在イタリア、ソムリエワインノートとイタリア映画評論、他つれづれ appunti di degustazione

ソムリエ 20年、イタリアワインのテイスティングノートと、なぜか突然のイタリア映画評論、日本酒、日本茶、突然アートも

Balthus @Scuderie del Quirinale

2015-12-19 23:12:35 | 何故か突然アート
バルトュス展
クイリナーレのスクーデリエにて



クイリナーレ、正確にはスクデリーエつまりクイリナーレ宮殿(現大統領官邸)の元厩舎となる建物で、10月からバルトュスの展覧会が開かれている。
クイリナーレで行われる展覧会はかなり質が良い。場所もゆったりしているし、見応えがあるものが多いので有名である。
実はこの展覧会は2カ所に分かれての展示というのが触れ込みで、もう1箇所はローマのメディチ家の別荘、つまりスペイン階段の上からすぐのところ、現在のフランス・アカデミーとなっている建物。
こちらはまだ行っていないので、終わるまでに行かなくては。
ちなみに、ヴィッラ・メディチのフランス・アカデミーはバルトュスが生前所長を務めていたというところでもある。

ローマでこれだけ大々的なバルトュスの展覧会が開かれたのは初めてではないかと思う。
バルトュスは、フランスの画家として知られているが(と思っていた)父親はポーランドの貴族、母親はロシアのユダヤ人らしい。
そして、日本と馴染みがあるのは、日本の女性と結婚していたということかもしれない。
50代で20歳の女性と出会い結婚、子供(娘)もいて、年の差婚のハシリらしいが、2001年、夫の死後も夫人はまだ健在。

クイリナーレは10のテーマに分かれ、見応え十分。
ルーブル美術館でほとんど独学で絵を模写していたというバルトュスの、マサッチョ、ピエロ・デッラ・フランチェスカのコピーから作品が展示されている。
さらっと写した作風がいい。
「道」は、1929年と33年の2枚があり、面白い比較ができる。何人かの登場人物は同じで、脇役に結構な変化が見られ、興味深い。
そして、今回のポスターにもなっている「忍耐」。圧巻。

いよいよ猫の登場。「猫の王様」「地中海の猫」、そして、ポルノか少女愛か、と思わせる作品多数、デッサン、習作も多く展示されている。
風景画も多数あり、色の使い方が心に安定を、静寂が心に響く。
浴室での裸の少女。決していやらしくはない。
イギリス風の縦線の壁紙、ソファー、鏡、窓などがキーワードか。
登場する人物は概して頭が大きく、上半身が小さく、足が長いところから、マンガチックと思えなくはないのだが、違う。これが均整取れている人物であるなら印象が全く違ってくる。一瞬デフォルメされている、しかし、その色使い、そして、遠近法はとても正確で安心して見られるところなど、天才、の文字が頭に浮かぶ。

少女が片足を折ってソファーに座っている絵など、足元から見ればパンツ丸見えだが、ポルノではない。
地面に肘をついて四つん這いになっている少女も、同じ角度から見ればやはりパンツが見えそうだが、いやらしくはない。
この年頃ならパンツが見えることなんて気にしない、だから、堂々とこんな格好ができてしまうし、そういえば私も、何も考えずにしていたかもしれない、と思ったり。

ただし、今ならスカートを履かない少女も多いと思うので、ズボンやジーンズでは絵にならないよね、と思ったり。うーん、きっと魅力半減。(それ以前に絵にならない?)
ある意味、少女も含む女性が、スカートを捨てズボンを履き始めたというのは、アート的に取り返しのつかない大きな損害かも知れないと思ったり。
2016年1月31日まで。ぜひ。






Pecore in erba di Alberto Caviglia イタリア映画 駆け出しの羊たち

2015-12-19 11:12:46 | 何故か突然イタリア映画
Pecore in erba 駆け出しの羊たち
監督 アルベルト・カヴィリア



2度びっくりした映画。いや、3度かもしれない。
まず、あらすじは読んでいたものの、かなり大雑把で、これは出たとこ勝負という感じだった。しかし、それと不釣り合いなのがキャスト。
監督は初めての長編。無名な上にびっくりするくらい若い(31歳)。
しかし、ウソか本当か、すごい人物が、これでもかというくらい出ているのである。
それも、女優俳優というのではなく、テレビのアナウンサー、ジャーナリストで超有名なメンターナや、政治家でもあり美術評論家で、これまた知らない人はいないヴィットリオ・ズガルビ、やはりテレビをつけるとしょっちゅう出ている司会のマーラ・ヴェニエル、ややポルノ風の作品で超有名な映画監督ティント・ブラスなどなど、はたまた、私の好きな女優のマルゲリータ・ブイも出ていた。
その数も多いのだが、どうしてこれだけの人物が???いったいどうやって???どんな風に???どんなところに???
と、???ばかり。

