北陸新幹線が開通し東京から金沢まで“かがやき”に乗って 2 時間 28 分というのはやはり魅力だ。金沢へ金沢へと人がなびくのも無理はない。
その金沢で、“つば甚”と言えば一流の料理店だが、以前は旅館でもあった筈。
週刊朝日が昭和 58 年に始めた“ひいきの宿”にあった筈と探してみたらはたしてあった。
ゆかしい町・優雅な宿 観世 栄夫(能・観世流)
金沢は僕の大好きな町である。犀川と浅野川の二つの流れをはさんだ三つ岡を中心にこののどかな町並みがある。戦災を受けなかったこの町は、百万石の城下町の美しさ、ゆかしさをそこなわずに今に伝えている。黒い瓦屋根の間に、年を重ねた樹木がこの町の美しいたたずまいをひときわ引き立てている。
「つば甚」は、犀川を眼下にのぞむ崖の上にある。もとは、前田家の刀の鍔を造る家だったという。先祖が、料理に長けていてこのような仕事を始められたと聞いたが、家のすみずみまで心が行き届いていて気持ちがいい。
僕は、スリッパで、日本の家の中を歩くのはどうも好まない。スリッパをはかなくとも足袋がよごれないほど、家の中も、町の空気も、清浄に保たれているという自信の故か、この家にはスリッパというものがなく、これが、まことにすがすがしい。
奥の座敷から犀川越しに眺める金沢はいつ見ても美しい。春は、緑に映える町並みに川水が静かに流れ、冬は、一面の白い雪景色の、冷たそうな川中に、あでやかな加賀友禅をさらすのが夢の中の風景のように美しかった。もとより料理は、海も山もそれぞれおいしいものにことかかず、おいしい地酒で飲む楽しみは、何物にもまさる思いである。
前田家のお抱え鍔師だった 3 代目鍔屋甚兵衛が、宝暦 2 年に小亭を営んだのが
「つば甚」の始まりとか。現在の亭主は 16 代目。廊下も客室もたっぷりと広く、
さらに銀箔の天井や桐の欄間、南天の床柱、螺鈿の取っ手など、老舗のぜいたくと
風格を味わわせてくれる。
●住所 金沢市寺町5-1-8
●電話 0762-41-2181
●交通 金沢駅から車で 10 分
●料金 ( 1 泊 2 食付) 35,000円~
料理 15,000~25,000円
昼食 10,000円~
●客室 12 室