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世界の野菜を旅する (講談社現代新書) |
玉村 豊男 | |
講談社 |
食べる話が好きだ。
ただしレストラン・ガイドの類はあまり読まない。
料理本の本は利用するがそこまで。
好きなのは食材を巡る話。
そして、野菜が好きだ。
築地に通っていた頃は魚屋さんより八百屋さんととても仲良くなった。
玉村豊男の「世界の野菜を旅する」(講談社現代新書)を楽しめないはずがない。
ブッキッシュな知見と著者本人が旅の途中で出会った体験的な
食べ物の話が絡み合い、それに自分の畑での栽培記が加わる。
更に料理の実践も。世に肉と魚の論は多いが、野菜についてこんなに
おいしい本は珍しい。
気づいてみれば、この人は名前からして豊年満作を想起させるめでたさだ。
キャベツについて、ジャガイモについて、またトウガラシとナスについて、
サトイモについて、最後は珍しくテンサイ(甜菜)について、正に博覧強記、なにを
選んでも話は増殖して留まるところを知らない。
なにしろ好きな話題だから、この本を読むのはなんとなく会話めいた体験になった。
一方的なつぶやきと共に読んでいる。
沖縄人がコンブをたくさん食べるに至った歴史を僕は知っている。
甜菜糖といえば日本の砂糖生産の七十五パーセントはサトウキビではなく
甜菜から作られる。ニンジンの原種といえば沖縄に今もあるチデークニはずいぶん
それに近く思える。しかもこの鉱脈、まだまだ宝が埋まっていそうだ。
トマトがない、タマネギがない、豆類がない、なによりも穀物がない。
池澤夏樹 私の読書日記