この日本、愛すればこそ――新華僑40年の履歴書 (岩波現代文庫)の感想
中国出身のジャーナリスト莫邦富による自伝と今後の日中関係の展望。特に来日以後の部分の内容は莫氏の今までの著作の総まとめという感が強いが、中国が日本に学ぶ一方で、日本にとっても中国から学ぶべきことが多々あるという著者の主張には強く同意。個別に印象に残ったエピソードは、同じ被爆地の資料館でも、広島と長崎とでは中国人が受ける印象が異なるという話と、既に20年前よりタイタニックから逃れるネズミのように、中国人密入国者とエリート双方が日本から脱出する動きを見せているという話。
読了日:2月3日 著者:莫邦富
恋の中国文明史 (ちくま学芸文庫)の感想
漢族の文化に対する北方系民族の刺激によって中国の恋愛感が発展していったという観点でまとめる。特に『紅楼夢』が恋愛小説としてどう画期的だったのかという点が読みどころかなと。終章で触れる、清末の中国が西洋の思想や文学・芸術を下位文化と見なしたことの後果は、今の日本にとって教訓となるかもしれない。
読了日:2月6日 著者:張競
ナポレオン ~覇道進撃~ 8巻 (ヤングキングコミックス)の感想
大陸封鎖令の話題が出てまたひとつナポレオンの死亡フラグが。今回の主役は表紙にも出ているネイ……のはずなんですが、ルフェーブルの方が印象が強い。
読了日:2月7日 著者:長谷川哲也
イスラーム国の衝撃 (文春新書)の感想
イスラム国の歴史的な位置づけを中心とする。本書に述べるように歴史的な流れの中でイスラム国が生まれたとすれば、今のイスラム国を壊滅させたとしても第二、第三のイスラム国的な組織が以前よりバージョンアップされた形で現れるということになるのだろう。そうなると次かその次ぐらいの組織に対しては、世界各国が好むと好まざると国家として承認せざるを得ない状況になるのではないかという印象を抱いた。
読了日:2月8日 著者:池内恵
やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)の感想
「鴨居の大将」ことサントリーの創業者鳥井信治郎の一代記と、サントリーの歩み。「マッサン」も一箇所だけ名前が出て来ます。マッサンの絡みに注目すると、日本でのウイスキーの普及には軍隊が深く関係していたんだなと。
読了日:2月10日 著者:山口瞳,開高健
憲法9条の思想水脈 (朝日選書823)の感想
日本国憲法第9条に結実する平和を求める思想の流れを、世界の側と日本の側の両方から辿っていく。小野梓や中村正直らが明治の頃から世界連邦・世界政府の構想を抱いていたということに意外な感じがしたが、版籍奉還・廃藩置県からの発想という説明に納得。版籍奉還・廃藩置県の世界版を実行すれば、日本がそれによって中央政府による統合を成し得たように、世界連邦・世界政府も建設可能という発想だったようだ。
読了日:2月13日 著者:山室信一
中国古典学のかたち (研文選書)の感想
著者の古典文献学に関する論考を中心に集めたもの。原典とは別に注釈書はそれ自体が独自の世界観と価値を有しており、中国の思想家は注釈によって自己の思想を形成してきたというのが全体を通じてのテーマとなる。本筋とは関係ない部分であるが、134頁の補説[四]で清華簡『尚書』の発見が『偽古文尚書』のテキストの正統性を高めることになるというコメントは逆ではないかなと。咸有一にしろ説命にしろ、むしろ現行のテキストが偽作であることを示す材料ではないかと思う。
読了日:2月15日 著者:池田秀三
考古学入門 (講談社学術文庫 17)の感想
元は戦前に書かれた児童向けの博物館と考古学の入門書ということですが、大人にとっても手頃な入門書となっています。(もちろん細部は今では修正が必要な所もあるでしょうけど)その多くが著者本人のものという挿し絵も見所。
読了日:2月16日 著者:浜田青陵
蒙古襲来の感想
従来蒙古襲来の主要史料のひとつとして扱われてきた『八幡愚童訓』の批判や、『蒙古襲来絵詞』の史料批判などが主な内容。指摘されている事柄についてはもっともなものが多いが、中国側の史料を扱い慣れてなさそうなのが気になる。
読了日:2月20日 著者:服部英雄
説文入門の感想
副題にある通り、あくまで段玉裁『説文解字注』の入門書。ついでに同じく段玉裁の「六書音均表」解説のため、上古音研究に関してもまとめられています。面白く読んだのは説文会での会読の様子を再現した第三章第三節。昔の仏家で行われていたという「義疏家の方法」が取り入れられていますが、東洋でも西洋のディスカッションにあたるものが存在したんですね。
読了日:2月24日 著者:
袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)の感想
辛亥革命以前の事績を重点的に検討したということだが、やはり辛亥革命以後の部分、袁世凱及び列強と中華民国側とで革命に対して認識のズレがあっただとか、袁世凱の時代的な限界といった話の方が面白い。手放しで袁世凱を賛美することはしないが、戊戌変法の時の動きについては是正を図っている。
読了日:2月25日 著者:岡本隆司
平安時代の死刑 (古代史)の感想
嵯峨天皇の時の薬子の変から保元の乱まで死刑が廃止されていたという言説が流布しているが、実際には死刑の廃止ではなく停止措置であったこと、またそれにも関わらず実態としては死刑が執行されていたことなどを論じる。当時の実態の検証や保元の乱以後の状況との接続は詳しくまとめられているが、副題にある「なぜ避けられたのか」の説明は充分とは言えないのではないのかと感じた。
