感想:推理大戦

2024-07-15 18:13:28 | ミステリ





推理大戦 似鳥 鶏 2021年作品



一日に3店舗で1冊ずつタイトル買いして、
そのうち2冊が同じ作者なんてことある……?

そのくらい、タイトルのダイレクトさが秀逸な似鳥鶏の作品。


~~あらすじ~~

無限の情報に基づいた完全の分析を行うAIの使い手。
思考と身体能力を数十倍に引き上げるクロックアッパー。
野生をも超える五感を用いた現場操作と状況再現の能力者。
相手のあらゆる嘘を見抜く魔眼の持ち主。

常識を超えた能力を持つ探偵たちが世界から集結し
日本の北海道で開催される聖遺物争奪ゲームに参戦する。





「あーFateのパクリねー」と言うのは簡単なのだけれど、
推理小説にチートバトルを持ち込んだ度胸と発想力は評価すべき。



前半はそれぞれの探偵が起こった事件を華麗に解決してその能力を強く印象付け、
聖遺物ゲームへ参戦する過程が描かれる。

そして、聖遺物ゲームの開始とともに発覚する殺人事件。
探偵たちは己の能力を駆使して解決を目指す。



前半に各探偵が奇妙な事件の数々を独自の能力を使って華麗に推理していく様は
いかにもチートものといった感じで読んでいてとても気持ちが良いのだけれど、
肝心の決戦がなんともがっかり。

強引などんでん返しありきで作られた物語のレールに乗せられたせいで
常識外れの能力がまるで生かせないまま終わってしまう。

結局、チートものって演繹的にどんどんインフレするのが面白いわけで
最初から真実が決まっている推理小説とは根本的に合わなかったな。
後半で「すべてを司る」的な能力者が出てきたのは面白かったのに
それすら生かしきれなかったのも残念。



作者本人が自信作と言っているところ申し訳ないのだけれど
前半の探偵集結で高めていく期待感とは裏腹に
登場人物が揃ってからの後半の決戦部分はまったく面白くなかった。



けれども、個性豊かなキャラクターは魅力的だし、軽めの文章は読みやすいし
軽妙なボケツッコミも楽しかった。

もちろん、意外な真相とそこへ至るための伏線という
推理小説としての組み立てはしっかりできているので
刺さる人には激烈に刺さる作品になっていることもまた確か。

こういう意欲作に挑む作家は大好きだ。




満足度(星5個で満点)
文章   ★★★☆
プロット ★★★
トリック ★★

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感想:七人の鬼ごっこ

2023-11-13 20:18:06 | ミステリ




七人の鬼ごっこ 三津田 信三 2011年作品



なんとなくホラー調のミステリが読みたくなって手に取ったのがこの本。



「いのちの電話」にかかってきた一本の電話。
人生に絶望したその男は自殺をほのめかして電話を切る。
居場所を特定した相談員たちが密かに駆け付けたが、
そこにいたはずの男は行方をくらましていた。
そして、男が直前に連絡を取っていた30年前の友人たちが次々と殺害されてゆく。




30年前に遊んだ「だるまさんがころんだ」にもとづいて起こる殺人事件。

各章にはさまれた幕間で「あの日」のだるまさんがころんだの情景が描写され、
幕間を重ねるごとに同じ文章が繰り返されるが、
その文末に少しずつ文章が付け足される形で何が起こったのか明かされていく。



事件のカギとなる当時の友人たちが揃って「あの日」の記憶を失っているのは
さすがに物語として都合がよすぎるだろう、と思わずにいられないが、
暗くなりかけた夕刻の田舎の描写を繰り返すことで
作品全体の蒙昧とした気怠い雰囲気を常に醸し出しているのがとてもいい。



捜査自体は全編を通じて行ってはいるものの、終盤の捜査で一気に情報が入り
その情報をもとにクライマックスの推理が行われる。

しかし、それまではサスペンス調で一貫していたのに
急に"推理小説"的な突飛な謎解きをコチョコチョ進めるのは
少しセコかったかな、とは思う。
全体に伏線を敷いておけば、さらに密度の高い作品になっていたかと思うと惜しい。

推理小説としての「犯人はだれか」という点において
消去法で考えながら読んでいたらかなり早い段階であっさり的中してしまったが
物語の組み立て自体がなかなかに骨太で面白かった。



