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感想:8の殺人

2016-12-05 22:06:02 | ミステリ


8の殺人 我孫子武丸
1989年作品


上空から見ると数字の「8」に見える奇妙な館。
建設会社の社長の気まぐれで建てられたこの館で
社長の跡継ぎである息子が渡り廊下ごしにボウガンで射殺された。
目撃者の証言では不可能犯罪としか思えなかったが
警部補の速水恭三はわずかな違和感に対して追求を開始する。




なんとなく新本格の推理小説を読みたくなって
古本屋で手に取った。

"かまいたちの夜"のリメイクもくるし
我孫子武丸再評価の流れ!! たぶん!!



事件自体はシリアスとはいえ、
主人公の恭三は割と間の抜けた刑事だし
部下の木下はひたすら悲惨な目に遭うキャラだし
妹のいちおは頭が軽い感じの女子大生だし

古臭いコメディドラマ調は今読むと結構きついw


序盤は館の住人への聞き込みで進行するものの
「刑事の勘」でことごとく相手の嘘を見抜いて
追い込みをかけるのがオカルトじみていて
なんだか好きになれない。


関係者を集めての解明シーンは
ほとんどが古典密室トリックの講義に費やして
肝心の事件のトリックの説明は非常にあっさり。
うん、読者サービスの意味を履き違えてるね!!


犯罪トリックのためだけに用意された特殊な舞台装置を用いて
読者へ挑戦状を叩きつけるのは
まさに新本格時代の若手作家の特徴。
様々に散りばめられたヒントをかき集めて
カッチリ解答を導き出す爽快感がたまらない。


しかし、逆に言ってしまうとトリック以外の部分で
なかなか引き込まれる部分が見つからない。
文庫を一冊読んだのに、そこに一貫したシナリオや犯罪のロマンが
まるで含まれていないのが残念すぎる。


長編デビュー作ということで
最初から完成度の高いものを求めるのは酷だし
その後の我孫子武丸の躍進を考えれば
基盤としてとても大切な作品。
新本格ミステリを読みたいという目的は十分に達成できた。


そして、巻末にある島田荘司の解説は非常に価値があった。
新本格ムーブメントの興りから
後の推理小説を担う若手へのエールと、
彼らの作品の未熟さに対する批判へのエクスキューズ等、
当時のミステリ界隈を知るにあたって色々と興味深い。

古本屋で本を買う意義はこういうところにあるよね!!


文章   ★★
プロット ★☆
トリック ★★★☆
(★5個で満点)
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感想:私たちが星座を盗んだ理由

2016-11-26 23:11:44 | ミステリ



私たちが星座を盗んだ理由 北山猛邦
2011年作品


読みやすい文章と内容で作られたミステリ短編集。
収められている作品は5篇。




『恋煩い』

高校生のアキは毎朝すれ違う先輩に憧れ、
女子の間で噂になっている色々なおまじないに手を出し続ける。
幼馴染のトーコとシュンの協力もあり
先輩との距離が少しずつ近づくのを実感していく。


ミステリとして基本に忠実に進行する短編。
ちょっと邪道ながら、作中でもトリックの中身を
きちんと説明してくれるので推理小説を読まない人にもわかりやすい。
ストーリー的に結構凹む展開なのに
さらに後頭部をハンマーで殴られるようなラスト1行が素敵。


『妖精の学校』

記憶のない少年が目覚めた場所はどこかの学校。
自分と同じ境遇の子供たちが集められ
「妖精」となるべく教育を受けている。
そんな中、この場所の秘密を解き明かそうとする仲間もいた。


正直、この短編はすごいと思う。
白昼夢のようなファンタジックな情景描写に
まったく底の見えない謎。

最後の一行で舞台がどこなのか明かされるのだけれど、
ピンとこなかったので即座に考察サイトを見たらものすごく後悔した。
自分で調べて考えることができるように
作者がわざと解りづらい書き方をしたのであって
これは謎解きゲームのような楽しみ方をする作品。

