人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

米原万里著「不実な美女か貞淑な醜女か」を読む/三澤洋史著「オペラ座のお仕事」他を買う

2016年10月11日 07時43分27秒 | 日記

11日(火).昨日午後,神保町の三省堂に本を買いに行った帰りに白山通りを地下鉄水道橋駅まで歩きました 毎日最低8,000歩のノルマがあるので歩数を稼ごうというわけです あの界隈は学生時代によく歩きました. 天婦羅の「いもや」はまだ営業しています.喫茶店「白十字」も健在です

喫茶店「白十字」で思い出すのは,ゼミの連中とコーヒーを飲もうと「白十字」のドアを開けた途端に,奧の方からJ.S.バッハの有名な「トッカータとフーガ」の冒頭のメロディーが押し寄せて来たのです あの時の音楽はストコフスキーの編曲による管弦楽版による演奏だったと思います とにかく音の洪水に圧倒されました 今の学生たちも「白十字」でクラシック音楽を聴きながら本を読んだりしているのだろうか?まさか,白十字でポケモンGOでもないだろうし・・・・と思いながらお店を通り過ぎました

ということで,わが家に来てから今日で743日目を迎え,米大統領選挙の共和党候補者トランプ氏が 自らの失言で窮地に立たされているニュースを見て何やら感想を述べているモコタロです

 

          

             トランプがスランプだって? だれかトラップを仕掛けたんじゃないの?

             2回目の直接対決は米国大統領選挙史上最低の”舌戦”だったようだね

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「カレーライス」と「生野菜とワカメのサラダ」を作りました 息子が「ネパールで辛い料理ばかり食べてきたので,しばらくカレーみたいな料理は食べたくない」と自己主張した時から2週間が過ぎたので,もうそろそろいいだろうと判断,しばらくぶりに作りました.写真には写っていませんが,ニンジンは埋まっています

 

          

 

  も一度,閑話休題  

 

本を5冊買いました 1冊目は誉田哲也著「Qros(キュロス)の女」(講談社文庫)です 誉田哲也の作品は文庫化するたびにこのブログでご紹介してきたので もうお馴染みですね 今度の作品は週刊誌記者がらみの話です.面白そうですね

 

          

 

2冊目は三澤洋史著「オペラ座のお仕事」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)です 三澤洋史は世界にも通用する新国立劇場合唱団の指揮者です オペラの舞台裏にはどんな物語があるのか,読むのが楽しみです

 

          

 

3冊目は村上春樹著「職業としての小説家」(新潮文庫)です 毎年ノーベル文学賞候補に挙げられる著者の小説家論です

 

          

 

4冊目は同じ村上春樹著「女のいない男たち」(文春文庫)です 6つの物語から成る短編集です

 

          

 

最後の5冊目はピエール・ルメートル著「傷だらけのカミーユ」(文春文庫)です 彼の作品は衝撃的な「その女アレックス」をはじめ「悲しみのイレーヌ」「死のドレスを花婿に」をこのブログでご紹介してきました この作品も きっと意外な顛末が待っていることでしょう

 

          

 

いずれもこのブログでご紹介していきます

 

  最後の,閑話休題  

 

米原万里著「不実な美女か貞淑な醜女か」(新潮文庫)を読み終りました また米原万里か!と言わないで下さいね 念のためプロフィールを簡単にご紹介します.1950年東京生まれ.東京外国語大学卒,東京大学大学院修士課程修了.ロシア語同時通訳者,作家,エッセイストとして活躍 この「不実な~」で読売文学賞を受賞しています 2006年に死去しているので今年が没後10年になります

 

          

 

タイトルの「不実な美女か貞淑な醜女か」は,「美しいが原文に忠実でない通訳」か「美しくはないが原文に忠実な通訳」か,どちらが良いのか?といった意味を持っています この本では,日本におけるロシア語通訳では史上最強と言われた米原万里が,同時通訳の内幕や失敗談,苦労話などを面白可笑しく書いています

第1章「通訳翻訳は同じ穴の貉か」,第2章「狸と貉以上の違い」,第3章「不実な美女か貞淑な醜女か」,第4章「初めに文脈ありき」,第5章「コミュニケーションという名の神に仕えて」から構成されています

その第2章の中で,「翻訳」の媒体が文字であるのに対し「通訳」の媒体は音声であること,「翻訳」は基本的に時間の制約を受けないのに対し「通訳」は常に現在進行形でその瞬間に違う言語に変換しなければならない,という大きな違いがあり,そこから通訳には様々な問題が生じるとしています

一例として次のようなエピソードを紹介しています

「ある日本の企業を視察したロシア人一行の団長がお礼の挨拶をする際,その企業の社長に向かって,

『あなたの葬式は,大変立派な葬式です』

と言って,相手をムッとさせてしまった 実は,ロシア人でも大学できちんと日本語を勉強した人は漢字を使いこなすし,日本の平仮名,片仮名で日本語を表わす ところが,速成講座,短期講座などで日本語を身に付けた人が最近増えている.そういう人たちはローマ字,あるいはロシア文字を当てがって日本語を学習している すると,

 組織 ⇒ SOSHIKI

 葬式 ⇒ SōSHIKI

と書き留めて覚える.後者の方は伸ばして発音するので,上に伸ばし記号を施すのだが,こういう補助的な記号は,そもそも慣れていないので,すぐに忘れてしまう そのため『組織』も『葬式』も同じになる.このあたりはまだ可愛いのだが,『情勢』というつもりで『女性』と言い,あるいは『空想』のつもりで『くそ』と言い,『顧問』のつもりで『肛門』と言い,『少女』のつもりで『処女』と言ったりすると,当事者にとっては悲劇,すなわち第三者にとっては喜劇になること間違いない

このあたりはシモネッタ万里 全開です これはホンの一例です.まだまだ面白い話がジャンジャンでてきます

ところで,第5章に次の一文があります

「私は,いや私だけではなく多くの通訳者たちは,この仕事を心から愛し,面白く思っている すでに故人となられた名英語通訳者の佐藤圭子さんは『通訳と乞食は3日やったらやめられない』と言っておられる

ここに出てくる佐藤圭子さんという方は,私がかつて務めていた新聞関係の団体(社団法人)で同時通訳をお願いしていた人です 私は入職してから3年間,国際部に配属され国際会議を含めて同時通訳を入れた会議の設営等をやっていましたが,その時,上司が「佐藤圭子さんは,日本で一番優秀な英語通訳者なんだ」と教えてくれました.イヤホンで聞いた彼女の訳された日本語はとても流暢でした もし,あの頃,日露の新聞関係の会議があったら 日本で一番優秀なロシア語通訳者・米原万里さんに出会っていたかもしれません

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ジョナサン・ノット+東響でブラームス「交響曲第1番」他を聴く~ヨーロッパ公演プレコンサート

2016年10月10日 08時18分25秒 | 日記

10日(日・祝).わが家に来てから今日で742日目を迎え,日経の「政府の借金はなぜ1000兆円超まで膨らんでしまったのか」の記事を見て 日本の将来を憂いている 動物にしては殊勝なモコタロです

 

          

          国民1人当たり800万円の借金になるまで誰が放っておいたの?

