『ブルックリン物語』(78)(1982.5.28.)
スタンリー・ドーネン監督がブルックリンを舞台に、失明の危機にある妹の手術代を稼ぐため、ボクシングに身を投じた青年の活躍を描く「ダイナマイト・パンチ」と、レビュープロデューサー(ジョージ・C・スコット)と幼き日に別れた娘との葛藤を描いた「バクスター・レビュー/1933」を、2本立て映画のように見せる。
意外な拾い物だった。とにかく凝った作りとお遊び精神を駆使して、昔の映画の良さを存分に再現してくれている。しかもまとめて2本も! この映画は、リアリティなんて言葉の入り込む余地がないほど、B級映画の魅力に満ちている。夢と恋と幸福を、ちょっと気取ったセリフと先が読めてしまうストーリーで、照れもせずに見せてくれるのだ。
この映画が描いたボクシングやレビューの世界は、古き良きハリウッド映画が好んで描いた題材。何故なら、そこには貧しい者が夢を持てるアメリカンドリームがあったからだ。ところが、現実世界が複雑になり、混迷し、殺伐としてきた1960年代になると、映画も現実離れした夢物語は描かなくなる。観客は映画館の中でも冷たい現実を見せられる羽目になった。
そんな動きに反するかのように、70年代には、ピーター・ボグダノビッチの『ペーパー・ムーン』(73)、ジョージ・ロイ・ヒルの『スティング』(74)『華麗なるヒコーキ野郎』(75)、シドニー・ポラックの『追憶』(73)、ジヤック・クレイトンの『華麗なるギャツビー』(74)など、ノスタルジー映画が流行した。
だが、これらの映画は、とごかに暗い現実がオーバーラップしてきて、明るい夢よもう一度というわけにはいかなかった。唯一その壁を破ったのが『ロッキー』(76)だったのではないかと思う。あれはノスタルジー映画ではなかったが、アメリカンドリームの精神を描いた、古き良きハリウッドの夢物語の再現だったのだ。
随分と話が横道に逸れたが、この映画はそうした精神だけでなく、舞台までを昔に戻してしまうという徹底ぶりで、『ロッキー』をしのいだとも言える。
【今の一言】この映画の後に撮った『スペース・サタン』(80)が、実質的なドーネンの遺作になったのは、ちょっと寂しい気がする。
ジョージ・C・スコット
『アラベスク』(66)(1987.11.1.)
古代アラビアの象形文字の解読を依頼された言語学者のポロック(グレゴリー・ペック)が、アラブの重要人物の暗殺事件に巻き込まれていく。監督はスタンリー・ドーネン。
『シャレード』(63)に続いてドーネンがヒッチコックタッチを狙った一作。オードリー・ヘプバーン主演の『シャレード』は、相手役にケーリー・グラントを起用したこともあり、ヒッチコック色を強く感じさせながらも、多彩な脇役陣のおかげで、誰が犯人なのかが絞れず、最後まで楽しませてくれた。
それに比べると、この映画は、ペックと相手役のソフィア・ローレンの頑張りだけが目立ち、「007」シリーズに近いアクション色の強さが前面に出ていたような気がする。
それにしても、ドーネンという人は、ジーン・ケリーやフレッド・アステアと組んだミュージカル映画の監督というイメージが強いが、こうした映画も器用に撮れる、才人監督だったことに改めて気づかされた。
その他のドーネン作品
『雨に唄えば』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3f26b055ce96f109becb1499e4e4b622
『いつも上天気』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/31b839b852060cc86bb14e4851b6e08a
『パリの恋人」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/68fe54e49013c8e85acbb7cd684f836f
『くたばれ!ヤンキース』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f36151b4174bad90b943a0cf3309170c