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狼は自分の眉毛を抜いて、さし出したと。
「これは、狼の眉毛といって、これをかざしてみれば
その人間の正体が見える。
お前はどう見ても、真人間だ。この眉毛でひとつ、お前の
女房を見てみるがいい」と言い残して、狼は穴の中へ
入ってしまったと。
男はもらった眉毛を大事に持って山を降り、こっそりと
自分の家へ入って、寝ている女房の顔を見たと。
狼の眉毛をかざして、しみじみと見たと。すると驚くなかれ、
女房の顔は牛に見えたと。古ぼけた牛に見えたと。
「おれの女房の正体は牛だったのか。見た目は人間なのに、
正体は牛。そうだったのか。これで納得した」と、男はまた
こっそり家を出て、できるだけ早く村から遠ざかろうと、
夜道を急いだと。
男は別にどこといって行く当てはなかったのだが、ともかく
自分の村から遠ざかりたい一心で、歩き続けた。
夜が明けてしばらくたった時、男は大きな田圃で田植えを
している所に行き遇ったと。大勢の娘達が田植えをしていたと。
男は、狼の眉毛をかざして見たところが、いるいるいる、
猫やら犬やら、鶏やら豚やら、狸や貉(むじな)や、長い尻尾を
垂らした狐やらが、いるいるいる。
人間の姿をしてはいるが、正体が動物の娘達が、もくもくと
田植えをしていたと。
「こうしてみると、真人間というのは、めったにいないんだなあ」
とつぶやいた所、「お前さん、何をしているんじゃ」と、声を
かけられたと。
振り向くと、一人の老人が立っていたと。男は狼の眉毛で老人を
見ると、何と福々しい福の神に見えたと。
[狼の眉毛]
http://www.digital-lib.nttdocomo.co.jp/data/
c/html/B1_00210.html
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日本の古い文学や作品は情趣豊かで、その上様々な教訓を
含んだものが多い様に感じます。
この「狼の眉毛」はよく知られたものの一つですが、色々と
考えさせられる所があります。
西洋における古い秘教的図版などに、人間的欠点や汚点を
各動物をそれらの象徴として用いているものがあります。
一つの解釈では、孔雀は虚栄心を、蛇は嫉妬を、蛙は吝嗇を
象徴しているとされていますが、この「眉毛」は「人面獣心」
という状態の、まさに心を映すものであったのかもしれません。
自分をもし、この「狼の眉毛」で眺めた場合、そこには何が現れる
かが気になるところです。
狼は自分の眉毛を抜いて、さし出したと。
「これは、狼の眉毛といって、これをかざしてみれば
その人間の正体が見える。
お前はどう見ても、真人間だ。この眉毛でひとつ、お前の
女房を見てみるがいい」と言い残して、狼は穴の中へ
入ってしまったと。
男はもらった眉毛を大事に持って山を降り、こっそりと
自分の家へ入って、寝ている女房の顔を見たと。
狼の眉毛をかざして、しみじみと見たと。すると驚くなかれ、
女房の顔は牛に見えたと。古ぼけた牛に見えたと。
「おれの女房の正体は牛だったのか。見た目は人間なのに、
正体は牛。そうだったのか。これで納得した」と、男はまた
こっそり家を出て、できるだけ早く村から遠ざかろうと、
夜道を急いだと。
男は別にどこといって行く当てはなかったのだが、ともかく
自分の村から遠ざかりたい一心で、歩き続けた。
夜が明けてしばらくたった時、男は大きな田圃で田植えを
している所に行き遇ったと。大勢の娘達が田植えをしていたと。
男は、狼の眉毛をかざして見たところが、いるいるいる、
猫やら犬やら、鶏やら豚やら、狸や貉(むじな)や、長い尻尾を
垂らした狐やらが、いるいるいる。
人間の姿をしてはいるが、正体が動物の娘達が、もくもくと
田植えをしていたと。
「こうしてみると、真人間というのは、めったにいないんだなあ」
とつぶやいた所、「お前さん、何をしているんじゃ」と、声を
かけられたと。
振り向くと、一人の老人が立っていたと。男は狼の眉毛で老人を
見ると、何と福々しい福の神に見えたと。
[狼の眉毛]
http://www.digital-lib.nttdocomo.co.jp/data/
c/html/B1_00210.html
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日本の古い文学や作品は情趣豊かで、その上様々な教訓を
含んだものが多い様に感じます。
この「狼の眉毛」はよく知られたものの一つですが、色々と
考えさせられる所があります。
西洋における古い秘教的図版などに、人間的欠点や汚点を
各動物をそれらの象徴として用いているものがあります。
一つの解釈では、孔雀は虚栄心を、蛇は嫉妬を、蛙は吝嗇を
象徴しているとされていますが、この「眉毛」は「人面獣心」
という状態の、まさに心を映すものであったのかもしれません。
自分をもし、この「狼の眉毛」で眺めた場合、そこには何が現れる
かが気になるところです。