 

  閑話休題  

 

昨日,東京オペラシティコンサートホールで,東京交響楽団のオペラシティシリーズ第94回定期演奏会を聴きました プログラムは①武満徹「弦楽のためのレクイエム」,②ドビュッシー「交響詩”海”」,③ブラームス「交響曲第1番ハ短調」です 東京交響楽団は創立70周年を記念してヨーロッパ公演(10月20日のポーランド公演~クロアチア~ウィーン~ロッテルダム~27日のドルトムント公演)に出ますが,この日のプログラムはそれと同一内容で,いわば公演旅行のプレコンサートです

 

          

 

1曲目は没後20年を迎える武満徹の「弦楽のためのレクイエム」です この曲は1957年に東京交響楽団が委嘱した作品です.今年はあちこちのコンサートホールで武満徹の曲が演奏されますが,数多くある彼の曲の中で 私にとって一番好きな(分かり易い)曲です 武満徹はこの曲について「レクイエム」でなく「メディテーション」でも良かった,と語っているようですが,どちらにしても,瞑想的な曲想です

オケの弦楽器メンバーのみが配置に着きます.あれっ?と思ったのはコンマスのグレブ・二キティンが現れたと思ったら,次に拍手の中を もう一人のコンマス・水谷晃が登場したのです この日の公演はヨーロッパ公演旅行を控えたプレコンサートなので,多分ヨーロッパに行く二人のコンマスが出演することになったのでしょう

ジョナサン・ノットが登場して演奏に入ります.レント~モデレ~レントという楽想ですが,終始静かなメロディーが会場を満たします

管楽器と打楽器,ハープ奏者が入場し,ステージを埋め尽くします フル・オーケストラによって演奏するのはドビュッシーの交響詩「海~管弦楽のための3つの交響的素描」です. 「海」というタイトルから,ドビュッシーは荒くれる海を見ながらこの曲を作曲したのかと思いきや,フランスの内陸部のブルゴーニュ地方で休暇を楽しんでいた時期に書き始めたといいます 作曲家のイマジネーションは凄い とあらためて思います

曲は第1楽章「海上の夜明けから真昼(正午)まで」,第2楽章「波の戯れ」,第3楽章「風と海の対話」から成ります この曲は歴代の指揮者が取り上げて来た「東響の得意とする曲」の一つです ノットはオーケストラから色彩感豊かな音楽を醸し出します.フルートが,オーボエが,クラリネットが,そして弦楽器が刻々と変化する海の印象を描いていきます

 

          

 

休憩後はブラームス「交響曲第1番ハ短調」です この曲は1855年頃に構想され,最終的には1876年に完成しているので,完成まで20年以上の年月がかかっています 難産の上に生まれた第1番でした.ブラームスにとってベートーヴェンの9つの交響曲はエベレストよりも高い山,それも山脈でした それを乗り越えるために20年間 遠回りして山頂にたどり着いたのでした ハ短調はベートーヴェンの第5交響曲”運命”と同じ調性です.「運命交響曲」と同じように,ブラームスの第1番は「苦悩を乗り越えて勝利に至る」といったコンセプトを持った曲です 指揮者ハンス・フォン・ビューローはこの曲をベートーヴェンの第9番に続く「交響曲第10番」と呼びましたが,ベートーヴェンの精神を受け継ぐ真の作曲家はブラームスであるということを表わしています

第1楽章はティンパ二の連打で開始されますが,人間の運命を刻んでいるかのようです 第2楽章はアンダンテの穏やかな曲想です.オーボエの荒絵理子,フルートの相澤政宏,クラリネットの吉野亜希菜,ホルンの上間善之の演奏は素晴らしく,終盤のコンマス・水谷晃のヴァイオリン・ソロは輝いていました

第3楽章を経て,間を置かずに第4楽章に入ります この楽章では,ブラームスがシューマン夫人・クララの49歳の誕生日に贈ったアダージョの旋律がホルンによって奏でられます これこそ,ベートーヴェンの第九の最終楽章に出てくる「歓喜の歌」のテーマに匹敵する重要なテーマ音楽です 弦楽セクションによる演奏は厚みがあり重厚感に満ちています ジョナサン・ノットの中低音重視の思考が演奏に表れています

そしてフィナーレを迎えますが,ジョナサン・ノットの気迫がオーケストラに乗り移ったかのような渾身の演奏が展開されました

会場は拍手とブラボーの嵐です この雰囲気をそのままヨーロッパ演奏旅行に持っていってほしいと思います

イギリス生まれのジョナサン・ノットは,バンベルク交響楽団首席指揮者を16年間務めるなど 主にドイツのオーケストラでの活躍が目立ちますが,その一方で現代音楽の代名詞的なオケ,アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めた経歴からも分かるように,古典から現代まで幅広いレパートリーを誇る指揮者です 私は彼の演奏では 古典派,ロマン派が好きです 東響を振ったベートーヴェンの「交響曲第5番ハ短調」の演奏は,今まで聴いた運命交響曲のうち最高に感動した演奏でしたし,今回のブラームスの第1番も気迫あふれる素晴らしい演奏でした

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藝大オペラでモーツアルト「コシ・ファン・トゥッテ」を観る~アンサンブル・オペラの最高傑作!

2016年10月09日 09時01分12秒 | 日記

9日(日).わが家に来てから今日で741日目を迎え,新聞で阿蘇山の36年ぶりの爆発的噴火のニュースを見て心配するモコタロです

 

          

           熊本は半年前に地震があったばかり 大過なければいいな

 

  閑話休題   

 

昨日,上野の東京藝大奏楽堂で「藝大オペラ第62回定期公演 モーツアルト『コシ・ファン・トゥッテ』」を観ました 出演は,フィオルディリージに平堅柚香,ドラベッラに中山茉莉,グリエルモに栗原峻希,フェランドに川上晴央,デスピーナに横山和美,ドン・アルフォンゾに湯澤直幹,管弦楽は藝大フィルハーモニア,指揮は村上寿昭,演出はミヒャエル・テンメです

 

          

 

自席は2階BL1列26番,今回は初めて2階左側バルコニー席の1列目の通路側を選びました オペラを2階から見下したらどんな感じだろうか,という興味からです 会場は9割近く埋まっている感じです

プログラム冊子に掲載された迫音楽学部長の「ご挨拶」に「今年度,大学院研究科にオペラ専攻を新設いたしました」と書かれていました.ビックリです 東京藝大に今まで「オペラ専攻」が無かったとは信じられません 今回の公演は新たなオペラ専攻の第1回目の公演となるわけです

この作品はロレンツォ・ダ・ポンテの台本に基づいてモーツアルトが作曲したものです 18世紀末のナポリを舞台に物語が展開します.登場人物は2組のカップル(女性は姉妹)と哲学者と小間使いの男女6人とナポリの市民たちです 哲学者ドン・アルフォンソは「女の貞操は不死鳥のごとく存在しない」という持論を実証するため,男たちに,それぞれの許嫁と違う方の姉妹を口説き落とすように仕掛け,姉妹が陥落するかどうかを賭けるというストーリーです

2階席からはオーケストラピットの中が良く見えます.が,左隣に座った若い女性が前のめりに舞台を観ているので視界が若干遮られます バルコニー席の宿命ですが,1列目だから大丈夫と高をくくっていたのが大間違いでした やっぱりバルコニーは出来るだけ避けた方が良いと思いました

指揮者・村上寿昭のタクトで序曲が始まります モーツアルトのオペラにおける序曲は,「フィガロの結婚」にしても,「ドン・ジョバンニ」にしても,「魔笛」にしても,そしてこの「コシ・ファン・トゥッテ」にしても,オペラ全体の物語の内容をコンパクトに凝縮したエッセンスと言っても差し支えありません ホンの数分の序曲に3時間にも及ぶオペラのすべてが凝縮して詰まっているのです.モーツアルトは天才だ

村上寿昭は速めのテンポで序曲を演奏します モーツアルトの音楽,とくにオペラでは軽快なテンポが命です のろのろしたペースはモーツアルトではありません 

ステージ上の左サイドには複数の衣装を吊るしたハンガーが,右サイドにはメタリックなテーブルとイスのセットが置かれています.極めてシンプルな舞台作りです

第1幕では,ジャージ姿のグリエルモとフェランド,そしてドン・アルフォンソが登場して”賭け”の話に入るわけですが,3人ともいい声をしています とくにフェランドを歌う川上晴央は軽く輝くテノールで良く声が通ります グリエルモを歌う栗原峻希の声も魅力があります

そして,フィオルディリージとドラベッラ姉妹が登場して,急に出征することになった二人の若者の武運を祈ってアルフォンソと「風よ,おだやかなれ」を歌います 何と美しいアンサンブルなのでしょうか この時,二人の男性は迷彩服を着て出征するのですが,ヘルメットに国連のUNという文字が書かれていたのが何とも可笑しさを醸し出していました

