守田です。(20111128 23:30)
28日に東電は、福島第1原発の吉田昌郎(まさお)所長が、入院治療の
ために辞任することを発表しました。東電は「最終確定はしていないが、
担当医からは(被ばくと病気との)因果関係はないと聞いている」と発表
していますが、誰もが「被曝の影響」ではと思うのではないかと思います。
この点については、僕は確たる意見を持っていません。そうだろうとも
思うのですが、実は所長は現場の中では最も安全なところにいたようにも
思えます。ともあれこれらについて、確からしい情報はありません。
むしろ非常にひっかかったのは、この報道が出る少し前に、「福島第1原発
:08年に津波可能性 本店は対策指示せず」という毎日新聞の記事が出た
ことです。これは28日の午前2時に配信されていますが、これも東電の発表
によるものです。どうしても、最近の東電を見ていると、東電はなぜいま
この記事を出してきたのかと考えざるを得ない。
記事内容は、東電が2008年に想定を大きく超える津波が来る可能性がある
という「評価結果」を社内で得ながら、本店の「原子力設備管理部」が
それをありえないこととしてとらえ、対処をしなかったというものです。
ここからはそこで対処をきちんとしていれば、今回のような被害はなかっ
たのではないか・・・という可能性を読み取ることができる内容なのです
が、要するに東電は、そういう方向に世論を持っていきたいのではないか
と感じられました。
なぜでしょうか。田中三彦さんや、後藤政志さんが繰り返し主張している
ように、福島第1原発は、津波で電源を失う前に、地震で大きな配管破断を
起こし、メルトダウンに向かった可能性が極めて高いからです。とくに
1号機は、水位や温度等々のデータからも、その可能性が極めて強いことが
お二人によって解析されています。
原因は地震だったのか、津波だったのか。そこにはものすごく大きな裂け
目がある。なぜなら地震が原因だとすれば、既存の原発のほとんどが、耐
震設計を見直さざるを得ないことになり、ただちに運転を中止しなければ
ならないことになるからです。津波が原因である場合でも、本来は、全部
の原発中止にすべきだと僕は思いますが、しかし東電や保安院は、防波堤
を作るとか、予備電源を津波の来ない高さに設置するとかで、安全条件を
得られたとすることができると考え、しゃにむにその「立証」に向かって
います。
つまり、地震の可能性を絶対に認めず、事故原因を津波に一元化すること
こそ、原発を生き延びさせることに最も問われることと認識し、そのため
にあえて、津波の可能性を知りながら、それを黙殺してしまった。そのため
被害を受けたというシナリオを出してきたように思えるのです。
実際、このニュースの少し前の25日にも、保安院から、原発の事故時の運
転員が「保安院の聴取に「大津波警報の連絡は受けたが、影響が出るよう
な津波が来る認識はなかった」と答えた」という情報を公開しています。
ここでも津波への警戒があまりにゆるかったとクローズアップしているわ
けですが、そのように、一見、津波への対処の不備を認めるような顔をし
ながら、地震による配管破断の可能性を覆い隠し、逃げ切りを図ることを
策している意図が見え隠れします。
しかしそこでは、津波問題の責任者が必要になってくる。誰が東電本店で
情報を握りつぶし、津波対策をとらなかった責任者なのか、それを明らか
にする必要があるわけです。津波が主要な原因であろうとなかろうと、そ
の対策を怠ったこと自身ははやはり大きな過失で、本来なら、法的責任も
追及される事態だからです。
では誰が責任者だったのか。・・・なんと吉田現所長なのです。記事を読む
と、想定を超える津波の可能性を握りつぶし、対策をとらなかった責任部署
は「原発設備を統括する本店の原子力設備管理部だった」とある。そして
その部長は、2007年の発足から、昨年6月まで、吉田現所長が務めたとあり
ます。・・・「なんだ、そういうことか」と思うのは不自然でしょうか。
津波対策を本店が握りつぶしたことを明らかにし、その翌日に、当時の
統括責任者だった吉田現所長の病気辞任を発表する。
東電がどう言おうが、多くの人は、被曝ではないかと感じますから、追求
がしにくくなる。このため東電は、まずは地震による原発の崩壊という重
大事態を津波のせいに転嫁しつつ、さらにその津波対策を怠った責任も、
当の責任者の病気辞任、しかも被曝の可能性がある中での辞任劇によって
うやむやにできる。そんなストーリーを描いているのではないか。
この推論があたっているにせよ、あたっていないにせよ、二つのことを
確認しておくべきだと思います。一つは東電は必死になって津波によって
原発の危機が訪れたことを主張していますが、事故の解析から見えるのは
地震による崩壊の可能性です。そこから引き出されるのは、すべての原発
の設計基準が見直さなければならず、作り直さねばならないこと。現実に
はそれはできないので、原発を廃炉にする以外ないという結論です。なの
でこの点の追求を緩めず、津波のせいにしての東電の逃げ切りを許さない
ようにしなくてはいけない。
二つに、吉田現所長が、被曝によって発症したのであれば、それ自身は
お気の毒ですけれども、それでも津波の危険性を呼びかける情報を握り
つぶし、津波対策を怠った責任は厳然として残るということです。また吉
田現所長も、地震の可能性を熟知しつつ、津波の話で逃げ切ろうとする東
電の意思を実行している一人であり、その面での責任も背負っています。
それらから、吉田現所長の病気での逃げ切りもまた許されてはならないの
です。
ともあれ、ウソ八百を平然と繰り返す東電に騙されないように、警戒心を
緩めず、ウォッチを続けたいと思います!