そして舞台が判明しただけで
ガラリと作品のテーマが変質してしまう優れたトリック。
読み返すことで子供の視点から大人の視点に変わるあたり
叙述トリックと言えなくもないけれど、
読者が謎を解く面白さがミステリの枠を超えている。すごい。


『嘘つき紳士』

東京へ出たが借金を抱えてその日暮らしとなった青年が
偶然拾った携帯電話は交通事故で死んだ人間のものだった。
履歴を調べてみると、その男と付き合っていた女性は
いまだ事故の事実に気づいておらず、
青年は死んだ男になりすまし、なんとか金を引き出そうと画策する。


昭和時代の社会派ミステリの短編集を買うと
高確率でこういう話が入っているけれど、
それを携帯という現代のアイテムを用いてリバイバルさせた印象。

ひとつのストーリーを別な視点からもう一度読み返せるのが
2作目と同じくちょっとゲームのシナリオっぽい。


『終(つい)の童話』

とある王国の外れにある静かな村に、
突如「石喰い」という怪物が現れ
村の人々の多くを石に変えてしまった。

それから11年の時が過ぎ、
石化の呪いを解くことができる異国の男が訪れる。
村は歓喜に沸いたが、ある夜を境にして
石にされた人々が何者かによって次々と壊され始める。


"怪物"や"呪い"が作品を支配する明確なまでのファンタジー。
超現実が舞台となってはいるものの
フーダニットとホワイダニットに主眼が置かれていて
ミステリとしての骨組みがしっかりしている。

単に非現実をファンタジーと指すのではなく
そこにリアリティが必要であることを作者はよくわかってる。
短編なのに三文ラノベを駆逐できるほどの設定の秀逸さ。


『私たちが星座を盗んだ理由』

幼い姫子と病弱な姉の麻里、幼馴染の夕。
一緒に姉の病院へ通ううち、姫子はいつしか夕を好きになっていた。
ある日、夕は星座を首飾りにして麻里へプレゼントすることを姫子へ伝える。
空を見上げると、そこにあるはずの星座のひとつが消えてしまっていた。


ミステリ部分は少しでもネタをバラすと
一気につまらなくなる話なので黙秘。

決して微笑ましいストーリーではないのだけれど
健気な姫子の気持ちが可愛くもあり痛々しくもあり。
星座がテーマだけあって常に夕暮れ時のイメージで、
表題作として主張できるほどの色々なニュアンスを含んだ"美しさ"が
全編に詰まっている。





1作目2作目の出来の良さを見てしまうと
それ以降がちょっと尻すぼみな感じだけれど
どの作品もノスタルジーを含んだ淡い雰囲気が気持ちいい。

この作者は「ダンガンロンパ霧切シリーズ」も書いているらしく
若者にアピールできる読みやすい文体が魅力のひとつ。
各編の鮮やかなバリエーションはお得感があるとともに
ミステリの入門としても最適!


文章   ★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★☆
(★5個で満点)
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感想:儚い羊たちの祝宴

2016-09-27 22:28:37 | ミステリ


儚い羊たちの祝宴 米澤穂信
2008年作品


米澤穂信ラッシュでごめん!


5つの屋敷・5人の令嬢・5人の使用人と、それを取り巻く人々のノワール小説。

時代設定こそ名言されていないものの
前時代的封建的な上流階級の群像劇。
登場する令嬢がいずれも「バベルの会」なる読書会に参加しており
具体的にどんな会なのかはほとんど見えないものの、
最後の一篇で明かされる仕組み。


以下、各作品のあらすじと感想。



『身内に不幸がありまして』

物語は丹山家に仕える村里夕日の手記で進んでいく。
当主の孫にあたる吹子とは立場を超えた絆で結ばれていて
共に読書を嗜むのを至上の喜びとしていた。
しかしある時、丹山家より勘当された長男の宗太が屋敷を襲い
使用人たちを惨殺してしまう。


