共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
女性の強さに加えて、葛藤を描き込んだ
『ワンダーウーマン 1984』
詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1254311
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女性の強さに加えて、葛藤を描き込んだ
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『シンドラーのリスト』(93)(1994.6.4.スカラ座)
この、静かでありながら、圧倒的な力強さも併せ持った3時間15分に、ただ酔ってしまうのでは、何かもったいない気がする。見た後でいろいろと考えたくなるすごい映画である。
もちろん、この映画が描いたのは、あくまでもナチスドイツによる大量虐殺の被害者としてのユダヤ人であって、その後、アラブで繰り広げられた戦乱における加害者としてのユダヤ人という側面は無視して、ユダヤの血を引くスピルバーグが、自らの映画的な才能を駆使し、脚本のスティーブン・ザイリアン、撮影のヤヌス・カミンスキー、音楽のジョン・ウィリアムズらの協力を得て作り上げた極上のプロパガンダ映画という見方もできるだろう。
ただ、このいわれなき虐殺を受けた人々には何の罪もないのだし、一本の映画で全ての側の主張が描けるはずもないのだから、この際は、歴史のある一場面における人間の愚行の恐ろしさを描き切った映画として評価したい。外国人が批判した黒澤明の『八月の狂詩曲』(91)もつまりはそういうことなのだと思う。
何より、この映画からは、例えばオリバー・ストーンの『JFK』(91)やスパイク・リーの『マルコムX』(93)といった、政治的な主張を持った映画とは似て非なるものという印象を受けた。つまり監督自らの思いを、ヒステリックかつ声高に主張し、見る者を扇動するのではなく、起こった事実を冷静に捉えているように見えるからだ。そして、そうした印象は主人公であるオスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)が持つ曖昧さに寄るところも大きい気がした。
また、バイオレンスシーンの冴えには、これまでのスピルバーグのイメージを一新するようなすさまじいものがあったし、ベン・キングスレーを除けば、映画ではほとんど無名の俳優をキャスティングし、モノクロで描くことでドキュメンタリー的な印象を強めている。面白いと言っては語弊があるが、3時間15分という長尺を一気に見せ切ることができるスピルバーグの監督としての力量の大きさを改めて知らされた思いがする。この映画と、全く毛色の違う『ジュラシック・パーク』(93)を並行して撮れる監督など、他に誰がいるというのか、ということである。
さて、この映画で『カラーパープル』(86)を無視したアカデミー賞への恩讐を晴らしたスピルバーグは、この後どんな映画を撮っていくのだろうか。恐らくは、プロデューサー業に専念したジョージ・ルーカスとは違い、監督として映画を撮り続けてはいくのだろうが…。いずれにしても、彼と同時代を過ごせた我々は、幸福な映画ファンだと言えるのかもしれない。
【今の一言】この後、スピルバーグは、『プライベート・ライアン』(98)『宇宙戦争』(05)『ミュンヘン』(05)『戦火の馬』(11)『リンカーン』(12)『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)『レディ・プレイヤー1』(18)など、多数の映画を監督し、今も現役である。素晴らしき映画バカだ。