『罠』(49)(1989.12.17.)
落ち目のボクサー(ロバート・ライアン)が、八百長を仕掛けられたことを知らぬまま、新たな生活を夢見てリングに上るが…。ロートルボクサーと妻(オードリー・トッター)の愛情を、映画内の時間と映写時間を一致させながら描いた。
名優ロバート・ライアンがかつてはボクサーだった、という話は知っていたが、この映画はそうした彼の経歴を生かして、見事なボクシングシーンを見せてくれた。それも『ロッキー』シリーズのシルベスター・スタローンのような“作られた体”からではなく、生身の体から繰り出す鋭いパンチが、見る者を圧倒する力とリアリティを持って迫ってくるのである。
同じ年に、やはりボクシングの八百長を描いたカーク・ダグラス主演の『チャンピオン』が作られたことも興味深いが、それは、ボクシングが持つ醜さや汚さといった側面が第二次大戦直後という時代背景とマッチしたからだろうし、その分、社会の暗部を描くには題材として都合がよかったからだろう。ボクシングというスポーツが、今の華やかさとは全く異なる形で捉えられていたのだ。
この映画の監督のロバート・ワイズは、今ではアカデミー協会の会長に収まっているが、かつてはこの映画をはじめとする社会派もの、あるいはSF、ミュージカルと、ジャンルにとらわれず、幅広い映画を撮ったいわゆる“職人監督”の一人であったことを思い出した。
ロバート・ライアンのプロフィール↓
ロバート・ワイズのプロフィール↓
パンフレット(51・新世界出版社(NIKKATSU WEEKLY))の主な内容
解説/ストーリイ/アメリカの批評/監督ロバート・ワイズ