さて、始まると、レオナルド・ズリアー二が突然行方不明になりました、というSKY24NEWSの 一大ニュース。スタジオから、そして、多くの民衆が集まっているローマのポポロ広場からの中継が映し出される。すぐにズリアー二の少年時代を語る姉が登場、長々とインタヴュー。小学校の先生も出てくる。こんな少年でした、と少年時代の様子を語る。母親も出てくる。1歳の時にお父さんが家を出て行ってしまったのです、と。幼い時からの親友も語る、語る。まあ出てくるわ出てくるわ、いろいろな人物が。ズリアーニの生涯を語る一大ドキュメンタリーになっている。
語る人物がパッパッと素早く切り替わり、間にズリアーニの写真が多数、新聞の切り抜き(本物そっくり!)、などなど。
ええ、これって、本当にいる人物??いや、作り物の話のはずだけど。。。。
しかし、どうしても本物の長編ドキュメンタリー番組にしか思えない。

さて、行方不明になってしまった、まだ若きレオナルド・ズリアーニとは誰か?
ローマのトラステヴェレ生まれ、幼い時から反ユダヤ主義。超右翼。絵の才能があり、超有名漫画家にもなる。漫画は大ヒット。何か閃いたものを商品にして売ればこれまた大ヒット。まだ若いのに、彼の生涯を描いた映画まで製作されて大ヒット。超カリスマ人物である。でも気取らない。あまりに過激なユダヤ排斥主義を唱えるので、命まで狙われている。

随所で登場するのがくだんの有名人物。本当の名前で、ちゃんと肩書きも入っている。スタジオも本物そのもの。(のちのインタヴューでの話によると、本当のスタジオなどを使用)女優でも俳優でもない有名人が、ズリアーニについて熱く語る。どう見てもウソを語っているようには見えない。(結構演技うまいじゃん!)
途中でイスラムのチンピラっぽい感じの二人が出てくる頃には、やっぱり架空の人物だったのね、となったが、本当にびっくりするほど、まるで本物のようにドキュメンタリー番組が作られている。
お見事。とにかくお見事。
台本は300以上のシーンからなったというが、どんどん切り替わり、間に本物そっくりの新聞の切り抜き、何百枚ものズリアーニの写真が織り込まれている。
ここまで本物そっくりに作ったニセのドキュメンタリー番組は見たことがない。

もう一つのびっくりは、監督の登場。
1984年、トラステヴェレ生まれ、ローマ大学では哲学を専攻。その後、ニューヨークなどで映画を学び、監督のアシスタントを多数務め、初の自作。
どんな人物かと思ったら、ひょろっと痩せた、穏やかそうなとても感じの良い青年。とても頭が良さそうには見えるが、驕るようなところも、気取るようなところも全くない、ごく普通の若者である。え~彼がこれを作ったの???(頭の中が見たい)

反ユダヤ主義をテーマに、というのは偶然のひらめきだそうだが、台本を自分で書き、どうしてこれだけの有名人物が参加できたのか?という質問には、わからないけど、結構面白がって参加してくれた、と。スタジオなども本物を使わせてくれた、と言うし、無名の監督の卵の作品なのに、すごい。

ただ、劇場公開ではあまり受けなかったという。
最初19館、次の週3館、そして1館へ。全く宣伝していなかったので無理もないのだが、打ち切り。監督がめげていなかったのが救い。
見た人は大抵、すごく面白かったと言ってくれているのだけど。。。と。

