柄、混紡など素材からセレクトして企画することが必要だろう。

 特に百貨店系のメンズアパレルでは、ベーシックな既製パターンを利用しているのか、ブルゾンやジャケットのサイジングが古くさい。おじさんたちが着ているのを見ると、一様に肩幅や身幅、襟の寸法が同様で、ブランド名だけ変えて焼き直したのではと思わざるを得ない。この辺も百貨店離れの要因ではないだろうか。別にデザインに拘れという意味ではない。サイジングや基本パターンにも「今」が必要だと思うのだ。

 メンズ畑の諸兄からはそんな単純ではないとのご意見もあるだろう。あくまでレディスという門外漢の発想だが、IT化や非正規雇用が進んだことで、通勤着にはNOジャケスタイルが浸透している。とすれば、その辺のアイテムを何とかしないと、百貨店系メンズは生き残れないかもしれない。現状のマーケットに飽き足りない大人のファッションを掘り起こすためにも、一考する価値は大いにありそうだ。
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