以前から気になっていた谷中の「朝倉彫塑館」を訪れた。ここは明治から昭和の彫刻家(彫塑家)朝倉文夫の自宅兼仕事場を改装し、美術館としたもの。鉄筋コンクリート作りの旧アトリエ部分と、丸太と竹をモチーフにした数寄屋造りの住居という、和洋折衷の特異な建築は、朝倉本人が自ら設計したものだという。
旧アトリエに鎮座する彫塑群。代表作とされる「墓守」はもちろん素晴らしいが、中でもワシントンのリンカーン像をほうふつとさせる「小村寿太郎像」の巨大さに、思わず圧倒される。
天井までぎっしり本が並ぶ書斎も圧巻。洋書のほとんどは、東京美術学校での朝倉の恩師・岩村透の蔵書で、恩師の没後、本の散逸を防ぎたいと考えた朝倉は、自分の家を抵当に入れて、恩師の蔵書を買い戻したのだという。
また、中庭の池と巨石を中心とした日本庭園と、大きなオリーブの樹が印象的な屋上菜園もユニーク。家と仕事場をトータルで一つの芸術作品とした感がある。素晴らしい。
東洋ランの温室だったサンルームは、今は「猫の間」となり、猫をモチーフにした作品が一堂に会している。
ところで、朝倉文夫の長女は舞台美術家の朝倉摂。篠田正浩監督の『写楽』(95)では衣装デザインを担当している。彫塑館に展示されていた、日本画家としても著名な彼女のデッサンなどを見ると、やはり血は争えないものだと思った。