粗も多いけれど、自分が読みたかった小説とマッチした作品に出会えて満足。
似たような作品をもういくつか読みたい。



満足度(星5個で満点)
文章   ★★★
プロット ★★★★
トリック ★★☆

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感想:叙述トリック短編集

2023-06-14 07:05:41 | ミステリ




叙述トリック短編集 似鳥鶏 2018年作品



叙述トリックといえば。
意図的に読者へ情報を隠すことで事実誤認を起こさせるトリック。

「男性だと思っていた人物が実は女性だった」とか
「セリフはないが別な人物が実はその場にもう一人いた」といったあたりがメジャー。

一時期ミステリ界隈でものすごく流行った要素であるものの
当然、本格推理のファンからは蛇蝎のごとく嫌われがちで、
よほどうまくやらない限りは自分も大嫌いなネタではあるのだけれど。




最初から叙述トリックであることを明確にしておけば
それはパズル的な意味合いを持つ、作者との知恵比べになりうる。
……ということを綾辻行人の『どんどん橋、落ちた』で学んだ。

大抵のミステリ作家がそうであるように、この作者も重度のミステリオタクで
叙述トリックに対する批判すら百も承知でこの短編集に挑んでいる。
「読者への挑戦状」と銘打った作品のまえがきでその覚悟が見て取れる。

だからこその「叙述トリック短編集」という潔いタイトル。
石黒正数の「帯をずらすと別な絵になる」だまし絵の装丁。超いいじゃん。
この意欲はぜひ正面から受け切らねばならん!!




というわけで、収められた短編は6篇。



『ちゃんと流す神様』

とあるオフィスの女子トイレ。
トイレが詰まって水が溢れたことで使用禁止になっていたはずが、
いつの間にか詰まりが解消されたうえ、床も綺麗に掃除されている。
しかしトイレの前には常に人の目があった。
不可能犯罪ならぬ「不可能善行」。誰がどうやって行ったのか?


1話目だからジャブ的な話なのだろうと高をくくったら見事に裏切られた!!
叙述トリックとしては某有名作品と同じネタだけれど
奇抜な事件に意識を引っ張られてまったく気づかなかったw
叙述トリックがしっかり謎解きのカギになっているのも上手い。



『背中合わせの恋人』

大学生の堀木輝はSNSで魅力的な風景写真をアップする平松詩織に憧れている。
平松詩織は入学直後に道案内をしてくれた先輩の堀木輝に憧れている。
写真同好会を通じて二人が会う機会を得たものの、そこで事件が起こる。
同好会の会長が現像しようとしていた写真が現像フィルターのすり替えによって
台無しになってしまっていたのだった。


叙述トリックのお手本のようなネタ。
堀木と平松の視点が交互に描写され、次第に同じ場所に向かっていく。
となればまあ「叙述トリックとしてはこのパターンだな」と悟らざるをえないw
小説としての読後感がスッキリしてて、青春小説としても良作。



『閉じられた三人と二人』

舞台はアメリカ。
ガソリンスタンドを襲撃した四人の強盗団が逃げ込んだ山荘。
そこにいた二人の日本人を縛り上げて強盗の成功に対する祝杯をあげていたが、
しばらく席を外した一人が崖下で死体となって発見される。


何か書こうとすると大概ネタバレになってしまいそうな困った短編。
レイプのくだりで叙述トリックを見抜けたのがさすが俺。
しかし、これを「叙述トリック短編集」に入れていいものかどうかちょっとな。
事件の解決に対する伏線もなくて、なんで急にこんな投げやりなネタを入れたのか
なんとも判断に困る。



『なんとなく買った本の結末』

お客が入らず暇なバーテンダーとアルバイト。
暇つぶしに最近買った小説の結末をクイズとして出題する。


いわゆる作中作の推理クイズのような一篇ではあるのだけれど、
叙述トリック自体は一瞬で読めてしまった。
割と多数の読者が一発でわかるのでトリックとして機能してないな。
しかも肝心の事件のほうのトリックがショボすぎてがっかり。



『貧乏荘の怪事件』

とある大学そばの下宿。ボロボロながらも家賃の安さのおかげでつねに満室。
住んでいるのは様々な国籍の若者たち。
日本人、中国人、タイ人、セネガル人、インドネシア人。
ある日、中国人の李が大切にしていた「海参」が何者かに食べられてしまっていた。


