犬と鬼 知られざる日本の肖像 (講談社学術文庫)の感想環境や文化の保護に対する意識が低い、政府機関が発表する統計数値は嘘ばかり、国家が国民や外国向けに情報を操作し、政策への批判を妨げる、外国人が当該国を魅力的に見せるのが任務だと思っている……今の中国のことではない。原著が出版された2002年当時の日本に対する批判である。今となってはその批判の多くが中国にもあてはまる所を見ると、日本は東アジアの中では特に酷くもないかわりに、特に優れているわけでもないのだろう。著者は日本学とともに中国学も専攻していたとのことなので、今度は日中比較論を期待したい。読了日:03月02日 著者:アレックス・カー
武田氏滅亡 (角川選書)の感想武田氏は長篠合戦による敗戦から滅亡へと一直線という感じでとらえていたが、本書では1575年の長篠敗戦から1582年の滅亡に至るまでの経過を詳細に描き出す。この7年の間に何回か滅亡を回避できるチャンスがあったのではないかと思う一方で、武田勝頼が頼りとしたのが高遠諏方氏の旧臣保科氏で、殉死したのも、勝頼が高遠城主であった時以来の旧臣が多いということで、結局武田氏家中が彼を「諏方勝頼」としての立ち位置から脱皮させてくれず、勝頼が武田氏後継となった時点で滅亡は必然的だったのではないかとも思ってしまった。読了日:03月09日 著者:平山 優
『老子』 その思想を読み尽くす (講談社学術文庫)の感想副題にある通り、『老子』の訓読・現代語訳はおまけで、その思想についての考証がメイン。部分的に『老子』が『荘子』の影響を受けているという指摘や、民本主義とでも言うべき後代の民主主義や無政府主義に通じる思想が読み取れるといった指摘は面白いが、これらの指摘の多くは、郭店簡本『老子』の年代を無理に戦国末まで引き下げずとも、通説通り戦国中期のものと位置づけても充分通用するのではないかと思う。この点だけが残念。次回作としては、出土文献本を踏まえた『周易』の思想について書いて欲しい。読了日:03月17日 著者:
中国の誕生―東アジアの近代外交と国家形成―の感想当然ながら「中国」の国号論ではなく、ネイションとしての「中国」が形成されていくさまを、清朝の外交史と、「属国」「領土」「主権」など国際政治に関わる翻訳概念と旧来からの秩序観念との折り合いをどう付けていったかを中心に追うという内容である。その折り合いは現在でも完全につけられたとは言い切れず、現在にも尾を引いているとのことだが、その問題は「中国」だけでなく、中東やアフリカも共有する普遍的な問題なのではないか、現在は世界的にその精算が迫られている時代なのではないかと思ったが…読了日:03月20日 著者:岡本 隆司
シリーズ<本と日本史> 4 宣教師と『太平記』 (集英社新書)の感想本書は実のところ『太平記』も宣教師の視点というのも取っ掛かりにすぎず(古典としては他に『平家物語』も取り上げられている)、戦国時代には共通の「歴史認識」と「日本人」としての国民意識が芽ばえつつあったのではないかというのが眼目となっている。戦国時代は乱世と言いつつも、南北朝時代などとは違って統一国家への展望や希望が見えていた時代なのかもしれないと思った。読了日:03月21日 著者:神田 千里
中国侠客列伝 (講談社学術文庫)の感想第一章・第二章の『史記』の世界の侠客たちの話は毎度お馴染みという感じで何の変哲もないが、お馴染みでない話が展開され始める六朝あたりから著者の本領が発揮され、ぐんぐんと面白くなる。『桃花扇』に侠を見出すという議論も少なくとも日本ではほとんどなかったのではないだろうか。「新派武侠小説」など現代の侠客物語にも触れて欲しかったというのはさすがに無理筋か…読了日:03月23日 著者:井波 律子
中国のフロンティア――揺れ動く境界から考える (岩波新書)の感想アフリカ・東南アジア・台湾の金門島を舞台に現代中国外交を考える。中国からの視点だけでなく現地からの視点も交え、現地政府や現地人から見て中国の経済支援のありがたみと限界を指摘している。特にアフリカの話は『「その日暮らし」の人類学』の中国人に関する部分を補完する内容になっていると思う。とにかく中国を批判すればいい、反中の視点さえあればいいという中国論とは一線を画している。読了日:03月25日 著者:川島 真
叢書「東アジアの近現代史」 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ (叢書東アジアの近現代史)の感想内容的には著者岡本隆司氏のこれまでの著書のダイジェストというか、上澄みを掬った感が強い。特に後半部は、清朝における「領土」「主権」等の概念を論じたりと、近刊の『中国の誕生』のダイジェストとなっている。新しい知見はそれほど盛り込まれていないが、国際関係や外交を中心として見る清朝史としてはよくまとまっていると思う。読了日:03月27日 著者:岡本 隆司