こういう映画に日が当たらないのが本当に寂しいが、個人的には久々に素晴らしく良かった。

ところで、しばらく続けたこの突然のイタリア映画評論はこれで終わりになるかも。
残念ながら、イタリア女の嫉妬ほど怖いものはない。


Alto Piemonte: Gattinara Bramaterra e Lessona ピエモンテ北部 ネッビオーロ8種

2015-12-17 22:28:44 | Piemonte ピエモンテ
Bramaterra Cascina Cottignano 2012 Colombella e Garella コロンベッラ・エ・ガレッラ
Bramaterra 2011 Odilio Antoniotti アントニオッティ
Bramaterra 2011 La Pianella ラ・ピアネッラ
Lesiona 2011 La Prevostura ラ・プレヴォストゥーラ
Lessona Tanzo 2010 Pietro Cassina ピエトロ・カッシーナ
Lesiona San Sebastiano Alto Zoppo 2009 Tenuta Sella テヌータ・セッラ
Gattinara Vigna Osso San Grato 2010 Antoniolo アントニオーロ
Gattinara Vigna Molsino 2009 Nervi ネルヴィ



第3回目はセシア川の左岸。北から南に流れているので地図上では川の左にあたる。
こちらは3つの地域+1つが今度は横に並んでいる。
右岸は縦、左岸は横、である。
東側(つまり右側)から西へ、これもまた順番に並んでいる。

Gattinara ネッビオーロ90%以上。つまり100%でワインを造ることは可能。
Bramaterra ネッビオーロ50-80%。これは不可能。
Lessona ネッビオーロ85-100%。つまり可能である。
この3地域をほぼ含むのがCoste della Sesia。ローマにいるとほとんど知られていない名前、飲めない地域である。

なお、ネッビオーロの使用量に関しては歴史的、地域的、地理的意味から来ているのはわかるが、統一してほしいと思う。。。。。。。

以上の地域で有名なのは何と言ってもガッティナーラ。
なんでも、昔(70年代まで)はボルドーと同じ値段で売っていたという。
まるでブルゴーニュのように畑が細かく分かれて、名前がちゃんと付いているのだが(正確には付いていた)、そのかなりの部分が今ではブドウ畑ではなくなっている。残念。
ミネラル豊富で、班岩、それも酸化した、銅色の班岩の土地で、川を挟んですぐ横のゲンメと近いようなイメージとは違い、どちらかというとその上に位置するボーカに近いのだそう。
この辺りでは、班岩(ポルフィド)を含む土地がキーワードになり、それは、右岸のボーカ、左岸のガッティナーラ、ブラマテーラの良い土地にある。
なお、降水量はやはり多く、900mm。



以上の4地域から8種の試飲。
かなり素晴らしい試飲だった。

Bramaterra Cascina Cottignano 2012 Colombella e Garella
ネッビオーロ70%、クロアティーナ20%、ヴェスポリーナ10% 
一番最初のワインですでにかなりの品質。ブラマテーラでもポルフィドの土地のものだそう。+++
Bramaterra 2011 Odilio Antoniotti
ネッビオーロ70%、クロアティーナ20%、ヴェスポリーナ7%、ウーヴァ・ラーラ3%
これもポルフィドの土地のもの。エレガントで素晴らしい。++++
Bramaterra 2011 La Pianella
ネッビオーロ80%、ヴェスポリーナ10%、クロアティーナ10%
唯一ミルクチョコ風の香りで、しかし、酸味がかなり強くアンバランスが面白い。+++(+)
Lesiona 2011 La Prevostura
ネッビオーロ95%、ヴェスポリーナ5%
ボディがあり、存在感がある。++++
Lessona Tanzo 2010 Pietro Cassina
ネッビオーロ100%
脱帽。レッソーナなのに、と言ったら失礼だが。。。+++++
Lesiona San Sebastiano Alto Zoppo 2009 Tenuta Sella
ネッビオーロ85%、ヴェスポリーナ15%
大臣だったクインティーノ・セッラの子孫のワイナリー。ということで有名ワイン、品質も良いということで有名なのだが、これだけの品質のものが揃ってしまうと、やや影が薄くなってしまう。++++
Gattinara Vigna Osso San Grato 2010 Antoniolo
ネッビオーロ100%
ガッティナーラでは最も良いということで知られた畑のもの。ガッティナーラで最も有名なワイン。+++++
Gattinara Vigna Molsino 2009 Nervi
ネッビオーロ100%
15%、除梗していない総を含む。ボルゴーニョ風。素晴らしい。これも脱帽。++++++