これはもう叙述トリックにお誂え向きの舞台。
作中で堂々とドでかいヒントを出していて、
ミステリファンならしっかりそのヒントを拾わねばならなかったのに
適当に読んでいたせいですっかり騙されてしまった。
学生たちのダラダラ感がなんともリアルで、自分の学生時代と重なって懐かしかった。



『ニッポンを背負うこけし』

探偵事務所に訪れたのは政界の重鎮、俵田幸三郎。
全国各地の銅像にいたずらをして世間を賑わせる
"HEADHUNTER"を捕まえて欲しいという依頼だった。
次のターゲットは温泉駅の中にある高さ6.7メートルの巨大こけし。
犯行の瞬間を捉えるべく、24時間体制の監視を実行する。


連作最後の作品として、叙述トリックも最大のネタ。
……なのだけれど、まえがきで作者が特大ヒントを出していたせいで
肝心のネタがあっさりわかってしまった。せっかくの大一番なのに……!!
しかも事件の犯行のトリックがひどい。
でも作品全体のバカバカしさでうまいこと誤魔化してた感じがする。愛嬌って大事。




この作者の小説は初めて読んだけれど、とても読みやすい。
ライトなまえがきから想起されるとおりのライトな文体で一貫していて
肩肘張らずに読めるのが良かった。

しかし作中で起こる事件のトリックがショボいのが残念。
叙述トリックに集中させるためにワザとなんだろうけどな。

なんだかんだで楽しかったので第二弾を出してくれれば買う!!
でも現時点で5年も音沙汰なし。残念。


満足度(星5個で満点)
文章   ★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★
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感想:さよなら神様

2023-01-29 06:40:45 | ミステリ



さよなら神様 麻耶雄嵩 2014年作品



自分のインテリジェンスだと小説の感想が非常に難しいのだけれど
読んだだけで感想を書いてない本が増えすぎて
感想ブロガーとして少し奮起せねばならないと思った!!




