人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

かげはら史帆著「ベートーヴェン 捏造 ー 名プロデューサーは嘘をつく」を読む ~ ベートーヴェンの秘書シンドラーによる「会話帳捏造事件」をめぐるノンフィクション

2023年12月16日 01時16分53秒 | 日記

16日(土)。わが家に来てから今日で3258日目を迎え、ロシアのプーチン大統領が14日に開いた大型記者会見と国民との「直接対話」の合同イベントで、ロシアの学生が人工知能を使って作ったとみられるプーチン氏の姿と声を使って「あなたには何人のクローンがいますか」と質問したところ、プーチン大統領は「これが私の最初のクローンだ。『私のようになり、私の声で話すのは一人であるべきで、それは私だ』と冗談を言った人がいる」と笑顔を見せた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     主権国家を侵略し 子供を誘拐し 破壊の限りを尽くすプーチンは 一人でたくさんだ

 

         

 

昨日、夕食に隔週金曜日のローテーションにより「鶏の唐揚げ」を作りました 唐揚げなので一時的に禁酒を解禁して「浦霞」の冷酒をいただきました

 

     

 

         

 

かげはら史帆著「ベートーヴェン  捏造 ー 名プロデューサーは嘘をつく」(河出文庫)を読み終わりました かげはら史帆は1982年、東京生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。著書に「ベートーヴェンの愛弟子 フェルディナント・リースの数奇なる運命」(春秋社、2020年)、「ニジンスキーは銀橋で踊らない」(河出書房新社、2023年)がある

 

     

 

本書は2018年10月、柏書房より刊行された「ベートーヴェン捏造 ー 名プロデューサーは嘘をつく」を加筆訂正の上、2023年11月に文庫化したものです

ベートーヴェンが、「交響曲第5番」の「ジャジャジャジャーン」というモチーフについて「このように運命が扉を叩くのだ」と述べたというエピソード、あるいは「ピアノ・ソナタ第17番」について「シェイクスピアの『テンペスト』を読みたまえ」と忠言したというエピソード これらのあまりにも有名なエピソードはシンドラーの「ベートーヴェン伝」により最初に報告され、その後世界的に広まりました アントン・フェリックス・シンドラー(1795-1864)はヴァイオリニスト、指揮者、伝記作家であり、ベートーヴェン(1770-1827)の晩年に音楽活動や日常生活の補佐役(秘書)を務めていた人物です

しかし、これらのエピソードが本当なのかと疑念を抱かせる事件が起こります 1977年3月にベルリンで開かれた「国際ベートーヴェン学会」で、「ドイツ国立図書館版・会話帳チーム」のメンバーが「『会話帳』が、ベートーヴェンの死後、故意に言葉が書き足されている形跡を発見した。その張本人はシンドラーだ」と発表したのです

「会話帳」とは、聴覚を失ったベートーヴェンが、家族や友人、仕事仲間とコミュニケーションを図るために使っていた筆談用のノートのことです 現存しているのは全部で139冊、そのうち137冊がドイツ国立図書館(現ベルリン国立図書館)の所蔵となっています 「会話帳」が使用された時期は1818年から1827年の10年弱で、47歳から死亡する56歳までです ここで注意しなければならないのは、「ベートーヴェンは耳が聴こえなかった一方、話すことは出来た」ということです つまり「会話帳」に文字を書いたのは基本的にはベートーヴェンではなく話す相手だったということです その「会話帳」の余白にシンドラーが「故意に言葉を書き足した」ということです。学会から2年後の1979年、「会話帳チーム」は、シンドラーによって行われた全改竄箇所のリスト(「シンドラーのリスト」か)を公開しました。改竄は会話帳全139冊のうち64冊分、246ページにも及びました

「交響曲第9番」の初演準備の経緯、「悲愴ソナタ」をはじめとする数々の音楽作品のテンポをめぐる議論、「交響曲第8番」の第2楽章が、メトロノームの発明者・メルツェルに贈った「タタタ・カノン」をもとに作曲されたという創作秘話、少年時代にフランツ・リストとベートーヴェンとの対面をめぐる交渉・・・・・・これらすべてのことが捏造だったというのです 予想を超える改竄に研究者たちは大きなショックを受けたといいます

このことから、「運命」や「テンペスト」のエピソードも、シンドラーが実際にベートーヴェンからこれらの話を聞いた可能性はゼロではないとしても、疑わざるを得なくなったということです 「会話帳チーム」のリーダーであるカール・ハインツ・ケーラーは、シンドラーの改竄の動機について「自分自身を、ベートーヴェンの特別な友人として強くイメージづけるためだろう」と述べています。果たしてそれだけなのか 本書は、なぜシンドラーは「会話帳」を捏造したのか、真の動機は何か、を探っていきます

そもそも なぜ「会話帳チーム」がシンドラーの改竄に気が付いたかと言えば、連続する会話のはずなのに筆記具が変わっていたり、余白に無理やりセリフを挿入していたりと、不自然な箇所が数え切れないほどあったからだといいます

本書を読むと、シンドラーはベートーヴェンの崇拝者で、ベートーヴェンに都合の悪いことは排除し、理想とするベートーヴェン像を作り上げるために「ベートーヴェン伝」を著したこと、その内容と折り合いをつけるために、ベートーヴェンや自分に都合の悪いことが書かれている「会話帳」を廃棄処分にしたり、余白に都合の良いように書き加えることで改竄したことが分かります

本書は、序曲「発覚」、第1幕「現実」、第2幕「嘘」、終曲「未来」から構成されていますが、終末「未来」の中で、著者は次のように書いています

「不朽のベートーヴェン伝説を生み出し、音楽史上屈指の功労者。それこそがアントン・フェリックス・シンドラーの正体だ 音楽ビジネスの世界で生きた男に対して、嘘つきとか食わせ物とか、そんな文句こそが野暮ったいのではないか いつの世も、名プロデューサーは嘘をつく。シンドラーが会話帳に書き付けた『嘘』の言葉が、まるで勝利宣言のように響いてくる

たしかに、シンドラーが広めた数々のエピソードがなければ、「第5交響曲」や「テンペスト・ソナタ」をはじめとするベートーヴェンの作品は、急速に人口に膾炙することはなかったかもしれません しかし、著者はその後に次のように書いています

「音楽を志した男にとって、一生かかってもかなわない天才に出会ってしまったことは、人生における最大の幸福であると同時に、最大の悲劇だった ベートーヴェンとの出会いは、シンドラーにとって夢の始まりであると同時に、夢の潰えるきざしだったのかもしれない シンドラーが人生をかけて改竄したのは、彼自身の本心だったのかもしれない

著者については、歴史的事実をよくもこれほどまで詳細に調べ上げたものだ、と感心します

本書は「会話帳」に書かれたセリフを散りばめたノンフィクション・スタイルで書かれており、まるで推理小説を読んでいるように楽しく読めます へたな推理小説より よっぽど面白いです クラシック・ファンに限らず広く本好きの人にお薦めします

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ということで、12月は まだ半月残っています   今日から6日連続コンサートに挑みます

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