作中に出てくるあるアイテムが事件の重要なキーとなっているものの
おそらくそれを元にして真相を見抜ける読者はいないはず。
にも関わらず、知っていればいるほど
ネタを明かされたときの悔しさが増幅する見事なトリック。
寒気を覚えるほど凄惨なストーリーも横溝テイストでナイス。


『北の館の罪人』

六綱家の妾の子である内名あまりは母の死に際の言葉に従い
使用人として六綱家に住み込むことになる。
しかし、世話を任されたのは鉄格子で封じられた「北の館」。
そこには六綱家の長男である早太郎が監禁されているが
それを苦にすることなく、部屋にこもって何かの作業をしている。


こちらも1作目と同じく、早太郎から買い出しに頼まれる様々な品物が重要。
また、ミステリ部分とは別に、兄妹たちの確執が退廃文学を想わせて
5篇の中でも美しさと儚さがもっとも際立っている作品。
何重にも閉ざされたシニカルという名のカーテンを一枚ずつ開けていく
ラストの余韻がたまらない。


『山荘秘聞』

辰野家の別荘の管理を一人で任されることになった使用人の屋島。
美しい地に建てられた美しい館が心から気に入ったため
その手腕で日々完璧な維持管理を務めていたが
一年経っても客がまったく訪れないことにもどかしさを感じていた。
そんなとき、屋敷の庭に雪山登山で滑落した青年を発見する。


いわゆる倒叙型のサスペンス。
青年を捜しにきた捜索隊をもてなしたいがために秘密を隠し続けるという
歪んだ仕事愛に震えつつも、その高い能力を評価して欲しい気持ちへの共感も
密かに抱かせる屋島というキャラ。好き嫌いは読者によって分かれそう。
個人的にはこういった自分の意思を貫くために能力を発揮するキャラが好き。


『玉野五十鈴の誉れ』

小栗家の唯一の跡取りである純香と屋敷の全員は、
絶対的な権力を持つ祖母に逆らうことは許されなかった。
そんな純香の15の誕生日に使用人として玉野五十鈴が与えられ、
生きる目的のなかった純香にとって最高の友人となる。

大学へ進学し、五十鈴と二人きりで送る生活は幸福の絶頂だったが
小栗家の婿である父の家系で殺人が起き、
純香は汚れた血の娘として座敷牢へ入れられてしまう。


純香と五十鈴の関係がたまらなく耽美で
読んでいる側も思わずニヤニヤしてしまう。
座敷牢に入れられている最中に起こる事件に関しても、
真相が推測可能な程度にヒントが散りばめられているので
率直に言ってミステリ的には大したことなかったかな…と思ったけれど
ラスト一行を読んだ瞬間、喉から「お゛お゛お゛ぉ…」という呻き声が漏れた。
ここまで美しく悪趣味な文章は滅多にお目にかかれない!!


『儚い羊たちの晩餐』

これまでの作品に出てきた「バベルの会」の会場であるとおぼしきサンルーム。
物語はとある女学生がそこで古びた日記を発見するところから始まる。
日記の最初には「バベルの会はこうして消滅した」の一文が添えられている…。

莫大な遺産によって成金となった大寺家は
それを誇示するかのように放埒の限りを尽くしていた。
食に関しても、それまでの料理人を追放し
厨娘(ちゅうじょう)と呼ばれる最高の料理人を雇う。
しかし、夏という名のその料理人が作る料理の費用は常識を遥かに超えていた。


うわあああ!! これ感想書きたくねぇーー!!
厨娘の夏さんが途轍もなく格好よく美しく知的な女性であるがゆえに
わざと途中でオチがわかってしまう文章の書き方は胃が痛くなる!!
なんという作者の悪意!!



5篇の作品がどれも面白かった!!!
キャラクターのつくり方も素晴らしいし
上流階級の人々の一人称で話が進むため、
そのノーブルさを表現するためのボキャブラリーも申し分ない。

米澤穂信はこんなインモラルな作品も書いてたんだなぁ…。
読めば読むほど底知れない発想力!!


