1962年、黒人ピアニストのドク・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は、粗野だが人のいいイタリア系のトニー・リップ(ヴイゴ・モーテンセン)を運転手として雇う。2人は、黒人専用の旅のガイドブック=グリーンブックを頼りに、人種差別が色濃く残る南部へコンサートツアーに出るが…。異なる世界に住む2人の旅の様子を、実話を基に、ユーモアとペーソスを交えて描いたロードムービー。ピーター・ファレリーが珍しく真面目な映画を撮った。
この映画が、『手錠のまゝの脱獄』(58)に始まり、『48時間』(82)『リーサル・ウェポン』(87)『ドライビング Miss デイジー』(89)『パルプ・フィクション」(94)『メン・イン・ブラック』(97)などへと続いた、これまでの白人と黒人によるバディムービーと大きく違うのは、互いのステレオタイプのイメージを崩しているところだろう。
それは、例えば、トニーは黒人に偏見を持ちながら、カーラジオから流れる、チャビー・チェッカー、リトル・リチャード、アレサ・フランクリンらの曲は乗り乗りで聴く。ところが、ドクは黒人なのに彼らの曲を聴いたことがないという。驚いたトニーが「みんなあんたのブラザーだろ?」と問い掛けるシーン。あるいは、野球好きのトニーが、黒人の大選手であるウィリーメイズの話をするが、ドクは全く無関心というシーンなどに象徴される。
あげくに、貧しく粗野なトニーが裕福で教養もあるドクに向かって「オレの方がよっぽどブラック(黒人)だぜ」と言うシーンもある。つまり、こうしたシーンの積み重ねが、自分は黒人でも白人でもないと考えるドクの孤独を浮き彫りにすることにもつながる。なかなかうまい手法だ。
そんな2人が旅を通して、互いに変化していく様子を見せるのは予定調和で、62年の話にしてはいささか洗練され過ぎているところもあるのだが、モーテンセンとアリの好演もあって、“クリスマスの奇跡映画”の一種として、いい気分で見終わることができる。
蛇足:トニーたちが見ているテレビに、ニューヨーク・ヤンキースのロジャー・マリスがホームランを打つところが映る。マリスは、この映画が描いた前年の61年に、ベーブ・ルースが持つ年間最多本塁打の記録を更新したからタイムリーな存在だったのだろう。前述したメイズの話もそうだが、アメリカ映画では、時代を表す小ネタとして、野球の話題を出すことが多い。それだけ、野球が人々の生活や記憶と密着しているということなのだろう。
実際のトニー・リップは、小さな役だが、主にマフィアや警官役で、『ゴッドファーザー』(72)『狼たちの午後』(75)『レイジング・ブル』(80)『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(85)『グッドフェローズ』(90)などに出演している。