~あらすじ~

町で次々に起こる殺人事件を解決しようと奮闘する久遠小探偵団。
しかし、自らを神様と称する転校生の鈴木太郎は
「犯人は〇〇だよ」と的確に犯人を名指ししていく。

~~~~~



昔きまぐれで読んだ『神様ゲーム』という作品。

転校してきた鈴木太郎は自分を神様だと名乗る。
その時点では主人公も読者も半信半疑ながら、
次第に人間では起こり得ない宣託を的中させていく。
そして殺人事件の驚愕の犯人は……!

という設定をそのままシフトさせた連作短編集。
各篇の書き出しは前述の「犯人は○○だよ」から始まる。
身近な人間もいれば、まったく聞いたことのない名前すら出てくる。
犯人が確定している状況にもかかわらず、
神の宣託というオカルトに抗う団員たち。




もちろん神様である鈴木は未来すら予知できるのだけれど、
自分の楽しみのために人間の姿を演じ、
かつ自ら未来視をシャットアウトしている。

感情すら見せることなく、自身をイケメンの造形にして
常時クラスの女子から囲まれている鈴木。
そのいけ好かなさが読者にもビシビシ伝わってきて
いつしか登場人物たちの意識とシンクロさせられる!



最初の一篇ではあっさり事件が解決してしまってなんとも肩透かし。
しかし、2篇目3篇目と読み進めると徐々に濃いトリックが事件に絡んでくる。

終盤にはさらにとんでもないトリックがいくつも仕掛けられていて
狂気に満ちた展開に震えてしまった。

はたしてこれはハッピーエンドなのだろうか。
すべて神様の手の上で踊らされているだけではないだろうか。
運命とは一体なんなのだろうか。

そんな思考に至ってしまうほどの鈴木の圧倒的存在感。



ミステリとしてまるで期待できなかった序盤からぐんぐん引き込まれていき
爽快感と後味の悪さの入り混じった、得も言われぬ読後感。





それにしても、この小説の基本設定。
小学生にしてはやたらと難しい言葉で会話をするし、
探偵団としての論理的思考力もえらく高い。
この作品は舞台が小学校である必然性があるのか? 
中学高校ではダメだったのか?

……なんていう疑問を呈したものの。
以前にも何かの感想で書いた気がするけれど
作中のイジメの描写で読者の共感を惹くためにはリアリティが重要。
「ある程度の凄惨なイジメ」を「小学生」に行う必要がある。
なぜなら中学高校が舞台だと半端なイジメは逆に生ぬるく見えてしまうから。



あと、ネタバレにはならないだろうから書くけれど、
主人公の桑町淳は男言葉を使うので当然男子なのだろうと最初に思わせておいて
話が進むごとに実は女子であるということが明るみに出る。

何故こんな叙述トリックを入れなければならなかったのかを考えてみたが、
作者は1話目を書いた時点では本当に淳を男子として作ったように読み取れる。
連作全体のストーリーが決まったことで性別すら転換させる豪腕。


本当に色んな角度から楽しめる作品だった!!




満足度(星5個で満点)
文章   ★★★★
プロット ★★★★
トリック ★★★★☆


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感想:命を賭けた女

2020-05-12 06:25:43 | ミステリ



命を賭けた女 笹沢佐保 昭和63年出版


古い本の紹介を読んで欲しくなってもどこにも売ってないよ!!
なんてことがAmazonのおかげでなくなった。
いい時代になったなあ。

というか昨年の年末に本屋をブラついてたら笹沢佐保リバイバル復刊があった模様。
ファンとしては非常に嬉しい傾向。



【あらすじ】
頭脳明晰、容姿端麗である草狩夏彦は、主従関係にある佐山真一郎の命により
革新的な高級ナイトクラブ設立のための人材確保の命を受ける。

使命は全国各地から10人の女を集めてくること。
条件は「19~21歳で結婚・同棲の経験がなく、現在恋人がおらず、
水商売の経験もない無口で知性的な女性」。

金に糸目はつけないという佐山の言に従い、草狩は日本中を巡る旅に出る。




作品自体は昭和37年から昭和38年に連載された連作。
シリーズ物らしいので草狩と佐山の関係は前作を読まねばならんわけだが
残念ながら他の作品は未読。



サラリーマンの月給が3万円の時代。
入会金が100万円、会費で月20万円を支払うことで、
特別会員として最上級の10人が勤めるフロアへ入れる。

それに見合うだけの美しい女と次々出会う偶然は、
まあそういう話だからと割り切るしかない。
今でいうギャルゲーのような小説w

美しさゆえに悲劇に巻き込まれる10人の女をバリエーション豊かに描き出す才能。
女性だけではなく、ストーリー展開も多彩でアイデアの引き出しの多さに驚く。
各編の副題も「水を買う女」「雲を追う女」のように
