正三からの恋文を読み終えた小夜子は、思わず小躍りした。
すぐにも逢いたいと言う気持ちを抑えることが出来なかった。
早速にも返書をしたためようと思ったのだが、封書にも便箋にも住所の記載がなかった。
逓信省宛に、とも考えてはみたが、所属部署が分からぬ郵便物では正三に届くかどうか怪しく思えた。
“書き忘れかしら……それとも、意図してのことなの?”。
小夜子は、恨めしくその便箋を見つめた。
“どうして、逢いに来てくれないの。
妻として迎えてくださる気持ちがお有りになるのなら、万難を排してでも……。
あの方なら、きっと、来て下さるでしょうに”。
突然に、小夜子の脳裏に武蔵が浮かび上がった。
あの夜以来、三日と空けずに通ってくる武蔵だった。
女給たちが多数押し掛けても、小夜子だけとの会話を楽しんでいく。
そして三度に一度は、小夜子を連れ出した。
昨夜もそうだった。
「小夜子ー、居るかー!」
フロア中に響き渡る武蔵の声に、顔を真っ赤にした小夜子が武蔵のボックスに来た。
「お願いですから、大声で呼ぶのは止めて下さい」
「いや、止めん。小夜子に、悪い虫が付かないようにしてるんだ。
小夜子は、可愛い娘だ。いつ何時、小夜子を狙う不逞の輩が現れるやも知れん。
俺の贔屓だと知れば、手を出す男もおらんだろうから」
懇願する小夜子に対し、武蔵は快活に笑いながら答えた。
武蔵を取り囲む女給達も、今では小夜子に悪感情を抱く者は居なくなった。
皆、微笑ましく二人の痴話話を聞いている。
「もう、悪い虫は付いてるだろうが。タケゾー虫が」
梅子が、ニコニコと席に着く。わざわざ武蔵と小夜子の間に、割り込んで座り込む。
小夜子に対する思いやりではなく、武蔵への援護射撃なのだ。
ギラギラとした武蔵からの風を、和らげているのだ。
「どうだ? 愛しい彼からは、連絡は来たのか?
もうこっちに、来ている頃だろうに」。
半ばからかい気味に言う武蔵だったが、みるみる小夜子の顔が曇った。
「こりゃ、いかん。俺が悪かった、勘弁してくれ。
入省早々というのは、何かと忙しいもんだ。
なにせ、華の官吏様になったんだからな」
「ほらほら、ジュースがないぞ!」
フロアのボーイに、梅子が怒鳴る。
「それとも、迷子になっているのかもしれんぞ。
キチンと住所は書いたのか? 番地を間違えたりすると、届くまでに時間がかかるぞ」。
無言を通す小夜子に対し、武蔵は何度も言葉をかけた。
突然に小夜子が、梅子の胸で泣きじゃくり始めた。
先夜の加藤の小言が思い出されて、溢れる涙を止めることが出来なくなった。
すぐにも逢いたいと言う気持ちを抑えることが出来なかった。
早速にも返書をしたためようと思ったのだが、封書にも便箋にも住所の記載がなかった。
逓信省宛に、とも考えてはみたが、所属部署が分からぬ郵便物では正三に届くかどうか怪しく思えた。
“書き忘れかしら……それとも、意図してのことなの?”。
小夜子は、恨めしくその便箋を見つめた。
“どうして、逢いに来てくれないの。
妻として迎えてくださる気持ちがお有りになるのなら、万難を排してでも……。
あの方なら、きっと、来て下さるでしょうに”。
突然に、小夜子の脳裏に武蔵が浮かび上がった。
あの夜以来、三日と空けずに通ってくる武蔵だった。
女給たちが多数押し掛けても、小夜子だけとの会話を楽しんでいく。
そして三度に一度は、小夜子を連れ出した。
昨夜もそうだった。
「小夜子ー、居るかー!」
フロア中に響き渡る武蔵の声に、顔を真っ赤にした小夜子が武蔵のボックスに来た。
「お願いですから、大声で呼ぶのは止めて下さい」
「いや、止めん。小夜子に、悪い虫が付かないようにしてるんだ。
小夜子は、可愛い娘だ。いつ何時、小夜子を狙う不逞の輩が現れるやも知れん。
俺の贔屓だと知れば、手を出す男もおらんだろうから」
懇願する小夜子に対し、武蔵は快活に笑いながら答えた。
武蔵を取り囲む女給達も、今では小夜子に悪感情を抱く者は居なくなった。
皆、微笑ましく二人の痴話話を聞いている。
「もう、悪い虫は付いてるだろうが。タケゾー虫が」
梅子が、ニコニコと席に着く。わざわざ武蔵と小夜子の間に、割り込んで座り込む。
小夜子に対する思いやりではなく、武蔵への援護射撃なのだ。
ギラギラとした武蔵からの風を、和らげているのだ。
「どうだ? 愛しい彼からは、連絡は来たのか?
もうこっちに、来ている頃だろうに」。
半ばからかい気味に言う武蔵だったが、みるみる小夜子の顔が曇った。
「こりゃ、いかん。俺が悪かった、勘弁してくれ。
入省早々というのは、何かと忙しいもんだ。
なにせ、華の官吏様になったんだからな」
「ほらほら、ジュースがないぞ!」
フロアのボーイに、梅子が怒鳴る。
「それとも、迷子になっているのかもしれんぞ。
キチンと住所は書いたのか? 番地を間違えたりすると、届くまでに時間がかかるぞ」。
無言を通す小夜子に対し、武蔵は何度も言葉をかけた。
突然に小夜子が、梅子の胸で泣きじゃくり始めた。
先夜の加藤の小言が思い出されて、溢れる涙を止めることが出来なくなった。
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