**********************
福島第1原発:08年に津波可能性 本店は対策指示せず
毎日新聞 2011年11月28日 2時00分
2008年に東京電力社内で、福島第1原発に想定を大きく超える津波が
来る可能性を示す評価結果が得られた際、原発設備を統括する本店の原子
力設備管理部が、現実には「あり得ない」と判断して動かず、建屋や重要
機器への浸水を防ぐ対策が講じられなかったことが27日、分かった。
東電関係者が明らかにした。
12月に中間報告を出す政府の事故調査・検証委員会も経緯を調べており、
研究の進展で得た津波リスク評価の扱いや対応が適切だったかが焦点と
なる。
東電関係者によると、社内研究の成果である新たな津波評価を受け、原子
力・立地本部の幹部らが対応策を検討した。その際、設備を主管する原子
力設備管理部は「そのような津波が来るはずはない」と主張。評価結果は
学術的な性格が強く、深刻に受け取る必要はないとの判断だったという。
同本部の上層部もこれを了承した。
原子力設備管理部は、06年に発覚したデータ改ざんの再発防止のため実
施した07年4月の機構改革で「設備の中長期的な課題への計画的な対応
や設備管理の統括をする」として新設された。部長は発足時から昨年6月
まで吉田昌郎現福島第1原発所長が務めた。
東電は08年春、明治三陸地震が福島沖で起きたと仮定、想定水位5.7
メートルを大幅に超え、最大で水位10.2メートル、浸水高15.7
メートルの津波の可能性があるとの結果を得た。東電関係者は「評価結果
をきちんと受け止めていれば、建屋や重要機器の水密性強化、津波に対応
できる手順書作りや訓練もできたはずだ」と指摘している。
東電広報部は「自主的に試算した内容については、土木学会に審議しても
らい、設備に反映させていくつもりだった。学会に審議を要請したのは
08年10月で、軽視や放置をしていたわけではない」としている。
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/nuclear/news/20111128k0000m040140000c.html
28日に東電は、福島第1原発の吉田昌郎(まさお)所長が、入院治療の
ために辞任することを発表しました。東電は「最終確定はしていないが、
担当医からは(被ばくと病気との)因果関係はないと聞いている」と発表
していますが、誰もが「被曝の影響」ではと思うのではないかと思います。
この点については、僕は確たる意見を持っていません。そうだろうとも
思うのですが、実は所長は現場の中では最も安全なところにいたようにも
思えます。ともあれこれらについて、確からしい情報はありません。
むしろ非常にひっかかったのは、この報道が出る少し前に、「福島第1原発
:08年に津波可能性 本店は対策指示せず」という毎日新聞の記事が出た
ことです。これは28日の午前2時に配信されていますが、これも東電の発表
によるものです。どうしても、最近の東電を見ていると、東電はなぜいま
この記事を出してきたのかと考えざるを得ない。
記事内容は、東電が2008年に想定を大きく超える津波が来る可能性がある
という「評価結果」を社内で得ながら、本店の「原子力設備管理部」が
それをありえないこととしてとらえ、対処をしなかったというものです。
ここからはそこで対処をきちんとしていれば、今回のような被害はなかっ
たのではないか・・・という可能性を読み取ることができる内容なのです
が、要するに東電は、そういう方向に世論を持っていきたいのではないか
と感じられました。
なぜでしょうか。田中三彦さんや、後藤政志さんが繰り返し主張している
ように、福島第1原発は、津波で電源を失う前に、地震で大きな配管破断を
起こし、メルトダウンに向かった可能性が極めて高いからです。とくに
1号機は、水位や温度等々のデータからも、その可能性が極めて強いことが
お二人によって解析されています。
原因は地震だったのか、津波だったのか。そこにはものすごく大きな裂け
目がある。なぜなら地震が原因だとすれば、既存の原発のほとんどが、耐
震設計を見直さざるを得ないことになり、ただちに運転を中止しなければ
ならないことになるからです。津波が原因である場合でも、本来は、全部
の原発中止にすべきだと僕は思いますが、しかし東電や保安院は、防波堤
を作るとか、予備電源を津波の来ない高さに設置するとかで、安全条件を
得られたとすることができると考え、しゃにむにその「立証」に向かって
います。
つまり、地震の可能性を絶対に認めず、事故原因を津波に一元化すること
こそ、原発を生き延びさせることに最も問われることと認識し、そのため
にあえて、津波の可能性を知りながら、それを黙殺してしまった。そのため
被害を受けたというシナリオを出してきたように思えるのです。
実際、このニュースの少し前の25日にも、保安院から、原発の事故時の運
転員が「保安院の聴取に「大津波警報の連絡は受けたが、影響が出るよう
