乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

南の旅人(南から来た少年) イラン映画

2007-05-09 | 映画

(写真はイランのレーズン。5キロの箱入りレーズンを袋に家でつめなおして、冷凍するところ。イランのレーズンは緑や赤や黒、大きいものや小さなものなど種類が多い。少し渋いものもあり、味が楽しい。しばらく置いておくと半醗酵状態となり、ブドウの羊羹のような食感を楽しむこともできる。

右上には、カシュナッツ。ナッツを油で揚げ、豚と海老、野菜で炒めてピリ辛(豆板醤)、片栗粉を絡ませると美味い・・・て、中国料理だったな・・・)

 

 南の旅人(南から来た少年) 

 

 満足度 ★★★★☆

 感動度 ★★★★☆

 イランらしさ ★★★★★

 

 1997年 イラン

 

  監督 パルビズ・シャバジ 

 

 キャスト レザ・モガィダム

       ガマル・ナスィーリ・ジョザニ

 

 

 この映画も先日観た『太陽は僕の瞳』の始まり方に類似している。

 

  ある少年が南の村(フーゼスターンのアフヴァーズから都市(テヘラン)の親戚の家に遊びに出かける。

 

「フーゼンスターンの血が流れているならば・・・」

や、親切な人に対して、

「フーゼンスターン出身でしょう?」

などの言葉から、フーゼンスターン 対 現在のイラン(都市・テヘラン)の心や生活のありようの違いがはっきりと浮かび上がる一作品。

 

 家族の話によると、フーゼスターンのアフヴァーズはイランでも最も気温の暑いところらしい。日差しのきつさに見合った情熱が、この少年の体内にも、暑き血潮として流れているのかもしれない。

 

 ある少年のとことん親身になる優しい心に対してに親戚やご近所の社交辞令。大人たちの態度。南からきた田舎者をバカにする人。時々出会う親切な人々。

 この映画を観て、中国の雲南省のガイドが、度々、

「僕は漢民族です・・・」

といって、少数民族の方たちとは棒引きしていたことを思い出す。

 

 ここでは感想の記録のみで、筋書きは省かせていただきますが、とことん親切をし尽くした少年は、汽車賃だけで家路に向かう。

 

 汽車の中で少年は、窓の外を見ながら、満足感と安堵感に、ほっとした表情をのぞかせる。

 少年は内外ともに美しく、まるで神と一体化したような顔だった。

 イランはイスラム今日ではあるが、少年の表情は、ヨーロッパ古典主義の絵画に描かれたキリストに似ている。

 イランは映画に対しても検閲が厳しいが、そのぎりぎりのところで、うまく自分の試行を凝らし、西洋的な要素を組み込んだ秀作の一つだと思う。

 

 

 この映画の気に入ったところはイランらしさ。

 イスラム教をベースとした祈りや男女の服装。タクシーの乗り方や値切り方、テヘランの町並みや人々の生活が手に取るように分かる。

 映画は冬だったので、果物屋には柑橘類一色が並ぶのも楽しい。

 金などの貴金属商の様子も手に取るように分かる。

 イランのガイドラインを知る上ででは、古くて使えないガイドブックよりもよほどわかりやすい。

 

 この映画も数年前に録画しておいたもの。家族といっしょに見ることができ、一層楽しむことができた。

 

 

 

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愛の神、エロス   コン・リー

2007-05-09 | 映画

(写真は中国雲南省の麗江古城近くの屋台村のようなところで踊っておられた、美しい踊り子さん)

  愛の神、エロス

 

 満足度 ★★★☆☆

 感動度 ★★★☆☆

 楽しめ度 ★★★☆☆

 コン・リーが出ていたよ~~ ★★★★★

 

 監督 ウォン・カーウァイ 

     スティーヴン・ソダーバーグ 

     ミケランジェロ・アントニオーニ キャスト

 

 キャスト 

    コン・リー 

    チャン・チェン 他

 

