博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年1月に読んだ本

2018年02月02日 | 読書メーター
語る歴史,聞く歴史――オーラル・ヒストリーの現場から (岩波新書)語る歴史,聞く歴史――オーラル・ヒストリーの現場から (岩波新書)感想
明治に入ってから歴史学者による旧幕府時代の故実先例の聞き取りなど、日本のオーラル・ヒストリーの歴史は意外に古いこと、おそらくその淵源が影響してか、専門の研究者による政治家への回顧談の聞き取りが正統なオーラル・ヒストリーと見なされがちなことなどが印象に残った。聞き取りを文字史料の枠内に位置づけられがちなことは、中国の出土文献と伝世文献との関係や歴史学と考古学との関係に似通っているように思う。
読了日:01月01日 著者:大門 正克

革命の剣 ジョージ・ワシントン(上) (アメリカ人の物語)革命の剣 ジョージ・ワシントン(上) (アメリカ人の物語)感想
いよいよ独立戦争に突入、今巻はフィラデルフィア防衛失敗まで。ワシントンに対抗しようとするチャールズ・リーの話が面白い。本筋以外にも、兵士の訓練や略奪の問題、従軍した女性たちの物語、当時のアメリカ側の常備軍に対する考え方、日本の関ヶ原などと同様に一族内で本国支援派と独立支持派とに分かれて戦った者が多かったことなどが印象的。
読了日:01月05日 著者:西川秀和

足利将軍と室町幕府―時代が求めたリーダー像 (戎光祥選書ソレイユ1)足利将軍と室町幕府―時代が求めたリーダー像 (戎光祥選書ソレイユ1)感想
足利将軍と北朝天皇との関係を見ていくことで、足利将軍が何を以て武家社会のトップに君臨できたのかということをまとめているのだが、議論そのものの面白さもさることながら、足利義満皇位簒奪説に付随して井沢元彦を取り上げるなど、一般読者の関心やイメージを意識した文章になっている点も面白い。また「力で支配する政権」を志向していなかったという足利将軍のあり方は、その足利将軍が輔弼した天皇という存在を考えるうえでも大きなヒントとなるのではないか。
読了日:01月08日 著者:石原比伊呂

わたしの日本学び (人文社会科学講演シリーズ)わたしの日本学び (人文社会科学講演シリーズ)感想
日本文化に関する講演録。「ローカルに思考、グローバルに生活」は、グローバルと地方は一つのものの二部分で、両方を同時に把握しないなら、どちらも理解できないとするが、これは中国や韓国を理解するうえでも心に留めておくべきだろう。「『万葉集』と中国の思想」は、日本文化がその出発点から漢語や中国文化と切り離せないものだと教えてくれる。「和食の「おいしさの心理学」を学ぶ」は、和食の特色は調理法以外にも銘々膳などの食べ方にもあるという指摘が面白い。
読了日:01月11日 著者:

学問をしばるもの学問をしばるもの感想
人文科学の研究をしばるものは、政治権力か、イデオロギーか、学派の違いか、分野の違いか。日本語タミル語起源説、邪馬台国論争、明治絶対王政説など、様々な事例からその様相・せめぎ合いを探っていく。明治絶対王政説に関して、同じイデオロギーによりながらも日本側がソ連側の「公式見解」をスルーしたり、日本側も「講座派」と「労農派」とで見解が分かれたりと、イデオロギーより優先されるものがある、あるいはイデオロギーの同一性が学説の同一性を保証するわけではないということが示されているのが面白い。
読了日:01月13日 著者:

折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)感想
関東大震災、二・二六事件、太平洋戦争と敗戦といった時代背景から折口信夫の学問・文学遍歴を読み取る。関東大震災時の朝鮮人狩りから日本人の心のすさみを見てとる折口のあり方は、当世の「保守」とはかなり様相を異にしているように思う。本書は折口をナイーブな理想主義者として描いているが、そうした描き方がどの程度妥当なのかやや不安も。「おわりに」の「全集読書案内」は試みとして面白い。他の学者を対象に応用してみたい。
読了日:01月15日 著者:植村 和秀

