『恋は青空の下』(50)(1989.6.2.)
フランク・キャプラ監督が『其の夜の真心』(34)をセルフリメイクしたミュージカル作品。ヒギンズ財閥の長女と婚約して製紙会社の社長となったダン(ビング・クロスビー)は、競馬への夢が捨て切れず、愛馬を連れて家を飛び出すが…。
この映画、ビング・クロスビーの温かみのあるキャラクターを通して、キャプラタッチの残り香は感じられるのだが、あまりすっきりせず、もやもやが残る。なぜなら、戦前のキャプラ映画にあった、見る者が嘘と知りながらも納得させられてしまう魔法のような作劇、ヒューマニズムを信じ切った迷いのない力強さが影を潜めているのである。
第二次大戦後のキャプラは「自分は人間を信じ過ぎたのではないか」と、それまで自らが描いてきた楽天的なヒューマニズムに疑問を感じ始めたらしい。その原因は、記録映画を撮影しながら見た戦争の実態にあったようだ。加えて、世論も、楽天的な彼の作品を冷笑し始める。それ故、戦後の彼の作品はあまり多くはないし、『素晴らしき哉、人生!』(46)を除くと、残念ながらこれといったものが見当たらない。戦前の自分の映画をリメークしたこの映画からも、そうしたキャプラの迷いやジレンマが感じられる。
(1996.2.)
ノーカット、字幕版と初対面。この映画での容貌魁偉とも言うべき、レイモンド・ウォルボーンやウィリアム・ディマレストの使い方を見ると、脇役を大切にする監督としてのキャプラの評価にうなずけるものがあった。キャプラ映画に共通する行動的なヒロインを、この映画ではコリーン・グレイが魅力的に体現していた。
双葉十三郎さんの『ぼくの採点表』に、この映画に対する鋭い指摘が記されていた。「歌の挿入が楽しくもあり、失敗でもある」というのである。なるほど、一見、キャプラの映画と楽しい歌は合いそうに思えるが、実は全く毛色の違うものだといういう気もする。なぜなら、彼の映画は総じて夢物語ではあるのだが、その中のさまざまな描写は現実的であり、時には暗い側面がある。そこに楽しい歌が流れると違和感が生じるからだ。ところが、この後に作られた『花婿来たる』(51)と『波も涙も暖かい』(59)ではアカデミー主題歌賞を取っている。となるとこの説は…。
世界的名匠フランク・キャプラ監督/解説/ストーリー/キャプラと喜劇(南部圭之助)/ビング・クロスビー、コーリン・グレイ、チャールズ・ビックフォード、ウィリアム・デマレスト、ジェームズ・グリースン、レイモンド・ウォルバーン、ジーン・ロックハート、ウォード・ボンド/製作こぼれ話
解説/物語/待望の名匠フランク・キャプラ/唄いまくるビング・クロスビー/古顔新顔がずらりとならぶすばらしい助演陣/製作こぼれ話