ドラベッラは恋人が戦地に行ってしまった不安を胸に「静められない不安よ」を歌いますが,中山茉莉は魅力のあるメゾを聴かせてくれました

その後,アルバニア人に変装したグリエルモとフェランドが,それぞれの許嫁と違う姉妹に求愛するのですが,フィオルディリージが固い貞節をアリア「岩礁がじっと動かないように」に託して歌います 平堅柚香のソプラノは美しく,説得力がありました

第1幕フィナーレは,二人の男が姉妹の気を惹こうとヒ素を飲んで苦しむ中,デスピーナが偽医者に扮し磁石で毒を制し,姉妹に男たちを介抱するように言いますが,姉妹は怒ってはねつけます この場面における六重唱は見事です.アンサンブル・オペラの極致をいくフィナーレです

20分の休憩後は第2幕に入ります.左隣の女性は幸いにも前傾姿勢を取らなくなったので彼女に対する評価が上がりました よく気が付いたものです

第2幕では,まずデスピーナが姉妹に浮気を勧めるアリア「女は15にもなれば」を歌います デスピーナを歌う横山和美はコケティッシュな役割がピッタリです 歌も素晴らしいです そして,フィオルディリージはアルバニア人に心が動かされたことに対し,良心の呵責を覚え 新しい恋心を強固な意志で抑え込もうとして,ロンド「愛しいあなた,お願ですから許してください」を苦悶に満ちた表情で歌います この時の平堅柚香の歌唱はヒロインの心を見事に表現していました

気持ちよく彼女のロンドを聴いている時,突然すぐ近くで「ピロピロピロ~」というケータイ着信音が鳴りました.どうやら左隣の女性のケータイが鳴ったようです 「ピロピロピロ~」ですよ ピロリ菌じゃあるまいし,勘弁してほしいです その時,歌声がピークに達したタイミングだったので,遠くの人には届かなかったかもしれませんが,すぐ隣の私にはその音はすごく大きく聞こえました その瞬間,彼女に対する評価が再び地に落ちました

気を取り直して・・・・この公演では6人の出演者すべてが良かったと思いますが,とくに印象が強かったのは前述の通り,フィオルディリージを歌った平堅柚香とフェランドを歌った川上晴央です この二人は「魔笛」でタミーノとパミーナを歌ったらピッタリだと思います

 

          

 

ところで,このオペラの見どころの一つは第2幕のフィナーレをどう演出するか,です 最後にドン・アルフォンソが「女はみんなこうしたもの」と言って,恋人同士は元のさやに納まって舞台を去って行く・・・・というのがお決まりのフィナーレですが,今回のミヒャエル・テンメの演出は変わっていました グリエルモとフィオルディリージ,フェランドとドラベッラがそれぞれ手を繋いで別々の方向に去っていくとき,フィオルディリージとフェランドは後ろを振り返り,お互いに手を差し伸べながら去っていくのです つまり,この演出では,それぞれのカップルは「元のさやに納まっていない.少なくも男女それぞれ1人は新しい”恋人”に心を移したままである」ということを表わしています 何度かこのオペラを生で観ましたが,今回のような解釈は初めてで,とても新鮮でした

私は数年前まで,モーツアルトのオペラでは①フィガロの結婚,②魔笛,③ドン・ジョバンニ,④コシ・ファン・トゥッテ,⑤イドメネオの順に好きでしたが,ここ数年は,①コシ・ファン・トゥッテ,②フィガロの結婚,③魔笛,④ドン・ジョバンニ,⑤イドメネオの順になっています その最大の理由は,ソロのアリアよりも二重唱,三重唱,四重唱,五重唱,六重唱のアンサンブルが素晴らしいからです 「コシ・ファン・トゥッテ」はアンサンブル・オペラの最高傑作です

 

          

コメント (2)
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渥美清主演映画「あいつばかりが何故もてる」「つむじ風」を観る~「男はつらいよ」の原点か?

2016年10月08日 09時57分10秒 | 日記

8日(土).わが家に来てから今日で740日目を迎え,リオ五輪・パラリンピックのメダリストたちの「銀座パレード」を報じる新聞を見て何やらブツブツ言っているモコタロです

 

           

              4年前もあったみたいだけど すごい人出だなあ ひまなんだなぁ

 

          

              いけね  バスを踏んずけちゃった! これがホントのバス・ストップだね

 

          

                                        いや~ 悪気はなかったんだ メンゴメンゴ

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「豚バラの生姜焼き」と「生野菜とワカメのサラダ」を作りました 「豚バラ~」は,「豚肉に片栗粉をまぶしてフライパンで焼く」とレシピに書いてあったので,その通りにやったのですが,片栗粉の量がレシピよりも多かったようで,肉がフライパンにくっついてしまい,焼くのに苦労しました これを「苦肉の作」というのでしょうか ただし,試食の結果は,自分で言うのも何ですが,とても美味しくできました

 

          

 

  も一度,閑話休題  

 

昨日,池袋の新文芸坐で渥美清主演映画「あいつばかりが何故もてる」と「つむじ風」の2本立てを観ました 「あいつばかりが何故もてる」は1962年,酒井欣也監督による84分の作品です

 

          

 

銀座を稼ぎ場とするスリの善六(渥美清)は,写真家志望の女子大生マリ子(倍賞千恵子)に現場を撮られてしまう マリ子に惹かれた善六は詐欺に遭って苦境に陥ったマリ子の実家を救うべく奮闘努力する,というストーリーです 惚れっぽくて真っ直ぐな性格ではあるが,四角い顔で持てない男はフーテンの寅さんの原点ともいえる役柄です この映画は渥美清の初主演作ですが,すでに倍賞千恵子が共演しているわけです 初々しいというか,役者としてはこれからといった感じです.この映画の彼女と比べると,「男はつらいよ」シリーズに 妹のさくらとして出演した時の倍賞千恵子がいかに美人であるかが良く分かります この映画では1962年当時の銀座界隈の様子が映し出されていますが,何とも殺風景で隔世の感があります

2本目の「つむじ風」は1963年,中村登監督による89分の作品です

 

          

 

徳川の末裔と自称する陣太郎(渥美清)は,目撃者(桂小金治)と共に,自分をはねた車を探し出して賠償金をせしめようとする 目撃者は車のナンバープレートを覚えていたが,末尾が7か9かあやふやだったため,二人で手分けして当たることにする 容疑者の一人は銭湯のおやじ,一人は流行作家(伊藤雄之助)だが,接触するうちに,銭湯のオヤジ同士のライバル対決(伴淳三郎と殿山泰司)に巻き込まれたりして簡単にはいかない しかし陣太郎は最後に金では買えないものを手に入れる

この映画のタイトル「つむじ風」は,欲しいものを手に入れて,つむじ風のように去って行く陣太郎のことを表わしています 個性丸出しの役者揃いのトンデモ作品です 銭湯の娘役を演じた加賀まりこが若い

新文芸坐の「渥美清 没後20年 日本中を笑いとペーソスで包んだ男」特集はこれで終わりました この特集では「男はつらいよ」シリーズのうち4本を観ましたが,今度特集を組む時は是非「第2作 続・男はつらいよ」を上映してほしいと思います というのは,「男はつらいよ」シリーズはVHS版のビデオテープを第2作を含めて7本持っているのですが,ビデオデッキがない(故障で処分した)ので観られないのです 第2作は佐藤オリエがマドンナを演じていますが,とにかく面白い作品です

 

          

 

それにしても,いつも思うのは,もし渥美清が「男はつらいよ」シリーズに主演していなかったら,他のシリーズに主演していれば,今ほど有名になっていただろうか?ということです  これを言い出すと,タラとレバーの話になってしまうので・・・・失礼,『たられば』の”厚み”のない話になってしまうので”清”く「男はつらいよ」の寅さんで良かった,と思うことにしましょう

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ヤルヴィ+N響でマーラー「交響曲第3番」を聴く/「男はつらいよ『寅次郎相合い傘』『寅次郎夕焼け小焼け』」を観る

2016年10月07日 07時56分41秒 | 日記

7日(金).わが家に来てから今日で739日目を迎え,一生懸命おやつを食べているモコタロです

 

          

            真上から撮らないでよ それを上から目線と言うんだぜ!

