『男はつらいよ 私の寅さん』(73)(1980.10.15.水曜ロードショー)
またまた大いに笑わされた。そしてほのぼのとした気分になった。実に貴重なシリーズである。
今回は、面白いというよりも、ちょっと変わった場面があった。それは、寅屋の一行が旅行に出掛け、寅さんが留守番をするくだりだ。
いつもは旅先から帰ってきて、迎えられる立場の寅さんが、皆の身を心配し、不在を寂しがり、あげくは、皆疲れて帰って来るだろうからと、飯の支度をしたり、風呂を沸かしたり…。おかしさの中にふと哀れさがにじみ出る名シーンとなった。
そして、寅さんは、しばらくはまた地道な暮らしを試みるのだが、岸惠子演じる画家の登場でそれはもろくも崩れる。
柄にもなく芸術について考える寅さん。その転換の早さ、マドンナが現れるとコロッと態度が変わるおかしさ。毎度のことながら、そのタイミングの良さや間の取り方には感心させられる。
結末は、またも悲しい失恋に終わるのだが、このシリーズがくどくならないのは、寅さんの引き際の良さにある。振られた時はこうありたいものだ。
名セリフ「『別れの曲』…やっぱり旅人さんの歌でござんしょうね」(寅)
『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(73)(1980.5.9.ゴールデン洋画劇場)
こんなにも人の心を平和にし、楽しくさせ、ほのぼのとさせるこのシリーズは、日本映画の中でも特別なものに値する。話の中心は、毎回寅さんが恋して失恋するだけなのだが、その中に、周囲の人々やマドンナのドラマといったさまざまなエピソードを加えて、一作一作を全く飽きることなく見せる。
今回のリリー(浅丘ルリ子)との恋の間にも、旅芸人や行商人の哀感や、北海道の酪農一家の様子(織本順吉好演)、地方から出てきた若い労働者の恋などを巧みに描き込んでいる。たとえマンネリと言われようが、まだまだ作り続けてほしい。このシリーズを見て気持ちが明るくなる人がたくさんいるのだろうから。
松村達雄のおいちゃんもなかなか良かったが、例の「ばかだねえ」のセリフは、やっぱり森川信が最高だった。
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悪徳総理が普通のおじさんになったら
『記憶にございません!』
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『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(72)(2005.9.11.) 髪結いの亭主になれたかもしれない寅
『男はつらいよ 寅次郎夢枕』を再見。渥美清が結構はしゃいで見える一作。幼なじみがマドンナというのは第1作をはじめ、結構あるのだが、寅さんが惚れられるというのは初めてのパターンだったのではないか。八千草薫がかわいい。
それから「てめえ、さしずめインテリだな」という名セリフは、ひょっとして東大卒の山田洋次が自身に向けた皮肉なのかなと思った。
『男はつらいよ 寅次郎夢枕』の亀戸天神
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