18日(月)。わが家に来てから今日で3260日目を迎え、ロシアの出版大手ASTは17日までに、ウクライナ侵攻に関する不適切な発言があったとして、人気作家ボリス・アクーニン氏とドミトリー・ブイコフ氏の作品の出版を停止すると発表した というニュースを見て感想を述べるモコタロです
プーチン・ロシアは 習近平・中国と「言論の不自由世界一」で争っているからねぇ
昨日、NHKホールでN響「第2000回定期演奏会」(12月Aプロ2日目)を聴きました プログラムはマーラー「交響曲第8番『一千人の交響曲』」です 演奏はソプラノ=ジャクリン・ワーグナー、ヴァレンティーナ・ファルカシュ、三宅理恵、アルト=オレシア・ペトロヴァ、カトリオーナ・モリソン、テノール=ミヒャエル・シャーデ、バリトン=ルーク・ストリフ、バス=ダーヴィッド・シュテフェンス。合唱=新国立劇場合唱団、児童合唱=NHK東京児童合唱団、管弦楽=NHK交響楽団、指揮=ファビオ・ルイージです
1927年に新交響楽団(N響の前身)の予約演奏会として始まったN響定期公演が、今回 記念すべき第2000回を迎えました 何を演奏するかについて、常任指揮者ルイージとN響は聴衆による投票に委ねることにしました 候補として挙げられたのは①フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」、②シューマン:オラトリオ「楽園とぺリ」、③マーラー「交響曲第8番」でした 投票総数2523票の中から過半数の得票で選ばれたのは③マーラー「一千人の交響曲」でした 私は投票しませんでしたが、順当な結果だと思います
マーラー「交響曲第8番『一千人の交響曲』」はグスタフ・マーラー(1860-1911)が1906年に、オーストリア・クラーゲンフルト近郊のヴェルター湖畔、マイヤー二ヒの作曲小屋で作曲、1910年9月12日に「ミュンヘン博覧会1910」のメインイベントとして初演されました 作品は第1部:賛歌「来たれ、創造主である精霊よ」、第2部:「ファウスト」の終幕の場ーの2部から構成されています 音楽評論家の広瀬大介氏の「プログラム・ノート」によると、マーラーは当初、本作を従来の4楽章形式で構想しており、スケッチからは、第1楽章のあとに「スケルツォ」「アダージョ・カリタス」「賛歌:エロスの誕生」という3つの楽章が続く予定だったとのことです。そのため約85分の演奏時間のうち第1部が約25分、第2部が約60分という配分となっています ミュンヘンで初演された際には、会場の博覧会新祝祭音楽堂に、オーケストラ171名、独唱者8名、混声合唱850名(児童350名を含む)、指揮者のマーラーを含め総勢1030人が参加、大成功を収めたと伝えられています
(予習CD:レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル他)
開演時間となり、最初に新国立劇場合唱団のメンバー120名(男声53,女声67)がオケの後方正面に着き、その両サイドにNHK東京児童合唱団のメンバー60名がスタンバイします(すべて肉眼で数えましたが、誤差あるかも)。次いでオーケストラのメンバーが配置につきます。オケは16型で 左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスといういつものN響の並び ステージ下手にはハープ4台、ピアノ、チェレスタが、正面後方にはティンパニ2人を含む打楽器奏者5人が控え、ホール上手2階のパイプオルガンにオルガニストがスタンバイします コンマスは”マロさん”こと篠崎史紀、隣は郷古廉というダブルコンマス態勢を敷きます そして三宅理恵を除くソリスト7人が入場し、オケと合唱の間にスタンバイします 正確には分かりませんが、ステージには300名近くの演奏者が乗っていると思われます
ルイージの指揮でパイプオルガンとオケの総奏をバックに、迫力ある合唱が「来たれ、創造主である聖霊よ・・・」と歌い上げます この時 私は、マーラーへの長い旅が始まったことを自覚します 第1部はかなり速いテンポで演奏が展開しますが、新国立劇場合唱団の混声コーラスが素晴らしい 1997年10月に開場した新国立歌劇場の専属合唱団ですが、国内外のアーティストやメディアから高い評価を得ています 世界に通用する合唱団と言っても過言ではないでしょう この第1部はオケも合唱もテンションが上がりっぱなしで気が抜けませんが、ルージは弛緩するところなく集中力に満ちた演奏をN響とコーラスから引き出します
第1部終了後、ルイージは しばし間を置いてから 第2部「『ファウスト』の終末の場」に入ります ここは「山峡、森、岩場、荒れ地。聖なる隠者たちが、山の斜面に散らばるように、谷あいの場所に占めている」という場面です
冒頭はオーケストラだけで演奏されますが、松本健司のクラリネット、吉村結実のオーボエ、そして神田寛明のフルートが寂寥感に満ちた演奏を繰り広げて素晴らしい そしてチェロとヴィオラによる渾身の演奏が心に迫ってきます 第1ヴァイオリンの厚みのある演奏も印象的です その後はバリトン、バス、テノール、ソプラノ、アルトのソロや混声合唱、児童合唱がとっかえひっかえ入ってきますが、総じてソリスト陣は充実しています ソプラノのジャクリン・ワーグナーはアメリカ、ヴァレンティーナ・ファルカシュはルーマニア、アルトのオレシア・ペトロヴァはロシア、カトリオーナ・モリソンはスコットランド、テノールのミヒャエル・シャーデはカナダ、バリトンのルーク・ストリフはアメリカ、バスのダーヴィッド・シュテフェンスはドイツと、それぞれの出身地はバラバラですが、いずれも世界のオペラ界をリードする歌手陣です それぞれが良く声が通り素晴らしい歌唱でした とくに女性陣の健闘が光りました 最後のシーンで登場しパイプオルガン脇で「栄光の聖母」を歌った三宅理恵は、東京音大大学院修了のソプラノですが、短い出番を最大限に生かして素晴らしい歌唱を披露し、存在感を示しました 第2部は「すべての過ぎゆくものは比喩に過ぎない。到達し得ないことが、ここでは成就される・・・」という『神秘の合唱』が、大管弦楽の力強い演奏をバックに、ソリストを含む迫力のあるコーラスで歌われて曲を閉じます その時、会場の温度が2度上昇しました 背筋が寒くなるほど素晴らしい演奏でした
1日目の公演ではフライング・ブラボーがあったようで、X上でケチョンケチョンに貶されていましたが、この日はそういうアホな聴衆もおらず、最後の音が鳴り終わって一瞬の間を置いてから拍手が起こりました コンサート終了後の「間」を含めて「演奏」なので、これが普通です
この日の演奏は ソリスト、混声合唱、児童合唱、オーケストラのすべてにおいてクオリティの高いパフォーマンスでしたが、最大の貢献者は300人近い演奏者を怜悧な指揮で完璧に統率したファビオ・ルイージです オペラ指揮者ならではの感性による指揮ぶりが素晴らしかったです
10数分に渡って続いたカーテンコールで ルイージと演奏者たちに拍手を送りながら、マーラーに対するイメージを思い浮かべていました
以前、このブログにも書きましたが、私は4人の偉大な作曲家について絵画的なイメージを抱いています
「高くそびえる山(J.S.バッハ)がある。その山を大汗を拭いながら登る一人の登山者(ベートーヴェン)がいる。彼を太陽(モーツアルト)が優しく見守る。そして、その太陽系を果てしない宇宙(マーラー)が包み込む」
マーラーの音楽を聴くと宇宙を感じます 中でも「交響曲第8番」はその典型のような曲です この日の演奏は、まさに宇宙的な広がりを持つ壮大なパフォーマンスでした