人類史上初めて月面に立った男、ニール・アームストロング(ライアン・ゴズリング)を主人公に、ディミアン・チャゼル監督が、アメリカの宇宙計画の裏側を描く。
1960年代はまだ携帯電話もパソコンもなかった時代。そのためチャゼル監督は、可能な限りアナログ感を表現し、観客に当時の現実を体験させることを主眼に置き、ドキュメンタリーのスタイルを採用したという。おかげで、こちらもアポロ11号の月面着陸の衛星中継を夢中になって見た、子どもの頃の思い出がよみがえってきてた。
また「無限の宇宙(月)と平凡な日常(台所)が並立する作品に」をモットーに、宇宙開発のスペクタクルよりも、アームストロングらの内面を深く掘り下げることに腐心して描いている。日常的に現れる月、アームストロングが見上げる月など、地球から見た月のカットを印象的に映すのも、それを象徴する。
脚本は
『スポットライト 世紀のスクープ』(15)『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(18)などの実録物の名手ジョシュ・シンガー。今回もその手腕を遺憾なく発揮。宇宙計画の暗部や反対運動の様子なども取り入れている。
米宇宙計画を描いた映画としては、この映画の前日談として
『ライトスタッフ』(83)と
『ドリーム』(16)、後日談として
『アポロ13』(95)、番外編として架空話の
『カプリコン・1』(77)があり、それらと並行して見れば、米宇宙計画を多角的に捉えることができるだろうと感じた。
抑えた演技のゴズリングのほか、妻役のクレア・フォイ、同僚役のジェイソン・クラーク、上司役のカイル・チャンドラー、そしてアポロ11号のクルー、バズ・オルドリン役のコリン・ストールと、マイク・コリンズ役のルーカス・ハースらも好演を見せる。
蛇足。アポロ11号の月面着陸、アームストロングの“第一歩”が、当時の日本でも大きな話題となった一例として、
『巨人の星』のオズマの存在がある。なぜなら、彼のフルネームはニール・アームストロングにちなんだアームストロング・オズマだったからだ。