文章   ★★★★★
プロット ★★★★✩
トリック ★★★★
(★5個で満点)
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感想:真実の10メートル手前

2016-09-21 20:36:38 | ミステリ


真実の10メートル手前 米澤穂信
2015年出版

『王とサーカス』で活躍した太刀洗万智が出てくる
過去の作品を集めた短編集。
作品の発表自体は『王とサーカス』より前だったり後だったりするけれど
作中の時系列はバラバラ。
フリーになる前の新聞社所属時代もあったりして興味深い。



一冊に収められている6篇の作品には共通点がある。


1.語り手が太刀洗ではない

これは作者本人があとがきで書いているように
客観性によって太刀洗の冷静さ・高潔さを表現する手法。
もっとも、6人の語り手自体もバラエティーに富んでいるので
その視点から収束することで太刀洗のキャラクターが
より強調されて小説としての面白味も出ている。


2.ジャーナリズムの暗部

太刀洗に取材の同行を願う人物への
「あまり気持ちの良いことにはならないかもしれない」という言葉が
決め台詞のように何度も出てくる。
ジャーナリストとしての経験を積んだがゆえに
取材というものに対する一般人の忌避も
身に染みて理解しているという重さを表している。


3.終わり方がモヤる

どの作品もきっちり真実を解明して終わるものの、
必ずしもそれが良い結果につながるとは限らない。
そして「王とサーカス」でもそうだったように
「何を伝え、何を伝えないべきか」に焦点を当てて決断するのが
清々しくもありもどかしくもあり。


ひとつひとつは小作品ながら、
後の作品になるほど推理に深みが出てきて、ミステリとしても上質。
そして太刀洗のキャラクターを掘り下げる意味で非常に有用な一冊。



最後の1篇、ここ数年繰り返される豪雨被害をモチーフにした
『綱渡りの成功例』が個人的にはいちばん面白かった。

語り手は太刀洗の後輩で消防団員の大庭。
豪雨による土砂崩れで周辺から孤立した老夫婦が
レスキュー隊によって救出されたが
ニュースの映像では何かうしろめたそうにしている。

太刀洗がこの地を訪れたのはこの老夫婦に取材を行うためだった。
一体何を調べるために来たのか。
老夫婦が隠している真実とは何か。


自分も必死に思考をめぐらせたけれどわからず、
頭の隅にひっかかっていた違和感が夫婦への質問で明るみに出たとき
一種異様とも言える爽快感に打たれた。

我々一般人が「マスコミはそんなことまで晒すのかよ!!」と
反感を抱くような報道の裏側にもこういうドラマがあるのかもしれない。


文章   ★★★✩
プロット ★★★✩
トリック ★★★
(★5個で満点)
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感想:王とサーカス

2016-08-15 21:17:20 | ミステリ


王とサーカス 米澤穂信
2014年作品


一人の作家が2年連続ミステリ賞3冠という
とんでもない記録を打ち立てた記念碑的作品!!



フリージャーナリストの太刀洗万智が
取材で向かったネパールの滞在中に国王の暗殺事件が発生する。

なし崩しで独自取材を試みることになったが
王宮内部の取材のために接触した軍人・ラジェスワルが
"INFORMER"(密告者)の文字を体に刻まれた死体となって発見される。



舞台がネパールということもあって
取っ付きづらいイメージを持って読み始めたのだけれど
買い物や食事といった日常に必要な部分を
それとわからないように日本との差異として文章で説明していて
作家としての巧みな表現力に痺れる!



恥ずかしながらこの作品で初めて太刀洗万智というキャラクターを知った。
冷静で聡明で感情が薄いけれど、一種独特ともいえる正義感を持つ日本人女性。
コケティッシュさを削ぎ落としながらも女性としての魅力を失わせていないので
主人公としてとても好ましい!!
「読者の求める理想のキャラクター」をよくわかってる!!

