宮地神仙道

「邪しき道に惑うなく わが墾道を直登双手
または 水位先生の御膝にかけて祈り奉れ。つとめよや。」(清水宗徳)

垂直に伸びる梯子

2006年07月29日 | Weblog
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狼は自分の眉毛を抜いて、さし出したと。
「これは、狼の眉毛といって、これをかざしてみれば
その人間の正体が見える。
お前はどう見ても、真人間だ。この眉毛でひとつ、お前の
女房を見てみるがいい」と言い残して、狼は穴の中へ
入ってしまったと。

男はもらった眉毛を大事に持って山を降り、こっそりと
自分の家へ入って、寝ている女房の顔を見たと。
狼の眉毛をかざして、しみじみと見たと。すると驚くなかれ、
女房の顔は牛に見えたと。古ぼけた牛に見えたと。

「おれの女房の正体は牛だったのか。見た目は人間なのに、
正体は牛。そうだったのか。これで納得した」と、男はまた
こっそり家を出て、できるだけ早く村から遠ざかろうと、
夜道を急いだと。

男は別にどこといって行く当てはなかったのだが、ともかく
自分の村から遠ざかりたい一心で、歩き続けた。

夜が明けてしばらくたった時、男は大きな田圃で田植えを
している所に行き遇ったと。大勢の娘達が田植えをしていたと。
男は、狼の眉毛をかざして見たところが、いるいるいる、
猫やら犬やら、鶏やら豚やら、狸や貉(むじな)や、長い尻尾を
垂らした狐やらが、いるいるいる。
人間の姿をしてはいるが、正体が動物の娘達が、もくもくと
田植えをしていたと。
「こうしてみると、真人間というのは、めったにいないんだなあ」
とつぶやいた所、「お前さん、何をしているんじゃ」と、声を
かけられたと。

振り向くと、一人の老人が立っていたと。男は狼の眉毛で老人を
見ると、何と福々しい福の神に見えたと。

[狼の眉毛]
http://www.digital-lib.nttdocomo.co.jp/data/
c/html/B1_00210.html

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日本の古い文学や作品は情趣豊かで、その上様々な教訓を
含んだものが多い様に感じます。
この「狼の眉毛」はよく知られたものの一つですが、色々と
考えさせられる所があります。

西洋における古い秘教的図版などに、人間的欠点や汚点を
各動物をそれらの象徴として用いているものがあります。
一つの解釈では、孔雀は虚栄心を、蛇は嫉妬を、蛙は吝嗇を
象徴しているとされていますが、この「眉毛」は「人面獣心」
という状態の、まさに心を映すものであったのかもしれません。

自分をもし、この「狼の眉毛」で眺めた場合、そこには何が現れる
かが気になるところです。
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