 

  閑話休題  

 

昨日,池袋の新文芸坐で山田洋次監督「男はつらいよ 寅次郎 相合い傘」と「男はつらいよ 寅次郎 夕焼け小焼け」の2本立てを観ました  「寅次郎 相合い傘」は1975年公開の91分の作品で,浅丘ルリ子がマドンナを演じています

 

          

 

寅さんは旅先で知り合った蒸発男(船越英二)と屋台の飲み屋で飲んでいる時,リリー(浅丘ルリ子)と再会します それから三人の珍道中が始まります.このシリーズでは毎回,寅さんを中心にちょっとした事件が起こりますが,この会では「メロン事件」が勃発します 蒸発男が旅の最中で寅さんにお世話になったとメロンを送ってくれるのですが,寅さんが留守中に,おいちゃん,おばちゃん,博,さくら,タコ社長,訪ねて来たリリーたちで食べることになり,おばちゃんが人数を数えて切り分けるのですが,皆で食べ始めたところに寅さんがタイミングよく(悪く)帰ってきます 寅さんが「それじゃ,俺の分をもらおうか」と言うと,さくらやおばちゃんたちが「まだ一口しか食べてないから,食べて」「私の分を」と譲り合います すると寅さんは「どうせ,俺はいつでも人数外だよ」と言って怒り出します それからはいつもの口喧嘩が始まり,リリーからも罵倒され 寅さんは出ていきます この顛末が,いつものパターンですが可笑しくて笑ってしまいます この映画では博が美空ひばりの「悲しい酒」を歌うシーンがありますが,映画を観ている人は自信を持って帰ります.役者とは言え,あれだけ音痴に徹して歌うのは難しいでしょう 山田監督は,どこの家庭にもあるような日常生活上手く すくい上げています

この映画ではリリーが「寅さんと結婚してもいい」と一度は口に出すのですが,寅さんが「冗談だろう」と言うとリリーは「そうよ,冗談よ」と撤回してしまいます この時,すんなり結婚することになっていたら,「男はつらいよ」シリーズはこの回で終わっていたことでしょう

 

          

 

2本目の「寅次郎 夕焼け小焼け」は,1977年公開の109分の作品で,太地喜和子がマドンナを演じています

 

          

 

詐欺師のような悪い男に200万円の大金をだまし取られた芸者・ぽんたんのために,何とか力になってやりたいと奮闘努力する寅さんの奮闘記です 底抜けに明るく気風のいい芸者を演じたら太地喜和子ほどの適役はいないでしょう おいちゃんは3代目の下條正巳ですが,初代の森川信が懐しいです  この映画では宇野重吉が日本画の大家を演じ,息子の寺尾聡が役所の若手職員を演じていますが,息子の方は,大食いの大家として描かれています こういうのを,親子でも『役者が違う』と表現するのでしょう

 

          

 

  も一度,閑話休題  

 

昨夕,サントリーホールでNHK交響楽団90周年特別演奏会を聴きました プログラムはマーラー「交響曲第3番ニ短調」です.メゾ・ソプラノ独唱はミシェル・デ・ヤング,女声合唱は東京音楽大学合唱団,児童合唱はNHK東京児童合唱団,指揮はパーヴォ・ヤルヴィです

 

          

 

自席は1階9列16番,センターブロック左通路側です ほぼ満席の会場の中,最初に児童合唱団41人がP席中央の1列目と2列目に入ります.次いで女声合唱62人がその後方にスタンバイします.そしてオケのメンバーが入場し配置に着きます 曲がマーラーなのでフル・オーケストラです.コンマスの”マロ”こと篠崎史紀が入場するとほぼ同時に,会場最前列のコンマスの真ん前の席に『サスペンダーおじさん』が席に着きます またお会いしましてね どうして いつもいつも 開演ぎりぎりにやってきて 聴衆の注目を浴びながら席に着かないと気が済まないのでしょうね われわれ聴衆は 別におじさんの姿を見るために会場に来たわけではないのです 少しでも常識のある人であれば,楽員が入場する前に席に着いて彼らを迎えるのが”普通”だと思いますが,やっぱり目立ちたいんでしょうね しかし,おじさんが主役ではありません.はっきり言って目障りです 生きる道を誤りましたね.芸能人にでもなれば良かったと思います 本当に困ったものです

気を取り直して・・・・念のため,事前にCDで予習しておきました クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルによる演奏です.十数枚この曲のCDを持っていますが,このCDはマイ・ベストです

 

          

 

オケの態勢は左奥にコントラバス,前に第1ヴァイオリン,右にチェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリンという対向配置をとります.これがヤルヴィ・シフトです

マーラー「交響曲第3番ニ短調」は,演奏時間にして約100分の超大作です 従来の交響曲が4楽章形式なのに対し 全6楽章形式となっています  第1楽章だけでハイドンやモーツアルトの交響曲1曲が収まるほどの長さを持っており,これが第1部となっています.残る第2楽章以下が第2部という位置づけです

マーラーは最初にこの曲を作曲した時に,各楽章に標題を付けています 第1楽章は「牧神は目覚める.夏が行進してくる(バッコスの行進)」,第2楽章は「野の花が私に語ること」,第3楽章は「森の生き物たちが私に語ること」,第4楽章は「人間が私に語ること」,第5楽章は「天使たちが私に語ること」,第6楽章は「愛が私に語ること」となっています マーラーは出版の段になってこれらの標題をすべて取り下げてしまいました 標題を掲げることによって「描写音楽」と看做されることを恐れたのかも知れません しかし,この標題は彼の音楽を聴くうえでひとつの大きな拠り所となります

 

          

 

ヤルヴィが登場し,第1楽章に入ります.冒頭8本のホルンによって力強い音楽が演奏されます N響のホルン・セクションは首席の福川伸陽以下充実しています この長い楽章は根本的には「夏の行進」の音楽です.局面に応じて,クラリネットは楽器の先を持ち上げるベルアップ奏法をとります この楽章が終わると,メゾ・ソプラノのミシェル・デ・ヤングが右袖から登場し,ハープの隣にスタンバイします その間を利用してオケではチューニングが行われます

第2楽章は「メヌエットのテンポで」という指示通りにゆったりとしたテンポで進みます.この楽章はノスタルジックな音楽が続きます 第3楽章は「少年の不思議な角笛」から題材をとった自作の歌曲の転用です.ユーモラスなメロディーですが,途中から舞台裏のポストホルンと舞台上の管楽器や弦楽器との対話が聴かれます ポストホルンとは郵便馬車のラッパのことですが,この演奏では近代楽器(多分コルネット)が代用されていました.この演奏が素晴らしく,郷愁を誘いました

第4楽章はニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」からとられた詩を,メゾ・ソプラノのミシェルが歌います ウィーン・フィルやニューヨーク・フィルでも歌っているという人気歌手らしく,恵まれた体形を生かしたボリューム感のある,深みのある歌声で聴衆を魅了しました

ヤルヴィは間を置かず第5楽章に入ります 「少年の不思議な角笛」からとられた詩をメゾ・ソプラノと女声合唱が弾むように歌います 第5楽章から第6楽章へも間を置かずに移行します.これが間が空いてしまうと台無しになってしまいます 静かな弦楽合奏で始まりますが,この楽章で演奏される音楽を一言で言えば『カタルシス』もしくは『浄化』です 世の中にこんなに美しい音楽があるのか,と思うくらい穏やかで美しい音楽です ヤルヴィはやや速めのテンポで小気味よく音楽を進めますが,これが現代のマーラー像なのでしょう

最後の音が鳴り終わり,しばしのしじまの後,ヤルヴィがタクトを降ろすと,会場のそこかしこからブラボーがかかり,大きな拍手が巻き起こりました 何度かカーテンコールがありましたが,オーケストラの面々,ミシェル,児童合唱団,女声合唱団に惜しみない拍手が送られましたが,指揮者ヤルヴィにはひと際大きな拍手とブラボーが寄せられました N響90周年・サントリーホール30周年に相応しい素晴らしい演奏でした

 

          

 

ところで,第4楽章に入り,ミシェルが歌い始めたとき,P席の最前列中央に立っていた女の子が急に気分が悪くなったようで,その場に座り込んでしまいました その子は終演まで立ち上がることが出来ませんでした P席の最前列なのでどうしても目に入ってしまいます