メインとなる登場人物も、
観光に来たアメリカ人留学生のロブ、ガイドで日銭を稼ぐ少年サガル、
日本出身ながらネパールで僧となった八津田、等々
いずれもクセのあるキャラばかりで覚えやすい。



タイトルの「王とサーカス」とは、ラジェスワルが太刀洗に諭した
「軍隊の事故のニュースよりもその次に流れたサーカスの事故のほうが
人々にとってセンセーショナルだった」という
ジャーナリズムに対する不信感を示したもの。

報道として何を伝え、何を伝えないべきか、という葛藤が
作品の大きなテーマになっており、ジャーナリストに対する綿密な取材が
内容にリアリティと奥行きをもたらし、単なる娯楽作品としてではなく
読者にもテーマについて考えさせるだけのゆとりを生み出している。



当然ながら一介のジャーナリストでは国王の暗殺事件には近づくことすらできず
ラジェスワルの殺害にスポットを当てて物語が進行していく。
厳戒態勢となったネパールの街では移動することすら困難で
他の人物との会話が内容の多くを占める。
そのため、いつのまにか紛れ込む伏線にまるで気がつかなかった。

読者として、「どの人物を疑っても怪しい」という
ミステリの袋小路にうまいこと誘導されてしまい
言われてみればすぐに気づくはずのヒントも
まるで盲点のようにすり抜ける見事なミスリード。

そして、登場人物の様々な思惑が終盤で一気に収束するという
古き良き本格推理小説を久しぶりに読めて大満足!!



あらゆる面での完成度が抜群に高く
米澤穂信がさらにアンタッチャブルな領域に一歩近づいた。
今の時代に「ミステリは素晴らしいんだ!!」と胸を張って言えるための
バイブルとして位置づけるべき一冊!!


文章   ★★★★☆
プロット ★★★★★
トリック ★★★★
(★5個で満点)
コメント (2)
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感想:俳人一茶捕物帳-痩蛙の巻

2016-03-19 01:12:26 | ミステリ


俳人一茶捕物帳-痩蛙の巻 笹沢左保
1995年作品


笹沢左保といえば。

日本の高度成長期における男女の愛と死をドライに描いた多作な作家。
しかしながら、代表作をひとつ挙げるとすれば
テレビドラマも大ヒットした『木枯し紋次郎』にほかならない。
時代劇で染み付いた華やかな江戸時代のイメージとは異なり
様々な地の土着の文化をリアルに絞り出した描写が魅力。

つまり歴史作家としても相当に高名で
その深い造詣に基づいた政治風俗の紹介を読むだけでも
非常に面白いし教養にもなる。


元々がミステリ作家ということもあって
捕物作品としての質の高さも折り紙つき。

主人公は俳人として名を挙げる前の若かりし小林一茶。
本行寺なる寺の居候として弥次郎兵衛の偽名を使いながら生きており
奉行所の同心・片山九十郎を悩ませる難事件を
毎度鮮やかに解決していく。



一冊に7篇の短編が収められていて
内容もバラエティ豊か。

安楽椅子推理、暗号、アリバイトリック、
旅情サスペンス、閉鎖空間におけるフーダニット等々
ミステリにおける様々な要素をそれぞれの短編の中に盛り込んでいて
多作な作家として流れるようにアイデアを生み出す豪腕に敬服させられる。

一茶という叙情的な人物をミステリの探偵役に据えることで
読者も作中の事件に対して共に怒り、泣き、笑うことができ
人情譚としても白眉の出来。
事件の真相が見えるとハラハラと涙を流す決めの場面が印象的。

"宵々に見へりもするか炭俵"
等々、各編の最後に実在の一茶の句で締めることで
物語の余韻がさらに濃い輪郭で印象に残る。



文章   ★★★✩
プロット ★★★★
トリック ★★✩
(★5個で満点)
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感想:女王はかえらない

