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リザベン(トラニラスト)
リザベン(キッセイ薬品、主成分トラニラスト、薬価 100mgカプセル 64.7円)は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎(アレルギー性結膜炎については点眼薬、薬価 25mg5mL瓶= 875.9円)の治療に使われる薬です。
リザベン(飲み薬の方)は、日本初の経口投与可能な抗アレルギー薬であり、長く使われている薬です。また、リザベンは、皮膚のケロイド(手術などでの傷口がうまく治らず、皮膚が盛り上がったり、赤みや硬みがのこる症状)の治療、というアレルギーと関係ない症状の治療にも使われる薬です。リザベンの二つの効能が、どのように起こるのかを見てみましょう。
もともと、リザベンは、漢方薬で使われる薬草、ナンテンの研究から見つかりました。ナンテンの実や葉(南天実、南天葉)は、咳止めとして用いられてきました(日本では主に実が使われているそうです)。そこで、ナンテンの中に含まれている成分を取り出して薬にしてみよう、というのが、リザベン開発の始まりでした。
ナンテンの中には、抗菌作用をしめすベルベリン、心臓に対する毒であるドメスチン、などさまざまな成分が含まれています。そして、その中でもnandinosideと呼ばれる物質にはアレルギーに対する治療効果があることがわかりました。このnandinosideがリザベンの元になった化合物(リード化合物)です。
リザベンは、nandinosideの構造を簡略化した化合物です。
Nandinosideの真ん中にある6角形の部分(糖;このような部分をもつ化合物を配糖体とよびます)を取り除き、小さい分子にした上で、部分的な構造を付け替え、抗アレルギー作用が最も高くなるように改良された化合物がリザベンです。
アレルギー症状が出ているときは、体内の免疫系が亢進しているため、免疫反応を起こすための物質(ケミカルメディエーター;ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が免疫系の細胞(肥満細胞、好塩基球など)から放出されています。
リザベンは、免疫系の細胞が、ケミカルメディエーターを放出するのを防ぎます。ケミカルメディエーターは、血管を広げて血管から水分が漏れやすくしたり(鼻水、浮腫の元)、気管支を刺激して気管支喘息の発作を起こしたりします。
そのため、リザベンにより、ケミカルメディエーターの放出が抑えられれば、鼻水や喘息の発作を止めることができるのです。
リザベンは、このように抗アレルギー薬として開発されたのですが、リザベンの作用メカニズムを解析する過程で、もうひとつの治療効果が見つかりました。それが、ケロイドに対する治療効果でした。
ケロイドというのは、怪我や手術による皮膚の傷が、治る過程で皮膚が膨れ上がり、赤みや硬みが残る症状です。このケロイドが起こる原因について、さまざまな研究が行われた結果、ケロイドが起きる時には、コラーゲンというタンパク質が、傷口で大量に産生されることがわかりました。このコラーゲン産生をコントロールしているのは、TGF?という生体内物質です。TGF?が免疫系の細胞(マクロファージなど)から放出されることによって、細胞のコラーゲン産生のスイッチが入り、どんどんコラーゲンが作られてしまって、傷口が盛り上がり、ケロイドが生ずるというわけです。
リザベンは、ケミカルメディエーターの免疫細胞からの放出を抑制するのと同様に、TGF?の免疫細胞からの放出も抑えます。すると、コラーゲン産生がとまり、傷口の余分なコラーゲンは、体内へ吸収され、ケロイドの症状が治まる、と考えられています。
リザベンの登場により、ケロイドの内服薬による治療が可能となったことで、リザベンは、これまでのケロイド治療法を一新させました。
というわけで、リザベンの二つの治療効果を見てきましたが、アレルギーに対する作用、ケロイドに対する作用、いずれも免疫細胞からの物質放出を抑える、という意味では共通したメカニズムですね。しかし、リザベンの物質放出抑制がどのようにして起こるかについては、よくわかっていません。これからのメカニズム解明が期待されます。 |