在イタリア、ソムリエワインノートとイタリア映画評論、他つれづれ appunti di degustazione

ソムリエ 20年、イタリアワインのテイスティングノートと、なぜか突然のイタリア映画評論、日本酒、日本茶、突然アートも

Viva la sposa di Ascanio Celestini イタリア映画 花嫁万歳

2015-11-26 20:35:50 | 何故か突然イタリア映画
Viva la sposa 花嫁万歳
監督 アスカーニオ・チェレスティーニ



面白いといえば面白かった。なかなかよくできていると思った。外国人が多い上映会の中で(東洋人は私だけ)受けていたので、外国人に受けないというわけでもない。しかし、私が日本人であるからか、どちらかというと昔からフランス系の映画が好きだからか、個人的にはまずまずの評価である。
現在のイタリア映画、つまりヴィスコンティやフェリー二のいた頃のイタリア映画ではなく、最近のイタリア映画のイメージの映画のような気がした。

全体にあまり受けなかった前々回の「ア・ビッガー・スプラッシュ」、意外なことにかなり評価の高かった前回の「アリアンナ」と比較する。
アリアンナは非常に地味、改革の余地がある作品だが、心に残る。
ア・ビッガー・スプラッシュにはイタリア人の好きなはちゃめちゃな感じがなく、平坦にストーリーが流れていく。

主人公は監督でもある。劇場の演技派俳優とのことで、演技は実にうまい。ぶつぶつ、だらだらと独り言も含め言う感じは、映画の中の役だけではなく、自身もそうだと上映後の会見の中で見て取れたが、はまっていて見事である。
主演女優は大好きなアルバが演じているが、主人公の一人勝ち的なストーリーなので、出番も少なく、彼女の素晴らしい演技があまり見れなかったのは残念。

主人公のニコラは大酒呑み、ローマ郊外に住み、ローマ郊外のやや非条理的な日常が描かれる。彼と常に一緒にいる少年は、たぶん彼の子供かもしれないが、父親はわからず、母親は全然若くないのだが、娼婦を仕事にしていて、友人である。ニコラに惹かれているのはアルバ演じるソフィア。ローマ郊外の、汚いローマ語を見事に話す。
友人も含めて、携帯をわざとバイクにぶつけてはした金を揺すったり、車に火をつけて保険金をだまし取ったり、何時ぞやの映画のように銀行強盗はしないものの、みんな必死に生きている。
ここで主人公演じる監督の演技が見事で、見ていて同情すら湧くくらい。
ただ、人を間違って轢いてしまっても大事にならず終わるとか、娼婦が思い余ってヒモを殺してしまってもなんともならないとか、結構クエスチョンマークが出た。しかし、笑って過ごし、見事な演技に集中し、あまり深く考えないようにしたほうがいい。

ところで、今から7年前にジュゼッペ・ウーヴァの事件というのが北イタリアで起こっている。友人と酔っ払って道路で若干いたずらをしただけなのに、軍隊警察に連行され、ひどい暴行を受け、翌日死亡したという事件である。
会見中もウーヴァの話が水分出たが、このエピソードを描きたかったという思惑があるように感じた。
それは、監督自身も小さな盗みをして警察のお世話になったことがある、ということもあるようだ。

そして、タイトル。なぜ花嫁万歳なのかというと、主人公のエピソードにわずか交わるところも出てくるが、所々で、ウェディングドレスを着たアメリカ人がローマ市内、観光名所を徘徊しているのが出てくる。
自由の象徴、ファンタジーの象徴などなどいろいろ言われているようで、監督はいろいろな解釈を楽しんでいるよう。
撮影中、街中で、特に東洋人(日本人も含む)が大勢セルフィーしていたと楽しそうに語った。
しかし、考えてみる。ドレスを着て一人で(花婿はなし)町を徘徊する女性がいれば、精神病医行きだが、これも深く考えてはいけない。

という、はちゃめちゃなストーリーが織り交ざった、若干お涙頂戴、全体に愉快な話だが、とにかく主役監督の演技が見事なので退屈させない。
こういうところがイタリア人に受けるのだと思う。

なお、主人公のニコラが大酒呑みと言っても、飲んでいるのはサンブーカ。蒸留酒にアニスやニワトコ、香草などを混ぜたやや甘いリキュールで、これをビンごとガブ飲みする。ローマ近郊の町で生産され、いかにもローマ的なリキュールである。だから取り上げということだが、本当は全然好きじゃなんだけど、との話に笑い。
それから全編に出てくるオンボロ車(最初は白で途中から赤)は自分の車とのこと。こういうエピソードまで聞けてしまうのがこの上映会の醍醐味。