2016-02-04 02:17:37 | ミステリ


女王はかえらない 降田天
2015年作品

「このミステリがすごい!大賞」2014年度大賞受賞作品。


とある地方の小学校の三年一組。
クラスではマキが絶対的な権力を持って牛耳っていた。
マキに認められた階級に応じて
女子が着ける髪留めの模様も定められていて
少しでも女王の機嫌を損ねれば
凄絶なクラス内での仕打ちが待っている。

ところが、進級してクラスが四年になると同時に
東京から大手企業の娘であるエリカが転校してきて
その圧倒的なカリスマ性によって
パワーバランスに変化が起こり始める。



小学校でこんな生々しいヒエラルキーがあるか!
と思ったりもしたけれど、もしこの舞台が中学高校だったら
よっぽどえげつないイジメにしないと逆にリアリティがなくなるので
なかなか絶妙なバランスの設定だと思う。

二人の女王が女王たる理由も文章で見事に表現できていて
徐々に取り返しのつかないバトルに発展していく過程は
読んでいてヒリつく恐ろしさ。




で。
読み終わった感想。


あぁーーーーーーーー!!
もぉーーーーーーーー!!
またかよ!!!!!
俺は推理小説が読みたいんだよ!!!!


ぶっちゃけ、作者も作品も悪いわけではないけれど
読んだタイミングが最悪だった。
理由はここまでのミステリのエントリを遡ってください。

疑心暗鬼に陥りすぎてたせいで
途中である程度のトリックを見抜けてしまった。


第一部 子供たち
第二部 教師
第三部 真相

の3つに物語が分かれていて
はっきり言って2部は丸ごといらないし
わずかでも真相から目を逸らそうとするためのミスリードのせいで
1部での「クラス内の仁義なき抗争」という
素晴らしい着眼点のプロットまで台無しになってしまっている。

あとがきの「このミス大賞」選評にも書いてあるとおり、
トリックそのものがまさに「やりすぎ」な印象。



降田天という作家はプロットと執筆に分かれた女性二人組で
すでに少女向けラノベで実績があるとのこと。

今回の作品に関して言えば
荒削りだけれど文章で引き込む力はかなり高いし
順序立ててストーリーを積み上げていく構成力も申し分ない。

こういう小説が書きたかったんだ、というのはわかるのだけど
肝心な部分があまりに雑だったのが惜しすぎる。
この作者にはもっと色んな推理小説を読んで欲しい。
受賞したこの作品を自分の持ち味だと勘違いせずに
ひとつずつステップアップしていけば
後世に名を残すミステリ作家になれるかもしれない!!


文章   ★★✩
プロット ★★★
トリック ★
(★5個で満点)
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感想:アヒルと鴨のコインロッカー

2016-01-26 19:09:14 | ミステリ


アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎
2003年作品


【絶対に読みたい】おすすめ面白ミステリー小説 20選【日本・最高傑作ランキング(自薦)】

↑からのチョイス3冊目。

同じ伊坂原作の映画「グラスホッパー」面白かったです。



大学進学のためにアパートに引っ越してきた椎名は
唐突に知り合った隣人・河崎にそそのかされ
わけもわからないうちに本屋強盗の片棒をかつぐことに。
狙ったものは広辞苑一冊。
強盗は首尾良く成功し、罪悪感を抱えつつも
いつしか日常へと戻っていく。


それと交互に語られるのが二年前に遡っての
琴美とその彼氏であるブータン人ドルジの視点。
世間を騒がせるペット殺しの犯人である若者グループを突き止めるが、
身元がバレたことにより逆に危険に晒されてしまう。