読了日:2月28日 著者:戸川点
中国出身のジャーナリスト莫邦富による自伝と今後の日中関係の展望。特に来日以後の部分の内容は莫氏の今までの著作の総まとめという感が強いが、中国が日本に学ぶ一方で、日本にとっても中国から学ぶべきことが多々あるという著者の主張には強く同意。個別に印象に残ったエピソードは、同じ被爆地の資料館でも、広島と長崎とでは中国人が受ける印象が異なるという話と、既に20年前よりタイタニックから逃れるネズミのように、中国人密入国者とエリート双方が日本から脱出する動きを見せているという話。
読了日:2月3日 著者:莫邦富
恋の中国文明史 (ちくま学芸文庫)の感想
漢族の文化に対する北方系民族の刺激によって中国の恋愛感が発展していったという観点でまとめる。特に『紅楼夢』が恋愛小説としてどう画期的だったのかという点が読みどころかなと。終章で触れる、清末の中国が西洋の思想や文学・芸術を下位文化と見なしたことの後果は、今の日本にとって教訓となるかもしれない。
読了日:2月6日 著者:張競
ナポレオン ~覇道進撃~ 8巻 (ヤングキングコミックス)の感想
大陸封鎖令の話題が出てまたひとつナポレオンの死亡フラグが。今回の主役は表紙にも出ているネイ……のはずなんですが、ルフェーブルの方が印象が強い。
読了日:2月7日 著者:長谷川哲也
イスラーム国の衝撃 (文春新書)の感想
イスラム国の歴史的な位置づけを中心とする。本書に述べるように歴史的な流れの中でイスラム国が生まれたとすれば、今のイスラム国を壊滅させたとしても第二、第三のイスラム国的な組織が以前よりバージョンアップされた形で現れるということになるのだろう。そうなると次かその次ぐらいの組織に対しては、世界各国が好むと好まざると国家として承認せざるを得ない状況になるのではないかという印象を抱いた。
読了日:2月8日 著者:池内恵
やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)の感想
「鴨居の大将」ことサントリーの創業者鳥井信治郎の一代記と、サントリーの歩み。「マッサン」も一箇所だけ名前が出て来ます。マッサンの絡みに注目すると、日本でのウイスキーの普及には軍隊が深く関係していたんだなと。
読了日:2月10日 著者:山口瞳,開高健
憲法9条の思想水脈 (朝日選書823)の感想
日本国憲法第9条に結実する平和を求める思想の流れを、世界の側と日本の側の両方から辿っていく。小野梓や中村正直らが明治の頃から世界連邦・世界政府の構想を抱いていたということに意外な感じがしたが、版籍奉還・廃藩置県からの発想という説明に納得。版籍奉還・廃藩置県の世界版を実行すれば、日本がそれによって中央政府による統合を成し得たように、世界連邦・世界政府も建設可能という発想だったようだ。
読了日:2月13日 著者:山室信一
中国古典学のかたち (研文選書)の感想
著者の古典文献学に関する論考を中心に集めたもの。原典とは別に注釈書はそれ自体が独自の世界観と価値を有しており、中国の思想家は注釈によって自己の思想を形成してきたというのが全体を通じてのテーマとなる。本筋とは関係ない部分であるが、134頁の補説[四]で清華簡『尚書』の発見が『偽古文尚書』のテキストの正統性を高めることになるというコメントは逆ではないかなと。咸有一にしろ説命にしろ、むしろ現行のテキストが偽作であることを示す材料ではないかと思う。
読了日:2月15日 著者:池田秀三
考古学入門 (講談社学術文庫 17)の感想
元は戦前に書かれた児童向けの博物館と考古学の入門書ということですが、大人にとっても手頃な入門書となっています。(もちろん細部は今では修正が必要な所もあるでしょうけど)その多くが著者本人のものという挿し絵も見所。
読了日:2月16日 著者:浜田青陵
蒙古襲来の感想
従来蒙古襲来の主要史料のひとつとして扱われてきた『八幡愚童訓』の批判や、『蒙古襲来絵詞』の史料批判などが主な内容。指摘されている事柄についてはもっともなものが多いが、中国側の史料を扱い慣れてなさそうなのが気になる。
読了日:2月20日 著者:服部英雄
説文入門の感想
副題にある通り、あくまで段玉裁『説文解字注』の入門書。ついでに同じく段玉裁の「六書音均表」解説のため、上古音研究に関してもまとめられています。面白く読んだのは説文会での会読の様子を再現した第三章第三節。昔の仏家で行われていたという「義疏家の方法」が取り入れられていますが、東洋でも西洋のディスカッションにあたるものが存在したんですね。
読了日:2月24日 著者:
袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)の感想
辛亥革命以前の事績を重点的に検討したということだが、やはり辛亥革命以後の部分、袁世凱及び列強と中華民国側とで革命に対して認識のズレがあっただとか、袁世凱の時代的な限界といった話の方が面白い。手放しで袁世凱を賛美することはしないが、戊戌変法の時の動きについては是正を図っている。
読了日:2月25日 著者:岡本隆司
平安時代の死刑 (古代史)の感想
嵯峨天皇の時の薬子の変から保元の乱まで死刑が廃止されていたという言説が流布しているが、実際には死刑の廃止ではなく停止措置であったこと、またそれにも関わらず実態としては死刑が執行されていたことなどを論じる。当時の実態の検証や保元の乱以後の状況との接続は詳しくまとめられているが、副題にある「なぜ避けられたのか」の説明は充分とは言えないのではないのかと感じた。
読了日:2月28日 著者:戸川点