tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

雇用構造と賃金構造のこれから 1

2023年08月14日 13時45分56秒 | 労働問題
生成AI が急速な発展を見せている中、ホワイトカラーの雇用問題が心配されています。

端的に言って、論文の要約、議事録の作成、資料の収集その他、人間よりも生成AI の方がずっと効率的だということが解って来て、そうした仕事の雇用は大幅に減る可能性が指摘されています。

私もそんな仕事を随分やってきましたが、実はあまり心配していません。
今迄も、いろいろな分野でそうした問題が指摘されてきました。

古くは機械化でラダイト運動が起きました。電話システムの進化で交換手が要らなくなりました。ワープロでタイピストや清書係りが消えました。ME化、ロボット導入でも工場労働者の雇用問題は随分心配されましたが、日本でもアメリカでも、今も求人難です。

これは人間の社会が、そうした新しい発明を活用して、新しい活動分野を広げて、新しいタイプの雇用がどんどん拡大するからです。

生成AI の発展もそうした形で、新しい雇用を作り出すでしょうし(生成AI を利用した新しい活動分野でビジネスを起こす人が沢山出るでしょう)、今人手が足りない分野で仕事を探す人も多くなれば、雇用のバランスも良くなるでしょう。

今迄も新しい画期的な技術進歩があるたびにこうした雇用構造の変化が起きて雇用が増えているのですが、ここで重要なのが雇用構造の変化に対応した賃金構造の変化でしょう。
これが上手くできれば、何も心配しなくていいのですが、どうでしょうか。

先ず雇用構造でどんな変化が起きるのかという事を考えますと、多分こんな傾向のことが起きるだろうし、起きた方が社会は巧く回っていくだろうという視点で考えてみたいと思います。

産業革命以降の歴史の中で見ますと、技術革新で無くなる仕事と、いくら技術が発達してもなくならない仕事に大きく分けられそうな気がします。その間にいろいろ消長する仕事があるのでしょう。「仕事」と書きましたが、広く言えば「社会が必要とする人間の活動」という意味です。

人間の欲望はキリがありませんから、多分、新しい技術開発のような仕事はなくならないでしょう。今の若い人は、会社勤めより、スタートアップの仕事を始めたい思う人、新しい仕事を創りだそうと考えるいう人が増えているようですし、企業内でもそうした新分野開発の重視傾向が顕著です。これは人間でなければできない先端分野です。

他方、人に対する直接のサービス、エッセンシャル・ワーカーなどと言われる「対個人サービス」はますます重要になるでしょう。
これは人間が、直接人間の面倒を見る仕事です、介護・医療から、配達、各種相談、教育まで。

人間がいる限り人間の面倒を見る分野の仕事はなくなりません。エッセンシャル、つまり必須なのです。

実はこの分野は、基本的には昔から同じことをやっているのです。そうした古い仕事ですから、絶対必要で体力を使う大変面倒な仕事なのに、高級ではない仕事のように意識されている分野が結構あります。配達や身体介護などは典型的でしょう。

そして、そうした分野で、仕事の負担と賃金水準のアンバランスが生まれ、雇用構造が社会の要請に合わないといった社会的な問題が起きるという現実があります。
古くからある、一見単純に見える対個人サービスは、賃銀は安いものといった不合理な発想が社会の中での必要な雇用の配分を歪めているのです。

雇用の消失、失業の増加については、トータルでは心配をしていませんが、雇用構造の変化と賃金構造の変化のギャップが、社会全体としてバランスのとれた雇用の配分を歪めるという事態については、今後もいろいろと問題が起きるのではないかという点で心配がある事は否めません。

此の点を確り見て行かないと、トータルではバランスが取れても、社会としては問題含み、失業と求人難が併存するようなことが起きるのではないでしょうか。
次回は、この点について考えてみたいと思います。