
歴史学の研究とはどういう営みなのかということを、中高年になってからの独学という前提でまとめた本。細かな点で気になる部分はいくつかあるが、典拠には必ず当たるということや、引用のしかた、史料の発掘のコツ、独学=孤立無援で研究をするということではないということなど、大事なポイントは外していない。研究は小さな問題への関心から始まるというのを実地で示しているのが良い。
読了日:01月01日 著者:礫川 全次

ガンディーと西洋の神智主義や神智主義者との関係、あるいは菜食主義など、その宗教思想面や身体性に着目した評伝。植民地エリートの出身ながらも、「敵の論理」に乗って自らのアイデンティティを構築しつつ、更にそれを逆手に取って反英運動への大衆動員に成功し、エリート主義の限界を突破したと評価する。グジャラート商人の家の出身というガンディーと同様のルーツを持ちながらもガンディーと袂を分かったジンナーとの対比をもっと読みたかった気がする。
読了日:01月04日 著者:杉本 良男

前近代の部分では、滋賀秀三の家族原理、すなわち漢から清まで不変の父系原理が存在していたという家族法理解に対し、それがあてはまるのは明清の一時期のみではないかと強い疑問を突きつけ、滋賀説に対する挑戦状のようになっている。近現代の部分でも人民公社の制度を女性の仕事と家庭生活の両立という面で肯定的に評価する一方、文革期にもてはやされた「鉄の娘」は男女平等を唱いながら男性基準に女性を同化させようとしたと批判するといった具合に、従来の評価の盲点を突いている。
読了日:01月08日 著者:

「家」の成立と分割相続から単独相続への移行、公武両政権の共存、文化や信仰、対外交渉や交易など、各方面から日本の中世の時代相を切り取る。各章とも近年の研究成果や議論の方向がコンパクトにまとめられている。西欧や中国の中世と比較して独自の時代相が得られるようであれば、敢えて「中世」という名称にこだわる必要はないのではないか。本書を読み進めつつ何となくそのようことを感じた。
読了日:01月10日 著者:

武田氏領国を例として、室町期の国人領主から戦国期の国衆へ、そして国衆の終焉までを追う。「戦国大名」「国人」「国衆」などについて歴史学の用語としての概念規定の問題にこだわっているのは、他の地域・時代の研究でも良い手本になりそう。本論の方では、大名と国衆との関係が江戸期の幕府・将軍と大名との関係のひな形として生かされているのかなと感じた。続考として、国衆の終焉の過程をもう少し詳しく読みたい。
読了日:01月12日 著者:平山 優

ヨーロッパ近代の始まりを告げたダ・ヴィンチやルターからヨーロッパ近代を否定したレーニンまで、「個人」の時代である近代史を、各時期を象徴する人物の生涯を通じて描き出す。人物伝と宗教・芸術・科学・政治思想といった文化史・思想史の流れとを融合させ、近代の時代性を具体的に描き出している。
読了日:01月14日 著者:君塚 直隆

古典的なものを中心とする神話学の学説史。神話学が元来比較言語学や人類学との関係が密接であったことや、レヴィ=ストロースが「構造」を神話学に取り入れたといった学問的背景、あるいは『金枝篇』がキリスト教批判として読まれたこと、キャンベルとスターウォーズとの関係など、学説の受容に関する話を面白く読んだ。古代・中世・近代の時代区分や「宗教」の定義などと同様、「神話」も西欧の基準を他者にあてはめるという側面が強いのではないかと感じたが…
読了日:01月17日 著者:松村 一男

選帝侯となった家門を中心に見るドイツ史。神聖でもなく、ローマ的でもなく、そもそも帝国ですらなかった神聖ローマ帝国がなぜ1806年まで解体されなかったのか?実態があろうがなかろうがとにかくご大層な肩書きを欲しがる大諸侯(帝国解体の前夜1803年にようやく選帝侯となった諸侯も存在する!)、帝国という枠組みがなくなれば自分たちの主権など粉みじんになる豆粒諸侯、それぞれがそれぞれの事情で帝国の存在を望んだという見通しが本書によって見えてくる。そして更に帝国解体後も諸侯たちの物語は続いていく…
読了日:01月21日 著者:菊池 良生

顔真卿の生涯、その書作品、一族や姻族、時代背景、交友、後世の評価などをバランス良く描き出した評伝。個人的には顏之推以来の家学、あるいは書法の継承について面白く読んだ。副題はオビにも採られている「書を以て自らに命づくること勿かれ」でも良かったかもしれない。書芸術は人間性、更に言えば道徳性の一局面の表出であるという東アジアの伝統的な芸術観について考えさせられる。
読了日:01月23日 著者:吉川忠夫

太陽神、地母神、死んで復活する神、神々の王といった具合に、オリエントの神々を属性別に見ていく。神々にまつわる神話そのものよりも、後世のユダヤ教やキリスト教、更には佛教を通じて日本の宗教信仰とどうつながっているのかに重点を置いている。冒頭の拝一神教・単一神教・唯一神教の違いと、ブランコにまつわる儀礼の話、神像の素材や大きさに関する議論が面白い。
読了日:01月24日 著者:小林 登志子

義経との関係について、彼を介して藤原秀衡との連携を期待したものの思うような支援が得られなかったのが、義経冷遇の背景であること、朝廷において九条兼実は頼朝の盟友的存在ではなく、逆に源通親と対立関係にあったわけでもなく、通親が将軍家のために恩恵を施していたという指摘や、大姫・三幡入内計画に積極的な意義を見出している点を面白く読んだ。五十三歳での死は長生きとは言えないものの、当時としては早すぎるというわけでもないと思うが…
読了日:01月27日 著者:元木 泰雄

東西の中国哲学研究者によるサンデル論評・批判とサンデルからの応答。サンデルの中国哲学との出会いより、中国人あるいは中国哲学のサンデルとの出会いに比重が置かれている。朱子学・陽明学の立場からサンデルの議論はどう見えるかというのも読みたかった。中国哲学がサンデルの議論と調和できる、あるいは補足できるという議論を見てると、我々日本人は果たしてこのような哲学を持っているのかと感じた。「儒教」は我々日本人の哲学でもあったはずだが…
読了日:01月30日 著者: