田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ミッドナイトクロス』

2019-02-28 14:05:54 | 映画いろいろ
『ミッドナイトクロス』(81)(1982.6.21.蒲田パレス座 併映は『ジェラシー』)



 舞台はフィラデルフィア。B級映画の音響技師ジャック(ジョン・トラボルタ)は、深夜、効果音の録音中に交通事故を目撃。池に落ちた車から娼婦のサリー(ナンシー・アレン)を救出したことで、事故の裏にある陰謀に巻き込まれる…。監督はブライアン・デ・パルマ。

 ファーストシーンの、シャワーを浴びる女に近づくナイフで、前作『殺しのドレス』(80)を思い出させ、しかもアレンに『殺しのドレス』と似た役柄を与えている。となると、デ・パルマが「この2作は兄弟のような映画だ」と宣言しているようにも取れる。

 ところが『殺しのドレス』ほどにはサスペンスは盛り上がらない。犯行の手口はすぐに分かってしまうから、後は組織が仕向けた追っ手(ジョン・リスゴー)から2人がどう逃れるのか、その渦中での2人の愛の行方は…に興味は絞られるのだが、追っ手は自分の変態趣味に忙しく、2人のロマンスも進展しない。ラスト近くの追っ掛けシーン以外は、一体これからどうなるのか、というハラハラドキドキが無さ過ぎるのだ。というわけで、全体的には全てが中途半端な印象で、期待外れだったと言えなくもない。

 ただ、効果音としての銃声や悲鳴、雑誌の写真を切り抜いてフィルム化する描写、ヒッチコック映画を思わせるカメラの移動や花火のシーンなどに、映画狂としてのデ・パルマの趣味が出ているし、支離滅裂なピノ・ドナジオの音楽やリスゴーの変態悪役ぶりなど、ディテールには捨て難い魅力があった。

【今の一言】今回、約37年ぶりの再見となったこの映画は、ミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』(66)に触発されたものだと後から知った。『欲望』の原題が「BLOW UP=タイヤを膨らませる」なら、この映画のそれは「BLOW OUT=タイヤのパンク」である。デ・パルマはタイトルで種明かしをしていたのだ。

ジョン・トラボルタ


ジョン・リスゴー
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『ミニヴァー夫人』

2019-02-28 06:15:33 | 1950年代小型パンフレット

『ミニヴァー夫人』(42)(1992.4.)



 ロンドン近郊の小さな町に住むミニヴァー夫妻(ウォルター・ピジョン、グリア・ガースン)一家が、戦争に巻き込まれていく様子を描いたウィリアム・ワイラー監督作。

 いまや第二次大戦は、先日見た『フォー・ザ・ボーイズ』(91)でもノスタルジックに描かれていたように、昔話として語られがちなのだが、その最中はただ事ではなかった、戦争は誰も幸せにはしない、という当たり前の事実が、この“戦中映画”からひしひしと伝わってきた。

 とはいえ、この映画は対ナチス用の戦意高揚映画でもあったわけだから、空襲を受けなかったアメリカではなく、同盟国のイギリスを舞台にして、同盟国側の正義を前面に押し出して描いている。

 ところが、ワイラーのきめ細かい演出や、俳優たちの好演がそうした面を忘れさせ、アカデミー賞では作品・監督・主演女優・助演女優(テレサ・ライト)賞などを受賞した。つまり、力のある者が作った映画は、題材がどうあれ、見る者の心を打ってしまう、というプロパガンダ的な怖さも含んでいるのである。

 時の英国首相チャーチルに「この映画は駆逐艦の艦隊よりも戦勝に大きく貢献した」と言わしめたのもさもありなん。もちろん、今のオリバー・ストーンたちが作るものなどに比べれば、随分と良心的でかわいらしくはあるのだけれど…。

 ただ、ワイラーは、この戦意高揚映画を撮った後、戦場に赴き記録映画を撮る。そして、戦後、復帰第一作として帰還兵の社会復帰の難しさを描いた『我等の生涯の最良の年』(46)を撮った。この変化こそが重要なのだと思う。

 この映画で、清楚なたたずまいを見せるガースンに興味を引かれて、彼女のプロフィールを調べてみたら、実生活では、この映画で息子役を演じた年下のリチャード・ネイと結婚し、その後離婚したという。虚実の違いにちょっと驚いた。

【今の一言】ダンケルクの戦いを描いた『人生はシネマティック!』(16)や、クリストファー・ノーランの『ダンケルク』(17)を見た時に、この映画のことを思い出し、その描き方の違いに、がく然とさせられた。

グリア・ガースンのプロフィール↓


ウォルター・ピジョンのプロフィールは↓


テレサ・ライトのプロフィールは↓

パンフレット(49・アメリカ映画宣伝社)の主な内容
アカデミイ賞に輝く人々(ジョーゼフ・ルツテンバーグ、テレサ・ライト、アーサー・ウイムベリス、ジョージ・フローシェル、ジエームズ・ヒルトン、クローデイン・ウエスト、ウイリアム・ワイラー、グリア・ガースン、シドニー・フランクリン)/解説/物語/『黄金』タイム誌の批評

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