国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の助成金をだまし取ったとして東京地検特捜部に詐欺容疑で逮捕されたスーパーコンピューター開発会社社長斉藤元章容疑者(49)。医師からスパコン開発者に転じ、会社設立から7年ほどで、政府有識者会議に名を連ね、華やかな交遊を誇った。特捜部は資金の流れについて全容解明を目指す。
「人工知能とスーパーコンピューターは連携できる」。2016年10月、人工知能(AI)や科学技術による経済再生を話し合う政府の有識者会議で、委員だった斉藤容疑者が政府職員や学者らに訴えた。
当時すでに容疑となった助成金を受けた「PEZY Computing」などスパコン関連の5社を運営。米シリコンバレーで医療系法人を設立した経験もあった。内閣府は取材に、実績を考慮して委員になった、と説明する。
国内で広く斉藤容疑者がスパコン開発者として知られるようになったのは、14年。わずか7カ月で開発したスパコンが省エネ効率で世界2位に選ばれた。
15年には文部科学省所管の国立研究開発法人から「科学技術の発展に顕著な貢献をした」として表彰され、16年2月に当時の馳浩文科相を表敬訪問した。
スパコン開発に関する執筆や講演活動の一方、16年3月には、安倍政権の内幕を描いた著書があるフリージャーナリストとAIの研究財団を設立。関係者によると、このジャーナリストは、東京都千代田区の29階建てビルに自身の事務所を構え、斉藤容疑者側が家賃を負担していたという。
斉藤容疑者は新潟県出身で、新潟大医学部を卒業。東大大学院医学系研究科に進み、医師として東大病院で4年間働いた。
同病院で同僚だった米山隆一・新潟県知事は「時折飲みにいく友人だが、私も県も事件とは無関係だ」と話した。数カ月前に斉藤容疑者から「新潟でプロジェクトをやりたい」と問い合わせがあったが、契約には至っていない。
県は新潟大学医学部と協力し、県立病院のカルテを集約してつくる「県民健康ビッグデータ」の計画を進めている。データ分析のため、新潟大が10月末に斉藤容疑者の会社と約9400万円の契約を結んだ。新潟大は「刑事処分を見守りながら対応を検討する」という。
ただ、スパコン業界に詳しい斉藤容疑者の知人は、「斉藤容疑者が開発したスパコンは環境性能などは高いが実用性が低く、経営には苦労していた様子だった」という。別の知人は「本人は『僕はコンピューターの専門家ではない』と話していた。技術のわかるビジネスマンだった」と語る。自らがシステムの設計や開発をするのではなく、若い優秀な技術者を集め開発させていたという。「少数の精鋭に大金をつぎ込み、スピード重視で短期間にプロジェクトを進めていた」と振り返った。
ただ、業界では、スパコンは短期間で収益が出づらいとされている。斉藤容疑者はPEZY社だけで、NEDOから計約35億円の助成金を受けられることになっていた。民間企業によるスパコン開発について、自著で負担の大きさに触れながら、「国の助成事業による支援体制が世界的に見ても大変に充実」していると記載していた。
特捜部の調べなどで、PEZY社が設立1年目からNEDOの助成対象になったほか、斉藤容疑者が役員を務める複数の会社も、NEDOや文部科学省所管の別の国立研究開発法人から助成金や融資を受けていたことがわかっている。特捜部は斉藤容疑者らが国の機関から多額の資金を得られた経緯を詳しく調べている。
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