「ウィルスフリーの苗木」
先日、葡萄農家から聞いたのだが、最近は葡萄の苗木もウィルスフリーの苗木になっているそうだ。
このウィルスフリー苗木。その名のとおり、ウィルスに耐性を持っているため、感染病に掛かりにくい。葡萄のウィルスというは深刻で、 リーフロール病、 味無果病、 モザイク病、 フレックなどが発生すれば壊滅的状況になる。このウィルスフリーは、ウィルスに耐性があり、その病に罹りにくいという。
実は、フランスではウィルスに罹りにくい葡萄の品種というのが、遺伝子組み換え技術を使用して、フランス農業試験研究所がライン川の近くの農場で生育実験を行っていたという事実もある。しかし、今のところは許可されていないのだが、このウィルスフリー苗木は遺伝子組み換えではなく、熱処理や組織培養法などの既存技術を使用して開発している。
ある意味、葡萄農家、特にワイン用葡萄農家にとっては救世主のような苗木なのだが、その葡萄農家に言わせれば、本来葡萄の木の寿命は20年以上で、大切に育てていれば70年以上も保つらしい。だが、この熱処理されたり、組織培養された苗木の寿命は短く、数年で新しい苗木に変える必要がある。
ここにも、種屋、苗屋だけが儲かる仕組みがある。農家は次々と種や苗を買い続けなければならなく、利益が出るのは販売数を劇的に増やした種苗屋だけである。この状態で留まっていればまだいいが、やがて遺伝子組み換え苗木も許可されるようになり、開発資金が豊富な一部の多国籍バイオ企業のみが、利益を独占するようになる。
しかも、遺伝子組み換えの場合は、その葡萄の収穫を行い続ければ、売上の数%を毎年支払続けなければならないという契約まで付いてきてしまうのだ。
幸い、今のウィルスフリー苗木はそういう契約は存在しないが、とにかく短命で生命力の衰えた葡萄の苗木を延々と買い続けなければならないという構図には変わりない。この樹木から生まれる果実にどのくらいの活力があるのだろうか。数値化できないために、なんとも比較はできないが、少なくとも僕は食べたいという気持ちが若干失せてくる。
糖度を上げることばかりを追求する最近の果実栽培には、少々食傷気味だが、そもそも葡萄も林檎も日本の果物ではない。葡萄は奈良時代、西洋林檎は明治時代に渡来したもの。それを日本の気候で育てるのだからかなり無理がある。それに比べ、みかんは日本書紀や魏志倭人伝にも登場するし、柿も縄文時代には食べられていた。
こうした日本伝統の果物は農薬も肥料もなくても育つ。何故なら、長い年月を経た在来種だからである。葡萄を否定することは全くないが、今の時期、みかんや柿を沢山たべてもらいたいものだ。
