![正義とは何か-現代政治哲学の6つの視点 (中公新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41sHx1EaChL._SL120_.jpg)
リベラリズム、リバタリアニズムなど6つの視点からの政治哲学入門。随所で具体事例が引かれているが、「小さな政府」に関する部分で言及される、「森の生活」を送るソローと「最後の真の隠者」ナイトとの対比が面白い。特にナイトは生きるために窃盗をはたらく一方でたまたま出くわした釣り人家族との約束は最後まで守ろうとしたということで、本書で触れられている事項以外にも人間の社会性に関して議論を引き出せそうである。
読了日:10月02日 著者:神島 裕子
![さいはての中国 (小学館新書 や 13-1)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51P2WN-wxJL._SL120_.jpg)
中国のシリコンバレー深圳、リトルアフリカと化しつつある広州、習近平父子の聖地、内モンゴルのゴーストタウン、はたまた中国を飛び出してカンボジア等々、今の中国を象徴する場所や人物を探訪したルポ集。深圳のネトゲ廃人が農村の留守児童のなれのはてだったという話、アフリカ人から「中国人は勤勉で効率的」という評価を得ている話(こういう評価はかつては日本人のものだった)、文革世代が政治・社会の中心に立っている弊害、日本人に対してもどこまでも人格者なカナダの「反日グランドマスター」など、読みどころは多い。
読了日:10月10日 著者:安田 峰俊
![江戸の読書会: 会読の思想史 (平凡社ライブラリー)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51V4xLj3bjL._SL120_.jpg)
読書が科挙を通じて立身出世の手段となる中国・朝鮮とは異なる環境だったからこそ、日本でスポーツゲームのように討論しながらともに書物を読み進める会読が発展した、明治に入って学問が立身出世の手段として位置づけられると、効率的なカリキュラムに沿った一斉講義の手法が導入され、学校から会読が退けられ、廃れていったという経過を見ると、「勉強は何のためにするのか」「実学とは一体何なのか」ということを考えさせられる。日本の教育の将来について考えるのに参考にするべき本だと思う。
読了日:10月10日 著者:前田 勉
![図説 古代文字入門 (ふくろうの本)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/611Gj%2BjszfL._SL120_.jpg)
ヒエログリフ・楔形文字から甲骨文字・マヤ文字まで、世界各地の古代文字について概要、解読の歴史、例文の読解をコンパクトにまとめる。図版・図表類もよくまとまっており、一冊手元に置いておくと便利そうな本。
読了日:10月11日 著者:大城 道則
![軍人皇帝のローマ 変貌する元老院と帝国の衰亡 (講談社選書メチエ)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/518O2nFtk1L._SL120_.jpg)
イリュリア人、すなわちバルカン半島出身の軍人貴族と元老院貴族を軸にして見るローマ帝国衰亡史。イリュリア人を武川鎮軍閥になぞらえたり、主に宮崎市定の時代観に沿った中国史との比較を行っているのが独特。中国とは異なってローマの文明が帝国とともに崩壊してしまったのは、元老院貴族が中国の貴族とは違って文明の担い手として民衆の支持が得られなかったからという見方を提示する。
読了日:10月12日 著者:井上 文則
![鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41hCBAWp6oL._SL120_.jpg)
古くからの伝統と思われがちな初詣という風習が鉄道の普及によっていかに作られていったかをたどる。初詣に付随して、恵方詣のような「迷信」が却って鉄道の普及とともに拡大していくさまや、除夜の鐘がラジオの普及とともに定着していくさま、明治6年の太陽暦導入より明治43年の官暦への旧暦併記の廃止の影響が大きかったことなどを議論する。新しい風習でも10年も経てばすっかり定着してしまうことや、「伝統行事」が鉄道会社のような企業の介入によって変容していくさまは、ほかの「伝統」を考えるうえでも示唆的である。
読了日:10月14日 著者:平山 昇
![戦争の起源 (ちくま学芸文庫)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51ZmZfxG-5L._SL120_.jpg)
古代地中海世界には、先史時代からアケメネス朝ペルシアに至るまでオリエントで形成された高度な「総合戦略」によるものと、古代ギリシアでガラパゴス的に形成された重装歩兵密集戦術を中心とするものの二系統の軍事的発展が存在し、ペルシア戦争以後この二系統が接触を始め、アレクサンドロス大王によって統合されたという古代軍事史の流れを概観する。重装歩兵密集戦術の単純さや問題点を承知しながらも変えられなかったというのは、現代の我々も別の分野で似たような問題を抱えているのではないかと考えさせられる。
読了日:10月16日 著者:アーサー フェリル
![元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51g9XbvQ28L._SL120_.jpg)
於陵葵と観露申の2人の少女の友情を描きながらのミステリーなのかと思いきや、話は思わぬ方向に転がっていく。原著副題の「巫女主義殺人事件」が内容をよく表している。ミステリーやジュブナイルとしてだけでなく、時代物としての面白さもちゃんと出ている。斉では一家の娘が巫女となって家を守る習俗があったというのは白川静による理解だと思うが、生前の白川静に読ませて感想を聞きたかった気もする。
読了日:10月22日 著者:陸 秋槎
![大化改新を考える (岩波新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/31rmjHQCTcL._SL120_.jpg)
大化改新によって社会・民衆がどう変わったのか?ということで、プロローグで言及される雨乞いの話のような側面からのアプローチが中心になるのかなと思ったら、「公民」の創出、郡評論争など、意外に「正攻法」のアプローチが中心で、肩すかしを食らった感じ。愚俗と婚姻習俗の話で、官の側の詔の文章は嫁入婚を前提としているのに、当時の婚姻の実態は妻問婚であるとか、このあたりの官民のずれに関する話は面白い。
読了日:10月24日 著者:吉村 武彦
![移民国家アメリカの歴史 (岩波新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/31SCRnY5bOL._SL120_.jpg)
日系・中国系といったアジア系移民の扱いを中心に見る「移民国家」としてのアメリカの歴史。20世紀初め頃まで「白人」概念にかなりゆらぎがあったこと、マイノリティ側の抗議が政府によって承認されると、それが人種差別を克服した「国家再生」の物語として回収されるというワナがあるという指摘など、読みどころが多い。日系移民が戦時中の自分たちの経験を踏まえて、近年アラブ系移民に救いの手を差しのべる運動を展開しているという話には救いを感じる。
読了日:10月25日 著者:貴堂 嘉之
![公卿会議―論戦する宮廷貴族たち (中公新書)](https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41OGDxxTp3L._SL120_.jpg)
タイトルから貴族たちが政務に対していかに同僚たちの合意を形成しようとしてきたかという「横方向」の話かと思いきや、どちらかというと、摂関政治の成立、院政の開始、武家の台頭と、その時代時代の実力者が貴族たちに対していかにして自分の意向を認めさせようとしてきたかという「縦方向」の話が中心となっている。何となく本書の江戸時代版、幕府内あるいは朝廷や諸大名も含めての話も読みたくなった。
読了日:10月28日 著者:美川 圭
![戦国時代の天皇](https://img.bookmeter.com/book_image/SL120/0/0.png)
天皇を経済的にバックアップしていた室町幕府の衰退が日常生活や儀礼などの天皇の活動、あるいは天皇を支える皇族、女官、廷臣たちに何をもたらしたかを、天皇自身の文書や日記を史料としてまとめる。天皇自身のたゆまぬ努力によって天皇という存在は何とか次の時代まで持ち越すことができたが、戦国時代を乗り切れずに消え去った物事や人々の持つ意味合いの大きさを考えさせられる。
読了日:10月30日 著者:末柄 豊