シンプルかつ内容の気を惹く巧みさ。

連載小説だったこともあり、各編は山場で「次回へつづく」となり
次の話では前編のラストから次の女性との出会いへとつながる。

この作者の小説は男女の目が合うだけでヤってしまうような話が多いが
佐山の「対象には手を出すな」という縛りのおかげで
女性の魅力をまず文章でしっかり引き出してから籠絡していく過程の面白さがある。
場合によっては「結局ヤるんかい!!」となるのはご愛嬌w



高度成長期において日本全体がなんでも明るく見える状況で
さらにその中でも上級な舞台を用意しながら、
あえて退廃的な暗部を抜き出すのがこの作者の特徴。

しかもそれが現代の基準でも通じてしまい古さを感じさせないあたり、
世の中を見通す力が卓越していることが伺える。



10人の女性を集めてどんな大団円になるのか期待したところ、
唐突な変化球で終わらせるひねくれっぷり。
それも含めてこの作者らしい。

さながら自分も天外孤独な色男になったかのような、
昭和中期の日本を駆け回るかのような、
非常に没入感の高い小説だった。



満足度(星5個で満点)
文章   ★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★

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感想:いけない 道尾秀介

2019-09-23 19:31:02 | ミステリ

そーーーーいや。
自分でミステリのカテゴリを作っておいてすっかり忘れていた。
それなりに本も読んでいるんだが感想を書くのが面倒でいかん…。
というわけで少しずつ増やしていきます。




いけない 道尾秀介 2019年出版


言わずと知れた直木賞作家。
なにやらここ数年テレビでよく見る。
クイズ番組に出ていたり、タモリ倶楽部でおっぱいネタの空耳を投稿したり。
結構ダークな作風の小説が多い作家だが、そういう人ほど根は明るいのかもしれん。
楳図かずおとかな。



閑静な住宅街が広がる白沢(はくたく)市と蝦蟇倉(がまくら)市。
平和に見える街だが、たびたび凄惨な事件に見舞われる。
いくつもの隠された悪意や憎悪が表面化することなく
住人たちは毎日を過ごしていく。



収められているのは4篇。
それぞれの話の最後に1枚の写真が載っていて、
それを見ることで事件の真相がわかる仕組み。


たとえば最初の1篇。
数人の人間が各自のルートである地点を目指し走っている。
その中の誰かが走ってきた車の前に飛び出して事故死してしまう。

そこで表示される街のマップ。
どの場所からどういうルートで移動したかを文章に基づいて考えると答えがわかる。



オチを投げて読者に考えさせるあたり
「ああ、要は推理クイズみたいなもんか」と納得していたが
4篇それぞれのラストの写真で少しずつ意味合いが変わっていて
フィニッシングストロークの代わりであったり
事件の意味をがらりと変えてしまうものであったり。
推理クイズとしての統一感を出してももちろん面白かったと思うが、
小説としての面白さを引き立てるスパイスとしての要素が強い。

「意味がわかると怖い話」なんてのが最近ではひとつのジャンルとして成立しているが
ただ漫然と読むだけで内容を説明してくれるのではなく、
読者が頭を使って読み解いていく小説が今後は増えていくかもしれない。



そんな中、ストーリーも面白い。
ふたつの街で起こる様々な事件と、警察内部の人間関係の描写、
やばいカルト宗教に支配されつつある人々。

写真を見てその話の結末を理解しても、次の話ではそれと齟齬があったり
逆に結末を間違って理解していてもさりげなく軌道修正してくれたり
普通に小説としてのストーリーのつながりも楽しめる。
ボリューム的にもう1篇あればストーリー的にもトリック的にも満足できた感じ。

一気に読んでしまうほど楽しかったので
同じ手法を使ったシリーズとして、また別の作品も読んでみたい。



唯一気に入らなかったのが本の帯。

「本書のご使用法」
・まずは各章の物語に集中します。
・章末の写真をご覧ください。
・隠された真相に気づきましたか?
・「そういうことだったのか!!」
だまされる快感をお楽しみください。
※再読ではさらなる驚きを味わえます。


これを書いたやつは本当にこの本を読んだのか…?
最初からそういうメディア展開を狙ったおかげでかなり売れてるっぽいが
この素晴らしい作品を山田悠介みたいにしてほしくなかったよ…。



満足度(星5個で満点)
文章   ★★★★
プロット ★★★★
トリック ★★★☆

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感想:マツリカ・マトリョシカ