Alto Piemonte; Boca Ghemme Sizzano e Fara ピエモンテ北部 ネッビオーロ7種

2015-12-17 22:12:47 | Piemonte ピエモンテ
Colline Novaresi Nebbiolo Mot Zifron 2012 Francesco Brigatti フランチェスコ・ブリガッティ
Fara Barton 2012 Gilberto Boniperti ジルベルト・ボニペルティ
Ghemme Ai Livelli 2010 Tiziano Mazzoni ティツィアーノ・マッツォーニ
Boca 2010 Barbaglia/Antico Borgo del Cavalli バルバリア
Boca 2010 Le Piane レ・ピアーネ
Ghemme 2008 Il Chiosso イル・キオッソ
Ghemme 2007 Ca’ Nova/Glade カ・ノーヴァ



ピエモンテというとランゲ地方、つまり州の南部がイメージされるが、北ピエモンテでもワインが多く生産されている。正確には「されていた」と言ったほうが正しいのであるが。

さて、アルバを中心にしてバローロとバルバレスコ、そして扇を広げるようにバルベーラとドルチェットの地域が広がっている。
縦に見ると、アスティ、モンフェッラートがあり、モスカートやブラケット、バルベーラはもちろん、ガヴィ、グリニョリーノ、コルテーゼなどが生産されている。
この辺りまでは、まだ現在世界的に見てもメジャーがワインもあるが、それより北へ行くと、かなりマイナーな生産地域になる。

コルソの第1回目、ヴァッレ・ダオスタのほぼ中央を流れるドーラ・バルテア川がピエモンテに入るとカレーマの産地があり、州はピエモンテであるが、ピエモンテよりヴァッレ・ダオスタにより近い。

ドーラ・バルテア川にほぼ沿うようにもう少し東にセシア川があり、この川沿いに7つのワインの産地がある。
横に見るとカレーマとほぼ並ぶ位置である。

さて、セシア川周辺のワイン、などというと1回で、いや、半回程度で終えてしまうのが普通であるが、アルマンドは普通のことはしない。
そこで、カレーマはヴァッレ・ダオスタと、セシア川も右岸と左岸に分けて、つまり2,5回に分けての講義だった。

前回2回目はもうだいぶ前なのだが、ここに続けてアップする。

セシア川は、北から南に流れ(川の流れは実は地図をパッと見ただけではわからなかったりするが結構重要)、イタリアで一番長い川、ポー川に流れ込む。
さて、フィロキセラ、第一次、第二次世界大戦、工業化により農業は捨てられ、ぶどう畑はほとんどなくなり、1929年には40000ヘクタールあったらしいのが、今はたったの55ヘクタールだそう。
ネッビオーロ(スパンナと呼ばれる)、ヴェスポリーナ、クロアティーナ、ウーヴァ・ラーラなどが栽培されている。
ランゲ地方と違って、ネッビオーロ100%でワインを造らない、造れないことも多いのが面白い。もっともネッビオーロだけで造っても、かなり北に位置しているため、ランゲ地方のものとは全く違ってくる。

さて、 右岸、つまり地図上では川の右になる方には4つの地域名称+1つがある。
北から順に列挙。北から南に綺麗に並んでいる。

Boca ネッビオーロ70-90%。つまり100%のものはありえない。
Ghemme ネッビオーロ85%以上。つまり100%はOKとなる。
Sizzano  ネッビオーロ50-70%。つまり100%は造れない。
Fara  同じくネッビオーロ50-70%。
そして、この4地域を完全に含むのではないが、もう少し大きな地域でCollina Novaresiがある。

以上の地域でもっとも有名なのは何と言ってもゲンメ。マイナーとは言え、ゲンメなら聞いたことがある、という人は多いと思う。ワインによってだが、バローロよりボディがあるくらいと言えるのもある。
なお、ボーカはポルフィド(班岩、赤い土)の土地だが、その他は堆積。
全体降水量はイタリア平均(700mm)より多く1000mmを超える。



