12月1日に公表された庁舎整備有識者会議・耐震性能分科会の報告に対し、議会参考人の齋藤幸雄氏より、分科会報告に対して問題点を指摘する見解が提出されました。
分科会報告には多くの疑問点がある、耐震分科会は中立的でない
齋藤幸雄氏の見解は、16ページに及ぶものでしたが、その後、見解の「要旨」だ出されましたので紹介します。
*齋藤幸雄氏の見解の要旨について、要約したものを、日本共産党市議会だより2023年1月1・8日号裏面で特集しています。
(齋藤氏の見解・要旨の原文)
有識者会議・耐震性能分科会報告書に対する見解(要旨)
2022.12.19 齋藤幸雄
2022.12.21 追記
報告書の内容は H29 および R2 の結果をほぼ追認するもので、一方、専門家の意見はほぼ
全否定する内容である。しかし報告書には多々疑問点があり、以下はその要旨である。
最大の問題は、熊本地震の結果より、仮定だらけの解析結果を重んじている点にある。
熊本地震で本庁舎は、なぜほとんど被害を受けなかったのかについて、全くその原因を
解明することが出来ていない。
1 H29 で行われた耐震性能評価は必要だったのか?
・報告書では、「防災拠点とし耐震性能を保持できているか検討が必要」としている。
しかし、震度 6 強を記録した熊本地震で、超高層建築物である本庁舎にほとんど被害
がなかったことから、通常は耐震性能評価が必要とは全く考えられない。当然のこと
ながら、防災拠点としての耐震性能を十分保持していると判断できるからである。
・熊本地震での最大速度(地震の強さを示す指標)は本震が前震の約 1.65 倍である。
・J-SHIS 地震ハザードステーション(2020 年版)による地震動予測では、地表の震度
(今後 30 年間に 3%の確率で起きる)は震度 6 弱であり、地表での最大速度は熊本地震
(本震)と比較すると約 0.9 倍である。50 年間では最大速度(2%の確率で起きる)は
本震の 1.2 倍弱である。この程度であれば、予想される層間変形角は最大で1/200 を
少し超える程度であり、十分な耐震性能を有していると判断できる。
2 地盤調査(設計時)結果から判断して、耐震性能評価は必要だったのか?
・超高層建築物については、耐震性能評価基準のようなものはなく、耐震性能評価の手
法すら決められていない。H29 では 2000 年の告示の改正で告示波が規定されたのが耐
震性能評価を行う要因としている。
・告示波(人工的に作成した模擬地震波)は、作成するための前提条件が存在する。
地盤が成層地盤で、解放工学的基盤の深度に大きな変化はないことが条件であるが、
本敷地地盤で設計時に早稲田大学に依頼して行われた調査(本庁舎直下で唯一)では、
「複雑な地盤」との結論で、告示波を作成するための前提条件を満たしていないため、
耐震性能評価の要因にはならない。
3 H29 報告書の調査結果の信頼性について
・耐震性能評価の基本中の基本は、現存する建築物に対するものでなければならないが、
H29 では設計図により耐震性能評価が行われた。設計図と竣工図を比較すると、主に
地下階の形状変更や杭の大々的な変更があるが、市当局からどのような資料が受託者
に渡されたのかを明らかにする必要がある。
・設計図による耐震性能評価は、結果の信頼性を著しく損なうもので、上記以外に変更
がなかったのかを含めて調査が必要で、あってはならない事態である。
4 杭の実長と安全性について
・解析に用いた杭長に疑問があり、明らかにすることは大変重要である。
R2 では竣工図からすべての杭先端の深度は 29m として解析を行っている。
3 回の地盤調査から推定した杭支持層には大きな傾斜があり、南端の位置にある杭の支
持層の深度は推定で 23m~24m 程度で、N 値 50 以上の堅固な風化岩であり、当時のベノ
ト工法でこの層を 5m 以上も掘削するのは無理ではないかと考えられる。
・設計図および竣工図に記されている杭長は、杭径ごとに記されていて、全ての杭の個々
の実長は不明であるが、記述内容からすべての杭長が同じであることはあり得ない。
市当局においては杭の施工記録を調査し、各杭の杭長の確認が必要である。確認ができ
れば、恐らく H29 も R2 も解析のやり直しが必要になると思われる。
5 地中連続壁(図面では地下連続壁:以下の文章では連壁)について
熊本市等の考え方(一部省略):
地中連続壁は、工事施工のために築造された土留め壁であるとともに、完成後も土圧や
水圧を負担するものとして計画されております。 また、仮設構造物である地中連続壁の
耐震要素としての本設利用について、大臣認定時の設計図及び構造計算書に記載がござ
いません。 そのため、H29 調査では、不確定な要素については極力排除すべきと考え、
地中連続壁の効果を見込まずに検討を行いました。 なお、ご指摘を踏まえた調査(R2 調
査)を実施しましたところ、大地震時の地盤変位による応力が、地中連続壁の耐力を大
幅に上回り、先に地中連続壁が破壊されることから、 地中連続壁による杭及び建物本体
への地震時応力低減効果は見込めないという結果となりました。
・「仮設構造物である地中連続壁」との記述はありえない。
・連壁は、大臣認定時の設計図には「地下連続壁」の記載があり、伏図にも記載されてい
る。詳細図は添付しなかっただけで、設計図には記されている。
・上記の内容は、筆者が令和元年 8 月 2 日に議会特別委員会で見解を発表して以来、熊本
市が初めて表明した内容である。「H29 調査では、・・・・見込まずに検討を行いました」
は、分科会報告書の内容に合わせて行った作文であることは、これまで市が作成したリ
ーフレットを見れば明らかである。
「分科会の見解(一部省略)」