Tre baci di Hayez

2015-11-23 15:35:16 | 何故か突然アート
Tre il bacio di Hayez
三つの接吻 アイエツ



ミラノで待望のアイエツの展覧会が始まった。スカラ座前の広場にあるギャラリー・イタリアにて2月までの開催である。アイエツに絞った展覧会は初めての開催とのことで、嬉しいことにかなりの入り。
アイエツは日本ではほとんど知られていないと思うが、イタリアではまずまず、ミラノではかなり根強い人気のある画家である。

(なお、アイエツには「三つの接吻」という作品はないので悪しからず)

1791年、ベニスのあまり裕福ではない家庭の5人兄弟の末っ子に生まれ、裕福な叔父夫婦のところに里子に出された。叔父の趣味が美術品収集、彼自身も絵の才能に恵まれ、絵画を勉強、アカデミーに入学、18歳(1809年)でコンテストに入賞したという経歴を持つ。
その後は、ミラノのブレラ絵画館のディレクターを務めたこともあり(1850年)、生涯のほとんどをミラノで過ごした。1882年、91歳で没。

そのアイエツの作品が、間仕切りで作った部屋も含め、10の部屋に分かれて展示されている。これだけの作品が一堂に会したというのは迫力があり、感動ものである。
展示の目玉は3つの「接吻」。しかし、その他の作品も素晴らしい。
アイエツは、面白いことに、似たような作品、関連した作品を残しているが、それが一堂に見られるというのは美術好きにとっては至福である。
くだんの「接吻」もそうだが、「ロミオとジュリエット」、「接吻」と「抱擁」と、10年の違い(接吻が1823年、抱擁が33年)で描かれたものが隣に並んでいる。



「復讐の誓い」と「密告の手紙」も。復讐の方は、よくわからないと思うが、黒いベールがまあそれは本物のようで綺麗。人物の心理描写が半端ではなくうまい。



なお、まるで3Dかと思ったのはヴィーナスのお尻。女の私でも触りたくなるくらい。


しかし、そこまで当時の人を魅了したアイエツも、いくらコンクールの入賞するほどの腕があったとはいえ、初期の作品はちょっとかわいい。うーん、若干人体のバランスが悪いかも?と思う作品もある。

さて、目玉の3つの「接吻」。「キス」とも呼べるが古式豊かに「接吻」と呼びたい。
ブレラ絵画館の最後の方の目玉作品であるが、それが3つあるとは知らなかった。なるほど調べると2つまでは出てくるが、3つは出てこない。
見比べると面白い。さて、まず、青い服と白い服のバージョンがある。
ちなみに、アイエツがこれらを描いたのはほとんど70歳で、若者が描いたものではない。おじいさんが描いたものである。おじいさんがこれだけロマンチックな、ロマンチシズムの代表作を描くのは信じられないとも思えるが、これだけ高名なアーティストであったということは相当持てただろうし、本人も年齢よりかなり若かったはず。
しかし、さらには政治的な意味も含まれているとのこと。
最初に描かれた(ブレラの作品)のは1859年はイタリア独立戦争の真っ最中で、フランス(青い服の女性)とイタリア(赤い服の男性)の密約を描いたものとのこと。
1861年版は女性の服が白に変わっているが、イタリア王国が成立し、国旗(白と赤、緑は、男性の袖口など)を暗示したものだそうだ。
67年版は再び女性の服が青になっているが、ドレスのでスカートのデザインが若干違うからか、微妙にバランスが変わってきているし、階段には白い布が落ちている。
もちろん影も違うし、左にいる人物の影も違う。



上から 1861年、1859年、1867年

どれが一番良いか、好きか。うーん、困るのだが、一番最初のブレラのものがいちばん緊張感があるような気もする。




Arianna di Carlo Lavagna イタリア映画 アリアンナ

2015-11-19 17:45:05 | 何故か突然イタリア映画
Arianna アリアンナ
監督 カルロ・ラヴァーニャ



先週の映画はちょっと期待したがやや期待はずれ、今週の映画はあまり期待していなかったのだが、逆に良かった。
派手さが全くないので大ヒットには絶対にならないだろう。しかし、心に残る、正確には、忘れてしまっても(いや、忘れてしまうだろう)ふっと何かのきっかけに、ああ、そういえばあの映画を見た、と思い出す映画の1本だと思った。