2017-12-08 00:51:06 | ミステリ


相沢沙呼 2017年作品


自分でミステリのカテゴリを作ったことをすっかり忘れていた。
感想書くのめんどくせーけど自分の備忘も兼ねて再開します、



"廃墟の魔女"と呼ばれるドS美女・マツリカにそそのかされ
学校の怪談を追いかける柴山祐希。
夜の学校に忍び込んで調査した翌日、
『開かずの間』でトルソーに女生徒の制服が着せられ打ち捨てられていた。
誰が、何のために。しかも密室であったはずの教室で。
「密室殺トルソー事件」として、学校内でも噂が大きくなっていく。



時代はやっぱり青春ミステリだよね!!

いきなりシリーズの3作目から読んでしまったが
いいんです、文春のミステリーレビューを信用してるから。


次々増えていく仲間たちと密室をめぐる議論を展開。
今日における密室モノは作中での古典講義が必須なのかなw
そりゃあ有名な作品とトリックが被ったらマズイしね。
密室モノに挑戦する作者は大変だ。


そして青春ミステリが青春たる所以のウジウジした主人公。
個人的にはイライラさせられたが、
思春期の悩みに共感できる若者には受けがいいかも。

色んな女子と次々知り合えるギャルゲーのようなノリ。
ちょっとラッキースケベっぽいのもあったりして
イマジネーショナルリビドーにビシビシくる!

しかし、「目のやり場」だったり「感触に対する隠れた喜悦」だったり
男子高校生の情欲を甘く見てるだろ!!
「ブラチラをガン見しながらポケットに手を突っ込んで射精」くらいしろよ!!
…まああんまりリアルにされてもドン引きだけど。
つーか調べたら作者は男なんだな。「あえてお手柔らかに」ってことか。


自分に疑いがかかる展開や関係者を集めての謎解き、
はては密室のトリックまで、推理小説としては非常にクラシカル。

読者が〇〇じゃないとトリックがわかりづらいのはアレだけど
読後のさわやかさはとっても大切。
ウジウジ系主人公の成長譚としても楽しめるので、
これは是非、若人にも手に取ってほしい一冊。
きっと山場の「あの一行」にグッとくるはず。

時代はやっぱり青春ミステリだよね!!


文章   ★★★
プロット ★★★★
トリック ★★☆

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感想:孤独な交響曲 ミステリー傑作選

2017-03-14 21:54:02 | ミステリ



2007年出版


一度気に入ると同じ作家の作品を立て続けに読むのが
自分の良くない癖なので、そういうときは
一旦アンソロジーを読んでリセットする。


気に入った上位5作品の感想だけ書こうと思ったけど
どれも甲乙つけがたかったので全部書く!!




欠けた古茶碗   逢坂 剛

お茶の水署の名物コンビ、梢田と斉木は
フリマで気まぐれに買った古い茶碗に異常な価値があると知り
必死に利益を得ようと奔走するものの
その茶碗を中心としてある事件が表面化していく。


長編は読んだことがないけれど、
こういうアンソロジーでよく見かける作家。

なんのキャラクターの説明もなしにアクの強いセリフが飛び出すので
いったい何事かと思ったがどうやらこれはシリーズ物の模様。
みんな知ってる某鑑定番組の流れとノリで
掛け合い漫才を繰り返しながら事件の真相に近づいていく。

シナリオの起承転結が非常に明確で
アンソロ1作目のジャブとして綺麗に決まる佳作。



第四の殺意   横山 秀夫

「刑事王国」と呼ばれるF県警の捜査第一課。
お荷物ともされるその第四班の班長として配属された浅倉は
「プロファイリングのような仕事」を命じられ
過去の未解決事件に着手する。


近年では『64』でさらに警察小説作家の地位を堅くした横山秀夫。
この作品も短編にもかかわらず、警察の内部事情を惜しげもなく
露呈させていくのがすごい。

冷酷な警察キャリアたちとの大仰な駆け引きや
わずかにのぞかせる絆の描写が読み手の興味を引き付ける。
「このオチいるか?」と思わせるどんでん返しのラストで
読後の余韻ごと想定外の方向へ放り投げる力技。



ヒーラー   篠田 節子

直近の群発地震により某漁村で大量に獲れるようになった
「吹き流し」と呼ばれるのっぺりとした見た目の深海魚。
その体液は女性の肌を美しくし、男性の性的玩具としても優秀なため
一家に一匹が当たり前となっていく。


グロテスクな深海魚が少しずつ社会に侵食していく非現実感。
これはミステリではなく明確にSF作品。
吹き流しの生み出すウイルスが体に入ると
幸福感が得られる代わりに無気力になっていくという設定が
丁寧な筆致のおかげでリアリティを得ていく。これは怖い。



死神の精度   伊坂 幸太郎

数日後に死ぬ予定の人間に接触し