この日,児童合唱団はこの公演の最初から配置に着いていました 自分の出番が来るまでジッと待っていなければなりません.われわれは気が付かないけれど,相当なストレスを抱えて数十分間あの席で聴衆に注目されながら出番を待っていて,極度の緊張から急に気分が悪くなったのでしょう 本当に可哀そうだと思います.児童合唱団は大人のプロの合唱団とは違います.とても小柄だったので,おそらく彼女は小学校低学年でしょう.演奏の緊張感を保つために多くの人数を最初からスタンバイさせたのだと思いますが,せめて第1楽章が終わって,メゾ・ソプラノが入場するときに児童合唱も一緒に入場して着席させるという配慮があっても良かったのではないか,と思います あの子のアクシデントを無駄にしないで 次に生かして欲しいと思います

 

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フォーレ四重奏団でブラームス「ピアノ四重奏曲第1番」,ムソルグスキー「展覧会の絵」を聴く~みなとみらい小ホール

2016年10月06日 08時35分10秒 | 日記

6日(木).いつも気の毒に思う光景があります ターミナル駅やちょっとした大きな駅の街頭でコンタクトレンズのチラシを配布している若者たちです 多分アルバイトだと思いますが,見ていると誰もチラシを受け取りません 私も絶対に受け取りません.受け取ったら次の瞬間からどこに捨てるか考えなければならないからです いったいコンタクトレンズの需要はどれだけあるのか,と非常に疑問に思います 

何年前かは忘れましたが,実に頭の良いチラシ配布員がいました 彼は帽子をかぶっているのですが,人が近くに来ると目の前で帽子を脱いでチラシを渡すのです.すると不思議なもので,多くの人は受け取っていました 私も思わず受け取ってしまいました 人を動かすには他人と同じことをやっていたのではダメで,どんな小さなことでも”工夫”なり”戦略”なりが必要だ,ということを教えられました 今そういうクレバーなチラシ配布員は見かけません.お陰様で受け取ることはありません

ということで,わが家に来てから今日で738日目を迎え,横浜音楽祭のビニール袋を前に何やらブツブツ言っているモコタロです

 

          

            ご主人さまは横幅に,いや,横浜に音楽を聴きにいったようだ

 

  閑話休題  

 

昨夕,横浜みなとみらいホール(小)でフォーレ四重奏団のコンサートを聴きました プログラムは①ブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」,②ムソルグスキー「組曲”展覧会の絵”」(編曲:フォーレ四重奏団&グリゴリー・グルツマン)です 「フォーレ四重奏団」はドイツのカールスルーエ音楽大学を卒業した4人のメンバーが1995年に結成したピアノと弦楽による四重奏団です 第一ヴァイオリン=紅一点のエリカ.ゲルトゼッツァー,ヴィオラ=サーシャ・フレンブリング,チェロ=コンスタンティン・ハイドリッヒ,ピアノ=ディルク・モメルツという4人のメンバーは,結成から20年あまり変わっていないとのことです

フォーレ四重奏団の演奏は1日(土)にトッパンホールでモーツアルトとブラームスの「ピアノ四重奏曲第2番」を聴いたばかりですが,両曲とも素晴らしい演奏でした 横浜でのプログラムはCDにも録音しているブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」と,初めてピアノ四重奏版で聴くムソルグスキーの「展覧会の絵」なので期待が高まります

 

          

 

みなとみらいホールの大ホールは何度か聴いたことがありますが,小ホールは初めてです 大ホールと同じ建物の6階にあり,全440席のこじんまりしたホールです.自席は14列4番,左ブロック右から2つ目です.会場は文字通り満席です

会場の照明が消えて4人のメンバーが登場しますが,紅一点の第1ヴァイオリン・エリカさんが松葉杖をついて現れたのには驚きました どうやら左足を痛めたようです 演奏に悪影響が出ないか心配です

1曲目はブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」です ブラームスはピアノ四重奏曲を3曲作っていますが,20代前半の1855年頃 同時に着手し,第1番は1861年9月に完成しました.この曲は彼らのCDで予習しておいたので,全4楽章のメロディーが一通り頭に入っています

 

          

 

この曲は,第1楽章「アレグロ」,第2楽章「間奏曲:アレグロ・マ・ノン・トロッポ」,第3楽章「アンダンテ・コン・モート」,第4楽章「ジプシー風ロンド:プレスト」から成ります 第1楽章は冒頭ピアノの印象的なメロディーから入りますが,様々なメロディーが出現しブラームス独自のほの暗い情熱を帯びた音楽が展開します 重厚な音楽は さながら交響曲を聴いているかのようです 第2楽章のメランコリックな音楽,第3楽章の深い感動の音楽に続き,第4楽章のジプシー風ロンドを迎えます この楽章に至って,今まで抑えていた感情を一気に爆発させるがごとく,4人は情熱的な演奏でブラームスのロマンティシズムを表出します 圧倒的なフィナーレでした 

若き日のブラームスの情熱や悲哀が込められた素晴らしい演奏でした 会場いっぱいの拍手に4人はカーテンコールで呼び戻されますが,エリカさんの入退場には松葉杖が使われるので,何度も呼び戻すのはお気の毒です.それでも彼女は笑顔で拍手に応えていました.プロですね

 

          

 

休憩後の1曲目は1日のトッパンホールでも演奏した細川俊夫の「『レテ(忘却)の水』ピアノ四重奏のための」です 今回は聴くのが2度目ということもあって,彼らの演奏を通じて「音は水のメタファーである」という作曲者の考えがより良く理解できました 演奏後,会場から細川氏がステージに呼ばれ大きな拍手を受けました

最後の曲はムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』です この日演奏するのは,ムソルグスキーが1974年1月に画家で建築家のヴィクトル・ハルトマンの遺作展を見て感銘を受け,その印象をピアノ音楽として同年6月に作曲したものを,フォーレ四重奏団とグリゴリー・グルツマンがピアノ四重奏用に編曲した版です

この曲は,展覧会の会場内の移動を表わす「プロムナード」を随時挟みながら 10枚の絵を音楽で表現していきます プロムナードは4回出てきますが,ピアノが中心となって演奏されるものもあれば,弦楽器が中心となって演奏されるものもあり,それぞれ工夫が凝らされています 「ピドロ(牛車)」「カタコンベ」「死せる言葉による死者への呼びかけ」などのゆったりとしたテンポの曲と,「卵の殻をつけた雛の踊り」のようなテンポの速い曲との対比が鮮やかで,同時にピアニッシモからフォルティッシモまでの音域の幅がとても広い(ダイナミックレンジが広い)ことに気づきます

最後の「バーバ・ヤガー(鶏の足の上に建つ小屋)」から「キエフの大門」に至るフィナーレは圧巻で,オーケストラに匹敵する迫力でした こんなに面白い「展覧会の絵」を聴いたのは初めてです

オリジナルのピアノ独奏による演奏とも,ラヴェルのよるオーケストラ編曲版とも違う,ピアノと弦楽三重奏による独特の色彩感が魅力です 弦楽器はヴァイオリン,ヴィオラ,チェロが各1挺と少ないため,オーケストラと違って個々の楽器の特性が際立って現れます とくに第1ヴァイオリンからは金管楽器(トロンボーンなど)の音が聴こえてきて驚きました 全体的には,弦楽器が自由に演奏して,ピアノが締めるべきところを締めているという印象でした

4人はアンコールに,トッパンホールでも演奏したメンデルスゾーンの「ピアノ四重奏曲第2番ヘ短調」から第4楽章「フィナーレ」を超スピードで演奏 それでも鳴り止まない拍手にベートーヴェンの「ピアノ四重奏曲 変ホ長調作品16」から第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」を演奏しました 私はこの曲を初めて聴きましたが,まるでモーツアルトのようで,とても良い曲だと思いました

 

          

 

サイン会があることを見越して,家からブラームス「ピアノ四重奏曲第1番,第3番」とモーツアルト「ピアノ四重奏曲第1番,第2番」のCDの紙ジャケットだけを引き抜いて持っていきました 2曲のアンコールを聴いた後,すぐにロビーに出てサイン会の列に並びました 今回は2番でした