理知的で正義感の強い琴美。
全ての女性にリスペクトを持つ河崎。
泰然自若の純朴さと実直さを備えたドルジ。

三者三様の思想が気高くて美しく
特にブータンという日本人には馴染みのない国の
思想と宗教観を持ち込むことで
エキセントリックに作品全体が引き締まっている。

こんなに頭が良くて世の中に達観しきった若者どもがいるか!!
と思わんでもないけどw
「頭のいい人間」を誤魔化し抜きできっちり創れる作家は
やっぱ憧れますわ。


作品の後半に、椎名に対しての
「君は、彼らの物語に飛び入り参加している」
という台詞が出てくる。

強盗という犯罪に巻き込まれたにもかかわらず
椎名はあくまでストーリーの見届け人で
琴美、河崎、ドルジの3人を軸とした物語。


話の先が気になって熱心に読みすすめたせいで
基本的なトリックを見落としていた。
本来ならばミステリ読みとして致命的なレベルのミス。
しかし、それを抜きにしても非常に面白いストーリーだった。


この一冊だけでも瀟洒でスタイリッシュで洋楽かぶれな
伊坂の作風が充分に理解できた。
美男美女主演でたくさん映画化されてるのも納得の作品群。
誰でも気持ちよく読める小説を書ける能力ってのはやはり重要。
もう何冊か読んでみたくなったので近いうちに買い込む予定。



さて。
冒頭のサイトの推理小説一覧なのだけれど
自分が過去に読んだ『ロートレック荘』『十角館』『葉桜の季節』
が入っている時点で気づくべきだったが
特定の共通項があるんだよな…。

この一覧をもとに読んだ3冊はすべて素晴らしい作品だったけれど
「推理小説」の「最高傑作」として連ねたくはないので
感想は今回で打ち止め。好きな作品を読むスタイルに戻ります。

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感想:向日葵の咲かない夏

2015-12-28 21:24:12 | ミステリ


向日葵の咲かない夏 道尾秀介
2007年作品


【絶対に読みたい】おすすめ面白ミステリー小説 20選【日本・最高傑作ランキング(自薦)】

↑からのチョイス2冊目。

絶賛真冬進行中にこの作品の感想を書くのは
タイミング的に非常に最悪だけどw


夏といえば大抵の人は開放的なイメージを持つはず。
しかしこの作品はタイトルから伝わるとおり、
セミの喧騒、暑さで弱る植物、夏休みの孤独といった
夏のネガティブな要素を序盤で徹底的に印象づけている。



小学4年の夏休みを迎えた「僕」は
終業式の帰りにS君の家へ夏休みのプリントを届けに行くと
そこで首を吊って死んでいるS君を発見する。

学校へ戻り担任の先生へ報告するが、
確認に向かったところ死体などなかったという。
しかし、警察の捜査では確かにそこでS君が死んだ形跡は存在した。

そして、自分の部屋へ戻った「僕」が見たのは
蜘蛛として生まれ変わったS君の姿だった。
「自分を殺したのは担任の先生」との言葉をもとに
シュールな凸凹少年探偵コンビの調査が始まる。


物語序盤で示された「夏の不気味さ」は
自分が殺されたにもかかわらず
あっけらかんとしているS君の態度にかき消されて
明るい雰囲気のジュブナイルミステリに様変わりする。

ちょこちょこ着いてくる天真爛漫な妹のミカも
非常に聡明で可愛らしく描写されていて
作中のマスコット的な魅力を放つ。



ところが。

ネグレクト気味の母親、近所に住む奇怪な風貌の老人、
異常性癖を持つ担任の先生、といった
子供が見てはいけない大人の闇が明かされていき
薄皮を一枚ずつ剥いでいくように
不気味な夏の雰囲気が再び露見していく。

そして、ページをめくるごとに
剥いではいけないところまで剥がし続ける作者の文章に戦慄しながら
最終的な「僕」の行動と事件の真相に驚愕させられる。


とにかく登場人物が個性的で、その理由も納得できて面白い。
「生まれ変わり」というオカルトも
ミステリの範疇としては決してタブーではなく
物語としては非常に楽しめた。

しかし、これが推理小説としてフェアかどうかと言われたら
明らかに9:1くらいでアンフェアと言わざるを得ない。
ミスリードも含めた伏線をしっかりと丁寧に敷いているので、
作者を叩くのは筋違いではあるのだけれど
やはり当時のミステリファンの評価も真っ二つだった模様。


