田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

水島新司『ドカベン』『野球狂の詩』

2020-12-02 09:48:05 | 映画いろいろ

 漫画家の水島新司氏が引退を発表した。水島氏の最大の功績と言えば、『ドカベン』『大甲子園』の舞台は高校野球だが、例えば、『男どアホウ甲子園』の後半、『野球狂の詩』『あぶさん』『ドカベン プロ野球編』などで、漫画と現実のプロ野球の世界をリンクさせて描いたところだろう。

 そこで、彼が生み出した藤村甲子園、岩田鉄五郎、水原勇気、景浦安武、山田太郎、岩鬼正美といった個性的かつ魅力的なキャラクターが、実在の球団や選手たちと絡む様子は、読んでいて本当に楽しかった。

 また、清原和博が「山田から4番打者の心得を学んだ」と語ったことから、『ドカベン プロ野球編』で山田は西武に入団し、岩鬼は水島氏の贔屓チームのダイエーへ、殿馬一人は、イチローがチームメートになりたいと希望したことからオリックスに、といった具合に、本物の選手たちと水島氏が“キャッチボール”をしていた様子も面白い。

 

 このうち、『ドカベン』と『野球狂の詩』はアニメのイメージも強いが、実はどちらも実写映画化されている。

 『ドカベン』(77・東映)は、『トラック野郎』シリーズなどの鈴木則文が監督し、永島敏行が、山田を野球部に誘う長島徹役でデビューした。山田(橋本三智弘)、岩鬼(高品正広)のほかは、殿馬一人(川谷拓三)、じっちゃん(吉田義夫)、夏子はん(マッハ文朱)、 わびすけ(中村俊男)が原作のイメージに近いか。徳川家康監督役で水島氏も顔を出す。併映は『恐竜・怪鳥の伝説』という特撮映画だった。

 『野球狂の詩』(77・日活)の監督は加藤彰。女性投手・水原勇気(木之内みどり)、東京メッツの老エース岩田鉄五郎(小池朝雄)、監督の五利一平(桑山正一)、スカウトの尻間専太郎(谷啓)、捕手の武藤(鶴田忍)、阪神の力道玄馬(丹古母鬼馬二)と、かなり原作のイメージに近い配役がなされた。本人役で野村克也も顔を出す。プレー場面が稚拙なのはご愛嬌。当時ロマンポルノを作っていた日活がこの映画を作ったのは意外だった。

神宮球場『野球狂の詩』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/31c83a17097aa1a3dbf4aa93c0f22962

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『愛と青春の旅だち』

2020-12-02 07:04:02 | ブラウン管の映画館

『愛と青春の旅だち』(82)(1983.1.11.東劇)




 この映画、正攻法のしっかりとしたものであるとは思うし、リチャード・ギアが『アメリカン・ジゴロ』(80)での色事師的なイメージを見事に覆したこと、あるいはルイス・ゴセット・ジュニアの感動の名演という収穫もあった。だが、舞台が海軍士官養成学校という点が、少々気になった。

 確かに、心に傷を抱えた一人の青年(ギア)と仲間たちによる心の成長のドラマとして見れば良く描かれているが、たとえそれがエリートであっても、果たして軍人になって彼らは幸せになれるのだろうかという疑問が浮かんでくるのである。

 この映画では、特に戦争や軍隊への批判はなく、この養成学校を卒業すれば、それまでとは違う幸福な生活が待っているかのように描かれている。

 ところが、去年見た『タップス』(81)では、陸軍幼年学校の生徒たちが、軍隊に矛盾を感じて反乱を起こしていくさまが描かれていた。自分としては、こちらの方がむしろ正常な行為なのではないか、という気がするのだ。

 と、ここまで書いてきて、「では、俺はこの映画が嫌いなのか?」と考えると、決してそうではない(俺も矛盾している)。

 最初に書いたように、青年の心の成長ドラマとして見れば、良く出来ていると思うし、男同士の友情や男女の愛は輝いて見える。

 また、ゴセット・ジュニアが演じた万年軍曹の姿は、あたかも黒澤明が好んで描く、目上の者が目下の者を鍛え上げる姿と重なるところもあり、素直に感動できた。ジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズの主題歌も耳に残る。

 ということは、例えば、マイケル・チミノが『ディア・ハンター』(78)について「戦争云々ではなく、ベトナム戦争を背景にして友情を描いただけだ」と語っていたように、この映画も、単に士官候補養成所という場を借りて、主人公の成長、友情や愛を描いただけなのだ、と思って見てしまえばいいのかもしれない。

 だが、本当にそれだけでいいのだろうか。ラストシーンがあまりにも幸せそうに描かれていただけに、かえって後味がよくなかったのだが…。

【今の一言】当時、二十歳そこそこの自分は、随分と青くさいことを書いていると思うが、この翌日、図らずもシルベスター・スタローン主演の『ランボー』(82)を見て、『愛と青春の旅だち』の後味の悪さは、軍人の成れの果てを描いたこの映画の怖さと悲しさににつながると思ったのもまた事実だ。

 そして、この映画を素直に見られない自分が変なのかとも思ったが、長部日出雄さんが『紙ヒコーキ通信』で「軍人と男性優位、保守回帰、伝統回帰のムードが強くて、反感を覚えた」「タカ派的なにおいに反撥を感じた」と書いていたので、少し安心した覚えがある。

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