古代史講義 (ちくま新書)古代史講義 (ちくま新書)感想
邪馬台国から奥州藤原氏まで15のトピックから成るが、大王あるいは天皇権力の強化が却って政争や後継者争いを深刻化させるという側面があるという指摘、正倉院宝物などの舶来品を国際品製作の手本として見るべきという点、長岡京の立地上の制約が廃棄の背景となったこと、受領の任命はそれほど恣意的なものではなく、厳格な人事システムが機能していたということ、将門・純友の時代は気候の温暖化により農業生産が高くなっており、それがために豊富な生産物をめぐって地方で紛争がおこったという指摘などが印象的。
読了日:01月18日 著者:

歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)感想
史料をどのように読み解いていくのか、史料からどのようなことが導き出せるのか、「偏向」のない史料は存在しうるのかなど、史料に対するアプローチを具体的に解説している点が他の史学概論と比べて出色。社会・経済的な環境が人々の自己認識・人生観・世界観に影響を与え、その行動に結びつくと考える点で、今日のすべての歴史家は小型のマルクス主義者であると言ってよいという指摘が印象的。
読了日:01月20日 著者:ジョン・H・アーノルド

物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年 (中公新書)物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年 (中公新書)感想
フィンランドはスウェーデン王国の下にあった時期が長いこともあり、スウェーデン語話者が一定数存在し、また言語によって出自が割り切れるわけでもないという。第二次世界大戦ではソ連との対抗上枢軸国側に着くことになるが、戦後自発的に戦争責任裁判を行ったという点は日本と対照的。またソ連崩壊時に表向きはバルト三国の独立回復運動に冷淡な態度を取りつつも、コイヴィスト大統領が密かに「文化協力」の名目でエストニアに金銭的援助を行っていたという話も面白い。
読了日:01月21日 著者:石野 裕子

柳宗元柳宗元感想
「アジアのルソー」という副題に疑問を持っていたが、柳宗元を「東洋のルソー」中江兆民が評価をしていたり、民国期の学者が「中国のルソー」黄宗羲に先立つ存在として位置づけているということで納得。その柳宗元の思想も突然変異的に出現したものではなく、同時代の官吏に彼を啓発した者が複数存在したところを見ると、儒学そのものに民権思想の萌芽となるものが内包されていたと見るべきかもしれない。
読了日:01月22日 著者:戸崎哲彦

倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)感想
『宋書』倭国伝など中国の史書に見える倭の五王を記紀に見える天皇に比定するこれまでの研究のあり方に否定的で、ほぼ確実とされる武=雄略天皇(ワカタケル)の比定にも否定的。天皇の系譜は政治的変動や史書の編纂を通じて追加・削除が繰り返されるものであり、列島統一のための遠征などの事績も、『宋書』に見える武の上表文の記述からイメージが形成されたもので、歴史的事実ではないのではないかという指摘が面白い。記紀に拘泥せずに五世紀の歴史を組み立てる作業が必要という主張はその通りだと思う。
読了日:01月25日 著者:河内 春人

はじめての研究レポート作成術 (岩波ジュニア新書)はじめての研究レポート作成術 (岩波ジュニア新書)感想
文系用のレポート・卒論作成入門。社会学専攻の学生を念頭に置いているようだが、他の分野の学生・教員が使用する場合でも汎用性のある手引きになっていると思う。ワープロやプレゼンテーションソフトなど作成に使用するソフトウェアに関する解説も盛り込まれているが、基本的に無料のGoogleアプリである。ワープロなどはマイクロソフトのものに準拠しても良かったのではないかと思うが…
読了日:01月28日 著者:沼崎 一郎

絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)感想
我々ホモ・サピエンスが生き残ったのは、ネアンデルタール人など他の人類と比べて優れていたからではなく、多くの子孫を残すことができたからであるという観点からの人類史。各所に著者独特のたとえ話が挿入されていて楽しい。「もしも他の人類が生きていたら、世界はどんな感じだったろう」と書中にあるが、そういう想像力を喚起させる内容になっている。
読了日:01月29日 著者:更科 功

コメント
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