以上の5地域から7種の試飲。

Colline Novaresi Nebbiolo Mot Zifron 2012 Francesco Brigatti
ネッビオーロ85%、ヴェスポリーナ10%、ウーヴァ・ラーラ5% ++(+)
Fara Barton 2012 Gilberto Boniperti
ヴェスポリーナとネッビオーロ +++
Ghemme Ai Livelli 2010 Tiziano Mazzoni
ネッビオーロ100% +++(+)
Boca 2010 Barbaglia/Antico Borgo del Cavalli
ネッビオーロ70%、ヴェスポリーナ30% ++++
Boca 2010 Le Piane +++(+)
Ghemme 2008 Il Chiosso
ネッビオーロ90%、ヴェスポリーナ10%  +++(+)
Ghemme 2007 Ca’ Nova/Glade Codescese
ネッビオーロ100% ++++


Storie sospese di Stefano Chiantini イタリア映画 中断されたストーリー

2015-12-11 10:11:46 | 何故か突然イタリア映画
Storie sospese 中断されたストーリー
監督 ステファノ・キャンティーニ



上映会の後で監督の話がある。これでかなり作品の印象が変わる場合がある。上映の前ではなく後。
上映の前にあらすじはざっと見ておく。(私の場合は、役の名前、役者の顔もざっと見ておく)
そして作品を見る。個人的感想と印象。
そこへ監督がやってきて話をする。ほぼ一方的に話す場合、質問に答えるのが好きな場合など、いろいろ。
さらっと終わる場合、結構白熱する場合、これもいろいろ。

この映画は、幾つかの重たいテーマを扱っている。色に例えればモノトーン、という感じで、華やかとか、明るい印書はない映画だった。
若干気になったのは、その幾つかのテーマが若干バラバラな感じ。
岩場を登り安全対策用の網を貼る仕事をしているトーマス。ミスが原因で同僚が命を落としてしまう。
仕事を失い、しかし、妻と生まれたばかりの赤ちゃんも含み3人の子供を抱え、新しい仕事を探す。
新たな仕事も岩場を登るのだが、岩場に測量用のセンサーを取り付けるという仕事。
ここでテーマが変わる。
新たな道路建設、新たにトンネルを掘るのだが、どうも山全体の地盤が傾いている。トンネルを掘り進めるたびに住宅の壁に亀裂が入り、小さな村であるが、危なくて住めない家が続出している。
建設業者と村の住人とのやりとり。日本のダム建設や、イタリアの新幹線建設の場面が浮かんでくる。
測量用のセンサーの取り付けは建設側の、大して意味もない作業で、トーマスは嫌でも建設賛成側についていることになる。
反対派は、リーダー的立場を取っているのが幼稚園の女の先生、どれだけ亀裂が大きくなっているかを地道な方法で測量し、記録を残している老測量技師など。
最後は、自分の主義に反することをしていることに目覚めたトーマスが仕事を拒否して終わる。

つまり、同僚が自分のミスにより命を落とす、トンネルの建設と住民の反対、それから、トーマスと(出稼ぎから)残された家族との関係、再び仕事を失っても正義を貫くなどなどのテーマを無理やり繋げてもまだ若干バラバラ、という印象を持った。
同僚が滑降、命を落としてしまうテーマだけでも一つの作品になるような気がするのだが。
しかし、監督の話を聴くと印象が変わる。
一所懸命頑張っている。「自然」をテーマに自然に関わる仕事という設定にしたかった。社会的テーマを、なんとか扱っていこうとの意思が見える。それをどうやったらうまく表現できるか。
最初は監督の話で始まった会見、ポツリポツリと質問が出て、最後はたくさんの質問、結構長い会見になった。
多くの人が同じような意見を持ったのではないかという手ごたえ。

面白かったのは、最後の場面を2種用意したとの話。つまり、主義に反しているのに目覚めたトーマスが、もう一度失業することになるとは言え、拒否するバージョンと、家族のために再び失業はできないと、自分の主義を曲げてまで、黙って仕事を続けるバージョン、の2つ。
最終的に選んだのは拒否バージョンだが、受け入れバージョンであっても結構考えさせられることにはなったと思う。


実は、監督はとても仲良くしている友人の友人。まだ若い監督だが、3作目。とても性格がよく、感じが良いと聞いていたがその通り。
華やかで受ける作品は作らないかもしれないが、これからもぜひ地道に良い作品を作って欲しいと思う。次作にも期待。

