HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

進化を学び生かす。

2023-12-27 06:33:33 | Weblog
 今年もあと数日となった。以前ほどの忙しさではないが、この時期は公私でやる事が多い。その一つがギリギリまで伸ばした年賀状の制作だ。業界に入ってからというもの、ずっとオリジナルで制作して来た。ただ、1990年前半まではいたってアナログな作業だった。まずデザインやコピーを考えてレイアウトし、それらを写植文字にして、台紙に貼り「版下」を作る。次にトレーシングペーパーをつけた版下に写真の当たりや色を指定する。それをGMS(総合スーパー)の印刷コーナーや街のプリントショップに持ち込み、紙を選んで印刷してもらう。



 ニューヨークにいた90年代半ばには自分で制作した版下に、現地で撮った写真を紙焼きして別版で添付。それをマンハッタンのプリントショップでモノクロ印刷してもらい、日本の知人に郵送したこともある。それが95年にはMacにインストールしたillustratorやphotoshopを使い、制作したデータをそのままカラー印刷できるようになった。書体にも懐古的なタイムズ・ニューローマンから一転、斬新なタイプフェイスのフォントが使えるなど、制作レベルが格段に上がった。地元福岡に戻ると、ノート型のパソコンにはソフトが標準搭載され、誰でも簡単に年賀状がデザインできるようになった。

 一方で、ハガキサイズのデザインを当時の家庭用プリンターで両面印刷すると、「咥え(プリンターの爪が紙を1枚ずつ挟むため、その部分には印刷することができない)」部分の余白が必要になる。宛先面はハガキの端まで文字をレイアウトしないので咥えの余白を作れるが、ビジュアル面もそうすると上端の裁ち落としまでデザインができない。しかも、ビジュアル面と宛先面ともにドキュメントを同じ位置にレイアウトしても、咥えの関係で微妙に「見当(表裏の位置関係や同一印刷面の各色がずれないように、各色版の位置を合わせること)」が合わず、ハガキの表と裏で印刷位置がズレるケースは少なくなかった。

 そのため、何度か試し刷りしてハガキの表裏の印刷位置を調整しても、その分の紙はどうしてもロスになる。プリンターのインクも2000年代前半まではオフセット印刷のようなレベルではなかった。こちらが意図した通りに両面印刷するには、やはりプリントショップや印刷会社に持ち込むしかなかった。となると、簡易型であってもオフリン印刷機を使わざるを得ず、面付け(1枚の印刷用紙に対して複数の印刷データを並べた状態にすること)する版代などコストがかかる。これじゃ、「アナログの時代の方が良かった」と思うこともあった。

 ただ、デジタルの普及により、社会全体で「紙離れ」が進んだ方が深刻だ。年賀状も年を追うごとに販売枚数が減ってきている。そのため、日本郵便はインクジェットプリンターに対応する年賀状を販売し始めた。これなら、もらった方もお年玉抽選に期待できる。民間企業として収益を追うために年賀状を復権させたいのだろう。しかし、SNS時代にはそれさえ求められない。年賀を含めた全ての挨拶がメールで完結するため、紙のレターやカード自体がすでに過去のものになりつつある。

 ネガティブなことだけではない。デジタル技術の進化は日進月歩で、それまでの課題を解消してくれるようになった。筆者が直面していたハガキ両面の見当のズレがそうだ。オフィスコンビニの「キンコーズ」には最新のコピー機が並び、ハガキ向けの厚手の紙も準備されている。デザインデータさえ持っていけば、セルフで好きな紙に手軽に出力できる。

 まず、ハガキ1枚の版下デザインを自分で制作し、ビジュアル面と宛先面をそれぞれ4面付けして断裁用のトリムマーク(トンボ)をつけ、pdfデータにする。その場合、ビジュアルと宛先両面とも面付けデータの中心点がガイドラインが交差する同じ位置にくるよう合わせておく。紙のサイズはハガキ4面分よりやや大きめB4サイズ(筆者はサテン金藤を使う)を選ぶ。

 B4サイズの紙をコピー機の手差しトレイにセットし、まず片面を出力した後にひっくり返して片面もプリントする。出力した紙を透かしてみると、トリムマークは少しもズレることなく、同じ位置に来ている。あとはどちらの面でもマークに沿ってカッターで切れば、綺麗に断ち落とした年賀状が完成する。ハガキ1枚の印刷ではないので、ハガキの端から端までビジュアルや文字をレイアウトできる。デザインの面でも妥協する必要がない。これこそ、グラフィックデザインに携わる人間にとってのカタルシスと言える。

 しかも、コピー機だから紙1枚から出力可能で、印刷のように最低ロットが必要ない。コピーの質もオフセット印刷とほとんど変わらないレベルだ。キンコーズではB4カラーの出力は1枚46円(1~50枚)、モノクロが同10円。紙は厚手のサテン金藤でB4が1枚35円。つまり、B4の紙に片面カラーのハガキを4面付けて両面印刷した場合、46円+10円+35円で、年賀状1枚あたり23円程度になる。少ない枚数でも出力できる点で、印刷するより割安になる。デジタル技術の進化はコストパフォーマンスもアップする。


