人魚、アマビエを超えたり。の巻
人魚
にんぎよ
早稲田大学所蔵
←右下
往昔(いにしえ)より人魚と号(なづけ)、時々世に観物場(みせもの)となす物、是迄許多(あまた)有(ありと)雖(いえども)、其真と
極南(みまゐはて)の地より、紅毛人(おらんだじん)東洋(とうよう)に趣(おもむ)く、発帆(ふなで)の節(おり)、應帝亜(いんであ)に腐(しよく)する咬𠺕吧(しやかるた)の海(かい)
侭に、唱(となへ)にする事、告非て、推量(おしはかり)状(かたち)を作る贋物多(おほ)し、洽(あまね)く鬱悒なき詐(いつハり)を以て、婦人(ふちん)
童蒙(とうもう)を欺(肉付きに満のさんずいを抜いた文字 あざむ)者なり。抑今般(こんぱん)、舶来の一種は亜弗利加州(あふりかしう)渇叭布蘭土(かつふらんど)と言える
極南(みまゐはて)の地より、紅毛人(おらんだじん)東洋(とうよう)に趣(おもむ)く、発帆(ふなで)の節(おり)、應帝亜(いんであ)に腐(しよく)する咬𠺕吧(しやかるた)の海(かい)
中(ちう)にて、檎得(とりえ)しと云物是也、物産(ふつさん)博学(はくがく)の諸先生(しょせんせい)に就(つひ)て、鑑定(かんてい)を乞ひ、疑(うたが)ひ
なき真(しん)の人魚なるへしとなり、寔(よかてい)に稀代(きだい)の珍物、江湖上(よのなか)に現れて、諸人(しよにん)の眼(め)に
触ん事、太平の恩澤(おんさゝ)に浴するの潤徳(じゆんとく)ならん、翼(こひねが)わくハ、奚(あなどり)落(たまハ)ゐ図、一看(ひとめみ)て、虚実(きよじつ)
認賜ふ看官ハ、穿定(せんちやう)ならんことを俟(まち)て、永く後世の談柄(はなしのたね)の残(のこ)さんと欲るのこと
叭 (ラッパという意味)
咬𠺕吧(しやかるた)ジャカルタ
看官(かんかん)見る人
↙︎上
山海経(きやう)に曰(いはく)、東南(とうなん)の海中(かいちう)に底人國(ていじんこく)有、
人魚(にんぎよ)を出(いだ)すと然々(しか/″\)、異物(いぶつ)しに曰(いふ)人魚、長さ
尺餘、頂(いたゞき)の上(うへ)に小穿あり、気中より出ると
云ふ、本草(ほんそう)網目(うらもく)に曰(いふ)人魚と称ずる者
二種あり、曰(いハ)く、䱱魚(ていぎよ)曰(いハ)く鯢魚(けいぎよ)と見えたり、
䱱魚(ていぎよ)ハ 一(いつ)に垓児魚(かいしきよ)と言、山生魚(さんしやうきよ)と訓(くん)ず、
鯢魚(けいぎよ)ハ格物論(かへぶつろん)に女鯨(めくじら)唱へて、倶(とも)に世に云
人魚の類にあらず、博物志(はくぶつし)に曰、
鮫人(かうひとず)ハ 鮫客(こうかく)水神とも号(なずく)、又、一種
山客(さんかく)と云者、猩々(しやう/″\)「たつひ」倶(とも)に異(い)
説(せつ)区々(まち/\)なれども、人魚にハあらず、
世に不老延年長寿(ふらうえんねんてうじゆ)の薬
なると云うものハ、此人魚なり、
相傳(あいつたへ)て言、人魚を食する者ハ
延命(ゑんめい)にして、死を知らず、
子児(こども)ハ眼に見るのみに
して、疱瘡(ほうさう)麻疹(すいしん)
を患る事なし、若(もし)
悩者も、必経しと云(いへ)り、
若者ハ食せずとも、唯(たゞ)
見るのみにして、疫病(えきやみ)を
攘(はら)ひ、悪流行病(あくさせやりやま)ひ
を消除(しやうしよ)して、其(その)気(き)を
うけずと云(い)う 斯蝕(かくのふ)ある
物なれバ、雲顧諸(くものしよ)
君、令即令愛(むすめご)を誘(「推冠に乃」いざな)日、
交加(ゆきかひ)の序(ついで)、駕(が)を賜(たまわ)ば、
者益(うまき)の一端(いつたん)ともならん
かと、市中(しちう)に於(おゐ)て、一覧に
蝕(そな)ふ先前(さき/″\)、恭啓(ごひろう)有て
高評(こうひやうばん)預(あずか)らバ、幸(さいハひ)甚(はなはだ)
しかどんとしかいふ
未夏吉旦
䱱 (てい)サンショウウオ
鯢 (けい)オオサンショウウオ
鮫 (コウ・キョウ)さめ
駕 (が)かご
未夏吉旦 未詳(版元に近い名前はあった)
吉旦は、よい日。吉辰 (きっしん) 。吉日 (きちじつ) 。
世に不老延年長寿(ふらうえんねんてうじゆ)の薬
なると云うものハ、此人魚なり、
相傳(あいつたへ)て言、人魚を食する者ハ
延命(ゑんめい)にして、死を知らず、
子児(こども)ハ眼に見るのみに
して、疱瘡(ほうさう)麻疹(すいしん)
を患る事なし、若(もし)
悩者も、必経しと云(いへ)り、
若者ハ食せずとも、唯(たゞ)
見るのみにして、疫病(えきやみ)を
攘(はら)ひ、悪流行病(あくさせやりやま)ひ
を消除(しやうしよ)して、其(その)気(き)を
うけずと云(い)う 斯蝕(かくのふ)ある
物なれバ、雲顧諸(くものしよ)
君、令即令愛(むすめご)を誘(「推冠に乃」いざな)日、
交加(ゆきかひ)の序(ついで)、駕(が)を賜(たまわ)ば、
者益(うまき)の一端(いつたん)ともならん
とは・・・・・・・・・・。
人魚、アマビエを超えたり。
早稲田大学所蔵
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文庫10 08008 0003
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