ベテランのオーナーさんで、いつも当ブログを見て頂いて研究されている方の選ばれる個体はやはりソツがなく素晴らしいと思います。良くこのような個体が残っていたと思いますね。まずはPEN-FT #3625XXからですが、ご縁があってお父様の形見をお持ちの方から譲られたものだそうです。一見して素晴らしいコンディションの個体ですが、付属の25mmは絞りが不良です。
アクセサリーを取り付けていたと見えて、アイビース枠が欠けています。オーナーさんの疑問は、36万台であれば、圧板の取付けは2点留めのはず、(お勉強されていますね)なのに、この個体は4点留めである。トップカバーの付け替えではないか? ということです。オーナーさんもトップカバーを開けて確認をされたようですが、確かに修理の履歴メモは書かれています(何をしたかは不明)が、内部を分解された形跡はありません。トップカバーもターミナルを外した形跡はありませんので、私もオリジナルのままの印象を受けます。そこで、体調が戻るまでの間、私のデータベースを調べてみることにしました。この個体の製造は1969年8月となっていますが、同じ月の製造個体を拾ってみると(私が実際に確認した個体) [FT] #305889 #302552 #306387 #304829 #304665 #309331 #310180 [FV] #119718 #128435 #130876 などが確認できました。次に、圧板2点留めの個体を拾ってみると #367512 #349305 #440123 #372339 #372202 #334547 #350057 #369631 #366990 #372336 #344109 #366281 #365312 などが確認できました。
これらのことから、1969年8月に製造された個体のシリアル№は、概ね30万台初期と思われますが、それに該当しない個体も存在します。36万台であれば2点留めが多いのも確認できます。ではトップカバーの付け替えかというと、カメラのシリアル№は、自動車の車台番号のように製造年月に対して必ず整数順となっているわけではなく、ある範囲で前後していることは普通です。例えば裏蓋の塗装に不良があり、検査で除外された部品は手直しのため塗装工場に戻されます。戻ってくるまでにはタイムラグがあり、実際に製造ラインに投入された時は裏蓋の4点留め仕様に合わせて圧板も4点留めを使用した? なども考えられます。まぁ、元のオーナーさんが、不注意でトップカバーを凹ませてしまい、SSで交換をした。とも考えられますけどね。それなら履歴メモの説明もつきます。そういう事情ならもう少し後のシリアル№になるのではとも思えますが、沢山のFTを見て来た私の印象では、この個体はオリジナルのままと思いますけどね。違和感というものがないのですよ。
すみません、まだ体調回復しません。手直しの40mmをやっていました。部品の組み合わせ(工場の)による寸法ガタが原因で修正に時間が掛かりました。機会があればご紹介することにします。で、「レストアは推理だ」違和感がないとは申し上げましたが、辻褄が合わなくなって来たような・・露出計ユニットはスタンレーなどが製造しましたが、製造日付のシールが貼られているものがあります。(製造後半) 昭和46.9.2 って、1971年のことですよ。とすると、1971年に製造されたユニットが1969年のカメラに組み込まれるはずがない?? 因みに、1971年以降の個体については、私のところに入ってくる試料数が少ないので適切なデータがないのですが、1971年4月 #366281 (圧板2点留め) 1971年1月 #367545 (圧板2点留め) などがあります。製造番号が逆転していますし、この頃の生産台数はかなり減少しているようです。また、この頃製造されたメディカル機も目につきます。
では、裏蓋を交換された形跡は? 裏蓋を交換するためには、シボ革を剥がさない場合、蝶番のピンを抜かなければなりませんが、その時必ずピンに押し出し傷が付きます。しかし、まったくその形跡はありません。基本的に分解歴がない個体であるが、しかし、履歴メモはある。どんな身の上があるのか不思議な個体ではありますね。体調不良で頭が回らないので考えないことに・・
別のデジカメなので操作間違えたみたい。途中はすっ飛ばしてシャッターユニットまで来ています。ユニットに特に問題はありません。スローガバナーの歯車の磨滅を点検します。何となくクラッと眩暈がするような画像だなぁ。特に問題のある磨滅はありません。あ~良かった。中期頃までのユニットは、製造から古いということもあって、1/8~1/4へ切り替えの歯車が磨滅している個体が多いのですが、中期までの歯車は白系統の色ですが、この個体の歯車は、黒ずんだ歯車で材質か表面処理を変更して強度と耐久性を上げているようです。
本体にシャッターユニットをセットしましたので、シャッター幕保護のために裏蓋を取り付けておきます。で、ここで疑問がありました。裏蓋のモルトに接触をする部分に変質したモルトが付着していたので、アルコールで拭き上げたところ、ご覧のように劣化した塗料ごと落ちてしまいました(すみませんね、仕事ですから拭かない訳にはいかないもので)。これはどうしたとか? 保存の違いによって、塗膜の劣化具合は異なりますが、36万台の個体でこのように落ちてしまう個体はあまり記憶にありません。う~ん、どうしても裏蓋に疑惑が集まって来てしまう。そもそも、2点留めの圧板仕様で、製造が1971年後半であったら、何の問題も無い個体ですからね。2点留め仕様に替えた方がすっきりするのかしら?
まぁいいや。蝶番のピンをセットしておきます。
別のデジカメの調子が悪く、画像が無くなりましたので、突然この状態です。露出メーターはこの頃のユニットにしては珍しく、かなり感度低下が激しい状態でした。感度補正をしてあります。ハーフミラーとアイビース枠は破損のため交換をしてあります。
セットされていたレンズが25mm f4ですから、元のオーナーさんは、マニアさんだったのかな。レンズは持病の曇りもなく、大変きれいですが、絞り羽根が連動しない。しらずに撮影をされていたのでしょうかね?
原因は、0167のツナギバネの折れなんですね。最近バネが良く折れますね。異形のバネで手持ちがないので自作します。
分かりますかねぇ。絞り羽根は作動していますね。確かに疑問点のある個体でしたが、分かってみれば「あぁ、なるほど」ということなのでしょう。どちらにしても、ワンオーナーの出どこの確かな個体ですので、おかしな個体ではないと思います。
それはさておき、シリアルナンバーや製品の仕様から推理してあれこれ思いをめぐらすのもクラシックカメラの楽しみでもあります。