田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

朝倉彫塑館

2019-02-04 10:04:47 | 雄二旅日記


 以前から気になっていた谷中の「朝倉彫塑館」を訪れた。ここは明治から昭和の彫刻家(彫塑家)朝倉文夫の自宅兼仕事場を改装し、美術館としたもの。鉄筋コンクリート作りの旧アトリエ部分と、丸太と竹をモチーフにした数寄屋造りの住居という、和洋折衷の特異な建築は、朝倉本人が自ら設計したものだという。

 旧アトリエに鎮座する彫塑群。代表作とされる「墓守」はもちろん素晴らしいが、中でもワシントンのリンカーン像をほうふつとさせる「小村寿太郎像」の巨大さに、思わず圧倒される。

 天井までぎっしり本が並ぶ書斎も圧巻。洋書のほとんどは、東京美術学校での朝倉の恩師・岩村透の蔵書で、恩師の没後、本の散逸を防ぎたいと考えた朝倉は、自分の家を抵当に入れて、恩師の蔵書を買い戻したのだという。

 また、中庭の池と巨石を中心とした日本庭園と、大きなオリーブの樹が印象的な屋上菜園もユニーク。家と仕事場をトータルで一つの芸術作品とした感がある。素晴らしい。

 東洋ランの温室だったサンルームは、今は「猫の間」となり、猫をモチーフにした作品が一堂に会している。

 ところで、朝倉文夫の長女は舞台美術家の朝倉摂。篠田正浩監督の『写楽』(95)では衣装デザインを担当している。彫塑館に展示されていた、日本画家としても著名な彼女のデッサンなどを見ると、やはり血は争えないものだと思った。

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『沈黙は金』『最後の億萬長者』

2019-02-04 09:26:33 | 1950年代小型パンフレット
『沈黙は金』(47)(1987.9.11.ルネ・クレール二本立て)



 映画草創期の撮影所を舞台に、監督(モーリス・シュバリエ)と女優(ダニー・ロバン)と男優(フランソワ・ペリエ)の奇妙な三角関係を、フランス映画特有のしゃれた雰囲気の中で描く。戦中、ハリウッドに渡っていたルネ・クレールのフランス復帰作。

 シュバリエの色事師ぶりや、若い2人の恋を見守る姿が何とも粋。今はこんなタイプの役者はいないなあ。映画の文法をわきまえたクレールの流麗な演出や、音楽の効果も素晴らしく、劇中映画と映画そのものが徐々に重なってくるところには快感を覚えた。これは、ずっと後のフランソワ・トリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』(73)にも通じるものがある。

モーリス・シュバリエのプロフィール↓


『最後の億萬長者』(34)

 某国が経済破綻に陥る。王女は、国外にいる“最後の億万長者”から融資を得るため、彼を政治の中枢にすえるが…。という風刺コメディ。

 クレールの映画では、『自由を我等に』(31)が、チャップリンの『モダン・タイムス』(36)よりも先に、オートメーションなどの機械文明を批判していることから盗作問題が起きたが、裁判で証人に立ったクレールが「もし『モダン・タイムス』が自分の映画からヒントを得ているならば、光栄に思う」と証言して告訴は取り下げになった。

 ところが、独裁者の狂気を描いたこの映画も、チャップリンの『独裁者』(40)に影響を与えたのでは、と言われている。確かに、この映画も『独裁者』よりも先に、ヒトラーや独裁政治そのものに対する皮肉を行っているわけで…。チャップリンも懲りないなあ。つまり、この映画を見ながら、ギャグのセンスやストーリーテラーとしてはチャップリンの方が上だとしても、クレールの映画作りの姿勢は、チャップリンに勝るとも劣らないものがある、といまさらながら気づかされたのである。

チャールズ・チャップリンのプロフィール↓
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