Viva la libertà di Roberto Andò イタリア映画 自由万歳

2015-12-09 23:03:54 | 何故か突然イタリア映画
Viva la libertà 自由万歳
監督 ロベルト・アンド



Netflixの選択は決して多くはないが、なんとか見られる映画がないわけでもない。
「La grande bellezza (偉大なる美)」で一躍有名になったパオロ・ソレンティーノ。同じく彼の作品「Il Divo(帝王)」はかつてのイタリアの政界の帝王アンドレオッティを描いたものだが、どちらも主役をこなしているのはトーニ・セルヴィッロ。アンドレオッティは顔も姿カタチにかなり特徴があったが、それよりもいつも両手を合わせていじるクセが有名で、トーニはそれを見事にこなしていた。
そのトーニが、再び政治家として登場するのが「Viva la libertà(自由万歳)」。それも二役をこなしていてかなり面白い。

ところで、イタリアはどうして「Viva」(万歳)と付くタイトルが多いのか。日本では戦争や天皇制などを思い出させるというか、また、なんだか他につけるタイトルはなかったのか、という発想にもなるような気がしてそう多くはないと思うが、イタリアは結構多い。なんとなく安易な気がして個人的には好きではない。
そこで、トーニが出ているとは言ってもちょっと軽い印象のタイトルに、見るのを若干躊躇したが、そして、タイトル変えて~とも思ったのだが、見たらこれが面白かった。

イタリア第1党を率いる党首が、ある時プッツンきて雲隠れしてしまう。逃げた先は、かつての恋人のいるフランス。彼女は結婚していて、夫はちょっとした映画監督。子供も二人いて、彼女も映画の製作を手伝っている。
党首がいなくなって困ったのは秘書(この秘書役もかなりいい)。なんとかごまかそうとするのだが、それにも限度がある。というところで、党首には双子の兄弟がいることを思い出す。双子の兄弟は超頭のいい、哲学の大学教授。あまりに頭がいいため精神病院に入っていて、ちょうど出たところ。25年は会っていないという想定。
さて探し当てて会ってみると、瓜二つ(トー二の二役だから当たり前なのだが)。そこで、しばらく身代わりになってもらう。
雲隠れの党首は、プッツンくるくらいだからノイローゼ気味でいつも眉毛を寄せていて、くらーい感じ。方や、身代わりを楽しんでしまうハチャメチャ大学教授は、歌って踊って明るい。演説させれば国民までもが惚れ惚れ。この二役をこなしている。うまい。見事。
コメディだから最終的には元の鞘に戻るのだが、そこまでに至る元恋人とのストーリーなども瓜二つの双子という話を生かしているし、退屈する場面がない。
政治が絡んだ内容とはいえ重たくないし、ホロリとさせる場面もあり、演説の内容などはじっくり聴くと実はかなり理にかなっていて、考えさせたりもする。
台本作りが実にうまいと感心。

いつもの監督記者会見付き上映会で見たのではないのが残念。こういう映画の裏話を監督自身からぜひ聞きたいと思った。

Reality di Matteo Garrone イタリア映画 リアリティー

2015-12-07 11:44:52 | 何故か突然イタリア映画
Reality リアリティー
監督 マッテオ・ガッローネ



友人がNetflixのパスワードをくれた。フィルムの数はそう多いわけではないが、それでも見てみたい映画は結構ある。
PCで見れて、操作が楽、そこで早速続けに見て3本になった。
昔々、3本立て映画館によく行ったものだが、懐かしい。

1本目に「Hachiko」を見たせいか、2本目に選んだ「Reality」との落差が大きかった。
面白いのは、評価の落差もである。
つまり、ハチ公のような有名俳優が出ている(リチャード・ギア)、(この場合は)犬がカワイイ、そしていかにもアメリカのお涙頂戴的フィルム(泣いた~)は、他の映画を含めても評価が高い。
しかし、リアリティーのような、若干マイナーなものになってくるとぐっと評価が下がっている。
ちなみに、3本目に見た「Il Divo(帝王)」、監督はパオロ・ソレンティーノでも、イタリア元首相アンドレオッティを扱った、つまり政治、マフィア系の映画も評価が低い。
ところで、「Il Divo」 、好きか好きでないか、面白いか面白くないかは別にして、カメラワークと音楽の使い方が個人的に好み。
数多くの賞を取った「La Grande Bellezza(偉大なる美)」、この春の「the Youth(若さ)」も好きではないという人は多いが、個人的には嫌いではない。