進化する技術の学習効果は無限大

 筆者はデザインをする過程で、機材とアプリケーションの進化を目の当たりにしてきた。アナログの時代から「ここがこうなれば、作業がもっと効率良くなり、クリエイティブのレベルも上がる」と、ことあるごとに思いながら仕事をしてきた。今ではデジタルの浸透と進化がビジネスのソリューションを追求する上で欠かせないことを肌で感じている。それでも、常に新たな課題も生まれるわけで、それに対してもデジタル技術は一つ一つ解決してくれると思う。



 そんな中、非常に興味深い話を聞いた。先日、福岡選出の国会議員の方が出身校である福岡市立田島小学校の授業参観に赴いたという。そこで、驚かれていたのは「小学1年生時からパソコンを駆使していること」。しかも、「自分で作ったクリスマスリースをパソコンで写真を撮り、先生のパソコンにデータを送り、黒板に投射してみんなで品評会をする」というフロー。子どもたちは「私は○○だと思います。その理由は△△だからです」と、論理的に自分の考えを発表していました」ということだ。

 この授業のポイントは3つある。まずクリスマスリースを自分で作る。そして出来栄えをみんなで品評する、だ。ともにアナログな活動だが、それをクラスで共有する仕組みにデジタルが活用されているのが画期的だ。子どもたちはリースづくりに対して、各自が持つ最大限のクリエイティブ力を発揮しているだろう。だが、黒板に投射された友だちのいろんな作品を見ることで、瞬時に自分にはない他人の作風に触れることができる。そして、「これは良いな」と思う部分は今後、自分の作品に生かそうと思うはずだ。

 こうしたフローはアナログ時代でもできなくはなかったが、効率良くいろんな作品に触れることで、よりクリエイティブな発想が醸成される点は、デジタル時代のメリットと言える。また、子どもたちは自分の作品を自分で写真に撮ることで、「作品の見せ方」を工夫することにつながる。これは作品の完成度だけでなく、見せ方でも評価される面を学習できる。銀塩カメラしかなかった時代は写真は紙焼きしないと見られなかったし、それにはタイムラグがあり授業一コマではとても完結しなかった。子供たちは写真の撮り方でも、クリエイティビティが変わることを理解する。これはデジタルの妙だ。




 子供たちの皆がデザイナーになるわけでもないし、皆がIT技術者を目指そうということでもないだろう。だが、こうした授業を通して、子どもたちはいろんな良い部分を瞬時に知ることができ、それを応用しようという意識を育む。それは将来、社会に出て直面する様々な課題に対し、「こんな技術があれば、解決できるのではないか」と、工夫や応用力を発揮する術に繋がると思う。それはデジタル時代の授業による学習効果でもあると言える。

 マクロ的な社会課題に取り組みたいなら、政治家や公務員を目指すのも良いだろう。ミクロの部分で課題を解決するためにデジタルを生かしたいならIT技術者もある。さらに多くの人々がどんな課題の解決をいちばん望んでいるかをリサーチし、それに取り組むためにお金と人材を集めて起業するものもいるだろう。

 もちろん、人材にはデジタルのみならずアナログな能力、技術をもった人間も必要だ。最近では活版印刷の植字が印刷した時の独特な掠れ具合から、グラフィックやファッションの世界でも見直されている。百貨店が手掛ける売らない店の「b8ta」や「CHOOSEBASE SHIBUYA」「明日見世」では、職人の手仕事が光るグッズや自然素材を活用したプロダクツにもスポットが当たっている。デジタル全盛の時代だからこそ、アナログという味わいが新たなビジネスチャンスを予感させるのだ。

 人間には絵が巧い人、手先が器用な人、計算が得意な人、文章が書ける人、話術が堪能な人など、様々いる。どの技術も能力も学校で学び訓練すれば、一定のレベルには達するが、誰もがプロとして通用するとは限らない。また、プロになってもさらに高みを目指す上で、「ここがこうならないか」など新たな欲求が生まれてくる。現在ではいろんな課題をChatGTPをはじめとしたIT技術が解決してくれる部分が少なくない。もちろん、さらなる課題も生まれてくるわけで、その解決にはさらなる技術の進歩が必要になる。

 アナログ時代の年賀状制作で、筆者が思っていた「ここがこうなれば、もっと良くなるのに」。そんな課題がデジタル技術の登場で、一つ一つ解決するようになった。次の課題はサスティナブルだろうか。もらった年賀状をそのまま再利用できるような技術だ。消えていくインクが発明されているので、それがデジタルプリントに応用できる日も近いだろう。授業を学んだ子どもたちの中からそんな技術者が誕生することにも期待が持てる。


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