12日(日)その2.よい子は「その1」も見てね モコタロはそちらに出演しています
11日(土)午後2時からNHK交響楽団の第1946回定期演奏会:池袋Cプロを聴きました プログラムは①チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33」、ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」です
当初、ワシーリ・ペトレンコが指揮を、ダニエル・ミュラー・ショットがチェロを演奏する予定でしたが、新型コロナに係る入国制限により来日できなくなり、ガエタノ・デスピノーサが指揮を、佐藤晴真がチェロをそれぞれ代演することになったものです
休憩なしの1時間強の公演ということで人気のあるCプログラムですが、この日も9割以上が入っているようです 池袋Cプロだけ開演前に室内楽の演奏があるのですが、この日はミューザ川崎での「モーツアルト・マチネ」が終わってすぐに池袋に向かったものの、蕎麦で昼食を取っている間に終演してしまいました
エネスコの弦楽八重奏曲の第1楽章を演奏したようです
残念でした
オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスといういつものN響の並び。コンマスは伊藤亮太郎です 第2ヴァイオリンのトップには大林修子さんがスタンバイしていますが、今月いっぱいで退団と聞いています。隠れファンだったので残念です
1曲目はチャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33」です この曲はピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)が1876~77年に作曲、1877年11月30日にフィッツェンハーゲンの独奏、ニコライ・ルビンシテイの指揮によりモスクワで初演されたチェロとオーケストラのための変奏曲です
「序奏、主題、8つの変奏、コーダ」から成ります
1978年、イタリアのシチリア島生まれのデスピノーサと、2019年のミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で日本人として初めて優勝した佐藤晴真が登場し、配置に着きます
佐藤は何の迷いもなく余裕で演奏に取り組んでいるように見えました 世界的に権威のある国際コンクールで優勝したという実績が彼の自信となり、それが演奏に現れているように思えます
デスピノーサ✕N響がソリストにピタリと寄り添いました
ソリスト・アンコールはカタルーニャ民謡(カザルス編)「鳥の歌」でした この曲はスペイン・カタルーニャ出身のチェリスト、パブロ・カザルスが編曲・演奏したことで世界的に有名になりました
カザルスは1971年の国連本部での演奏で、「カタルーニャの鳥は、ピース、ピースと鳴くのです」と語ったというエピソードが残されています
プルグラム後半はムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」です この曲はモデスト・ムソルグスキー(1839-1881)が1874年にピアノ独奏曲として作曲しましたが、指揮者クーセヴィツキーの委嘱によりモーリス・ラヴェルが管弦楽用に編曲しました
作品は急逝した建築デザイナーで画家のガルトマン(ハルトマン)の回顧展に触発されて作曲されました
プロムナード、第1曲「ノーム」、第2曲「古い城」、第3曲「チュイルリーの庭」、第4曲「ブィドロ」、第5曲「卵の殻をつけた雛の踊り」、第6曲「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミイレ」、第7曲「リモージュの市場」、第8曲「カタコンブ」、第9曲「バーバ・ヤガーの小屋」、第10曲「キエフの大きな門」から成ります
デスピノーサの指揮でプロムナードの演奏に入ります 冒頭のトランペットが素晴らしい
曲の幕開けを告げる輝きに満ちていました
第2曲「古い城」におけるアルト・サクソフォーンの旋律が懐かしさを醸し出します
第4曲「ブィドロ」におけるテューバの重低音が身体に響きます
第5曲「卵の殻をつけた雛の踊り」ではオーボエ、クラリネット、フルートの忙しない演奏が楽しい
しかし、私がこの曲で一番ドラマを感じるのは第6曲「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミイレ」です
この曲は裕福なユダヤ人と貧しいユダヤ人を描いたガルトマンの一対の絵に基づく音楽ですが、弦楽器による高圧的なゴールデンベルクに対し、弱音器つきトランペットによる ひ弱なシュミイレの対照が実に面白いのです
私には、音楽による2人の会話が次のように聞こえます
ゴールデンベルク刑事:もういい加減に吐いたらどうなんだ。証拠は挙がってるんだぞ
シュミイレ容疑者 :刑事さん、俺はやっちゃいねえんだ。信じてくれ
ゴールデンベルク刑事:信じてやりたいが、口では何とでも言えるからな カツ丼食いたかったら早く白状した方が身のためだぞ
シュミイレ容疑者 :カツ丼で釣られるようなやわな俺じゃないぜ。甘く見ないでくれ 「梅」じゃなく「松」だったら考えてもいいけど
ゴールデンベルク刑事:ぜいたく言うんじゃねえ。警察にも予算てぇものがあるんだ
シュミイレ容疑者 :それじゃ「竹」で手を打つよ。刑事さん、お願いだ~ あることないこと全部しゃべるからさ~
だいぶ本筋から外れたようなので元に戻します 何といっても、この曲のクライマックスは第10曲「キエフの大きな門」です
自席は舞台すぐ近くの2LBブロック(バルコニー席)なので、音の塊が迫ってくる感じがします
特に金管楽器群、ティンパニを中心とする打楽器群の発する巨大な音の波が押し寄せてきて圧倒されます
この曲を聴いて、いつも思うのは「音の魔術師」の異名をとるラヴェルの編曲のすばらしさです。彼が編曲しなかったら、この曲は音楽史の中で埋もれていたかもしれません