サインを求めると,なぜか4人ともジャケットを横にしてサインをしています 4つのサインが揃ったろころで,あらためて見てみたら,それぞれの頭の上にサインしたのでした 脚の痛さにもめげず素晴らしい演奏をしてくれて,笑顔でサインに応じる車椅子姿のエリカさんが痛々しかったです

 

          

 

          

 

          

 

それにしても,横浜は遠いです 巣鴨の自宅から横浜のホールまでドア・トゥ・ドアで約1時間半,交通費は往復で約1600円もかかります サインをもらって地下鉄・JR乗り継ぎで家にたどり着いたのは23時でした 今回のコンサートはそれに十分値する素晴らしい公演でしたが,そう頻繁に聴きに行けるところではありません これからも厳選したいと思います         

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「男はつらいよ 寅次郎恋歌」「男はつらいよ 柴又慕情」を観る~クラシック音楽を必ず使う山田洋次監督

2016年10月05日 07時54分41秒 | 日記

5日(水).昨日,ミニスーパーで買い物したのですが,小ぶりのレタスが何と1個295円もしました.295円ですよ,奥さん  最近の天候不順の影響でしょうか  変動相場制というよりも天候相場制ですね,とくに野菜は

話は180度変わりますが,一昨日,玄関に ブーツも含めて娘の靴だけで9足も出ていたので,「玄関が靴だらけで九靴だね」と言ったら,昨日2足減っていました まさか2足3悶で売り飛ばしたのではないだろうな 

ということで,わが家に来てから今日で737日目を迎え,ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大隅良典・東京工業大学栄誉教授の「オートファジー」(植物や動物が細胞内で不要なたんぱく質を分解して再利用する)について無い知恵を巡らせて考えているモコタロです

 

          

               ディズニーランドにもあったね・・・・・あれはファンタジーか!

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「メカジキのソテー」と「生野菜のサラダ」を作りました 最近,魚料理が少ないので方針転換しました.サラダには295円のレタスも入っています

 

          

 

  も一度,閑話休題  

 

現在,池袋の新文芸坐では「渥美清 没後20年 日本中を笑いとペーソスで包んだ男」の特集を組んでいます 昨日,山田洋次監督「男はつらいよ 寅次郎恋歌」と「男はつらいよ 柴又慕情」の2本立てを観ました 「男はつらいよ 寅次郎恋歌」は1971年公開の114分の作品です.池内淳子がマドンナとして登場,喫茶店のママを演じています

 

          

 

喫茶店を営みながら女手ひつとで子供を育てる貴子に思いを寄せる寅さんですが,いつものパターンで決して結ばれません お墓で写真を撮るときに「はい,笑って」と言って顰蹙をかったりします.このシリーズではお馴染みの,さくら=倍賞千恵子,おいちゃん=森川信,おばちゃん=三崎千恵子,博=前田吟,印刷工場のタコ社長=太宰久雄,御前様=笠智衆たちが,それぞれの個性を発揮していますが,寅さん以外で私が一番好きなのは初代おいちゃんを演じた森川信です 懲りずに片思いの恋に陥る寅さんの背中に「ばかだねぇ~」「あ~やだやだ」と言って頭を抱えるシーン,「まくら さくら持ってこい」とさくらに言うシーンは何度見ても笑ってしまいます 彼こそキング・オブ・コメディーです

 

          

 

ところで,「男はつらいよ」シリーズでは必ずと言ってよい程クラシック音楽が使われてます 貴子の営む喫茶店で流れていたのはショパンの(多分)マズルカ そしてヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ(皇帝円舞曲か?)でした また,荒川土手で寅さんが子供たちと戯れるシーンではヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「春の声」が流れていました

2本目の「男はつらいよ 柴又慕情」は1972年公開の108分の作品です 吉永小百合がマドンナとして登場,頑固な父親に結婚を反対されて悩む歌子を演じています ほとんどのレギュラー・メンバーが健在の中,おいちゃんが2代目の松村達雄に代わっているのが寂しいです 森川信はこの年の3月26日に亡くなっています おいちゃんはその後 松村達雄から下条正巳に代わりましたが,私は心の底から森川信こそ「男はつらいよ」のおいちゃんだと思っています

この映画でも写真の撮影シーンが出てきますが,寅さんは「チーズ!」と言うべきところを「バター!」と言って旅行中の3人の女性を笑い転げさせます

 

          

 

この作品ではヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「ウィーンの森の物語」が3人の女性の旅先で何度か流れます チターの演奏が旅情を誘います そして,「寅次郎恋歌」でも使われたヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「春の声」が旅の青空を背景に流れます 山田監督にとってこの曲は「喜びの象徴」のような曲なのかも知れません よほどこの曲がお気に入りのようです

 

          

 

それにしても,どうしてこう可笑しくて ちょっぴり哀しいんでしょうか すぐにカッとなり「おまえが不幸の原因だ 今すぐ出ていけ」と怒鳴るおいちゃん.「おいちゃん,それを言っちゃあ おしめえよ いいとも,出てってやるよ」と啖呵を切って,カバンを持って「風の吹くまま気の向くまま・・・」と出ていく寅さん.「どこへ行くんだい?さくらちゃん 引き留めておいでよ」と言いつつ 自分では引き留めようとしない やさしいおばちゃん,いつも真面目な正論を吐いて寅を反省させる博.本人が居るのに気が付かないで「寅さん また振られたんだって」と余計な一言を言って寅さんを怒らせ ボコボコにされるタコ社長.結局最後に寅さんが頼るただ一人の肉親・妹のさくら.毎回入れ替わりで出演し 寅さんを振って去っていくマドンナたち この人たちの絶妙なバランスがこのシリーズの魅力なのだと思います

なお,「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」(マドンナ=太地喜和子),「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」(同=浅丘ルリ子)の2本は明日,6日上映されます

 

          

          

 

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読売日響・来シーズン定期会員継続へ/萩耿介著「イモータル」を読む

2016年10月04日 07時35分08秒 | 日記

4日(火).わが家に来てから今日で736日目を迎え,景況感の変化と自分のエサ代との相関関係を考えて眠れなくなったモコタロです

 

          

           デフレ脱却目指すと ぼくのエサ代が値上げになるし フクザツ

 

  閑話休題  

 

昨日,夕食に「豚バラに,甘酢ネギ胡麻だれ」と「生野菜,ツナ,マグロのハムのサラダ」をつくりました 「豚バラ~」にカイワレ大根が合います

 

          

 

  も一度,閑話休題  

 

読売日響から来シーズンの定期会員継続案内が届きました 現在私はサントリーホールでの「定期演奏会」の会員ですが,サントリーホールが来年4月から9月まで大規模改修工事のため休館することに伴い,来シーズンの4月~9月の公演は会場が池袋の東京芸術劇場に代わります 読響はこの間の代替席を提示してきました.その代替席は1階センターブロックではなく,右サイドの少し高い位置にある席(バルコニー風)なので条件としては悪くないと思います ただし,サントリーホールでの現在の席が1階センターブロック通路側のS席ながら,すぐ後ろがA席と条件が良くないので,もっと前の席に移りたいと思います  おそらく通路側席は取れないと思いますが,出来るだけ通路に近い席という条件を付けて変更したいと思い,サントリーホルでの公演のみ「座席変更希望」で申込書を提出しました

ところで,定期演奏会のラインアップで注目すべきは,5月のブルックナー「交響曲第5番」(指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ),11月のメシアン「アッシジの聖フランチェスコ」(指揮:カンブルラン),12月のマーラー「交響曲第3番」(指揮:コルネリウス・マイスター),1月のブルックナー「交響曲第6番」(指揮:カンブルラン)でしょう

 

          

 

          

 

          

 

          

 

欲を言えば名曲シリーズの4月公演でユリアンナ・アヴデーエワがグリーグの「ピアノ協奏曲」を演奏するので,これを定期公演に持ってきて欲しかったと思いますが,その辺は経営戦略の一環なのでしょう

読響定期会員継続を前提に来年のコンサート・スケジュールを来年の手帳に記入してみました すると,現時点で日時が重なっているコンサートが次の4公演あることが分かりました