19歳の少女アリアンナにはまだ生理が来ていない。ホルモン治療を何年もしているのだがその成果はあまりなく、相変わらず痩せぎすで、胸もあまり発達していない。
夏、両親と一緒にボルセナ湖畔(ローマの北に位置)の家でバカンスを過ごすことになった。3歳までアリアンナが暮らした田舎家で、その後は一度も行ったことのないところである。両親が町へ戻らなければいけなくなった時、いとこ(女の子)も幼馴染(男の子)もいるし、と言って一人で残る決心をする。

わずか記憶があるかないかの田舎家で一人過ごしているうちに、徐々に自分自身を発見していく。この年代の少女らしく、いとことは性についても語り、幼馴染と体験もする。しかし、未発達のアリアンナの体は苦痛を感じ、また、女性の快感を感じることもない。

父親が医者なので、かかっている産婦人科医は父の友人である。
ふとしたことから、別な医者にかかってみることにした。生理がない、3歳の時にヘルニアの手術を受けた、ホルモン治療をしているけれどあまり成果が見られない、など相談し、近くの町の病院で精密検査を受けることになった。そこには手術のカルテが残っているはずとのアドバイスを受け、昔のカルテを取り寄せて見る。
そこで発見したのは、自分は両性具有者として生まれ、3歳の時、女性になる手術を受けたということだった。

最初は、未発達の身体を持った女性が、両親とのいたって普通の確執も含めて自分を発見していく、というだけのストーリーかと思った。
ところが全然違った。
最後、手術の決定に悩んだであろう両親の話し合いに自分も参加したかったと心でつぶやくところ、そして、参加した女性のワークショップで、自分は子供も産めないし、女性の快感も感じないだろうが「喜び」に似たようなものは感じたことがある、と語るところが印象的だった。

監督は、CMや美術系、ブルガリやグッチなどの短編などを製作したという若い新進監督、初めての長編とのこと。
主役のアリアンナも全く無名の、というより、業界で働いているある人の娘さんだそうだ。すごい抜擢である。
この主役はかなりすごい。淡々としていて、大きく表情を変える場面はないものの、最初から最後まで、多くの部分で裸、裸、裸。性未発達で本人が恥ずかしがっていない役なので、いたってさらっとした裸ではあるが。

ただ、途中、若干退屈する場面もあった。どんでん返しが起こるようには思えない雰囲気の作りだったからだ。
確かに映画の最初にちょっとしたキーワードはあったが、若干平坦な画面がそれを忘れさせてしまう。
終わって、上映会にお誘いいただいている映画関係ベテランのD氏と会話する。こういう会話は実に面白い。D氏曰く、フラッシュバックが織り込まれているともっと良かった、最後に何か起こるかもと思わせるような感じで、幼い時のうっすら残っている記憶と自分自身の発見とを関連付ける感じで。なるほど。さすが。そう、何か物足りない感じがしたのは、そのあたりだったと思う。
監督初めての長編ということで、次に期待。

7 nebbiolo Valle d'Aosta e Piemonte ネッビオーロ7種

2015-11-19 07:39:00 | Lonbardia, Valle d'Aostaロンバルディア他
7 nebbiolo; Valle d'Aosta e Piemonte ネッビオーロ7種 ヴァッレダオスタとピエモンテ



Valle d’Aosta Rose’ Larmes du Paradis 2014 Cave Cooperative de Donnas コペラティーヴァ・ドンナス
Valle d’Aosta Nebbiolo Picotendro 2014 La Kiuva ラ・キーワ
Valle d’Aosta Donnas 2011 Cave Cooperative de Donnas コペラティーヴァ・ドンナス
Valli Ossolane Nebbiolo Superiore Prunent 2012 Cantine Garrone カンティーナ・ガッローネ
Bavarese Nebbiolo 2011 CIeck チェック
Crema Etichetta Bianca 2011 Ferrando フェッランド
Crema Riserva 2011 Cantine Produttori Nebbiolo di Carema プロドットーリ・カレーマ

アルマンドの今年のコルソが始まった。今年の課題はネッビオーロ。
数年前にバローロ、バルバレスコを中心に行ったことがあるが、今回はもっと広範囲である。
欲をいえば、以前のようにバローロとバルバレスコのみに焦点を当てて欲しいとも思うのだが、そうなるとコルソ自体の値段が大きく上がるのは当然だし、これだけ広範囲でネッビオーロに焦点を当てるのも面白いのでとにかく参加。
全部で9回のコルソはヴァッレ・ダオスタからヴァルテッリーナまで。北ピエモンテだけでも2回、いや、3回に分かれている。かなり面白くなりそうな予感。