な津波が来る認識はなかった」と答えた」という情報を公開しています。
ここでも津波への警戒があまりにゆるかったとクローズアップしているわ
けですが、そのように、一見、津波への対処の不備を認めるような顔をし
ながら、地震による配管破断の可能性を覆い隠し、逃げ切りを図ることを
策している意図が見え隠れします。
しかしそこでは、津波問題の責任者が必要になってくる。誰が東電本店で
情報を握りつぶし、津波対策をとらなかった責任者なのか、それを明らか
にする必要があるわけです。津波が主要な原因であろうとなかろうと、そ
の対策を怠ったこと自身ははやはり大きな過失で、本来なら、法的責任も
追及される事態だからです。
では誰が責任者だったのか。・・・なんと吉田現所長なのです。記事を読む
と、想定を超える津波の可能性を握りつぶし、対策をとらなかった責任部署
は「原発設備を統括する本店の原子力設備管理部だった」とある。そして
その部長は、2007年の発足から、昨年6月まで、吉田現所長が務めたとあり
ます。・・・「なんだ、そういうことか」と思うのは不自然でしょうか。
津波対策を本店が握りつぶしたことを明らかにし、その翌日に、当時の
統括責任者だった吉田現所長の病気辞任を発表する。
東電がどう言おうが、多くの人は、被曝ではないかと感じますから、追求
がしにくくなる。このため東電は、まずは地震による原発の崩壊という重
大事態を津波のせいに転嫁しつつ、さらにその津波対策を怠った責任も、
当の責任者の病気辞任、しかも被曝の可能性がある中での辞任劇によって
うやむやにできる。そんなストーリーを描いているのではないか。
この推論があたっているにせよ、あたっていないにせよ、二つのことを
確認しておくべきだと思います。一つは東電は必死になって津波によって
原発の危機が訪れたことを主張していますが、事故の解析から見えるのは
地震による崩壊の可能性です。そこから引き出されるのは、すべての原発
の設計基準が見直さなければならず、作り直さねばならないこと。現実に
はそれはできないので、原発を廃炉にする以外ないという結論です。なの
でこの点の追求を緩めず、津波のせいにしての東電の逃げ切りを許さない
ようにしなくてはいけない。
二つに、吉田現所長が、被曝によって発症したのであれば、それ自身は
お気の毒ですけれども、それでも津波の危険性を呼びかける情報を握り
つぶし、津波対策を怠った責任は厳然として残るということです。また吉
田現所長も、地震の可能性を熟知しつつ、津波の話で逃げ切ろうとする東
電の意思を実行している一人であり、その面での責任も背負っています。
それらから、吉田現所長の病気での逃げ切りもまた許されてはならないの
です。
ともあれ、ウソ八百を平然と繰り返す東電に騙されないように、警戒心を
緩めず、ウォッチを続けたいと思います!
**********************
福島第1原発:08年に津波可能性 本店は対策指示せず
毎日新聞 2011年11月28日 2時00分
2008年に東京電力社内で、福島第1原発に想定を大きく超える津波が
来る可能性を示す評価結果が得られた際、原発設備を統括する本店の原子
力設備管理部が、現実には「あり得ない」と判断して動かず、建屋や重要
機器への浸水を防ぐ対策が講じられなかったことが27日、分かった。
東電関係者が明らかにした。
12月に中間報告を出す政府の事故調査・検証委員会も経緯を調べており、
研究の進展で得た津波リスク評価の扱いや対応が適切だったかが焦点と
なる。
東電関係者によると、社内研究の成果である新たな津波評価を受け、原子
力・立地本部の幹部らが対応策を検討した。その際、設備を主管する原子
力設備管理部は「そのような津波が来るはずはない」と主張。評価結果は
学術的な性格が強く、深刻に受け取る必要はないとの判断だったという。
同本部の上層部もこれを了承した。
原子力設備管理部は、06年に発覚したデータ改ざんの再発防止のため実
施した07年4月の機構改革で「設備の中長期的な課題への計画的な対応
や設備管理の統括をする」として新設された。部長は発足時から昨年6月
まで吉田昌郎現福島第1原発所長が務めた。
東電は08年春、明治三陸地震が福島沖で起きたと仮定、想定水位5.7
メートルを大幅に超え、最大で水位10.2メートル、浸水高15.7
メートルの津波の可能性があるとの結果を得た。東電関係者は「評価結果
をきちんと受け止めていれば、建屋や重要機器の水密性強化、津波に対応
できる手順書作りや訓練もできたはずだ」と指摘している。
東電広報部は「自主的に試算した内容については、土木学会に審議しても
らい、設備に反映させていくつもりだった。学会に審議を要請したのは
08年10月で、軽視や放置をしていたわけではない」としている。
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/nuclear/news/20111128k0000m040140000c.html