 ウォン・カーウァイ監督とスティーヴン・ソダーバーグ監督、ミケランジェロ・アントニオーニ キャスト監督がエロス市をテーマに競い合った映画。

 一本目はウォン・カーウァイ監督、コン・リー出演。品良く、美しく、適度な感動も得られる。

 

 二本目はスティーヴン・ソダーバーグ監督の作品。ブラックユーモアにたけ。面白かった。

 

 三本目はミケランジェロ・アントニオーニ キャスト監督画言わんとすることは分かるのだが、果たしてそれでいいのか良く分からない作品だった・・・

 シュール的な表現が災いして、テーマがぼけてしまった感じがする。

 

 三作品をつなぎ合わせるのは視点の違ったエロスというテーマと幕間にはまり込むコマ送りの木炭で描かれたイラストと、すねた感じのするシャンソン・・・

 なんだか焦点が把握しがたい映画だったのは、私が未熟なせいだろうか・・・・・・

 

                  BSジャパンにて・・・

 

 

 

 

 

  

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みんなの家 三谷幸喜監督

2007-05-09 | 映画

 

  みんなの家

 

 満足度 ★★★★☆

 感動度 ★★☆☆☆

 楽しめ度 ★★★★★ 

 

 監督・脚本 三谷幸喜

 キャスト 唐沢寿明

       吉村実子

       田中邦衛

       田中直樹

       八木亜希子

       野際陽子

 

 

  2001年  日本

 

 (今回は簡単な記録の身で失礼いたします。)

 

 面白くて楽しい満足のいく娯楽映画でした。

 このどたばた劇は癖になりそうだ。

 故伊丹十三氏とはまたとがった切り口だが、若干どこかで見たようなそんな筋書きや作品の描き方が、、かえって安心して楽しめるのだろうか・・・

 万人に受け入れられやすいという意味でも、できのいい作品だと思う。

 控えめではあるが、吉村実子さんの演技がひときわ輝いていたように感じる・・・

 

 

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ベルギー王立美術館展 大阪・中之島国立国際美術館

2007-05-08 | 美術・文様・展示物

 

  大阪・中之島国立国際美術館

         ベルギー王立美術館展

      

 

 

 五月五日、家族全員で『ベルギー王立美術館展』に行く。

 館内で二時間後。所定の位置に待ち合わせを約束したが、今回の展覧会も時間が足りない。好きな絵や気になる絵が多すぎて、もう一度観に行きたいという気持ちになる『ベルギー王立美術館展』。

 

 現存油絵作品が40点ほどしかないピーテル・ブリューゲル[父(と考えられている)] 『イカロスの墜落』 が日本初公開ということもあり、会場は人でいっぱいだった。どこぞの美大の学生と美術の説明をして歩く教授らしき方もいらっしゃった。

 

 ここの美術館は明るくて見やすい。またいつもながらに思うが、ここの美術館員の教育は、行き届いており、非常に気分が良い。

 

 ベルギー王立美術館は、1801年の設立。作品20,000点を所蔵。

 16、17世紀のブリューゲル、ルーベンス、ヴァン・ダイクやクノップフ、アンソールなどの象徴派、シュルレアリスム(20世紀)のマグリット、デルヴォーなど87点が展示。

 

 印象深い作品をいくつか記録したい。

 

 写真は購入した絵葉書。 『飲む王様』 ヤーコプ・ヨルダーンスである。

 一月『十二夜の祝い』の祝いの宴。

 切り分けられた自分のミートパイの中に豆を見つけた人が、その日、紙で作った王冠を被り、王様となる。

 酔う男、吐く男。奇妙な笛を吹く男。子どもの尻をふく母親。

 この作品も次に記す 『婚礼の踊り』 と共通項が感じられる。当時の風習や世俗を巧妙に描き挙げているといったのが一点。それは決して取り繕った美しいものではなく、人々の裏面をも描いている。