初回はヴァッレ・ダオスタとピエモンテは北の北、ヴァッレ・ダオスタと隣接するカレーマが中心。

ヴァッレ・ダオスタはイタリアの中のフランス語圏で、州の 西側にモンブランを含み、フランスと国境を接している。
ピエモンテは「山の足」という意味だが、山とは当然アルプスで、やはり 州の北にはモンテローザなどそうそうたる山が控えている。
ヴァッレ・ダオスタの真ん中に、ドーラバルテア川という川が通り、川沿いに村々が続くのだが、川はやがてピエモンテへと流れていく。
その州界あたり、ヴァッレ・ダオスタ側にドンナス、ピエモンテ側にカレーマがある。

ヴァッレ・ダオスタからカレーマにかけて栽培されているネッビオーロの品種の中にピコテンドロというのがあり、ヴァッレ・ダオスタでは、通常ピコテネールとも呼ばれる。
ランゲ地方とは打って変わって山岳地帯になるので、栽培方法は棚式、それもかなりキツイ段々の棚式になる。
これはぶどうに太陽を当てることに有効だが、また、少ない土地の有効利用にもなっている。つまり、上でぶどう、下で穀物などの栽培が出来るからである。
この「山のネッビオーロ」から7種を試飲。



Valle d’Aosta Rose’ Larmes du Paradis 2014 Cave Cooperative de Donnas
ヴァッレダオスタ。やや明るい色合いの玉ねぎ色で、光沢がきれい。甘い感じの香りがかなり心地よい。フルーツに、わずか土っぽさが混じるが、ラベンダーやマンダリンなどのさわやかな香りも出ている。酸味があるというより、塩味がかなり強く、ちょっと意外。持続性もあり、値段も安く、とても好感の持てるロゼ。++(+)

Valle d’Aosta Nebbiolo Picotendro 2014 La Kiuva
ヴァッレダオスタ。名前の通り、ネッビオーロでもピコテンドロ100%で造られている。その樹齢が60年以上、100年になる樹もあるという。標高は400メートルから510mで、北の寒い地域である上に標高も高く、ランゲあたりのネッビオーロとは全く異なる。というか、これもネッビオーロ、ということである。
爪にはかなり透明感が出ている。香りはやや臭く、自然派を思わせる臭みが出ている。しかし、そこに森の木の実の香りが混じり、やや緑っぽい香り、柑橘風の香りも出ている。酸味が強く、細く長く続く。キーワのワインは、こういう土っぽい感じが出ているものもあり、これを好きか嫌いかは意見が分かれるところだと思う。+++

Valle d’Aosta Donnas 2011 Cave Cooperative de Donnas
ヴァッレダオスタ。ピコテンドロ90%にフレイザとネイレットが10%。樹齢はこれも平均50年。
爪はやはり透明で、色全体にガーネット色が出ている。香りはかなりきれい。花、フルーツ、森の木の実、柑橘、香草、タイム、ミネラルなどどれも強いわけではないが、交互にふっとよぎる。アタックも良い。酸味が綺麗に広がる中、甘さ(糖分ではない)もあり、持続性良し 、最後に柑橘風の香りが残る。+++(+)

Valli Ossolane Nebbiolo Superiore Prunent 2012 Cantine Garrone
ピエモンテ。ネッビオーロのプルネントという品種100%。これも樹齢40年から70年になるものもあるというので、かなり高齢。
色がやや濃いめ。フルーツ、スパイスにドライフルーツが感じられる。アルコールがやや上がってくるのが気になるが、そして、わずか、煙たい香りも奥底に混じっている。アタックはよく、タンニンを他のワインより感じる。+++

Bavarese Nebbiolo 2011 CIeck
ピエモンテ。爪の透明感の中にガーネット色を含。光沢が良い。フルーツ、スパイス、香りはやや期待はずれなのだが、味はとても良い。酸味とタンニンのバランスがよく、繊細なタンニンが心地よく、持続性も悪くない。+++(+)

Crema Etichetta Bianca 2011 Ferrando
ピエモンテ。これもまた樹齢50年平均。かなりガーネット色を帯びて、爪はオレンジ色がかるくらい。フルーツ、ラバルバロ、わずか柑橘、それも苦味を帯びたオレンジ、ヨード臭。塩味が感じられるが、酸と良いバランスが取れている。持続性はかなり良い。細く、細く、そしてエレガントに続く。
このワインは2年前にかなり古いヴィンテージも含めて試飲している。たかがカレーマと思うだろう。しかし、こういうワインこそがイタリアワインの底力を見せれくれるのだと思う。++++(+)