さて、リアリティーであるが、監督は「Gomorra(ゴモラ)」で一躍有名になったマッテオ・ガッローネで、この春の「Il racconto dei racconti(物語の中の物語)」はかなり気に入ったが、この2つの作品の中間に制作された。
「物語の中の物語」の時のインタヴューでは気取ったところがなく(ソレンティーノと対照的)饒舌でそれは親しみやすい人で好感を持った。
その時に言っていたのが「似たような作品は作りたくない」。
ゴモラの後、ちょっとコメディ風を試みてみた、というのがこのリアリティーだそう。しかし、こちらの方がもっとコワイかも、という評価もある。

ナポリのかなりすごい建物に、親戚など集まって大所帯で住んでいるのが魚屋を営んでいるルチアーノ。妻はキッチン・ロボット(この形がユニーク)を闇で売っている。ルチアーノは真面目、妻はしっかりもののやり手で、建物はかなりすごいが、住んでいるアパートはなかなか豪華なもの。
さて、今ではだいぶ下火になったが、一時、イタリアで一世を風靡したテレビ番組「グランデ・フラテッロ(ビッグ・ブラザーのイタリア版)」がある。これに出演できれば多額な賞金が出るだけでなく有名にもなれる。
そこで、各地で行われているオーディションはどこも長蛇の列であるが、ルチアーノが子供達にせがまれて、ナポリで行われたオーディションに参加することになった。
第1回のオーディションがうまくいき、ローマで行われる第2回目のオーディションに呼ばれることになった。
他の人は5分や10分で終わったインタヴュー、自分は1時間もかかりかなり手ごたえがあった、と大喜び。

さて、このあたりから苦難の道が始まる。完全な自意識過剰。
魚屋にローマから来た、という雰囲気不相応な客が来れば、番組制作側の回し者で、参加者にふさわしいかどうか偵察に来ていると思う。隣の店の陰から自分を見ているものも同じく。選ばれれば100日以上カンズメ生活になることもあり、もう選ばれたつもりで魚屋もやめてしまう。
もう頭の中は、オーディション合格状態。(ちなみにオーディション参加者があまりに多いので、不合格の電話はない)
いよいよ今期の番組が始まって、親戚一同に、選ばれなかったのよ、と言われてもまだ信じない。(参加していないのだから、当然選ばれなかったという思考に達していない)
司会者が「来週は二人、新たな参加者があります」と言えば、まだ選ばれるチャンスがあると有頂天になる。
もうじわじわと狂い始める前兆。

復活祭(こういうところ、ルチアーノの復活を示唆しているのだと思う)の行事に参加しに、友人でもあり、多分親戚でもあり、魚屋を手伝ってくれていたミケーレと一緒にローマへ行く。
が、途中で消えてしまう。
「グランデ・フラテッロの家」があるローマの映画村チネチッタに忍び込み、家に侵入。この辺りで簡単に家に侵入できるところとか、侵入に誰も気がつかないところなどはちょっとご愛嬌だが、侵入に成功し、豪華ソファで、まるで参加者になったつもりで一人悦にいる。
かなりヤバイ。

つまり、ごく普通の一般市民が、名声に目がくらみだんだんおかしくなっていく、という過程がブラックコメディーのように描かれている。
それにしても、くだんのアメリカ映画とは大きな違い。リチャード・ギアはかっこいいし、妻も美人、娘も可愛く、ちょい役も、たとえ若干不細工だろうが品はいい。
対照的に、こちらは、よくもまあこれだけ不細工で品のない人を集めてきたものか、と思って笑ってしまう。もちろん演技であるわけだが、ルチアーノ(かなり演技がうまい)とミケーレを除いて、みんなお肉がぷりぷりぷよぷよしているし、イタリア後の字幕タイトルが必要なほど汚いナポリ方言を使っている。
成功だけを狙うとすればこういう映画は作らないだろうなー。。。


