キカクブ日誌

熊本県八代市坂本町にある JR肥薩線「さかもと駅」2015年5月の写真です。

昔ばなし大学入門コース 第四回

2020年02月12日 | └─恩師
全6回コースも後半に入りました。
前回の講義で、演習の課題を共に取り組む仲間ができて、この2か月あまり、LINEなどでやり取りを続けてきました。それぞれ栃木、埼玉、神奈川に住んでいて、会って話をする機会はなかったので、受講後に打ち上げに行って親睦を深めました。
また次の課題も3人で取り組むことにしましたし、ますます面白くなりそうです。


カンパーイ!

今回の講義内容で一番面白かったのは、「異類婚姻譚」論
世界中の異類婚姻譚を比較研修した「昔話のコスモロジー」をテキストにした講義でした。時間に限りがあり、水平比較はそれほど掘り下げられませんでしたが、垂直比較の講義はゾクゾクしました。


日本の昔話に「蛇婿入」という話型があり、あらすじは・・・


・年頃の娘のもとにある若者が夜な夜な通い娘妊娠。
・親が相手は誰かときくが娘には相手の正体は分からない。
・次に男が来たら糸を通した針を男の着物に刺せと入知恵され、その通りにする
・男が帰った後、糸をたどると山奥の穴(or沼)に達し相手が蛇だとわかる。
・蛇の子を産んでは大変だから、盗み聞きした方法で堕胎させる
・めでたしめでたし


そして、これと似た話が「古事記」中つ巻に「三輪山伝説」として収録されています。
ダイジェストを三輪明神のWEBサイトから引用します。

「美しい乙女、活玉依姫いくたまよりひめのもとに夜になるとたいそう麗しい若者が訪ねてきて、二人はたちまちに恋に落ち、どれほども経たないうちに姫は身ごもります。姫の両親は素性のわからない若者を不審に思い、若者が訪ねてきた時に赤土を床にまき、糸巻きの麻糸を針に通して若者の衣の裾に刺せと教えます。翌朝になると糸は鍵穴を出て、後に残っていた糸巻きは三勾(みわ)だけでした。さらに糸を辿ってゆくと三輪山にたどり着きました。これによって若者の正体が大物主大神おおものぬしのおおかみであり、お腹の中の子が神の子と知るのです。この時に糸巻きが三巻き(三勾)残っていたことから、この地を美和(三輪)と名付けたということです。 」

(この文章に蛇は出てきませんが、「大物主大神」は蛇の姿をした神様です。)


昔話の「蛇婿入」と古事記の「三輪山伝説」がもともと同じ話なのは、すぐに分かります。でも話は一緒でも語り手の評価は真っ二つなのが非常に興味深いところです。

蛇婿入りでは、「蛇の子なんてとんでもない!」ですが、
古事記では、「蛇神様の子だ!神の子だ!」といって崇めるのです。

講義によると、714年に成立した古事記に対して、今に伝わる昔ばなしができたのは室町、江戸時代だろうとのこと(もちろん、昔話はもっと古い時代から語り継がれているわけですが、いま私たちが聞ける話のかたちとしては室町~江戸の時代成立)。8世紀の日本人は蛇の子を神の子だと考える自然観(宗教観)を持っていたが、時代が下ってくるにつれ、蛇の子は汚らわしいと考える自然観を身に着けてしまったといえる。

では、どこにその転換点があったか?
やはりそれは、仏教伝来、仏教の流布が日本人の宗教観を変えてしまったと考えられる。と。古事記編纂時にはもちろん仏教は伝わっていましたが、庶民にまで浸透するのは、10世紀前後らしいです。
それが昔話の世界ににじんでくるのだということが、エキサイティングでした。
昔話には、人類の歴史が刻まれているのですね。





ところで、「蛇婿入り」にはもう一つ別の話型があって、これも全国に伝わっているらしいです。あらすじは以下の通り。

・農夫の爺が田んぼに水が来なくて困っている
・「水を入れてくれたら娘を嫁にやる」とつぶやくと蛇が水を入れてくれた。
・3人の娘にそのことを話すと末娘だけが承諾する
・娘は嫁入り道具に長わらじと水瓶を要求、蛇とともに家を出る
・途中の川で水瓶を背負った蛇を川に落とす、蛇が流され娘は帰宅
・めでたしめでたし

あ、これは猿婿入だった。
蛇婿は娘に針で殺されるんだった。

こちらの話には、もう少し複雑な考察があり、
爺さん(父親)は蛇は神様と考え、約束を守らねばと考えている。
一方娘たちは、蛇は単なる動物ととらえ、人より下等なもので結婚などとんでもないと考えている。
田んぼに水を入れてくれた恩のある蛇を殺しても「めでたしめでたし」となる。
日本の宗教観、自然観の揺らぎが一つの話の中に登場している。

とこうなるらしいです。
おもしろ~~い!