①1月13日(金)午後7時開演  NHK交響楽団定期演奏会(NHKホール)と都響ニューイヤーコンサート(サントリーホール)

②5月19日(金)午後7時開演  NHK交響楽団定期演奏会(NHKホール)と読売日響定期演奏会(東京芸術劇場)

③6月3日(土)午後2時開演   東京交響楽団オペラシティシリーズと新日本フィル定期演奏会(トリフォニーホール)

④6月24日(土)午後6時開演 東京交響楽団定期演奏会(ミューザ川崎)と読売日響定期演奏会(東京芸術劇場)

毎年のこととは言え,何とかしなければなりません しかし③と④は何とか振り替えられそうですが,①と②は振替先候補の日時に別のコンサートが入っているので,①②とも どちらかの公演を諦めなければなりません 

話は360度変わりますが,コンサート・スケジュールを管理することを第一目的として あれこれ迷いに迷って購入したのはこの手帳です

 

          

 

利用方法の一例として,私の来年1月のスケジュールをご紹介します 最初に月別のスケジュール表があるので,コンサートの日程を入れてピンクのマーカーで印を付けます.映画の予定はイエローのマーカー,他の予定はグリーンのマーカーを付けます これを見ることによってダブル・ブッキングのようなチケット購入ミスを防ぐようにしています この手帳の良い点は,この月別スケジュールが翌年3月まで付いていることです すでに3月の(それ以降も)チケットが手元にあるからです

 

          

 

次に,週別のスケジュール表があるので,例として1月9日の週を見ていただくと,左ページにコンサートの予定(開演時間と会場)を,右ページにその公演のプログラムや演奏者などをメモしています 私はこれを見て,前もって演奏曲目をCDで予習する計画を立てます

 

          

 

もちろん,スマホでスケジュール管理することも可能ですが,私にはピンク,イエロー,グリーンの色分けによって ひと目見てすぐにスケジュールが把握でき,モノとして後に残る手帳の方が向いていると思っています 手帳の種類こそ違いますが,上記の記入方法によってン十年間スケジュール管理をしてきました.今更 変えられません

 

  最後の,閑話休題  

 

萩耿介著「イモータル」(中公文庫)を読み終りました 萩耿介(はぎ こうすけ)は1962年東京生まれ.早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒.2008年に『松林図屏風』で第2階日経小説大賞を受賞しています この本は2012年6月に『不滅の書』というタイトルで刊行された作品を改題・改稿した作品です

 

          

 

滝川隆は,インドで消息を絶った兄が残した『知恵の書』の持つ不思議な力に導かれ,なぜ兄は消息を絶ったのかを調べるべく自らインドへ旅立つ インドに赴いた隆は死んだはずの兄の霊と会話し,考える・・・・・

「はじめにウパニシャッド.サンスクリット語で書かれたヒンドゥー教の根本聖典.数ある聖典の中でも哲学的な思索が多く,古代インドの思想書と言われている それをダーラー・シコーというムガル帝国の息子がペルシャ語に翻訳させた.シコーは弟との政争に敗れ,処刑されてしまうが,ペルシャ語訳はヨーロッパに伝えられ,フランス人の学者デュペロンがラテン語に翻訳した.これをドイツの若き哲学者ショーペンハウアーが読んで感動し,代表作「意志と表象としての世界」を完成させる さらにその著作は日本に入って翻訳され,研究者ばかりか青年層の一部で今なお読み継がれている

兄は1992年12月,アヨーディヤーのモスク破壊事件に巻き込まれて死んでいた しかし,隆は兄の残した『知恵の書』に導かれ兄と会話をすることを通して哲学の神髄に触れることができた

この本を読んでいると,不思議な感覚に囚われます ひと言で言うと日本人が書いた作品という感じがせず,海外の哲学に詳しい文学者が書いた作品を日本語に翻訳したような印象を持ちました それは話が時空を超えて展開するからかも知れません

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新国立オペラでワーグナー「ワルキューレ」を観る~現在望みうる最高のキャスト!飯守+東京フィルも健闘!

2016年10月03日 07時46分26秒 | 日記

3日(月).わが家に来てから今日で735日目を迎え,お兄ちゃんの大学院の参考書を前に何やら白ウサちゃんに話しているモコタロです

 

          

             磁性の研究かぁ そういうご時勢なのかなぁ ぼくも自省して生きよう!

 

  閑話休題  

 

昨日,新国立劇場でワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」第1日「ワルキューレ」を観ました 新国立劇場の正面玄関では勅使河原茜氏による大きな生け花が出迎えてくれました

 

          

 

出演は,ジークムントにステファン・グールド,フンディングにアルベルト・ぺーゼンドルファー,ヴォータンにグリア・グリムスレイ,ジークリンデにジョゼフィーネ・ウェーバー,ブリュンヒルデにイレーネ・テオリン,フリッカにエレナ・ツイトコーワほか.合唱=新国立劇場合唱団,管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団,指揮=飯守泰次郎,演出=ゲッツ・フリードリヒです

 

          

 

主神ヴォータンは人間女性との間に双子の兄妹をもうける.妹ジークリンデは人間界の男フンディングの妻となるが,再会した兄ジークムントと愛し合うようになる 宿敵の2人の男は決闘となる ヴォータンは息子を勝たせようとするが,正妻で婚姻の神フリッカに反対され,彼を敗北させよと,愛娘ブリュンヒルデ(ヴォータンと知恵の神エルダとの間の娘)に命じる しかし,娘が命令に背いたため,ヴォータンはフンディングにジークムントを殺害させる ジークムントとの子供を宿したジークリンデは森へ逃れる.ヴォータンは愛娘を罰するため岩山に眠らせ,炎で囲み永遠の別れを告げる

 

          

 

会場はほぼ満席です.第1幕の幕開けは嵐の夜の場面です.弦楽器の荒々しい響きが激しい嵐を表出します.フンディングの家に嵐を避けた一人の男(ジークムント)が入ってきて,フンディングの妻(ジークムント)が迎え,その後フンディングが帰宅して3人の会話(歌)が始まる訳ですが,舞台が左に15度くらい傾いているので,歌いながら動くことが難しそうに見えます それでも,ジークムントを歌うアメリカ出身のステファン・グールドは,さすがに世界を股にかけて活躍するヘルデンテノールだけあって,余裕で力強くも美しい歌声を聴かせてくれました また,ジークリンデを歌うミュンヘン出身のジョゼフィーネ・ウェーバーはまだ若手ですが,声に力があり会場の隅々まで美しいソプラノが響き渡りました フンディングを歌うオーストリア出身のアルベルト・ベーゼンドルファーは深みのあるバスです

第2幕も傾斜舞台になっています.ヴォータンと正妻フリッカ,ヴォータンとエルダとの娘ブリュンヒルデが登場します ヴォータンを歌うアメリカ出身のグリア・グリムスレイは,新国立オペラで「サロメ」のヨハナーンを歌った人ですが,ワーグナー歌手としてはピッタリの伸びのあるバス・バリトンを聴かせてくれました フリッカを歌ったロシア出身のエレナ・ツィトコーワは新国立オペラではお馴染みの歌手ですが,美しいメゾソプラノで人気があります ブリュンヒルデを歌ったスウェーデン出身のイレーネ・テオリンは,迫力ある歌声で,この役が当たり役かも知れません

第3幕は空港の滑走路のような舞台ですが,やはり傾斜舞台です ワルキューレたちが「ワルキューレの騎行」の音楽に乗って勇ましく歌います

演出で「おやっ?」と思ったのは,第1幕のフンディングの家で,フンディングがジークムントを部屋に残して去る時に部屋の明かりを消すのですが,壁に据え付けられたリモコンのようなものでスイッチを切るシーンです このシーンだけが時代から浮いていました.これはゲッツ・フリードリヒの演出の一環なのだろうか