Né Giulietta né Romeo di Veronica Pivetti イタリア映画 ジュリエットでもなくロミオでもなく

2015-12-04 19:12:58 | 何故か突然イタリア映画
Né Giulietta né Romeo ジュリエットでもなくロミオでもなく
監督 ヴェロニカ・ピヴェッティ



上映会に行く前に映画のあらすじは見ておく。特に登場人物の名前(一般的ではない名前も結構多い)、役柄の関係、役者の顔(日本人がみんな同じに見えるように、金髪がいっぱいなど、似ている役者が出ていると困る。。。)などはできるだけ頭に入れていく。
その際My Movieのサイトを参考にするが、あらすじを含む評価が出ている。今回の映画は、ある意味失敗作、ただし次作に期待、とあったので、逆に見る前から注目してしまった。

監督は有名コメディ女優のヴェロニカ・ピヴェッティで、主役もこなしている。彼女の初の監督作品。
離婚した夫婦(元妻はジャーナリスト、元夫は有名な精神科医で超女好き)の間には高校生の「カワイイ」一人息子ロッコがいる。
ロッコは1年前から幼馴染のマリアと「がんばって」いるのだが、どうしても今ひとつ最後まで達せない。今では実はゲイ、女の子より男の子の方に感じてしまう、ということをすでに自覚している。
クラスに転校生がやってくる。彼はゲイで、ゲイということで大将的存在のカッコイイクラスメートにいじめられるのだが、ロッコは彼に惹かれる。
最初はそれとなく、そして、ついにはゲイであることを母親に打ち明けてしまう。当然のごとく母親は動揺。
父親も動揺しないわけではないが、それより妊娠したばかりの彼女の方が重要。彼女はロッコのクラスの英語の先生。
ミラノで大好きなロックコンサートがあるというので、家出同然、マリアともう一人の友人マウリと3人で、なけなしのお金を叩いてミラノへ逃避行。
それを知った母親は、母親と一緒に(つまりおばあちゃん)ミラノまで追いかける。
おばあちゃんはヤク(と言っても初心者向けのもの)をやってぐでんぐでんになったり、かなりハチェメチャの場面もある。

若干くどい場面が惜しかったが、セリフは所々でかなり面白かった。テンポは早く、結構爆笑場面があった。ピヴェッティはさすがベテラン女優で、演技がうまい。
しかし、評論にもあるように一番の問題は、「革新的なジャーナリスト」との役なのに、ゲイに対して全くの寛容が見られないこと。確かに他人と息子では話が違うということなのだろうが、ストーリーの中でほとんど誰もゲイに対して寛容ではないのが気になった。

それと、息子がゲイ、母親動揺、ということを中心に取り上げたいのか、年頃の若者の家出騒動を取り上げたいのか、そのあたりの比重が似ていて、中心となる本題が分かり辛かった。
しかし、これも若干くどかったとはいえ、おばあちゃんがスパイスを加えるような感じで良いし、個人的にはちょっと太っちょ、優しい友人マウリの存在に好感を持った。

なお、上映会後の会見で、監督のピヴェッティ、まあ話すわ話すわ、饒舌、ユーモア溢れ、とても感じがいい。
今回はシナリオ作者の女性も同伴だったが、まず、シナリオがあり、その際の主役を彼女に想定していて、ピヴェッティ自身ずっと監督をやってみたいという希望があり、念願叶って実現したという。ただし、そこまでに要した期間は7年。
もちろん、シナリオ変更箇所はたくさんあり、もう少し過激な場面もあったそうだが、役者の多くがが17才前後の未成年なので、カットせざるをえなかった場面もあったとのこと。

タイトルは、ストーリーの中で元夫が出した最初のベストセラー本のタイトル、ということで結びつけているのだが、これはピヴェッティの発案のタイトルだそう。
つまり、ロミオもジュリエットも異性が好き、そうでない人も少なからずいて、実際に結論が出るまで模索することもあろう、その過程はロミオでもなくジュリエットでもなく。気に入っているタイトルなのだけど、タイトルも良くないのよって言われちゃったわ~と。

監督と女優とどちらの方が好きかという質問には、間髪おかず監督との答え。
いろいろな多くの人とのつながりがあって、その結晶として一つの作品ができることが醍醐味だとのこと。
役者業は止められない、と聞くが、監督業は始めたらさらにやめられないものかもしれない。
次作に期待。