Crema Riserva 2011 Cantine Produttori Nebbiolo di Carema
ピエモンテ。爪はガーネット色、他より色がやや濃いめ。やや甘く、全体に太めのイメージ。コンフィのような甘さと、やや焦げた感じのイメージとが重なる。アルコールがやや上がってくるのか気になるかも。すっと口に入るが、酸が出てきて、タンニンは繊細。持続性はもう少し欲しいところ。+++(+)

A bigger splash di Luca Guadagnino イタリア映画 ア・ビッガー・スプラッシュ

2015-11-13 19:49:42 | 何故か突然イタリア映画
A bigger splash ア・ビッガー・スプラッシュ
監督 ルカ・グアダニーノ



たまたま監督がアメリカからの飛行機の接続に間に合わず、帰国が遅れ、出席できなかった。
そこで、代わりに、友人からの挨拶が上映前に一言あったのだが、外国では受けているのだが、イタリアでの反応はイマイチ、との紹介であった。
なるほど、これは面白い。イタリアでは受けないが、外国(つまりアメリカ中心)では受ける要素がどこにあるのか。
まだイタリアでは劇場公開されていない作品で、9月のベニス映画祭に出品されたものである。

最近のイタリア映画は、外国での上映が意識されてか、役柄を外国人とし、英語で作られるものが多くなってきている。
これも原作がそうであるからなのだと思うが、主要人物4人ともが外国人の設定で、英語での作品である。
外国人4人が、シチリアより南にあるパンテッレリア島で夏のバカンスを過ごす間の複雑な絡みにさらに事件が絡んでくるメドロラマ、ややエロチック、そして一応(と付け加えたい)スリラーである。

声が出なくなり引退を余儀なくされた元女性ロックスターが、自殺未遂経験のある若くてカッコイイボーイフレンドと夏のバカンスを過ごしている。その別荘にはプールがあり(原作の題名は「プール」)海が綺麗なパンテッレリア島なのだが、海のシーンはほとんどなくプールばかりである。
そこにロックスターの元恋人が娘を連れて突然やってくる。
ちなみに、この娘役が、この春話題になった「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」で注目されたダコタ・ジョンソン。
ここでは金髪で登場し、あまり「グレイ」の面影はないような気がするのと「グレイ」は見ていないのでどうなのかよくわからないが、この作品での演技は必ずしも良かったようには思えない。というより、非常にシニカルな雰囲気を漂わせる役なので、全体に無表情的だったからかもしれないが。

若い恋人はかなり性格の良い男で、失いたくないの、と言いながらも心が揺れ動く元ロックスター。
元恋人の方もこれまた性格が良く、元ロックスターを忘れられない。押しに押し、最後にはロックスターとのよりが戻る。
娘は、惚れる訳ではなく、ただの興味から若い男に近づいていく。
若い男の方は、元ロックスターに惚れているのではあるが、若干魔が差した感じで心が揺れ動きだす。

ここで、イタリア人が面白くないと思うかもしれない要素の一つを想像してみる。
いわゆる「悪人」がいないのである。
娘役がまあまあ相当するが、ただシニカルなだけで悪女ではない。
みんな良い人、でもなんだかこうなってしまう、という感じが変凡、平坦。画面がさらっと流れていくだけ。

事件は、元恋人と娘のバカンスが終わり、いよいよ明日出発という最後の夜に起こる。
若い男と元恋人がプールで喧嘩、格闘になり、若い男が元恋人を思い余って殺してしまうのである。
そこからは、画面とは別に結構コメディになった。
絶対にすぐにバレるよねーという設定なのであるが、移民がうろうろしているパンテッレリア島なので、別荘に侵入した移民との格闘の末に殺されたことで落ち着いてしまった。ありえない~
最後のシーン。大雨の中、パトカーがサイレンを鳴らして元ロックスターと若い恋人の乗っている車を追いかけてきた。
いよいよばれたかと思い、恐る恐る車を停める。
すると、事件の担当警官が、彼女にCDを差し出し、サインを求める。
ここまでくると完全にコメディ。

これくらいの男女の絡みはイタリアではいたって普通のことで、別に。。。という気もするし、いくらなんでも殺さないよね~と思ったり、あっけないハッピーエンドやら、最後のコメディやら、会話は最後の警官のセリフを除いてあとは全部英語だし、画面は綺麗で悪くはないのだが、イタリアで成功に繋げるのはやや難しいような気もした。
しかし、アメリカ人は、こういうコメディ的でもあり、ハッピーエンド的なところが結構好きなのかと想像してみる。