日本の近代とは何であったか――問題史的考察 (岩波新書)の感想日本で複数政党制が成立した淵源を幕藩体制下の合議制に求めたり、「東亜新秩序」を地域主義の一種と位置づけ、東アジア・東南アジアでの垂直的な国際関係が戦後も継続したことなど、興味深い指摘が多々見られる。昨今話題の教育勅語についても言及があり、一般国民に対して憲法以上の影響力を及ぼし、天皇を教主とする「市民宗教」の教典の役割を果たしたと位置づけている。このような当時の位置づけを踏まえれば、文面から「いいことも書いてある」と評価することはできないだろう。読了日:03月29日 著者:三谷 太一郎
武田氏滅亡 (角川選書)の感想武田氏は長篠合戦による敗戦から滅亡へと一直線という感じでとらえていたが、本書では1575年の長篠敗戦から1582年の滅亡に至るまでの経過を詳細に描き出す。この7年の間に何回か滅亡を回避できるチャンスがあったのではないかと思う一方で、武田勝頼が頼りとしたのが高遠諏方氏の旧臣保科氏で、殉死したのも、勝頼が高遠城主であった時以来の旧臣が多いということで、結局武田氏家中が彼を「諏方勝頼」としての立ち位置から脱皮させてくれず、勝頼が武田氏後継となった時点で滅亡は必然的だったのではないかとも思ってしまった。読了日:03月09日 著者:平山 優
『老子』 その思想を読み尽くす (講談社学術文庫)の感想副題にある通り、『老子』の訓読・現代語訳はおまけで、その思想についての考証がメイン。部分的に『老子』が『荘子』の影響を受けているという指摘や、民本主義とでも言うべき後代の民主主義や無政府主義に通じる思想が読み取れるといった指摘は面白いが、これらの指摘の多くは、郭店簡本『老子』の年代を無理に戦国末まで引き下げずとも、通説通り戦国中期のものと位置づけても充分通用するのではないかと思う。この点だけが残念。次回作としては、出土文献本を踏まえた『周易』の思想について書いて欲しい。読了日:03月17日 著者:
中国の誕生―東アジアの近代外交と国家形成―の感想当然ながら「中国」の国号論ではなく、ネイションとしての「中国」が形成されていくさまを、清朝の外交史と、「属国」「領土」「主権」など国際政治に関わる翻訳概念と旧来からの秩序観念との折り合いをどう付けていったかを中心に追うという内容である。その折り合いは現在でも完全につけられたとは言い切れず、現在にも尾を引いているとのことだが、その問題は「中国」だけでなく、中東やアフリカも共有する普遍的な問題なのではないか、現在は世界的にその精算が迫られている時代なのではないかと思ったが…読了日:03月20日 著者:岡本 隆司
シリーズ<本と日本史> 4 宣教師と『太平記』 (集英社新書)の感想本書は実のところ『太平記』も宣教師の視点というのも取っ掛かりにすぎず(古典としては他に『平家物語』も取り上げられている)、戦国時代には共通の「歴史認識」と「日本人」としての国民意識が芽ばえつつあったのではないかというのが眼目となっている。戦国時代は乱世と言いつつも、南北朝時代などとは違って統一国家への展望や希望が見えていた時代なのかもしれないと思った。読了日:03月21日 著者:神田 千里
中国侠客列伝 (講談社学術文庫)の感想第一章・第二章の『史記』の世界の侠客たちの話は毎度お馴染みという感じで何の変哲もないが、お馴染みでない話が展開され始める六朝あたりから著者の本領が発揮され、ぐんぐんと面白くなる。『桃花扇』に侠を見出すという議論も少なくとも日本ではほとんどなかったのではないだろうか。「新派武侠小説」など現代の侠客物語にも触れて欲しかったというのはさすがに無理筋か…読了日:03月23日 著者:井波 律子
中国のフロンティア――揺れ動く境界から考える (岩波新書)の感想アフリカ・東南アジア・台湾の金門島を舞台に現代中国外交を考える。中国からの視点だけでなく現地からの視点も交え、現地政府や現地人から見て中国の経済支援のありがたみと限界を指摘している。特にアフリカの話は『「その日暮らし」の人類学』の中国人に関する部分を補完する内容になっていると思う。とにかく中国を批判すればいい、反中の視点さえあればいいという中国論とは一線を画している。読了日:03月25日 著者:川島 真
叢書「東アジアの近現代史」 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ (叢書東アジアの近現代史)の感想内容的には著者岡本隆司氏のこれまでの著書のダイジェストというか、上澄みを掬った感が強い。特に後半部は、清朝における「領土」「主権」等の概念を論じたりと、近刊の『中国の誕生』のダイジェストとなっている。新しい知見はそれほど盛り込まれていないが、国際関係や外交を中心として見る清朝史としてはよくまとまっていると思う。読了日:03月27日 著者:岡本 隆司
日本の近代とは何であったか――問題史的考察 (岩波新書)の感想日本で複数政党制が成立した淵源を幕藩体制下の合議制に求めたり、「東亜新秩序」を地域主義の一種と位置づけ、東アジア・東南アジアでの垂直的な国際関係が戦後も継続したことなど、興味深い指摘が多々見られる。昨今話題の教育勅語についても言及があり、一般国民に対して憲法以上の影響力を及ぼし、天皇を教主とする「市民宗教」の教典の役割を果たしたと位置づけている。このような当時の位置づけを踏まえれば、文面から「いいことも書いてある」と評価することはできないだろう。読了日:03月29日 著者:三谷 太一郎