『十二人の怒れる男』(57)(1987.7.20.)
17歳の少年による殺人事件の裁判。12人の陪審員中、唯一人、証拠に疑問を持ち無罪を主張する者がいた。白熱した議論の中、次第に無罪に賛同する者が増えていくが…。脚本レジナルド・ローズ、監督シドニー・ルメットによるテレビドラマを映画化。
もう今から30年近くも前に作られた映画なのに、何度見ても飽きない。人の心が持つ曖昧さ、傷、醜さ、美しさ、温かさ、といった多面性を見事に表現したこの密室劇は、やはり、すごいの一言に尽きる。ルメット自身は、この映画について「最初はアメリカではヒットしなかった。むしろヨーロッパで評価された」「密室劇は実験であり、一種の挑戦だった」と述べている。
ところで、つい最近同じくルメットが監督した『オリエント急行殺人事件』(74)を偶然再見したのだが、あの映画は一見、アガサ・クリスティの世界を描いたように見えるが、実はルメットが原作を利用して、この『十二人の怒れる男』の裏返し版を撮ったのでは、と思えた。何しろ、同じく密室劇で、陪審員と同じ数の12人の乗客全員が…なのだから。
陪審員を演じた俳優たちを記しておこう。
陪審員長として進行に苦慮する体育教師 1番マーティン・バルサム
気弱な銀行員 2番ジョン・フィードラー
息子との確執に悩む会社社長 3番リー・J・コッブ
沈着冷静な株の仲買人 4番E・G・マーシャル
スラム街出身の労働者 5番ジャック・クラグマン
人情に篤い塗装工 6番エドワード・ビンズ
ヤンキースの試合に行きたいセールスマン 7番ジャック・ウォーデン
唯一無実を主張する建築家 8番ヘンリー・フォンダ
鋭い観察眼を持つ老人 9番ジョセフ・スィーニー
貧困層に偏見を持つ工場経営者 10番エド・ベグリー
誠実な時計職人 11番ジョージ・ボスコビック
日和見な宣伝マン 12番ロバート・ウェバー
マーティン・バルサム
リー・J・コッブ
E・G・マーシャル
ジャック・ウォーデン
ヘンリー・フォンダ
【今の一言】97年にテレビ映画としてウィリアム・フリードキン監督がリメークした。物語の展開はほぼ同じだったが、陪審員の中に黒人や移民が混ざっていた点が、時代の変化を象徴する。
ジャック・レモンが8番を演じていたのは少々意外だったが、ジョージ・C・スコットの3番は常道。他には老人の意地を示したヒューム・クローニンの9番と、移民の誇りを感じさせたエドワード・ジェームズ・オルモスの11番が印象に残った。
ジョージ・C・スコット
ジャック・レモン
エドワード・ジェームズ・オルモス
三谷幸喜脚本、中原俊監督の『十二人の優しい日本人』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/87dc6ac3b43e5cdc363425e80f591280
パンフレット(59・外国映画出版社)の主な内容
解説/この映画の監督シドニー・ルメット/ものがたり/十二人の男の横顔/新しい視覚芸術「十二人の怒れる男について」(荻昌弘)