『飲む王様』 のキリストが誕生して十二日目、或いは 『婚礼の踊り』 の婚礼祝いにかこつけて、羽目をはずして、民衆はささやかに楽しむ・・・これはヨーロッパに限らず、日本でもその昔、民謡といった形で羽目をはずしていたことは、黒澤明の映画などでも度々みられる。

 

『婚礼の踊り』 ピーテル・ブリューゲル[子]

 この得はとても有名。よくみると、村民の風習や世俗を巧妙に描き挙げている。こういうと聞こえが良い。実際には村の何組かの夫婦が、はしゃいで夫婦踊り(とでも名づけておこうか・・・)、それを冷ややかに、或いはあたたかく見守るギャラリーがいる。この得は構図も素晴らしく、視点がグルグルとまわり、見飽きることが無い。色感も重厚で、朱色が効果的だ。

 当時の村の文化や風習、生活が色々な意味で楽しめ、まじめに或いはにたにたと笑いながら見ることのできる作品。

 

 

『地獄のアイネイアス』 ヤーコプ・ファン・スワーネンブルフ

 この地獄絵のような作品は、『アエネイス』(叙事詩・ウェルギリウス・古代ローマの詩人)にちなんで描かれたもの。

 右下には竜(?)の口。中にも地獄絵。外にも地獄絵。

 創造的幻想的な絵画は、細やかに丁寧に画面全体を地獄のような残忍な絵で埋め尽くされていた。

 よくみると怖い内容だが、どこか楽しく見飽きない。作品としても面白いものだった。

 

『聖ベネディクトゥスの奇跡』 はかなり長く見ていた。

 ぺーテル・パウル・ルーベンス(1640年 )とドラクロアの模写(1841年)を、5,6メートル以上も離れて、見比べていた。

 元の絵(ルーベンス)は中央左の横たわる人物に焦点が合わされている。一方、ドラクロアの模写も模写は、雲(右上)などを立体的に描き、全体を描きこんだ感じがする。後で聞いてみると、私以外の家族三人が全員、元の絵の方が良いという。私は、どちらとも言えず、口ごもってしまった・・・元と模写という辞典で比較することはできないが、両方がそれぞれ好きなとことがあったというのが、私の本心である。

 この絵はキリスト教を扱っている為、私には分かりづらい。宗教色の強い芸術や小説、映画や芝居を楽しむためには、少し勉強する必要があるなと、最近感じ始めている。若い頃のように単純に好みで楽しんでいた時代が懐かしい。

 ルーベンスが活躍した17世紀は、宗教戦争(プロテスタントとカトリック)が激化した時代。ルーベンスは芸術といった媒介を通して、カトリックの教えを広めようとしたのだろう・・・  

 

『ロシア音楽』 (ジェームス・アンソール)は 『シューマンを弾きながら』 (フェルナン・クノップフ)に似ていると批判されたそうだ。確かにテーマと床のナイフの使い方は似ていた。しかし前作品は上部もナイフ中心と硬い筆で描き、後作品は柔らかな豚下のような筆で描かれていた。前は茶と緑、あとは赤と黒に特徴があり、全てが似ているとは感じなかったのだが・・・実際のところはどうなのでしょうか・・・

 

『鹿のいる静物』 (フランス・スネイデルス)は好きな作品ではなかったが・・・嘔吐間を覚えた。それほどまでには苦心の作品で鯖らしいものなのかもしれない。やがて新鮮さを失い朽ちていく獲物や果物のはかなさを笑顔手ありと説明が出ていた。説明を読むまでも無く、肌で感じる作品であった。

 

 ポール・デルヴォーは懐かしかった。『ポール・デルヴォー展』と『ホドラー展』が美術館向かい合わせで公開されていた。中学か高校の頃、ひとりで観に行き、変わった画風に面白みを覚えたことが、今も懐かしい。

 

 ルネ・マグリット、この画家も展覧会もほんの若い頃、観た・・・画集では知っていたものの、初めて本物を観た時の衝撃は強かった。若干マグリット色が弱かったきらいはあるが、楽しかった。若い頃見た画家の絵を観ることができると、妙に哀愁が沸いてくる今日この頃・・・その画家の絵を娘、息子と、ともに観る・・・