読み終わったあとの余韻を噛み締めながら
最初から全体の回想をするだけでも
相当に考えられた作品だとわかるのだけれど
まあさすがにネタがネタだから好き嫌いは分かれるなー。

いや俺はけっこう好きだよ、うん。
夏が好きな人間なので夏を舞台にしたホラーミステリとして
良い意味で印象に残りました。

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感想:イニシエーション・ラブ

2015-10-23 23:16:11 | ミステリ


イニシエーション・ラブ 乾くるみ
2007年作品


自分でミステリのカテゴリを作ったことを
すっかり忘れていた。

なので何を読もうか決めあぐねて
適当に検索をかけたところ…。

【絶対に読みたい】おすすめ面白ミステリー小説 20選【日本・最高傑作ランキング(自薦)】

こんなサイトを発見。
この中で自分が読んだことのないものを
どんどん読んでいけばいいわけだな。



というわけで最初は『イニシエーション・ラブ』。
割と最近になって映画化されたらしくて
感想を書くタイミングとしては非常に最悪だけどw

夏に大宮の本屋へ立ち寄ったとき
「当店だけで売上3000冊突破!」というPOPが置いてあった。
自分が住むド田舎とは立地の規模が違うとはいえ、
純粋にすげえと思った。


以下あらすじ。


時代はバブル。
みんなが自由に遊び回れる豊かさのあった時代。
消費税もなく自販機のジュースは100円。
DeNAベイスターズではなく大洋ホエールズ。

当然ながら一般人はケータイすら持たず、
そんななかでの男女の恋愛における
コミュニケーションの手段は電話のみ。

作品は前半の「Side-A」と後半の「Side-B」に分かれ
「Side-A」ではたっくんとマユの出会いから結ばれるまで、
「Side-B」では社会人となったたっくんとマユが別れるまでが
それぞれ描写されている。


映画の「あなたは必ず二回観る」のキャッチコピーを見て
あー、きっとまたああいう話なんだろうなー
と思ったので、色々と注意しながら読み終えた結果。

「やっぱり思った通りだったぜHAHAHAHA!!」
と大きく伸びをした瞬間に
背筋に氷を入れられたような気分になった。

自分が見抜いていたのは半分だけで、
もう半分こそがストーリーの核だったわけで
そうするとアレがアレでアレになるから…。

うわっ!! 怖っ!!

まんまとそのまま二回目を読む羽目になってしまった。

作品自体の手頃な長さと非常に読みやすい文体、
かつ誰もが経験する恋愛の過程という
共感の得られやすいテーマのおかげで
老若男女が誰でも手にとることができ、
かつ二回読むことを前提として作られている。

作中のトリックそのものが作品自体のテーマになっていて
さすがベテランミステリ作家の構成力には舌を巻く。


で、トリックこそ使われているものの
内容は完全に恋愛小説で、
なぜそれでもこの作品がミステリたりえるのか。

それは登場人物の相関関係や時系列、
作中の情報やアイテムの洗い出しや裏取りといった作業が
ミステリを読むときのそれと一致しているから。

特にバブルを経験していない世代は
当時の流行に興味を持って自分で色々調べるのが
さぞ楽しかろうと思う。

ちなみにこの文庫のあとがきが非常に秀逸で
作中の情報やアイテムを当時の時代背景を元に
ひとつひとつ説明してくれている。

ミステリでは進歩した現代の科学捜査から隔離する意味で
舞台をあえて古くすることが多いけれど
この作品の場合は固定電話というアイテムの重要性に限らず
バブルを知っている世代には懐かしく、知らない世代には新鮮に、
という感情を以てトリックから煙に巻く効果を狙ってるのかな。


映画を観れば原作を読む必要はないと思うけれど
この完成度の高さは非常に満足だったので
これから周囲で未読の人に薦めていきたいと思います。
コメント
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