待ちに待った正三からの手紙が、小夜子に届いた。まさしく、情熱が迸る恋文だった。
正三の小夜子に対する思いが、切々と込められていた。
小夜子さん、お元気ですか。小生、やっと小夜子さんの元に辿り着けました。
なんと長い、無味乾燥な日々を送ったことでしょう。
僅か三月足らずと、言うこと勿れ。
小生にとっては、当に地獄の日々でありました。
貴女の如き魅力的な女性を、都会の野獣共が見逃すわけなく。
いえいえ、ご聡明なる貴女のこと、見事に難を逃れる術をお持ちとは信じておりました。
なれども、小生の思いは千々に乱れました。
貴女よりの便りすべてが、親の元に留め置かれておりました。
いかにも、口惜しく思えます。
その便りが小生の手元に届いておりますれば、之ほどの思いはありますまいに。
小生の思いの丈を届ける術もなく、日々落胆でした。
小夜子さん、与謝野晶子女史の詩作に準えて贈ります。
あ丶小夜子よ君に泣く 吾を忘るること勿れ
才色兼備の君なれば 群がる男も数多なれ
君を誉めそやす男に 吾は如何とす
君に贈する男に 吾は如何とす
遠き地に居る吾は 君を畏るる
君が熱き吐息を欲する吾は 如何とす
君が気高き意を聞けぬ吾は 如何とす
今 君が居るこの地に辿り着きし吾
今 君と同じき気を感じられる吾
至福の境地に至りし吾
あ丶小夜子よ君に泣く 吾を受け入れ給え
あ丶小夜子よ君にひれ伏す 吾を受け入れ給え
すぐにも貴女との逢瀬を、と思いはするのですが、中々に難しいのです。
入省したての小生なれば、休みを取ることが叶いません。
伯父の引きがあればこその、官吏なのです。
どうやら父親から文が届いているらしく、半ば監禁状態です。
通常ならば寮生活を送る筈なのですが、伯父宅での下宿となってしまいました。
小夜子さん、今の小生の願いをご存知でしようか。
恥ずかしきことながら、毎夜の如くに夢を見ております。
淫靡な夢に、苛まれております。
お許しください、小夜子さん。毎夜、貴女の……。
毎夜、貴女との接吻を試みております。
お怒りにならないでください。あの折の、貴女からの接吻が、小生の頭から離れないのです。
あまりにも、甘美でした。
どうぞ、小夜子さん。今しばらく、ご猶予をください。
必ず、貴女の元に馳せ参じます故に。必ず、貴女を妻として迎え入れます故に。
貴女の下僕 正三より
正三の小夜子に対する思いが、切々と込められていた。
小夜子さん、お元気ですか。小生、やっと小夜子さんの元に辿り着けました。
なんと長い、無味乾燥な日々を送ったことでしょう。
僅か三月足らずと、言うこと勿れ。
小生にとっては、当に地獄の日々でありました。
貴女の如き魅力的な女性を、都会の野獣共が見逃すわけなく。
いえいえ、ご聡明なる貴女のこと、見事に難を逃れる術をお持ちとは信じておりました。
なれども、小生の思いは千々に乱れました。
貴女よりの便りすべてが、親の元に留め置かれておりました。
いかにも、口惜しく思えます。
その便りが小生の手元に届いておりますれば、之ほどの思いはありますまいに。
小生の思いの丈を届ける術もなく、日々落胆でした。
小夜子さん、与謝野晶子女史の詩作に準えて贈ります。
あ丶小夜子よ君に泣く 吾を忘るること勿れ
才色兼備の君なれば 群がる男も数多なれ
君を誉めそやす男に 吾は如何とす
君に贈する男に 吾は如何とす
遠き地に居る吾は 君を畏るる
君が熱き吐息を欲する吾は 如何とす
君が気高き意を聞けぬ吾は 如何とす
今 君が居るこの地に辿り着きし吾
今 君と同じき気を感じられる吾
至福の境地に至りし吾
あ丶小夜子よ君に泣く 吾を受け入れ給え
あ丶小夜子よ君にひれ伏す 吾を受け入れ給え
すぐにも貴女との逢瀬を、と思いはするのですが、中々に難しいのです。
入省したての小生なれば、休みを取ることが叶いません。
伯父の引きがあればこその、官吏なのです。
どうやら父親から文が届いているらしく、半ば監禁状態です。
通常ならば寮生活を送る筈なのですが、伯父宅での下宿となってしまいました。
小夜子さん、今の小生の願いをご存知でしようか。
恥ずかしきことながら、毎夜の如くに夢を見ております。
淫靡な夢に、苛まれております。
お許しください、小夜子さん。毎夜、貴女の……。
毎夜、貴女との接吻を試みております。
お怒りにならないでください。あの折の、貴女からの接吻が、小生の頭から離れないのです。
あまりにも、甘美でした。
どうぞ、小夜子さん。今しばらく、ご猶予をください。
必ず、貴女の元に馳せ参じます故に。必ず、貴女を妻として迎え入れます故に。
貴女の下僕 正三より
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