『絵画作品を通して自分が年をとったことを目の当たりに感じる瞬間か・・・』

と夫と供に笑いあう・・・こんな時間が好きなのだ。

 

 他にも好きな作品がいっぱいあったが、今回は、この辺で止めたいと思います・・・

 

 

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太陽は、ぼくの瞳 マジッド・マジディ監督 イラン映画

2007-05-06 | 映画

(写真はイランの菓子。日本の鼈甲(べっこう)飴のような菓子の中に、スライスしたピスタチオがはいっている。)

 

          太陽は、ぼくの瞳  THE  COLOUR OF PARADISE

 

 

 満足度 ★★★★★  + おまけ★★

 感動度 ★★★★★ + おまけ★★★

 色彩美 ★★★★★

 イランらしさ ★★★★★ + おまけ★★★

 話の展開 ★★★★★

 小粋さ ★★★★★

 効果音 ★★★★★

 お勧め度 ★★★★☆

 

 イラン 1999年 90分

 

 監督 マジッド・マジディ

 

 

 数年前に録画しておいた『太陽は、ぼくの瞳』を、家族といっしょに観た。

 琴線に触れる部分が多く、涙が止まらない。

『この映画は好きだな。』

と見始めてすぐに、直感。

 自分的にはかなりいい作品だと感じながら観ていた。後で知ったのだが、なるほど・・・マジッド・マジディ監督とは、私の好きな『運動靴と赤い金魚』(1997)と同一人物とのこと。

 

 この映画はどこかしこに小粋さがある。

 また、イスラム教の神の存在なくしては、この作品はありえない。

 私はイスラム教について、あまり知らないので、この映画を観た後に『イスラム教入門』(岩波新書・赤版)を読み始めた。でも まだこの本は、半分しか、読めてない・・・

 

 あらすじは省かせていただきますが、感想を少し記録したいと思います。

 

 8歳で全盲のモハマド。彼の周りには、基本的には悪人はひとりとして出てこない。

 またイランの町、農村、森などの景色が上手く描く出されている。兄弟愛、祖父の愛、父の嘆きや愛、教師の愛、大工の愛などの細やかな描き方が好きだ。その愛を全盲である彼が、素直で賢明な彼であるのに、全盲である彼が不安におびえる様子を上手く描くところも、細やかだ・・・

 モハマドは風を感じ、自然を感じ、現実を感じる。

 

 再婚したいがために、父は全盲の息子を重荷に感じる。

「僕を見てくれ。何があるというんだ。五年前に妻を亡くし、父を早くに亡くし、貧乏な僕は正直に生き的たんだ。その時、母さんは僕に何をしてくれたというんだ・・・・・・」

という嘆きの超えは、彼の実直さをあらわした、悪意の無い、印象的な言葉だ。

 

 父は一旦 大工見習として谷間の全盲大工に彼を預ける。

 全盲という共有の境遇の大工に、自分の感情の席がきれる。涙ながらに訴える。

「みんな、僕から、離れていくんだ。おばあちゃんさえも・・・。先生はいつも神が近くにいて、見守ってくれているという。神に遇いたい。僕は、いつも、神を探しているんだ・・・」

 大工は深くため息をついて彼に答え、静かにその場を離れる。

「それは先生の言うことが正しいよ・・・」

 この言葉のやり取りは、深く心に刻み込まれtる。

 宗教縦横を超え、健常者とは違った嘆きが心にジーンと伝わってくるようだ・・・

 

 モハマドを思い、嘆き悲しむ祖母。山間の雲の切れ間に彼の姿を見た祖母は、安らぎの頬を染め、死んでゆく・・・

 