演出ということで印象に残るのは,各幕での傾斜舞台の他には,第3幕のフィナーレの場面です.ヴォータンが娘ブリュンヒルデを(岩の上に)眠らせ,山に火をかけるシーンですが,ステージ中央のブリュンヒルデに三角錐の青色のライトが当てられ,ヴォ―タンの合図とともに舞台の周囲に炎が走り,それとともに炎から煙が立って舞い上がるのです そして静かに幕が降ります.幕が降りた後,客席側にも煙が上空に立ち込める中,会場のそこかしこからブラボー,ブラビーの掛け声とともに大きな拍手が巻き起こりました

さて,今回の公演の最大の貢献者は,豪華な歌手陣もさることながら,飯守泰次郎指揮東京フィルの演奏だったと言えるのではないか オペラの場合,オケがオーケストラ・ピットに入って演奏する関係で規模が小さくなり,音が痩せがちになりますが,この日の飯守+東京フィルの演奏は第1幕冒頭から第3幕が閉じるまで,終始厚みのある迫力に満ちた演奏を展開しました 歌手が歌わないシーンではオケ自らが感情表現豊かに物語を語っていました

 

          

 

この公演を聴くに当たり下のCDで予習しました しかし,毎日コンサートがあったために時間的な余裕がなくて第1幕の途中までしか聴けませんでした

 

 

          

 

この日の演奏は午後2時に始まり,カーテンコールが終わったのは7時半頃,2回の休憩を挟んで5時間半の大興行でした

 

          

 

この日の公演は,現在望み得る最高の歌手陣,飯守泰次郎指揮東京フィルの大健闘,ゲッツ・フリードリヒのシンプルな演出とともに印象深いものになりました

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フォーレ四重奏団でモーツアルトとブラームスの「ピアノ四重奏曲第2番」を聴く~トッパンホール

2016年10月02日 09時34分32秒 | 日記

2日(日).昨日,恐れていた封書が届きました 差出人は東京交響楽団です.中には来シーズンの定期演奏会と東京オペラシティシリーズの会費振込請求書が同封されていました そう言えば会員継続の手続きをした覚えがあるな,と思い出し,仕方ないので近くのコンビニから払い込みました

ということで,わが家に来てから今日で734日目を迎え,レストランから早々と届いた おせち のパンフレットを見て何やら言いたげなモコタロです

 

          

            もう 来年のおせちを注文する季節になったの? 早っ

 

  閑話休題  

 

昨夕,トッパンホールでフォーレ四重奏団のコンサートを聴きました プログラムは①モーツアルト「ピアノ四重奏曲第2番変ホ長調K493」,②細川俊夫「”レテ(忘却)の水”ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,ピアノのための」(日本初演),③ブラームス「ピアノ四重奏曲第2番イ長調」です

フォーレ四重奏団は,カールスルーエ音楽大学の卒業生4人が1995年に結成したピアノ,ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロによる世界でも珍しい常設のピアノ四重奏団です 名前の由来は,「室内楽こそ音楽の唯一の真の形式であり,個性のもっとも真正な表現なのである」と語った作曲家ガブリエル・フォーレに因んでいます.彼らはアルバン・ベルク四重奏団に4年間師事していますが,その時の経験が基礎になっているようです ピアノ=ディルク・モメルツ,第1ヴァイオリン=紅一点のエリカ・ゲルトゼッツァー,ヴィオラ=サーシャ・フレンブリング,チェロ=コンスタンティン・ハイドリッヒというメンバー構成です

 

          

 

自席はG列17番,センターブロック右通路側です.会場入口のポスターには「SOLD OUT」のステッカーが貼り出されていました

モーツアルトの2つの「ピアノ四重奏曲」は,オペラ「フィガロの結婚」を挟んだ1785年と86年に,友人で作曲家でもある出版者ホフマイスターの依頼によって作曲されました ちょうどこの頃はピアノ協奏曲第20番~25番が作曲された時期で,最もモーツアルトが充実していた時期でした 第2番は1786年6月3日に完成されましたが,2曲のピアノ四重奏曲はこのジャンルの模範となりました

4人のメンバーが登場し配置に着きます.第1ヴァイオリンのエリカ・ゲルトゼッツァーは上が黒,下が赤の鮮やかなステージ衣装です 彼女の椅子だけ座面が異常に高く設定されています

この曲は第1楽章「アレグロ」,第2楽章「ラルゲット」,第3楽章「アレグレット」から成ります.第1楽章に入るや否や,生き生きとした音楽が展開します 第1ヴァイオリンのエリカを見ていると,ヴァイオリンを弾きながら,ときに会場の方を向いて「モーツアルトっていいでしょ」と語り掛けるような仕草を見せます.天性の明るさを感じます 第2楽章を聴いていると,それぞれの楽器の音色がとても美しいことに気が付きます そのうえでアンサンブルが奏でられるのですから,その美しさは比類がありません 第3楽章はピアノと弦楽器との掛け合いが楽しく喜びに満ちたフィナーレを迎えます

会場から惜しみない拍手が送られます

2曲目は細川俊夫「『レテ(忘却)の水』ピアノ四重奏のための」です この曲は2015年にフォーレ四重奏団のために作曲されました.細川氏は「始まりも終わりもなく流動する静かな河のような音楽を書きたい.そして音は,水のメタファーである」と語っていますが,その言葉を音にしたのがこの作品と言えるでしょう

曲は冒頭,弦楽器の細かなトレモロから始まりますが,弦を擦る音が,まるで尺八を吹いているような音で,ビックリしました 次第にピアノを伴って,作曲者の言う「流動する静かな流れ」が音で表現されていきます

最後の音が消えて,しばらくの間会場は無音状態になりました 日本初演の曲です.だれも,この曲がどこで終わるのかを知らないのです 演奏者たちが弓を降ろしてリラックスの姿勢になって初めて,会場から拍手が湧き起こりました 会場後方で聴いていた作曲者・細川俊夫氏がステージに呼ばれ,4人とともに大きな拍手を受けました

 

          

 

休憩後はブラームス「ピアノ四重奏曲第2番イ長調」です ブラームスはピアノ四重奏曲を3曲書いていますが,この曲は1861年10月に完成しました.第1番がト短調で劇的な性格を持っているのに対して,この第2番はイ長調で明るく伸びやかです 第1楽章「アレグロ・ノン・トロッポ」,第2楽章「ポーコ・アダージョ」,第3楽章「スケルツォ」,第4楽章「アレグロ」から成ります

4人の演奏を見て聴いていて思うのは,彼らは喜びに満ち溢れて演奏しているということです.その気持ちが聴いている聴衆に演奏を通じて伝わってきます とくにブラームスの第2番ではその様子が顕著でした.1+1+1+1=5にも6にもなるアンサンブルの妙を聴く感じです 一人一人の演奏技術のレベルが高いことに加え,お互いの演奏に耳を傾けながら演奏をしていく姿勢によって絶妙のアンサンブルが奏でられます 第4楽章のフィナーレは圧倒的でした

会場割れんばかりの拍手とブラボーに,チェロのハイドリッヒが日本語で「アリガトゴザイマシタ.アンコールにメンデルスゾーンの2番の4楽章を演奏します.ベリー・ファスト」と言って,4人でメンデルスゾーンの「ピアノ四重奏曲第2番」から第4楽章を演奏,息つく暇もない程のスピードで駆け抜けました 実を言うと,私は初めてフォーレ四重奏団のコンサートのアンコールでこの曲を聴いて,このクァルテットにのめり込んだのでした

それでも鳴り止まない拍手に,2曲目の演奏の準備に入りました.どうやらチェロのハイドリッヒがアンコール用の楽譜を舞台裏に忘れて来たようで,日本語で「ちょっと待ってね」と断って楽譜を取りにいきました.そしてブラームスの「ピアノ四重奏曲第3番」から第3楽章「アンダンテ」をロマン豊かに演奏し,再度大きな拍手を受けました

この日の演奏は,アンコールも含めて,今まで聴いたコンサートの中で最も印象に残る公演の一つになるでしょう

 

          

 

          

 

余談ですが,前日のブログに書いたサスペンダーおじさんは,このコンサート会場にも現れ,センターブロックの最前列で聴いていらっしゃいました.珍しく目立っていませんでした 私は今日,新国立オペラでワーグナーを聴きますが,サスペンダーおじさんも同じプルミエ会員なので3日連続でお目にかかることになります

 

          

コメント
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