HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

CMのタレント起用は諸刃の剣。

2011-11-09 19:49:50 | Weblog
 先日、南充浩さんが「繊維産業ブログ」で、「昨年からアパレルブランドのテレビCMが増えたと感じる。(中略)最大の理由として、クロスカンパニーの『アースミュージック&エコロジー』のテレビCMの成功があるのではないだろうか。(中略)当時の視聴者の気持ちをデフォルメして書いてみると『何かよくわからん宮崎あおいのCM流れてたなあ。あれ何やろ?ネットで検索したろかな?』という感じだったと推測される」と書かれていた。

 確かに大手アパレルのプロモーションと言えば、かつてはイメージキャラクターに有名モデルか、タレントを起用し、媒体は雑誌か新聞広告、テレビCMと相場が決まっていた。凝った仕掛けと言っても、せいぜいそれらを連動させたキャンペーンくらいだ。しかも、強力な販促効果やブランドの認知アップをはかるには時間をかけて露出しなければならなかった。
 そこにインターネットが登場し、状況は一変した。メディアミックスすればインタラクティブでプロモーションを仕掛けられ、さらに直販までも容易く行なえる。いわゆるタレント=ブランドを簡単に浸透でき、すぐに売上げに跳ね返る。サマンサ・タバサの戦略がまさにそうだ。

 しかし、CMのタレント起用はリスクも覚悟しなければならない。予期せぬゴシップや不祥事が発生するからだ。また、ブランド再編によってタレントとイメージの擦り合わせが難しくなる場合もある。
 ワールドは05年、キャリアブランドのアンタイトルに起用していたケイト・モスを秋冬の販促にも使った。キャンペーンは雑誌とCMと店頭の連動型だったが、英大衆紙に彼女の薬物使用の疑惑が報じられ、同社はブランドイメージが損なわれると販促を打ち切った。ただ、CMは放送しなければ露出はしないが、雑誌広告はすでに出稿しており、店頭ポスターも掲載されていて、後の祭りとなった。
 恐らく、広告代理店は多額の違約金を支払うハメになり、担当営業は左遷されたと思われる。それ以上にワールドへのダメージは大きかったはずだ。その反省からか、同社は現在、アンタイトルにはヨンアを起用し、他はなでしこジャパンのオフィシャルスーツ・サプライヤーなど、販促戦略を見直している。

 一方、小雪を起用し売上げ好調だったオンワード樫山の「組曲ファム」は、ショッピングセンター向けブランドであるため「組曲」を扱う百貨店からクレームがつき、名前を「エニィスィス・ファム」に変えた。ところが、今度はイオンが「それはテナント契約違反だ」と噛み付いた。
 結局、現在は組曲が長澤まさみから外国人モデルにシフト、エニィスィスは北川景子で落ち着いたものの、『by kumikyoku」と苦しい但し書きがついている。
 さらに酒井法子がプロデュースした「PP rikorino」が、彼女の覚せい剤使用で終了に追い込まれたのはそんな昔の話ではないし、東日本大震災の義捐金問題で暴言を吐いたマリエ、市川海老蔵の事件で黒い交際が疑われた藤井リナなど、ファッション系CMタレントの火種は少なくない。
 自治体の暴力団排除条例で芸能界やタレント事務所は身内の浄化に躍起になっているし、代理店もタレントの選考にはかなりの神経を使っている。しかし、いくら身体検査で「シロ」と出ても、タレントが永遠に清廉潔白であるとは考えにくい。

 それでもアパレルブランドのテレビCMが増えた理由はもう一つ、広告不況によるスポット料金の値崩れがある。通常、CMは日曜劇場や月9などの「提供」ではスポンサーが時間枠ごと買っているが、「スポット」は代理店がテレビ局から個別に仕入れて、企業スポンサーに営業をかける。
 テレビ局はスポットを増やすためにCM枠の料金をダンピングすることがあり、代理店は「局のタイムテーブルに赤線を引いて、Aから特Bまで15”スポット1日○本入って○十万円ですよ」とスポンサーにセールスする。提供でなければ、媒体料は巨額にはならないので、その分CM制作費に回せるというわけだ。
 クロスカンパニーがアースミュージック&エコロジーのCMを制作したのも、宮崎あおいをキャラクターに起用できたのも、少なからずこうした広告業界の状況が影響している面もあるだろう。 

 かつて日曜洋画劇場はダーバンやレナウン、月曜ロードショーはオンワード樫山が提供していたが、すでにスポンサーではなくなった。アパレルの提供CMが減ったのは、テレビよりインターネットの方が反響が大きいこともあるだろう。でも、それとタレントの起用は別問題である。どんな媒体でもあっても、起用には慎重を期すのは言うまでもない。ブランドの凋落は一瞬で起こりうるのだ。
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