 やがて懇談の破談。父は雨の中、モハマド連れ帰る。

 森で三度も聞いた不吉な野生動物の声は彼の心に鳴り響く。

 大雨の中、橋の半ばで橋が落ちる。

 川に流されるモハマドと馬。

 父は一瞬、安堵感を覚え、ただ呆然と息子を眺める。

 川の中で目をむく馬、そして、いななき。

 父はことの重大さに気づき、川に飛び込む。

「モハマド・・・・・・」

 

 濁流に流され、父は急流に身を任せる以外に無い。恐怖、そして死の恐怖。

 彼は必死で、横たわる大木の幹につかまる。

 目を凝らすと、近くにモハマドの姿が・・・

 父は何もためらうことなく無意識に息子を助けようと、再び濁流に身を任せる。死の世界と隣り合わせ。

 

 やがて雨も収まり、父は海岸で目を覚ます。

 父はまず息子を探す。

 死に魅入られた腕の中の息子、モハマド。

 父親はモハマドを抱きかかえ、嘆き悲し見、泣き続ける。

 

 しばらくして・・・

 

 父親の体からだらりと垂れ下がったモハマドの右手に、オーレオリンともゴールドとも見分けのつかない輝きが宿る。神。そしては息吹を吹き返す。

 死による再生。モハマドは死をも受け入れ助けようとした父の愛情に見守られ、この時に始めて神に遇うことができたのかも知れない。

 

 

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桃源鎮

2007-05-03 | 映画

(写真は中国雲南省の麗江古城内。瓦職人さんが、手際よく屋根の部分を無いされていた。)

 

  桃源鎮  SHANGRI-LA TOWN

 

 感動度 ★★★★★

 満足度 ★★★★★

 話の展開 ★★★★★

 映画の好きさ ★★★★★

 お勧め度 好みによって★★★★★又は★☆☆☆☆

 

 

 1996 中国

 

 原作 チュー・シャオユイ『山風』

 監督 ション・ユイ   

 川劇(四川劇)顧問 レン・ディーファン、ユー・ウェントン

 

 出演 コー・チーチェン

     レイ・ゴーシェン

     トゥ・ニンリン

     リ・ティン

     ワン・ジャオパオ 他

 

 この映画も何年か前に録画しておいた、好きな映画の一つです。

 ひさしぶりに観ましたが、重厚なつくりで見ごたえがありました。

 また中国に行きたくなる作品。『だから中国の景色や息吹に惹かれるのよね~』って感じの映画。但し映画の内容は、憬れるといった内容のものではありませんが・・・桃源鎮のたたずまいや屋根の形、石畳、人々の生活臭はやはり好きです・・・・・・

 

 揚子江近くの四川省・桃源村。

 あらすじはここでは省かせていただき、簡単な感想だけを記録したいと思います。

 

 一見、いつの時代の話なのかの判然がつきにくいのですが、村長夫人の髪型や家の内装、ライバルの豆腐屋や親戚の茶店の女性の『市場主義』といった言葉から、文革以降。また、一人っ子政策前の一面も、豆腐や夫婦の言葉からうかがえる。

 時の流れをわざと感じさせない舞台作りのこの映画は、『桃源鎮(桃源郷)』或いは『シャングリア・タウン(SHANGRI-LA TOWN)』といった言葉が良く似合う。洒落た作品だ。

 

 この映画のポイントも先日観たところの『秋菊物語』と同様に無知

 

 揚子江を境に 隔離された電気も通らない田舎に住む 豆腐屋の金は、職人気質のまじめな男。豆腐一筋に生きたこの男。家族を守り、何とか村(桃源鎮)に店を構えたい。正直なだけがとりえの豆腐屋は、自分たちに日が当たることを願い、村のあちらこちらに取り繕う。ただ、隔離された彼の生活と彼自身の無知が災いして、村や世間の動向にはとんと疎い。豆腐屋はあちらに着き、こちらにつきするが、一向に真実が見えてこない。

 

 村でたった一人、中国日報(新聞)をとっている、元は風呂で役人の背中を流していた老人の、

「見えないときは 中立の立場に立つこと。それが生きるすべだ。」

という言葉が印象深い。

 