その人間が本当に死ぬべきかの判断を上層部へ送るという死神の仕事。
千葉という名で現れた死神はストーカー被害に悩む女性に近づく。


日本推理作家協会賞短編部門賞受賞作。

この作品における死神の好物はミュージック。
人間と同じような感情をまったく持たないものの、
CDショップの試聴をこよなく愛する描写がお洒落で笑ってしまう。

いくつも仕込んだ伏線を綺麗に片づける手腕と
それを際立たせる設定の奇特さがまさに伊坂マジック。



思い出した……   畠中 恵

沙希は夫の秀夫と親友の真紀子によって殺された。
ところが、沙希の意識は部屋の中に残っており
警察の捜査をかわそうとする二人の一挙一動を眺めることになる。


殺されたことに対する恐怖や屈辱はどこ吹く風で
読者をも超えた客観的な視点で淡々と事件の行く末を追うことになる。
当然ながら二人は警察の有能さの前に屈することになるのだけれど
そこから一気にたたみかける描写が放つ圧力。かなり快感。



偶然   折原 一

一千万を手にしている房枝と家の外で待つ不穏な男。
振り込め詐欺をやっているマサオと敏行。
一本の電話を発端として全員の思惑が奇妙に絡んでいく。


単純な舞台設定でスルスルとシナリオが進んでいくのが良くできたコントのよう。
余計な情報が入らないので脳内での理解も整理もしやすい。
タイトルからして「房枝の息子がマサオなんだろ?」と思ってしまうが
それを上回る発想にまいった。サービス精神満載の娯楽作品。



転居先不明   歌野 晶午

佳代はしばらく単身赴任であった利光を追って東京の一軒家へ移るが
それ以降、つねに誰かの視線が自分へ向けられるようになる。
ある日利光が持ってきたのは、購入した住宅で以前起こった
一家殺害事件のネット記事だった。


中盤からはネット記事でまるまる話が進んでいく。
事件の凄惨さと下世話な興味を惹くネット記事の書き方で
読み進めるほど寒気を起こさせる。

記事の中で事件の真相まで結論付けられるけれど
もちろんそこからさらなるトリックが用意されている。
全体に漂うアイロニカルな感じがいかにもこの作者っぽくてニヤリとした。



時うどん   田中 啓文

噺家見習いのモヒカン青年・竜二にキツく当たる漫才師の雁花いたし。
雁花まっせとのコンビ漫才が高く評価されているにもかかわらず
頑なにテレビに出演しない理由は一体なにか。


表題の「時うどん」とはアレンジや皮肉ではなく
この作中世界における落語の題目。
作中に「吉元興業」や「松茸芸能」という事務所が出てくるけれど
まあそういうアレ。

探偵役は竜二の師匠である笑酔亭梅寿。これがメチャクチャかっこいい。
うどんばかり食ってろくに弟子に稽古もつけない放埓ぶりながら
決めるときはしっかり決める。
大抵の探偵役は「完璧に見えてちょっとクセがある」のが基本だけれど
その真逆ともいえる設定にマジ惚れ。

この短編が単行本からの出典と知って即行で古本屋で探して購入。
しかも5冊も出てるのか。今後も探すのが楽しみだ。



胡鬼板(こぎいた)心中   小川 勝己

舞台は昭和初期。
類稀な絵画の才能を持つ兄の竜吉に対抗心を抱いた静吉は
芸術へのひたむきな努力を続け、押絵師となる。
そのとき兄はすでに世間的に忘れられた人間となっていたが
家に籠って描き続けていたのは理想の女の日本画だった。


兄と弟の鬼がかった心理描写。吸い込まれそうな情景描写。
これってミステリか? と言われると微妙だけど
異常性に説得力を持たせる圧倒的な筆力。
やっぱり異常な人たちを美しく書く小説って面白いな。



とむらい鉄道   小貫 風樹

世間を騒がせる連続鉄道爆破テロで叔父を亡くした春日華凛は
葬儀の帰り、寒村の無人駅でうっかり下車してしまい
途方に暮れていた所を久世弥勒なる青年に声をかけられ
近くの宿へ向かうこととなる。


新人ミステリ作家の登竜門である「新・本格推理」に
3作同時に掲載されたうちの一篇。
「ホームズとワトソンの関係」「登場人物が美麗」「イヤミス的ラスト」
と、いかにもフレッシュな作家が書いた印象。

「耽美なシーンが書きたいだけだろ!」と思わせる場面も
実は伏線の一部だったりするのがあなどれない。
ちょっとした捜査で済ませておきながら、
終盤の謎解きでスラスラ説明していくのがいかにもドイル的。

3作同時掲載という華やかなデビューを飾ったものの
その後の作品の発表はなかった模様。惜しい。




というわけで久しぶりに読んだアンソロも大満足。
近所の古本屋で10冊セット1000円で買ったので
もうしばらく続くかもしれない。

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感想:十二人の死にたい子どもたち

