田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『十二人の怒れる男』

2019-02-14 11:52:32 | 1950年代小型パンフレット

『十二人の怒れる男』(57)(1987.7.20.)



 17歳の少年による殺人事件の裁判。12人の陪審員中、唯一人、証拠に疑問を持ち無罪を主張する者がいた。白熱した議論の中、次第に無罪に賛同する者が増えていくが…。脚本レジナルド・ローズ、監督シドニー・ルメットによるテレビドラマを映画化。

 もう今から30年近くも前に作られた映画なのに、何度見ても飽きない。人の心が持つ曖昧さ、傷、醜さ、美しさ、温かさ、といった多面性を見事に表現したこの密室劇は、やはり、すごいの一言に尽きる。ルメット自身は、この映画について「最初はアメリカではヒットしなかった。むしろヨーロッパで評価された」「密室劇は実験であり、一種の挑戦だった」と述べている。

 ところで、つい最近同じくルメットが監督した『オリエント急行殺人事件』(74)を偶然再見したのだが、あの映画は一見、アガサ・クリスティの世界を描いたように見えるが、実はルメットが原作を利用して、この『十二人の怒れる男』の裏返し版を撮ったのでは、と思えた。何しろ、同じく密室劇で、陪審員と同じ数の12人の乗客全員が…なのだから。

陪審員を演じた俳優たちを記しておこう。

陪審員長として進行に苦慮する体育教師 1番マーティン・バルサム 
気弱な銀行員 2番ジョン・フィードラー 
息子との確執に悩む会社社長 3番リー・J・コッブ  
沈着冷静な株の仲買人 4番E・G・マーシャル
スラム街出身の労働者 5番ジャック・クラグマン
人情に篤い塗装工 6番エドワード・ビンズ
ヤンキースの試合に行きたいセールスマン 7番ジャック・ウォーデン
唯一無実を主張する建築家 8番ヘンリー・フォンダ
鋭い観察眼を持つ老人 9番ジョセフ・スィーニー
貧困層に偏見を持つ工場経営者 10番エド・ベグリー
誠実な時計職人 11番ジョージ・ボスコビック
日和見な宣伝マン 12番ロバート・ウェバー

マーティン・バルサム


リー・J・コッブ


E・G・マーシャル


ジャック・ウォーデン


ヘンリー・フォンダ


【今の一言】97年にテレビ映画としてウィリアム・フリードキン監督がリメークした。物語の展開はほぼ同じだったが、陪審員の中に黒人や移民が混ざっていた点が、時代の変化を象徴する。

 ジャック・レモンが8番を演じていたのは少々意外だったが、ジョージ・C・スコットの3番は常道。他には老人の意地を示したヒューム・クローニンの9番と、移民の誇りを感じさせたエドワード・ジェームズ・オルモスの11番が印象に残った。

ジョージ・C・スコット


ジャック・レモン


エドワード・ジェームズ・オルモス


三谷幸喜脚本、中原俊監督の『十二人の優しい日本人』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/87dc6ac3b43e5cdc363425e80f591280

パンフレット(59・外国映画出版社)の主な内容
解説/この映画の監督シドニー・ルメット/ものがたり/十二人の男の横顔/新しい視覚芸術「十二人の怒れる男について」(荻昌弘)

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『ビリーブ 未来への大逆転』

2019-02-14 08:51:17 | 新作映画を見てみた


 1970年代初頭。女性弁護士ルース・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)が挑んだ“男女平等”に関する裁判をクライマックスに、性別による差別が当たり前だった時代の風潮を描く。だから原題は「On the Basis of Sex=性別に基づく」となる。現在85歳のルースは現役の最高裁判事で、アメリカでは超有名人らしい。

 監督のミミ・レダーは、ルースを、単なる正義派、理想化肌の人ではなく、頑固で、ずるさや野心も併せ持った女性として描いているが、それは男中心の映画界で長く仕事をしてきた自分自身とも重なる部分があったからだろう。

 アメリカは曲がりなりにも、こうした出来事とウーマンリブやフェミニズム運動が重なり、引いては、それらが男女の雇用均等へとつながった。そうした“痛み”や変革を経ずに、その流れに乗って権利ばかりを主張することが多い日本とはやはり大きく違うのだという気がした。そして、ラストの、まるでフランク・キャプラ映画のようなルースの演説とその後の“奇跡”を見ると、やはりアメリカは、腐ってもデモクラシーの国だと感じさせられるのだ。

 また、あの時代に、共稼ぎによる育児や家事の分担、相手への理解と尊重といった、今では当たり前になったことを実践したルースと夫のマーティンとのユニークな夫婦関係も描かれる。ジョーンズにも増して夫役のアーミー・ハマーが好演を見せる。

 蛇足:『アラバマ物語』のアティカス・フィンチは果たしていい弁護士なのか、と母と娘が議論するシーンが興味深く映った。
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『バラバ』

2019-02-14 06:17:56 | 1950年代小型パンフレット
『バラバ』(62)(2005.11.17.)


 
 製作ディノ・デ・ラウレンティス、監督リチャード・フライシャー、アンソニー・クイン主演の米伊合作の史劇。キリストの代わりに牢から出された悪党の受難と数奇な運命が描かれる。

 それにしてもクインという人は、無国籍で、汚い格好や計らずも人生が流転していく役が本当によく似合う。各国のスターが顔見世興行のように、登場してはすぐに消えていくこの映画の中で、不気味な笑い声だけでセリフなしのジャック・パランスが最も印象に残る。

アンソニー・クインのプロフィール↓


ジャック・パランスのプロフィール↓
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