 豆腐屋の金は彼の言葉に従わず もがき、『日和見人間』とののしられる。

 

 そんな時、賄賂で牢獄に入った夫の妻から、

「5000元は金さんが貸してくれたことにして・・・」

と頼まれる。村(桃源鎮)に豆腐屋を持たせてくれるといった甘い言葉も掛けられる。真に受けた豆腐屋。無知が、共産党の(映画の話です)権威主義の女の大それた願いを引き受けてしまう。そこには桃源鎮に対する大きな期待と純粋な憧れだけで、悪意などはもうとうない。

 映画でもこのシーンは工夫を凝らされている。

 大豆から 汗水たらして手作業で絞った豆乳。その煮えたぎった大なべ。鍋の上には豆乳色の湯気が 二人の気持ちが登りつめるように、立ち込める。そんな半端な色彩の中、アジア人色の女の手が 少しクリームがかった借用証書を差し出す。アジア人の色の豆腐屋の手がそれを受け取る。豆乳色の湯気が全てを許し、全てをあいまいにするかのように・・・美しかった・・・それは一瞬の出来事で、豆腐屋の無知で、物事を大きくとらえてない悪意の無さの象徴の場面でもあった。私の、この映画の一番好きな場面だ。

 

 そして二人の工作は発覚、女は取り調べられる。

 豆腐屋は意識を失ったように石畳の村を歩き、四川劇の『包公』のもとへふらふらとたどり着く・・・・・・

 

 中国らしい秀作の一つ。素晴らしい作品だと思う。

 

 

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大和川の翁

2007-05-03 | お出かけ

 

 4月25日。 

 夫と二人で奈良県の大和川沿いを歩く。

 少し曇り空。人影は無い。

 数年前から考えると、水が美しい。

 川の浅瀬には杭が立てられ、鯉たちが体を休めている。

 突然の訪問者とも言える私たちの足音に驚いた魚は、ばしゃばしゃと音をたて、一目散に川の流れに乗っていく。

 しばらく進み行くうちに、私たちは一部川の中に足を踏み入れる。

 川は浅瀬と本流とに微妙に分かれている。

 浅瀬は前日の雨で、水溜りが随分と大きくなったような具合のもの。

 よくみるとそこにも多くの鯉たちが体を1/3、或いは半分出して、流れに逆らってばしゃばしゃと泳いでいる。体を出した鯉は、ドラマ『華麗なる一族』の『将軍』のように貫禄がある。但しこのドラマは見てないので、胸を張っては言えないが・・・

 数匹以上集まったもの、十匹以上のもの・・・そのなかには二匹だけで岩陰に隠れる鯉も多くいた。鯉の恋の季節は知らないが、今が恋の季節なのだろうか・・・

 私たち夫婦は、金色に輝く鯉たちのあまりの多さにただ呆然と眺め、写真を撮ることさえも忘れていた。

 

 河原を歩いていると、一匹の鯉が砂の上で横たわっていた・・・

 胸鰭(むなびれ)と腹の穴付近から一部の体が空洞になり、間はくぼみ、えらは反り返って中が見えている。無残だ。

 水がひえ上がったせいか。鳥か、釣り人か、或いは 卵を産んだ後、根尽きたのだろうか。寿命だったということも考えられる。これが運命だとすれば、やがて自分の身にも起こりうる全てを受け入れざるおえないと、じんわりと感じ、はかなさを覚える。

 

 河原のすそでは、多種多様のごみが木にからまっていた。よくみると、それはまるで、全てを悟った翁のようにも見える。翁は、この干からびた魚の人生の全てを知り尽くしているのだろうか・・・全てを受け入れ、優しく見守る、大和川の翁。だが、彼もまた、大雨に遭えば、たちまち風貌も変化する束の間の運命なのだ。彼は大和川の増水時の自分の運命をも知った上で、こんなにも穏やかな顔をしているように思えてならない。そんな風な優しい表情をしていた。

 

             

                  (奈良県大和川沿い 写真は文中の翁)

 

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