26年以上前、週刊朝日が“花のうた草の囁き「季によせる」”と題する連載を始めた。
1ヶ月1結社で、そのトップバッターが、“中村汀女と「風花」の人々”だ。
記念すべき第1号のスクラップがないのが惜しまれる。
万両や裏窓にいつも誰か居る 汀女
隣家にしろ、向かいの家にしろ、他人の家の裏窓に揺らぐ人影というものは、いつも気になるものである。
互いの生活を窺いあうなどといった気持ちなどさらにないのだが、それとなき人の気配を感じ、何かしら安堵するのである。私たち主婦が、ふだんしきりに動くのは裏部屋であろう。そうした意味では裏窓は表よりも女性にとって、生活の場そのものといえる。家事に追われている世の主婦たちの喜びや憂いが、裏窓に映る影によって感じられるのだ。庭に万両の実の色づく頃はひとしお・・・。
万両に垣結(ゆ)ひてより新たな日 速水草女
万両や年重ね来て知る幸も 古荘公子
万両や父せしほどは掃かぬ庭 新井悠二
万両や旧家守る姉山里に 田中三重子
万両や離宮御座所は吹き通し 山本照子
万両や薪小屋トタン新しく 若倉文子
万両や幼(おさな)も祝(はぎ)の言葉述べ 森鼻徳子
万両やモデル庭園街なかに 丸山叡子
万両の地を掃き朝をつつしめり 西野敏子
わが家にも“万両”があった。狭い庭に20年近くあるのに、私はうかつにも存在すら気づかずにいた。まして、7月に咲く白い花など見たことがない。