2016-12-30 00:10:33 | ミステリ



十二人の死にたい子どもたち 冲方丁
2016年作品


冲方丁の初長編ミステリ!!


自殺志願者を募るサイトでつながって集まることになった
容姿も性格も死にたい理由もそれぞれ異なる十二人の少年少女。
全員一致の決を採ることで安楽死を実行する。
しかし、集合場所にははじめから一人の少年の死体があり
集まった十二人は実行を後回しにして少年についての議論を開始する。



タイトルでピンときた人もいるだろうけれど
内容はひたすら討論するだけの密室劇。

十二人のそれぞれが個性的で
最初に容姿で大きく印象づけるのがいかにも脚本家的。

頭ではわかっていても感情を抑制できない者や
若いのに妙に達観している者。
果ては何をしにきたのかわからないようなギャルまで
思考能力・発言の影響力・協調性、等々
それぞれの人物をゲームのようにパラメータ化して、
それに基づいて議論が進んでいるかのような印象を受ける。

全員の性格が理解できた中盤以降、
「このキャラにはこう動いて欲しい」という読者の期待を
汲み取っていくような展開が面白い。


無機的な廃病院が舞台なので叙情性は介在しないし
「十三人目」にまつわるトリックの説明が冗長だし
巻頭にある院内マップと見比べながら読み進めるのもしんどい。
無理やり「ミステリ」として読もうとすると
内容的に理解しづらく、粗も多い。

あくまで若者たちのディベートが作品のメインであり
その中での伏線や謎解きの起承転結がミステリ小説に準じている。
そのためか、推理に必要となる情報が
若干後出しになってしまっているのが惜しい点。


途中で少しドキッとするサスペンスはあるものの
最後までソリッドな廃病院の内部で物語が閉じ
余韻の静謐さが清々しい。

さすがベテラン作家、といえるだけの
発想と文章力と人物描写の読み応え。
作者本人としてはこの作品はさまざまなジャンルに挑戦する
一環としての位置づけかもしれないけれど、
ミステリ作家としての次の作品にも是非とも期待したい。


文章   ★★★☆
プロット ★★★☆
トリック ★★☆
(★5個で満点)
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感想:8の殺人

2016-12-05 22:06:02 | ミステリ


8の殺人 我孫子武丸
1989年作品


上空から見ると数字の「8」に見える奇妙な館。
建設会社の社長の気まぐれで建てられたこの館で
社長の跡継ぎである息子が渡り廊下ごしにボウガンで射殺された。
目撃者の証言では不可能犯罪としか思えなかったが
警部補の速水恭三はわずかな違和感に対して追求を開始する。




なんとなく新本格の推理小説を読みたくなって
古本屋で手に取った。

"かまいたちの夜"のリメイクもくるし
我孫子武丸再評価の流れ!! たぶん!!



事件自体はシリアスとはいえ、
主人公の恭三は割と間の抜けた刑事だし
部下の木下はひたすら悲惨な目に遭うキャラだし
妹のいちおは頭が軽い感じの女子大生だし

古臭いコメディドラマ調は今読むと結構きついw


序盤は館の住人への聞き込みで進行するものの
「刑事の勘」でことごとく相手の嘘を見抜いて
追い込みをかけるのがオカルトじみていて
なんだか好きになれない。


関係者を集めての解明シーンは
ほとんどが古典密室トリックの講義に費やして
肝心の事件のトリックの説明は非常にあっさり。
うん、読者サービスの意味を履き違えてるね!!


犯罪トリックのためだけに用意された特殊な舞台装置を用いて
読者へ挑戦状を叩きつけるのは
まさに新本格時代の若手作家の特徴。
様々に散りばめられたヒントをかき集めて
カッチリ解答を導き出す爽快感がたまらない。


しかし、逆に言ってしまうとトリック以外の部分で
なかなか引き込まれる部分が見つからない。
文庫を一冊読んだのに、そこに一貫したシナリオや犯罪のロマンが
まるで含まれていないのが残念すぎる。


長編デビュー作ということで
最初から完成度の高いものを求めるのは酷だし
その後の我孫子武丸の躍進を考えれば
基盤としてとても大切な作品。
新本格ミステリを読みたいという目的は十分に達成できた。


そして、巻末にある島田荘司の解説は非常に価値があった。
新本格ムーブメントの興りから
後の推理小説を担う若手へのエールと、
彼らの作品の未熟さに対する批判へのエクスキューズ等、
当時のミステリ界隈を知るにあたって色々と興味深い。

古本屋で本を買う意義はこういうところにあるよね!!


文章   ★★
プロット ★☆
トリック ★★★☆
(★5個で満点)
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