地中連続壁に関する注意事項については、大臣認定時の設計図書には記載がなく、耐震
要素として設計に考慮されていないことは間違いない。 H29 調査のように、不確定な要
素について極力排除して耐震安全性を評価することは、既存建物の耐震診断の考え方と
して危険を回避する上で必要な判断であり、一般的に行われていることから、適切であ
ると判断した。
・上記の分科会の見解は報告書で最大の疑問点である。「熊本市等の考え方」に合わせた
もので、特に「耐震要素として設計に考慮されていないことは間違いない」は、設計を
知らない人の考えである。「注意事項」が大臣認定時の設計図書に書いていないのは、
設計として、連壁がなくても本体が安全な設計とし、耐震安全性をより確かなものとす
るために、当初から図面に書かれたもので、設計で考慮していなければ、連壁を設計図
に書くことは絶対になく、設計者の真意を全く理解していない。
・設計図で、耐震壁は W25 のように壁厚だけで耐震壁との表記はないが、連壁は WK1、WK2
と表記している。サフィックスの K は耐震壁を表していて、設計者の意図は明確である
・連壁は本体仕様(土留めや耐震壁)として施工され、それを確認した結果として「注意
事項」が記されている。報告書では、「不確定な要素」と断定しているが、なぜ不確定
なのか。決定した施工者が耐震壁として本体使用できる技術評定を取得していることを
確認した上で、詳細を決定し耐震壁として利用できるようにしたものである。
・連壁が「不確定な要素」なら、R2 の調査はそもそも必要なかったと言える。
6 R2 報告書について
・分科会報告書では、R2 報告書についての専門家からの疑問に対して、答えていない重要
事項があり、R2 報告書について十分な検討がなされていないのは明らかである。
・R2 で、連壁は直交方向地震力によって、接合部で破壊するとの解析結果は、不適切な手
法により行われているとの専門家からの意見に対するが見解が示されていない。
・連壁の建物外から面外方向に地震力が作用している図では、連壁の上部には建物の地下
部分が存在しているために、この部分では変形できない。
・「建物直下の地盤には多数の杭が存在し、建物外の地盤とは地震時の挙動が明らかに異
なるのに、これを考慮していない」との指摘が、「専門家からの意見」で欠落している。
従ってこの問題に対する分科会の見解がない。
・連壁が面内方向に地震力を受けた場合、ユニット間でずれが生じるとしているが、この
場合も建物と連壁の連結が行われているので起こりえない。
(告示波に関する精度について)
「専門家からの意見」として以下のように記述されている
整理表 No64:位相特性(ランダム(RAN))の場合、応答変位が H29 調査と比較して 15%
~20%も小さくなっている。この原因の究明が必要である。(ランダム位相は市販のソ
フトで1万通り程度作成可能のために大きな違いが出る可能性があるが、まだよく分か
っていない)
しかし、元の資料:令和 3 年 3 月 15 日の資料(筆者作成)では、
R2 での自由地盤系の応答解析結果から、 位相特性(ランダム(RAN))の場合、応答変
位が H29 と比較して 15%~20%も小さくな っている。以下は同じ文章
上記の「専門家からの意見では、元の資料の冒頭部分がカットされているのが分かる。
4
R2 での「自由地盤系」とは表層地盤のことであり、H29 との比較は、表層地盤での増幅
度が H29 と R2 でどの程度の違いがあるかを比較したもので、上部構造の応答について
比較したものではない。
上記に対して、
熊本市等の考え方:
上部構造の応答は、連成系解析により杭の密集効果などを考慮したことで低減できたと
考えます。 なお、上部構造の応答は低減できたものの、 層間変形角の目標値 1/100 を
満足することはできませんでした。
分科会の見解:
H29 調査に比べ R2 調査が上部構造の応答を低減できた要因は、連成系解析により杭の
密集効果などを反映したことによると考える。
「熊本市等の考え方」は、「専門家からの意見」を(故意に?)違ったものにして、見解
を示しており、分科会の見解はそれを追認したもので、分科会の本質が端的に表れている。
分科会で、R2 を自らチェックしていれば、上記の間違いに気づくはずで、追認ありき
ではないか。
7 解析の妥当性の検証
・動的解析の結果の妥当性を検討するためには、弾性時(建物が損傷を受けない程度の地
震動レベル)の解析結果が基本になる。
時刻歴応答解析では、レベル1地震動に対する検討が該当する。
・特に平常の設計業務では行うことのない、R2 で行われた連成系応答解析では、稀に起き
る地震動での解析は是非必要である。また、R2 では作成された告示波の波形すら掲載さ
れておらず、作成された告示波がデジタル値だけで妥当かどうかは判断できない。
・上記のように解析の基本が疑われる事態であるが、分科会の見解は「R2 で行われている
方法は、実務において一般に行われている方法であり、特別に検証が必要な高度な方法
ではないので問題ない」としていて、常識が疑われる。
本来分科会が中立的な立場でなくてはならないが、これでは熊本市等と分科会が癒着し
ていることは疑いようがない。
最後に、特に全体を通して、熊本市等も分科会も、連壁を不確定要素として耐震性能評
価から除外することは妥当としているが、そうなら R2 調査は必要なかったことになる。
耐震性能分科会が中立的な立場で見解を述べていないことは明らかで、今後については、
中立的な立場で見解を述べることができる別の有識者に再度検討依頼する等、議会で議
論されることを望むとともに、議会で反論の機会を与えていただきたい。